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書痴の婚礼

 やっぱり結婚式は肩が凝る。たとえ気心知れた間柄の友人のそれであっても。
 朝早くから岐阜まで移動して、人前式と披露宴に出席。
 朝は曇りがちな、決して「晴れの日」ってな感じのしない空模様で、当人や両家親族には申し訳ないけど「過ごしやすい一日になるかな」と期待した。
 なにしろ夏服とはいえ礼服で数時間を過ごさなければならないわけで。
 汗まみれになるのは勘弁してほしい。

 少しでも涼しいうちに済ませようと考えてくれたものか、午前十時の結婚式の開始は、しかしそのために早起きを余儀なくされて。
 若干の睡眠不足を引きずりながら新幹線のぞみ号に。寝過ごすと京都まで連れて行かれる恐怖に怯えつつ、しっかり寝てしまいました。
 名古屋に着く直前に起きたのは、だから僥倖といえよう。

 ありがたいことに、式場の最寄り駅が岐阜駅。乗り換えも無難にこなし、招待状に添付の地図に従って向かうも、生来の方向音痴が蠢くのを感じる。
 しかも雲が晴れつつあり、気温が上がってゆく。これはアレか、「本日のこの佳き日、先ほどまで雲のベールに覆われていた太陽が、祝福のために顔をのぞかせたようです」云々ってヤツか。
 参ったね。

 着替えて受付を済ます。旧交をあたためる。親族への挨拶。
 開始時刻となって、いよいよ入場。着席してそのときを待つ。
 ひたすら居たたまれない。こういう晴れがましいのは苦手だ。
 ああ厭だイヤだと考えていると新郎の入場。扉が開いて、そこに私より居たたまれない様子の友人が立っていた。
 口元が、照れと恥辱とが大半を占める感情を反映して、うすく笑いを堪えている。ひくひくと震えている。それを懸命に押し殺している。
 列席者全員の視線を浴びて、これが運動神経に多大なる影響を及ぼしたものか、直立歩行初心者のような歩みを進める成人男性。
 その様子を見て、「アイツよりまだマシだな」と居たたまれなさが軽減した。気が軽くなった。
 持つべきものは、やはり友人である。

amazon:[単行本] 書物の宇宙誌―澁澤龍彦蔵書目録  身近な存在である本だが、結婚式場で目にするとさすがに奇異に感じられる。それが幻想文学であり、特にミステリ作品ならばなおさらである。
 新郎と新婦とを結びつける端緒となったのは、日常系ミステリの書き手である、大崎梢作品だそうだ。
 この6月に催された本格ミステリ大賞受賞イベント。その合同サイン会で友人が作家の方々にお願いしていた、新婦との連名での為書き。その成果の御披露目だ。
 控えの間、小テーブルに並べられた数冊のサイン本。大崎梢はもちろんのこと、麻耶雄嵩だの東川篤哉、 米澤穂信の単行本とともに森日向『レトリカ・クロニクル 嘘つき話術士と狐の師匠』が。
 驚いたのは、これらの本とともに出席者の目を楽しませた特製色紙である。記名を見ると坂木司に戸川安宣とある。
 かたや日常系ミステリの覆面作家、かたや日本ミステリ界の名伯楽。コレ、結婚式どうこう関係なく、額装すべき逸品だよ、子々孫々と受け継がれるべき家宝だよ!

 さすがというか、ここまでくると呆れてしまうというか、新婚夫婦の蔵書は控えの間にとどまらない。永遠の誓いを立てる婚礼の場にも姿を見せる。
 書棚をモチーフとした側壁に、そのあちらこちらに読書人としての趣味の窺える書籍が。
 三島由紀夫に綾辻行人、澁澤龍彦と吉井由吉までは視認できた。これらは新郎たる我が友人の趣味全開ラインナップである。
 人前式ということで神父も牧師も宮司もおらず、賛美歌を歌う必要もなく、誓いの言葉と指輪の交換、誓いのキスといったところで式次第が終わったのはありがたかった。
 変に格式ばった進行には、またぞろ居たたまれなくなるに違いなく、それはきっと新郎自身も感じるところだろう。
 ともあれ婚礼の儀式は成った。あとは披露宴だ。
 退場時に『リトル・リトル・クトゥルー』があるのを目にして、正直、これにはグッときた。
 畜生。やりやがったな。

 というわけで披露宴である。その前にフラワーシャワーとブーケトス、写真撮影があったわけだが、屋外にいたのにさほど暑さを感じなかったのは、やはり少なからず舞い上がっていたせいだろうか。否。暑かったことを忘れてしまうほどに舞い上がったのだろうか。
 いずれにせよ舞い上がったに違いないのだろうけれど。
 あいにくとんぼ返りで帰京しなければならない事情があり、痛飲するわけにはゆかなかったもので。また、ここ数日は腹がゆるくなっていて、それもあってアルコールを極力控えたのだけど、さすがに御両親のお酌は断れない。
 グラスを空にして「本日はおめでとうございます」で注いでいただく。
 ああ、朝食も抜いたのだった。
 ただでさえ酒に強くないというのに、空きっ腹に酒は効く!
 来賓の挨拶だの祝辞だのが続き、新郎が大学時代の友人とギター演奏しながら歌い、新婦とそのお兄様はそれぞれにピアノ演奏を。
 祝電もゴンドラでの登場もキャンドルサービスもない、しかしあたたかな祝宴の儀が眼前に繰り広げられた。ポカポカしていたのは何もビールのみが原因というわけではなくて。
 忙しい日々を送っていて、不意に訪れた非日常で。見知らぬ地で、多くの見知らぬ人々に囲まれて、慣れない礼服に着られて。"不慣れ"と"初体験"のツープラトン攻撃を絶えず食らうようなもので。
 得難かったのは、十代半ばから知っている友人が、最後の挨拶で感極まって泣き出しそうになっていて、そんな姿を目の当たりにしたこと。
 ここで「オマエ、なに泣いてんねん」って言ったら顰蹙モンだな。自重せにゃならん。ふと隣の席を見ると、共通の友人がこれまた感慨深そうに、つまり泣きそうな雰囲気だ。
 ああ、しまった。出遅れた。ヘラヘラ笑う場面ではないのだ、ここは。
 ちゃんとしなきゃ。
 若干というには多大に過ぎる照れと、そしてまぎれもない本心からの言葉をあらためてここに送ろう。

「ご結婚おめでとうございます」

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