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特攻野郎Aチーム

 さて、せっかく作った「コミックブック」カテゴリを無駄にしないための「アメコミひとり語り」の記事、その第5回である。
 これまでの記事で、日米のマンガ事情とその違いを上辺だけでも浚ってきたわけだが、今回は制作現場における違いを述べるつもりだ。
 作品を完成させるのに、ひとりの作家が作業のすべてを担う。これ自体は作家性を追求するのに最良の方法なのかもしれないが、日米のマンガ制作の現場はいずれもそんなやり方を採用してない。原稿を完成させるのに要する作業を、一から十まで自分ひとりで成し遂げる作家は、絶対にいないとまでは断言できないが、ごくごく稀であることは確かだ。
 そもそもマンガ原稿を仕上げるのは、読者が考えるよりずっと手間がかかるものだ。何ひとつとして指標の示されてない白い紙に、真っ白な世界に、絵を介して物語を描き込む。作業量は膨大だ。
 だから独力で成し得ないと判断されても、それは無理からぬところである。
 膨大な作業量を数で攻略する。日本の漫画家は、作業を手分けして完了するために、自腹でアシスタントを雇う。他人に任せられるところは任せて、一定のレベルの完成原稿を仕上げる。また、週刊誌や月刊誌に連載を持つ漫画家にとって、休む間もなく迫り来る締め切りに原稿を間に合わせる必要がある。
 完成原稿の質を高め、それを維持すること。作品を定期刊行物に載せ続けること。この二点を実現するのに、作業の人手を増やす意味でアシスタントを雇い、分業制を採り入れる。
 日本の漫画業界における分業制について述べるなら、このようなところだろうか。つまり、主たる業務の質と量を十全にこなす目的から、人員を雇用し彼らに補佐を務めてもらう。臨時、あるいは恒常的に雇い入れたアシスタントは、その現場においてはあくまでもアシスタントにすぎず、作家が担うべき主たる業務を行うことはない。
 対して、アメリカのコミックブック制作の現場は、やはり分業制が確立しているが、日本のそれとは意味合いが大きく異なる。

amazon:[DVD] 特攻野郎Aチーム シーズン 1 バリューパック  漫画を描くにあたって、いくつかの段階を経る。大天才でもないかぎり、いきなり白い紙にペンを入れるなんてことはない。何事も準備が必要であり、物事を仕上げるにはそれなりの手順が必要となる。そしてプロフェッショナルは、経営戦略としてその手順の最適化を図る。
 まず、何を描くか、どんな筋立てにするかを決めなければならない。物語を作るところから始める。舞台設定や人物造型こそ重要で、そのあたりをしっかり用意しておけば、きっかけを与えるだけで物語は動き出す。という主張もあるようだが、そして設定作りを疎かにしてはならないことは勿論なのだが、それはここでは「物語を作る」段階に含むことにする。
 この段階で編集者のチェックを必要とする。筋立てとして面白くなければ面白くなるように、一部または全部を修正するよう指示が入る。より良い商品を市場に出すためには、これも必要な手順だろう。
 次にすべきは「ネームをきる」ことだ。ここでいうネームとは、漫画の設計図だ。読みやすさを念頭に置いてコマ割りを決め、視線誘導を考えつつ人物をはじめとする事物やフキダシ等を配置する。ネームの段階で微に入り細を穿った描き込みをする必要はない。これはあくまで設計図。ここで演出意図を明確にすることで読みやすさや伝わりやすさが向上する。
 ここでも編集者のチェックが入る。筋立てが面白くても、その面白さが漫画として結実してなければ意味がない。設計図の練り直しを必要とするなら、その指示やアドバイスが下される。
 そして、ようやく本格的な作画に突入する。
 ネームに従って下描きをする。描くべき事物のすべてをきっちり描いて、あとは描線にインクをのせるだけの状態まで持ってゆく作家がいる一方、ここはだいたいの見当をつけておいてペン入れに力を入れる作家もいる。
 次いでペン入れだ。下描きの段階で描線のほとんどを完成させるにせよそうでないにせよ、ここではじめて原稿用紙にインクがのる。どんなに面白い筋立てでも、どんなに読みやすくわかりやすくネームをきってあっても、この段階で描線に力が込められていなければ(これは、力強く雄々しい、ということではない)、作品が生きない。下描きの線をなぞるだけでいいンでしょ、は大いなる考え違いだ。
 この後、カラーページがあれば彩色を施して、スクリーントーンを貼る修正する等の作業を経る。
 最後にフキダシ等の文字を写真植字で組み入れて仕上げとなる。
 このように、何を作るかを決めて、設計図を作成し、下準備を施してから本格的な工程に入り、最後に細部にわたって仕上げをする。これらの過程において、基本的に物作りのそれと変わるところはない。
 作業の流れでそれに従事する顔ぶれが変わるわけでもない。ひとり親方が数人の弟子を引き連れてひとつの案件を完了させるのと、意味合いにおいて同じである。
 アメコミはここが違う。

 アメコミにおいては、基本的にそれぞれの作業に特化したプロフェッショナルを配する。
 つまり、物語を作る人間がいて、下絵を担当する人間がいて、ペン入れする人間がいて、文字を書き入れる人間がいて、彩色する人間がいるのだ。
 脚本・作画・ペン入れ・文字書き・彩色のそれぞれに、しっかりとした力量を持つプロフェッショナルと契約を結んで、そうして作品を作りあげる。
 誰かが誰かのアシスタントだとか作業の相互に上下関係があるだとかは考えられない。ひとつの案件を完了させるのに必要な工程それぞれに、その技術に特化した親方を導入する。これがアメコミ制作の現場、その原則である。
 とはいえ、全工程をひとりでこなす場合もあれば、工程の一部を担うケースもある。
 特定の技術に長けた人材を適宜に配置するところを、私はアメリカらしく感じるのだ。

 さて、それでは各工程の担当を如何なる名称で呼ぶのかを、作業工程の順序に従って説明しよう。
 脚本・作話の担当は、物書きそのものを示すライター(wrighter)だ。
 そしてマンガ制作は、作話と作画(ここでは広義の意味合いにおける"作画"だ)両面にて成立する。脚本・作話はライターが担い、作画を担うのはアーティストだ。そしてアーティストの作業と名称は、内容に従って以下のように分けられる。
 作画は(ここでは狭義)、下描きでもあるのでペンシラー(penciler)。ペンシルとはいうまでもなく鉛筆だ。
 ペン入れは、インカー(inker)。ペンを入れるとは、描線にインクをのせることにほかならない。
 彩色はカラリスト(colorist)。
 文字書きは、レタラー(letterer)だ。日本の漫画では写植が使われるフキダシの文字も、アメリカのコミックブックでは手書きである。
 このように、それぞれの役割にそれを表す名称がきちんと存在する。これはつまり、この完全分業制が確立していることを示している。
 日本とは異なる分業制だ。それだけに興味深い。

 ここで思い出してほしいことがある。
 これまでの記事で書いたことだが、私が本格的にアメコミ翻訳本への復帰を果たしたのは、スコット・スナイダーとグレッグ・カプロの『バットマン:梟の法廷』だ。『スーパーマン:アースワン』はロイター板の役割を果たしてくれた。そして、このスコット・スナイダーはライターであり、グレッグ・カプロはペンシラーだ。私が惚れた「グレッグ・カプロの描線」とは、インカーのジョナサン・グラピオンの描線でもある。
 こういった事柄は、アメコミ翻訳本を積極的に読むようになり、冊数をこなして、ようやく理解できたこと。はじめは「作者名」らしき欄に数人分の名前があるものだから、何がナニやらさっぱりわからず、インターネットで調べたものだ。
 好奇心と探求心は習得の推進力だね。ただし、それらがうまく機能しないことも時としてあるわけで。

 ややこしくなるのでこれまで触れてこなかったが、実は「エイジ・オブ・アポカリプス」から「スーパーマン:アースワン」の間に、実はもう一冊だけアメコミ翻訳本を読んでいるのだ。そしてこの読書体験は、私のアメコミ観を一変させるほどの影響力を持った。
 ただし、このことも幸福な結末とはならなかった。
 十数年もの間、アメコミから遠ざかることになったのは、その傑作読了後に起きた不幸な行き違いが原因だ。つまり、これまでに語ってきたようなアメコミに関する知識が皆無であったがために、こちらの期待や思惑とは異なる現実に直面したのがそれである。
 想定外の出来事に嫌気が差して、このことが理由で私はアメコミへの興味を失ったのだ。不幸な邂逅ではあったし、初心者をやさしく善導するようなアメコミ入門書があれば、そういうものと出会っていれば、もっと違う十数年になっていたかもしれない。
 いまさらだけど、ね。
 それはともかく、件の傑作とは何か?

 マーク・ウェイドとアレックス・ロスの「キングダム・カム」!

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