地球の歩き方 アメコミイベント編 | HOME | KINGDOM COME

原書読みなら三倍段

 さて、自分でも驚くことによく続くもので、この「アメコミひとり語り」の記事もこれが第7回となる。
 前回、馴染みのない用語を並べて「これらの説明をする」と宣言した手前、やらないわけにはゆかないのだが、すごく気が重い。なぜなら、あれらの用語はアメコミ読者、特に原書を購読する向きには常識であり、つまりは"言わずもがな"の事柄を初心者が事実誤認を覚悟で語らなければならないわけで。しかも語彙は自家薬籠中のものにできているとはいえない。だから誤った記述や文章運びにも不安が残るという具合だ。
 武道に曰わく、「剣道三倍段」らしい。得物を持つのと持たぬのとではそれほどまでに差が開くということのようだが、私に言わせると「原書読みは翻訳頼みの三倍段どころじゃない!」のだ。英語を解するということとそうでないことの間には、越すに越されぬ田原坂があるのだ。
 英語どころか日本語の読解すら怪しい身にとって、海の向こうでリアルタイムに展開しているアメコミ趨勢なんてものは、手を出すことを考えることすら身の丈をこえている。無理! 今生では無理!
 これまでの記事で、アメコミは雑誌掲載をとらず、個別のタイトルで刊行されることを述べた。つまり「月刊DCジャンプ」に「バットマン」や「スーパーマン」や「ジャスティス・リーグ」が連載されるというかたちをとらずに、「バットマン」だの「スーパーマン」だの「ジャスティス・リーグ」だのがそれぞれに定期刊行されるのだ。
 一号はたいてい32ページ。中綴じのフルカラーでB5版。この刊行物をアメリカでは「コミックブック」と呼び、日本では「リーフ」と称している。

amazon:[単行本(ソフトカバー)] DCキャラクターズ:オリジン  これは漫画に限らないけれど、日本の感覚で「定期刊行物」というと雑誌のイメージがあり、これがこのあとに説明する事柄に役立つので、この記事に限っては大いに利用させてもらう。
 まず「オンゴーイング(ongoing)」について述べると、これは単語の意味である「進行」や「継続」が示すとおり、通常の「連載」と捉えてもらってかまわない。そして「オンゴーイング・シリーズ」は、「レギュラー・シリーズ」とも表される。
 アメコミでは、様々な事情で打ち切ることのないかぎり、延々と連載が続く。「こちら葛飾区亀有公園派出所」や「ゴルゴ13」のようなタイトルは、まさにこれに当たる。
 どんなに長く連載が続いていても、物語のゴールを設定している作品というものはある。「ONE PIECE」がそうだし「名探偵コナン」もそれに含まれるはず。"歩みが遅い"のと"終わることが設定されてない"のは現象においては似ているけれど、その本質は完全に違う。
 また、オンゴーイングには年次特別号にあたる「アニュアル(annual)」が発行される場合がある。
 オンゴーイング・シリーズではない、けれど続き物ではあることを「リミテッド・シリーズ」という。これはリミテッド(limited)から想像できるように、制限のある企画だ。号数制限のあるということで「ミニシリーズ」がこれに含まれる。その意味は文字面から想像できるだろう。漫画雑誌でも目にすることのある「短期連載」と同じだ。また、同じ短期連載でも数号で終わるものとそうでないものがある。「マキシシリーズ」は、だからミニシリーズより多くの号数を必要とするものだ。
 続いて説明するのは「ワンショット(one shot)」だ。これは文字通りの一号限定、雑誌でいうところの読み切り掲載である。
 ワンショットやリミテッド・シリーズは比較的に実験できる、あるいは冒険の余地があるといえる。オンゴーイングで出すには躊躇われる設定や内容も、ここで試すことで読者の反応を見る機会を得られる。冒険を恐がっていては前へ進めないが、さりとて一度の冒険で今まで積み上げてきた何もかもを失うことは避けたいわけで。こういう際に試行の場があるところが、アメコミの強みだろう。
 ワンショットやミニシリーズの役割は冒険的試行にのみあるわけではない。ワンショットはアークの補完や季節のイベントに用いられることがあり、ミニシリーズはそれこそクロスオーバー・イベントの中枢を担う場合が少なくない。
 また飛び出した、新たな用語。「アーク(arc)」は、連綿と続くオンゴーイングの流れの中で、ひとつの区切りを持つエピソードをいう。たとえば「バットマン」誌における「梟の法廷」がそれである。ちなみに、「バットマン」誌は「梟の法廷」の後に、バットマン系列誌のクロスオーバー・イベントでもある「デス・オブ・ザ・ファミリー」のアークを経て、改めてバットマンのオリジンを扱う「ゼロイヤー」アークに至る。
 さらに新しい用語だ。「オリジン(origin)」は、「事のはじまり」といったところか。ブルース・ウェインは如何なる経緯を経てバットマンとなったのか、を描くのがバットマンのオリジンである。だから「バットマン ビギンズ」はクリストファー・ノーランにおけるバットマンのオリジンであり、「マン・オブ・スティール」はザック・スナイダーによるスーパーマンのオリジンである。
 ちなみに、週刊少年ジャンプに連載中でありテレビアニメ化の決まった「僕のヒーローアカデミア」は、作者がかなりアメコミを意識しているのがわかる。その第1話のタイトルは「緑谷出久:オリジン」だ。主人公の少年が英雄へと成長するその第一歩が描かれた、傑作を約束されたエピソードである。正直、泣いたね。

amazon:[コミック] 僕のヒーローアカデミア 1 (ジャンプコミックス)  これまで散々、アメコミは雑誌掲載の体裁をとらず個人誌にて各タイトルが独立して定期刊行されると説明しておきながら、今回の記事ではコミックブックを雑誌になぞらえて、そのうえで様々なアメコミ用語を説明している。
 そのおかげで理解が進むことがあれば、その弊害も生じるわけで。
 これは日本の出版界の業態と明らかに違うので留意すべきなのだが、現在のアメリカ合衆国には再販売価格維持制度(再販制度)がない。売れなったからといってコミックブックを出版社に返本することはできないのだ。
 アメコミ専門店は需要を見極めて発注する。買いきりなので売れなきゃバックナンバーの名のもとに在庫として処理するわけだ。
 出版社のほうも需要と供給の見極めを誤る場合がある。そこまで売れると想定せずにいたところ、思わぬヒットとなって市場の需要に対して供給不足を起こしてしまった。こういう場合、また刷るのだ。セカンド・プリントだのサード・プリントだのがあるところに商魂の逞しさが窺える。
 ついでに「ヴァリアント(variant)」を説明する。ヴァリアント・カバーとはつまり、表紙違いだ。「表紙の絵は自分好みなのに中身の絵はタイプじゃない!」といった悲劇を生む、いわば悪魔の種子だ(嘘)。

 次に、アメコミにおける単行本について述べよう。これは「トレード・ペーパーバック(trade paperback)」といい、通常はTPBで表される。文字通りペーパーバックなのだが、タイトルによってはハードカバーも刊行されることもある。たとえば「バットマン」誌だと、ハードカバーで出た約半年後にペーパーバックで出るようだ。
 最近はコミックブック(リーフ)で出たものはたいていTPBとして纏められるとのことだが、かつては人気の高いエピソードのみがTPB化したらしい。このあたりの消息は初心者にして英語のできない私にはわからないところだ。

 駆け足で説明したけれど、これらの在り様からイメージするアメコミの世界観は、大河だ。何本もの途切れなく続く流れがあり、それらは時に混じり合い一本の太い流れを形成し、また時として短い支流が自由な動きを見せる。一本の流れがそれぞれに内包する熱量は凄まじく、それが何本も何十本も束ねられて、ついには大河を成す。
 流れを飛び出したかに見える一滴の雫も支流も、やがては悠揚たる流れに飲み込まれ、元通りにその一部となる。ただし、その一滴があればこそ、あるいは支流が生まれた影響で、大河の流れもその行く末に変化が生じて。
 しかし、ここに流れを断ち切る出来事が!
 それがリブートでありリランチである。これらについては「アメコミ強化月間突入?」の記事でちょっと触れている。具体例を挙げて説明するつもりだが、それは次回の記事ではなく機会を改めて。
 次回は、いよいよ目前に迫った「海外マンガフェスタ2015」に先駆けて、「アメコミのイベントをどう楽しめばよいのやら」を述べたい。否、むしろ自分自身に言い聞かせたい。
 海外マンガフェスタは今年で三回目の参加となるのだけど、まだまだイベント初心者である。若葉マークが額に燦然と輝いている。しかも今年は前日に神保町で催されるライブペインティングのイベントにも参加予定だ。これは初参加だ。
 でもって、事前コミッションをオーダーしている。
 初体験が多すぎるのだ。

 というわけで、次回の記事はアメコミイベントの歩き方について述べる。たぶん見当違いを犯すだろうし、何の指南にもならないことは保証できる!

地球の歩き方 アメコミイベント編 | HOME | KINGDOM COME

Comments:0

Comment Form

Trackbacks:0

TrackBack URL for this entry
http://mescalinedrive.com/mt-tb.cgi/256
Listed below are links to weblogs that reference
原書読みなら三倍段 from MESCALINE DRIVE

Home > 原書読みなら三倍段

Feeds
blogram投票ボタン フィードメーター - MESCALINE DRIVE 人気ブログランキングへ
Message
Visitor

Return to page top