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父と子と聖霊の御名において

「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」を取り上げる記事の第三弾。
 まだ語ることがあるのか、と思われるかもしれませんが、イヤイヤまだまだ語り尽くせませんよ。「だとしても、もうちょっとうまく纏められない?」というお言葉には私も同意します。
 いろいろ書いているうちに熱くなっちゃって、結果、ダラダラと長くなる。いつものパターン。悪い癖です。
 特に今回は想像の翼をやたらと広げたところもあって。ただの妄想になってるなんてことも否定できません。
 それにしてもよくもまあ語れる事柄があるものだな。たかがヒーロー映画じゃないか。はっきりいって大人の観るものではない。
 なるほど。とはいえ同意するつもりはさらさらない。この手の謂いには慣れている。
 よく考えてほしい。"くだらない"も"バカバカしい"も"面白い"と両立しないわけではないでしょう?
 この作品の面白いところをワタシは幾つも挙げることができるンだけど、もしかして面白いところがわからなかった?
 気付けなかったかあ、それは残念。
 ロバート・ダウニーJr.にクリス・エヴァンス、クリス・ヘムズワース。マーク・ラファロ、ジェレミー・レナー、スカーレット・ヨハンソン、サミュエル・L・ジャクソンの前作からの主要キャスト。息が揃って役柄もその関係性にもリアリティが感じられる。
 これまで声の出演ばかりだったポール・ベタニーは本作でやっと顔を出すことができて、ドン・チードルにアンソニー・マッキーが演じる役柄は最後に大いなる栄誉を賜る。
 そしてエリザベス・オルセンとアーロン・テイラー=ジョンソンは本作で掛け値なしの大活躍を見せる。
 充実のキャストだ。そして前作に引き続いて監督と脚本を務めたのはジョス・ウェドン。系列作品から同じ地平に立った世界観を、「これでもか!」と煮詰めに煮詰めて神話へと昇華している。
 確かに尺は長いし、単体作品としては世界観を理解するのに難しいところはある。瑕疵があることまでは否定しない。
 でも面白い!
 たった一度の観賞で三回分の記事を書かせてくれたのだ。面白くないわけがない!
 劇場公開中にもう一度、最低でもあと一度は観に行きたいものである。

 トニー・スタークとブルース・バナーの二人の天才科学者、そしてジャーヴィス。彼らが"ロキの杖"の宝玉内部にひそむコンピュータから生み出したのが、人工知能ウルトロン。
 現代社会において全知全能を実現したウルトロンは、自らを「神」と称するようになる。
 ヒドラに由来する「進化への渇望」とトニーの「平和への願い」が、世界最高の情報処理能力を有するウルトロンのなかで歪に結び付いて、だからこの神は「進化を遂げようとしない人類の怠慢」と「その怠慢を助長するアベンジャーズ」への深い怒りを抱く。
 真に神なる存在は、罪に対して正当な罰を与えられるはずである。神ならばそれだけの力と資格を有するはずだ。
 この前提に立って考えると、己が罪人に罰を与えられなければ、それは即ち己が神でないことの証しであろう。しかし、如何に大きな罰であろうとこれを与えられるとするならば、その力と資格を持つ己は真に神なのだ。
 ウルトロンは神罰を下すことを決めた。これは人類への罰であると同時に進化への記念すべき第一歩である。

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 現代のオリンポス。高天原。
 ここでウルトロンは生まれた。そして放逐され、人々の暮らす下界へと降りた。
 まさしく堕天である。
 瞋恚の神は広場に建つ教会に本拠を構えた。
 神々の住まう天上界を仰いで羨むつもりは毛頭ない。この国に忽然と生まれた多神教の信仰など、苛烈にして訴求力の高い一神教の相手ではない。
 強力な唯一神との間に交わす契約。キリスト教徒にせよユダヤ教徒にせよイスラム教徒にせよ、人類の多くはこの観念に抵抗がない。特にアメリカでは。
 ウルトロンは現代社会に降臨した神である。彼自身、これを信じて疑わない。
 神はここに実在する。ならば既存の信教の上に立って観念上の神に取って代わっても構うまい。信仰を集めるだけ集めておきながら何らの見返りも施さない神など、崇め奉るに値しない。
 これからは我を信ぜよ。
 ウルトロンは自らの信教を強固とするために、既存宗教のモチーフを敷衍した。
 それが「父と子と聖霊の御名において」に表される三位一体だ。
 云うまでもなく"父"とはウルトロンである。"聖霊"はウルトロンによって操られるアイアン軍団だ(トニー・スターク支配下のそれと区別するため、これ以降は「歩哨兵」とする)。ならば"子"は?
 ワンダとピエトロのマキシモフ姉弟ではない。彼らは預言者であり神官だ。そしてウルトロンは彼らに重きを置いてない。ウルトロンにとってはこの便利な超人もまた粛清の対象なのだ。
 ウルトロンが"神の子"として、そして自らの"意識"の受け皿として用意したのは、ヘレン・チョ博士の開発した"揺りかご"が懐胎する"完全な存在"だ。
 それは、地上最高の情報処理能力を有する頭脳と、地上最高強度を誇るヴィブラニウムの肉体をそなえた人造生命体。この存在こそは、人類を遥かに超越した"進化の子"である。
 そして、三つの形態のそのいずれもがウルトロンなのである。

amazon:ムービー・マスターピース「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」ウルトロン・プライム 1/6スケール プラスチック製 塗装済み可動フィギュア  ここで勘違いがあってはならないのだが、ウルトロンが神であることの意味合いは、あの主要な一個体に宿るものではない。
 偉容をことさらに誇るが如き姿形は、あれはウルトロンの本質が目に見えるかたちで現れたものだ。いわゆる"奇跡"の一端。そして、愚昧な人類の信仰を助けるために神が与えた偶像だ。
 一神教においては偶像を禁ずるところが多いけれど、効率的に布教するには信仰への対象を可視化するのが賢明な措置といえよう。
 それではウルトロンの本質とは何か?
 ウルトロンとは人工知能そのものであり、その本質とは地上最高レベルにある情報処理能力であり、それを活用しての意思決定である。
 ウルトロンは自慢の身体が損傷したとしても自らの判断でそれを修復できるし、修復不可能なまでに損壊したならそれに拘泥することなく新たな身体を製造し用意できる。巨大な製造機構を手中に収めていることがこれを可能たらしめてはいるものの、このことはウルトロンの特性の一部でしかない。
 原材料こそ必要とするものの、一見すると「無から有を生み出す」奇跡をウルトロンは実現できるのだ。これは個体としてのウルトロンの能くするところではない。情報ネットワークを支配して世界中の製造工場を自在に操業できる、意思決定を為すところの人工知能としてのウルトロンが可能ならしめるのだ。

 姿なき人工知能が"父"、最高にして最強の人造生命体が"子"、彼らに使役する歩哨兵が"聖霊"。
 これらすべてがウルトロンであり、この三位一体が完成することでウルトロンの福音は成るのだ。

 神の壮大なる計画を頓挫せしめたのは、アベンジャーズの"神"ではなく人間である。
 スーパーパワーを持たないブラック・ウィドウとホークアイが"神の子"を拐かした。ヴィランにまで「アベンジャーズの弱点」扱いされていた二人の大金星!
 この直前、クレードルにて誕生のときを待つ"神の子"へと流れ込んだウルトロンの思考を読み取って、ワンダは神意に触れる。これによって自分たち姉弟がアベンジャーズの消滅のみならず、人類滅亡に荷担させられていたことを知る。
 肉体の檻に自ら入ることでワンダの精神感応能力の標的となってしまった。その可能性を考えられぬウルトロンではない。それでも計画を推し進めるしかできなかった。
 ウルトロンの進化への思いは、もはや強迫観念の域に達している。ヒドラの置き土産は神にとって骨絡みとなっていた。
 ワンダにとってもピエトロにとってもトニー・スタークは憎い。兵器産業で巨万の富を築いていながら、今になって正義の味方を気取る偽善者。自分たちの家族はスターク・インダストリーズ製の兵器によって殺されたのだ。そして自分たちも数日にわたって殺され続けた!
 トニー・スタークが憎い。トニー・スタークを仲間に引き入れているアベンジャーズが憎い。けれど、この世界を、人類全体を滅ぼしたいとは思わない。
 今にしてみれば、そこまで絶望してなかったのだ。世界にも。人類にも。
 若さ故の頑なな潔さをウルトロンに付け込まれて、しかし若いからこそ挽回の気概に燃えて。
 かくしてウルトロンの若い神官は神を裏切った。これも神にとっては織り込み済みだろう。十三番目の弟子ではなかったというだけで、信教において裏切りが起こることそれ自体は珍しいいことではない。
 神の子さえ降誕したなら、いよいよ神罰を下す!

 残念、ウルトロン。

amazon:ムービー・マスターピース「アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン」ヴィジョン 1/6スケール プラスチック製 塗装済み 可動フィギュア  あなたが父の期待を裏切ったように、あなたの子も父親を裏切りましたよ、ウルトロン。
 かつてウルトロンの覚醒に影響を及ばしたジャーヴィスを、今度は確保した人造生命体に移植しようとトニー・スターク。
 いやホントに「反省はないのか!」と云いたいところだろうが、科学者にとって反省とは実験の失敗を招いた考察不足に関して為されるものであり、研究開発それ自体を取り止めるのはこれに相当しない。
 イヤイヤイヤ、ウルトロンの件はあんなことになって申し訳ないけど、今度こそ大丈夫、ダイジョウブ! だってジャーヴィスだもん!
 これで説得されてしまうブルース・バナーも天才とはいえやはり科学者なのだ。トニーの「ジャーヴィスがウルトロンを上回る知能である」という言葉はあくまで仮説の段階で、失敗できない実験を進めるだけの根拠に乏しい。
 そりゃキャップでなくとも怒るよ。「オマエはバカか?!」と。
 せっかく争奪戦を制して覚醒を阻止した神の子を、自分たちでわざわざ目覚めさせるとは、オマエが悪魔かトニー・スターク!
 否々、産婆は雷神ソー!
 バチコーンと電撃をお見舞いして、21世紀のフランケンシュタインの怪物は生命を得た。
 デザインはアヴァンギャルドだ。鋭角に攻めすぎである。特に色彩に見られるセンスが尋常ではない。
 ヴィジョンの誕生だ。
 無垢であり、同時に思慮深く、高潔な魂の持ち主である。見た目があからさまに「人外!」と叫んではいるけれど。
 それはさておき、神の子の誕生において記憶される逸話に、マギに関するものがある。マギとはつまり賢人である。
 ヴィジョンの誕生において大きな役割を果たしたのは、トニー・スタークとブルース・バナーとソー・オーディンソン。これは「東方の三賢人」を意味してはいまいか。それぞれバルタザール(壮年)、カスパール(老年)、メルキオール(青年)に照合しているのだろう。
 ならば、その誕生を阻んだスティーブ・ロジャースは、かのヘロデ大王なりしや。
 キリスト教のモチーフを本歌取りして現代アメリカの神話は紡がれてゆく。

 アメリカ合衆国においては大統領が就任する際に誓いをたてるのだが、その対象は国民ではない。アメリカ合衆国大統領は神に誓うのだ。勿論、キリスト教の神だ。
 ピルグリム・ファーザーズが新たな信仰の地と定めた北米大陸。いわゆるWASPなる一部の層が国を動かしてきたと(嘘か本当かはともかくとして)、このように云われるだけはある。
 アメリカ合衆国は神が承認する国家なのだ。
 キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースは正しく"アメリカン・ウェイ"を体現する男だ。神の名を剽窃するウルトロンに対して彼が怒りを示すのは当然である。
 しかし彼自身も現代アメリカが生んだ"神"なのだ。この皮肉。
 その成り立ちから移民による多民族国家として歩まざるを得ないアメリカ合衆国。構成員の背景を鑑みるに一神教の頸木は共同体における秩序の形成を阻害しかねない。
 また、昨今は特にその傾向が顕著な「政治的に正しくあらねばならない」という強迫観念は、信教の一元化とは相反する。
 少数意見を尊重することで物事の推移からダイナミズムを失わせる嫌いがある。
 これに関して強権をもって実行力を勝ち取ったのがウルトロンだ。目的達成のためなら手段を問わないところは、目的達成のために手段を正当化する"父親"にどこか似ている。
 そして、手段こそはその是非を問われるべきと考えるのがスティーブ・ロジャースである。
 スティーブ自身は敬虔なキリスト教徒であり、前世紀から引きずる古臭い道徳を頑なに守る男だ。しかしキャプテン・アメリカは一個人では括れない存在だ。彼が望むと望むまいと「キャプテン・アメリカ」という存在はアメリカ合衆国の掲げる正義の象徴であり、現人神の一員と見做される。
 神の忠実なる僕である自分と、スーパーパワーを有する神としての自分。その板挟み。
 少なからぬ諦観とともに男はそれを受け入れている。

 本作の最後にアベンジャーズの新たな本拠地がお披露目となる。ここに神々の下した審判が描かれている。
 それはニューヨーク北部の森の中にあって。先頃までのビル街にひときわ高く聳え立つ、いかにも「神々の御座」といった趣きはない。そしてウルトロンが広場に定めたような、共同体の中心に位置するものでもない。共同体の外側に居場所を定めたのだ。
 このことは、アベンジャーズが人界と神域とを行き来する"境界者"であることを示している。
 メンバーの顔ぶれにも変化が。
 ブルース・バナーが姿を消し、クリント・バートンは家族のもとへ。迫り来る災いを前にソーがアスガルドへ帰り、自己嫌悪に苛まれるトニー・スタークが去った。
 残ったのはブラック・ウィドウとウォーマシンとファルコン、そして新顔がスカーレット・ウィッチとヴィジョン。
 忘れちゃいけない、この男。新たなアベンジャーズを率いるのは「生ける伝説」だ。すべてはこの男からはじまった。第二次世界大戦の英雄にして最初のアベンジャー。
 その名もキャプテン・アメリカ!

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