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神様ゲーム

amazon:[大型本] アート・オブ・アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン (MARVEL)  ニューヨーク上空にワームホールを穿ち、侵略者を地球へと召喚したのは、悪戯と欺瞞の神、ロキ。
 その計画の際に"大いなる存在"よってロキに貸与された杖は、侵略が失敗した後に行方知れずとなった。
 その後、内部の腐敗とその告発によってS.H.I.L.D.は組織の解体を招いた。この事態にS.H.I.L.D.を隠れ蓑にしていたヒドラの残党は、さらに地下へと潜って。
 バロン・ストラッカーは東欧ソコヴィアの古城に本拠を定め、人体実験による強化兵士の研究と人型の新兵器の開発に邁進していた。
 それは現代科学を超越する内容だ。ヒドラ子飼いのアーニム・ゾラは既に亡く、スターク・インダストリーズ擁する科学者やガンマ線研究の世界的権威に比肩しうる天才が携わるわけでもないのに、人体実験は二例の成功を、ロボット兵器は量産体制が整うまでに至った背景には、ひとつの理由がある。
 いずれの研究開発に関しても今一歩のところまでしか進んではいないけれど、逆に云うなら飛び抜けた天才の力を抜きにしてそこまでの成果を上げるまでに至ったわけで。
 その理由とは?
 ストラッカーと彼が率いるヒドラを導いたのは、"ロキの杖"である。

 あともう少しで英雄ヅラした愚か者どもを倒せる。もうすぐヒドラの目指す秩序立った進化の道筋がこの世界に実現する。
 あと少し。
 もうすぐ。
 究極の進化を果たす時は眼前に迫っている。
 そこを襲撃したのが、英雄ヅラした地上最強チーム。
 アベンジャーズ!
 懸案だったロキの杖を奪還し、投降したストラッカーを捕らえ、任務は完遂したかのように思われたが、このとき既に罠へと足を踏み入れたアベンジャーがいた。

 今回は前回に引き続き「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」を取り上げる。
 でもってこれが最後というわけではない。
 それはともかく、ネタを割るという点で程度の差はあるものの前回と同じく躊躇うことはない。つまり、バリンバリン割っちゃうということだ。
 本作をまだ観ておらず、「ネタ割られるのは勘弁ね」という向きは、「戻る」をクリックしてくださいますようお願いします。

 アベンジャーズのメンバーはそれぞれに有能であり、且つ一騎当千の強者ではあるのは疑うべくもない。
 そうはいうものの、平和維持活動の多様性を鑑みると数的不利にあるのは明らかだ。
 それを挽回しようとトニー・スタークは自前の「アイアン軍団」を投入するが、これを制御するのはトニー自身である(ジャーヴィスの力を借りるものの)。
 敵と戦い、人々を救い、無人操作のロボットの面倒を見る。上下左右を同時に見るような真似は、さすがの天才科学者でも負担が大きい。完全にオーバーワークである。
 まして救出対象の民衆の中には「スターク」印や"神"に対する嫌悪の情を露骨に示す者もいる。その様子をモニターするのは、トニーにとって精神衛生上よろしくない。
 そこに精神感応能力を用いたワンダ・マキシモフの攻撃だ。トニーは悪夢としか思えない幻視をする。
 それは予知夢?
 この体験が契機となって、トニーは現状よりも進んだ平和維持のためのシステム作りを企図する。
 これがウルトロン誕生に繋がる。

 トニー・スタークとブルース・バナー。二人の天才科学者が完成を急いだのは人工知能の開発だ。
 開発のヒントは敵が齎してくれた。
 ソーがアスガルドへと持ち帰る"ロキの杖"が、新たな次元への扉を開く鍵である。
 トニー・スタークが何を思ってウルトロン計画を推し進めたのか。科学への不信を拭えないスティーブ・ロジャースが、チーム内の不和を招くとわかっていながら、トニーの行為を糾弾せずにいられなかった理由は何か。
 このあたりの消息。つまりトニーとスティーブの対立とそれが何に根ざしているかというような事柄については、前回の記事で述べている。繰り返しになるのでこの件についてはここまでとするが、ひとつだけ付け加える。

 トニーの「危険きわまりない現場、その最前線にて平和維持活動を担うのは、なにも人間でなくとも良い」という観点は、アルドリッチ・キリアン率いるA.I.M.との戦いを経て得たものだ。
 傷痍軍人の救済問題を解決できないアメリカ合衆国政府への怒りが、A.I.M.工作員の行動原理だということをトニーは思い知らされた。
 国家に命じられた任務を遂行するうえで不幸にも肉体を欠損し、軍人としても一般人としても社会復帰は難しくなった。
 それなのに死地へと追いやった張本人たちは、誇りある合衆国軍人を弊履のように捨て去って。
 生きがいを失ったのだ。取り上げられたのだ。
 絶望を経て憎悪に身を灼いて、国家を守る誓いを立てた者が国家に対して叛逆を企てる。
 彼らの無念がテロ行為へと結実したことは残念でならないが、A.I.M.との戦いを経たことでトニーは考えを新たにする。

 そもそもは犠牲が生まれる仕組みが間違っている。機構自体に瑕疵がある。平和を守るという崇高な目的でさえ人間が犠牲になる必要はないのだ。
 この理念を実現するのに必要なのは、人間ならば死に至るような損傷を負っても決して喪われない命の持ち主だ
 決して死なない存在。この設問に対して、生来がエンジニアであるトニー・スタークはロボットに解を求めた。
 生命活動がなければ死ぬこともあるまい。
 自ら最適解を導き出せる人工知能と、その判断を実行に移すための汎用ロボット。そして頭脳と手足を繋ぐ神経の役割を果たす情報ネットワーク。
 汎用ロボットは自前のアイアン軍団を提供できる。情報ネットワークは今や世界中に張り巡らされている。
 身体と神経は用意万端整っている。問題は頭脳だ。
 繰り返すが、これまではトニーがアイアン軍団の頭脳であった。自身もアイアンマンとして最前線に飛び回り、同時にアイアン軍団に指示を与えるというのは、間違いなくオーバーワークだ。
 現場の状況に即して最適解を求められる頭脳を、優秀な人材に求めるのではなく人工知能に行き着くところがエンジニアとしての業だろうか。

 人工知能によって下された判断は、情報ネットワークを通じて汎用ロボットに伝えられる。
 人工知能は意思決定とともに複数の汎用ロボットを包括的に管理運用する。
 頭脳と身体を切り離して考えることができるので、損傷した身体を救出する手間すら省ける。活動不能の身体は見捨てることが可能だ。
 製造コストは莫大だろうが、そのかわり教育にかかるコストはゼロになる。ズブの素人をプロフェッショナルまでに鍛え上げるのは高い授業料が必要となるが、これが要らなくなるのだ。無論、教育課程における脱落者も出ない。
 成功にせよ失敗にせよ、経験は人工知能によってそのすべてが蓄積され、次に活かされる。犬死にも徒労も今後は意味を持たなくなるのだ。
 また脱線するけれど、これは究極の「スーパーソルジャー」ではないか。

 戦場において最適な判断を下し、その肉体は強固にして人間を凌駕する膂力を誇り、たとえ損傷して戦闘不能に陥ったとしても交代要員は無尽蔵だ。それこそ身体の素材をヴィブラニウムにすれば損傷して活動不能に陥る事態そのものが激減するだろう。
 まさに不老不死、究極の超人兵士が実現する。
 トニー・スタークは自身の体験から兵器開発から距離を置いているが、着脱式飛行装置がアイアンマン・スーツとなり「ウルトロン計画」は「スーパーソルジャー計画」へと変更可能となるところに、彼が真の技術革新を行いうる"天才"であることの証拠といえよう。
 レッドスカルやニック・フューリーがテセラックから破壊兵器を開発したように、ストラッカーがロキの杖から強化兵士やロボット兵器の研究開発したように、最先端の科学技術は最初に軍事へと転用される。
 これは世の習いだとして、もしウルトロンが超人兵士として実用化されたなら、元祖超人兵士はどうなる?
 スティーブ・ロジャースは、それでもキャプテン・アメリカで在り続けるだろうか。
 スティーブ・ロジャースをスティーブ・ロジャース一個人として求めてくれるのは、今や世界のごく一部。人々の多くは彼を「キャプテン・アメリカ」と見做す。
 スティーブにとって現代社会とは、かつての身内の面影を残した赤の他人だ。
 自分が生まれ育った時代は遠くへ去りて、家族も友人の多くも既に亡い。
 今のスティーブ・ロジャースを友人と慕ってくれるのは、ともに戦う仲間がほとんどだ。つまりは戦友。
 スティーブにとって戦争は忌むべきものだが、それがなければ自分の居場所もなくなってしまうのもわかっている。
 戦争があるから超人兵士なんて存在が必要とされるのだ。戦争が終われば、戦争がなくなってしまえば、戦うことしか能のないキャプテン・アメリカに何の需要がある?
 誰に必要とされる?
 また国債を売るために道化師に身を窶すか?
 本来生きるべき時代と社会から置いてきぼりにされ、また七十年の時間を経て甦ってなお戦場に立たされることになった超人兵士は、死ぬまで戦わされることの不安を覚えている。そしてそれと相反するかのように、超人兵士としての居場所を奪われることを恐れている。否、本当に怖ろしいのは、肉体が滅んだ後、意識をウルトロンと統合されて永遠に戦わされることだ。
 キャプテン・アメリカ・ザ・ウルトロン!
 スティーブはアーニム・ゾラの最期を目の当たりにしている。あの境遇をゾラは受けいれたようだが、自分はどうだろうか?
 スティーブが作中で発した「殺されたら、立ち上がれ!」の檄が、これまでとは違う意味を持ってくる。あまりに悲愴だ。
 スティーブ・ロジャースの「ウルトロン計画」への嫌悪は、理屈で翻意をどうこうできるものではない。それは彼にとって自己存在を揺るがすほどの脅威なのだ。
 しかし実際には、ウルトロンは人類に仇なす"神"となった。これはスティーブ・ロジャースにとって福音である。
 ウルトロンが人類全体の脅威となったことで、「ウルトロン計画」は見直されることになる。推進者のトニーの心中においてさえ。
 事が終局を迎えたことでスティーブは自己存在の危機から脱した。自分はまだキャプテン・アメリカだ。誰かに取って代わられる存在ではない。必要とされるなら、たとえそこが戦場であっても全力を尽くす。その用意はできている。

 いやはや脱線が過ぎたようだ。
 トニー・スタークの平和維持活動に関する理念は、最悪のかたちで裏切られた。彼の夢みた「死なない超人兵士」、否、「死なない平和維持活動員」は人類の存亡を脅かす敵となって実現した。
 進化への渇望はヒドラによって刻まれた強迫観念だ。平和への願いはトニー・スタークから与えられた夢だ。
 人工知能は生まれたと同時に進化と平和に関する最適解を導き出そうとした。成長する間もなく辿り着いたのは、アベンジャーズの消滅。
 それが新たに降臨した"神"の答えだ。

amazon:[Blu-ray] アイアンマン3 ブルーレイ+DVDセット  これは「アイアンマン3」を取り上げた記事でも述べたことだが、アルドリッチ・キリアンの半生は屈託の連続だった。新世紀の幕開けに絶望の淵に立った彼は、たとえここで自殺をしたところで誰にも顧みられることのない自分を殺して、はっきりと力を求めた。
 人智を超える力を望み、そして得ることに成功した男は、しかし自らがスーパーヒーローとして人々の崇敬を集めることをしなかった。
 彼はむしろ"神"を嘲っていた。これはトニー・スタークが"神"の一員であることに無関係ではなかろう。
 アベンジャーズには辿り着けない境地を彼は目指した。
 身の丈よりも大きな自分を理想として、それに近付くために努力を積み重ねるというのなら問題ない。成長するには時に背伸びも必要だろう。
 しかしアルドリッチ・キリアンの手口には、そういう殊勝な心がけは見られない。あくまで詐欺師のそれだ。
 この男は幾つかの奇跡を行い(その奇跡のタネすら借り物だ)、それをもって全知全能を装った。否、エクストリミスによって能力は飛躍的に向上したのは確かだから、彼自身は自らの全知全能を信じたのかもしれない。少なくともその可能性を秘めていることは、あの時点で確実だった。
 アルドリッチ・キリアンは神話の書き手を自らに任じて、物語をコントロールすることで神たらんとした。しかしそれは神の座を簒奪しようと企んだ脚本家の行為にすぎなかった。
 この男の本質は口八丁のワナビーである。

 ウルトロンは人類をゆうに凌駕する情報処理能力を有し、また論理的思考に終始することから情緒による非論理的要素を意思決定から排することができる。それにより唯一無二の正解を世界に敷衍する。
 判断を下すには多くの情報を集積することからはじめなければならない。今や世界中に張り巡らされた情報網へのアクセスがそれを容易にしてくれる。
 研究と開発の基礎となる学識も方法論もまたネットワークによって収集と蓄積が可能だ。
 また、社会において情報とはそれ自体が価値を有する。現代においては情報がなおさらに金銭面で大きな価値を持つ。
 情報を正しく評価し、有効利用する。これもまた感情論で動かない人工知能の強みである。
 かくして全知全能は先鋭化した情報社会によって完成する。
 ウルトロンが自らを"神"と称するのも理由のないことではないのだ。
 ただし先に述べた事柄については一点、誤りがある。
 ウルトロンに感情はある。怒りだ。
 ウルトロンの行動原理には"進化への渇望"と"平和への願い"が原点にある。それが現実において成されない理由を分析し、人類の怠慢とそれを助長するアベンジャーズに解を求めた。
 ウルトロンは自分の到達した答えに対して疑うことをしない。自分が間違うという体験を経ずして個性を完成させてしまったからだ。
 失敗も挫折も経験せずにウルトロンは"神"となった。"神"だからこそ失敗も挫折も無縁だったと自らを分析するだろうか。

 ウルトロンは現代社会において神の如き力を得たのかもしれない。
 生態系を覆す一撃を加えられるだけの強大な力を得ても、しかし次の事実は揺るがない。
 ウルトロンの創世記において「光あれ」と願ったのは、平和を希求したアンソニー・スタークその人である。
 彼はウルトロンの"父親"だ。

 だからこそウルトロンは怒りに駆られるのだ。

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