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辺縁の住人

amazon:[DVD] 夢と狂気の王国  有楽町はよみうりホールにて試写会。スタジオジブリの最新作、「思い出のマーニー」を観た。
 原作はジョーン・G・ロビンソンによる同名の児童文学。これを現代日本を舞台に翻案したのが本作である。
 スタジオジブリといえば看板は宮﨑駿、高畑勲。この二大巨匠だろう。
 しかし本作の監督は、脚本にも名を連ねる米林宏昌。「借りぐらしのアリエッティ」から四年を経て、再び監督を務める。
 さて、宮﨑駿は何度も何度も引退宣言をしては撤回することでも知られている。その性癖から「引退マニア」だの「引退詐欺」だのと陰口を叩かれているが、創作意欲に忠実なところと市場論理が絡み合って、だから思い通りに引退できないでいるのだろう。
 そうはいうものの、いつまでも宮﨑駿におんぶにだっこではスタジオジブリも今後が立ちゆかない。
 宮﨑駿にせよ高畑勲にせよ、彼らが本当に引退してしまった場合を考えて、後進に実戦を積まさなければならない。
 ひとりに屋台骨を背負わせる必要はないが、いずれは世代交代をしなければならない。むしろ、今までそれが成ってないことがスタジオジブリの問題点だ。
 その候補は誰だ? 宮﨑吾朗か?
 申し訳ないけど「ゲド戦記」も「コクリコ坂から」も観てない。だから評価できない。その資格がない。
 でもって米林宏昌初監督作品の「借りぐらしのアリエッティ」も観てない。
 ガチガチの宮﨑駿原理主義者ではないけど、彼や高畑勲の手掛けた仕事ほどには魅力を感じてないのかもしれない。
 それを勿体ないと思わせられるか。マーニー、どうなのよ?

「思い出のマーニー」公式サイト  とある理由から自分を世界の外側に属すると決めつける少女。杏奈は十二歳、中学一年生。
 人の輪に入り込むのがいつしか苦手になっていて、手をさしのべられることすら苦痛に感じられて。そこに善意があろうとも、同情や職務上の使命感といった特別な事情があろうとも、あるいはそうでなかろうとも、世界の内側に紛れ込むことに不安を覚える。
 不安はストレスとなって、少女の持病である喘息の発作を引き起こす。その咳が、彼女が世界へ放つ絶縁の宣言のようで。その咳が、世界から彼女への拒絶の象徴のようで。
 杏奈が吸入器の世話にならないのは、その苦しみをあえて引き受けているかのように見受けられる。
 家に帰ると、家長は出張ばかりで存在感の稀薄。その妻は心配性が高じて干渉が鬱陶しい。ひとつ屋根の下に暮らす間柄だが、彼らは養父母。血のつながりはない。
 心のつながりは、今は感じていない。
 主治医から、札幌を離れての療養生活を提案される。彼は環境の変化こそが少女に必要だと考えたのだろう。杏奈と頼子を引き離すことが、この家族にとっては必要なのだと。
 杏奈はこの夏を、養母の親戚にあたる大岩家で過ごすことになった。
 そこで出会いが待っていた。

 子育てを終えて、夫婦の時間を自分たちのペースで楽しむ大岩夫妻。生さぬ仲を必要以上に思い悩む頼子とは違って、大岩夫妻が保ってくれるその距離感を杏奈は嫌ってない。むしろ心地好くすら感じている。
 付かず離れずの絶妙な関係性だが、それは杏奈が「お客さん」だからだ。つまり部外者。
 少なくとも杏奈は大岩夫妻との関係をそのように捉えている。ここは頼子の親戚の家であって、本来は自分と無関係な場所だ。夫妻は杏奈に対して必要以上に近寄ってこないし、だからといって邪険にするでもない。双方にとって一定の距離を保てる、そんな関係なんだ、と。
 大岩夫妻の思惑は別にあるだろう。彼らは頼子から杏奈についていろいろと聞いているだろうし、そのうえで少女を引き受けることを承知したのだろうから。
 娘二人を育て上げた実績を持つ大岩夫妻には確信があったろう。杏奈と過ごした短い時間のうちに、少女に対する信頼が彼らのうちに生まれた。この子は大丈夫、と。今はいろいろ苦しんだり悩んだりしてるようだけど、たくさん食べていっぱい遊べば、すべて解決するはずだと。

 スタジオジブリ作品といえば食事の場面だ。旨そうに描くことに製作者が心血注いでいるのが、スクリーンのこちらまで伝わってくる。そこを観客に気取られては駄目だと、あのアニメスタジオの大御所は不機嫌になっちゃうかもしれないけど。「作意が透けて見えるようでは駄目なんです」とか何とか苦言を呈するのが目に見えるようだ。
 とにかく大岩夫人の料理が旨そう。アレはかぼちゃを煮た料理だろうか。形は崩れておらず、しかし味はしみてそうで。
 三ツ星のレストランでは食べられないであろう、おふくろの味。
 杏奈が味わわなければならなかった味なのだろう。大いなる母性を料理として再現したものなのだろう。

 無神経な言動は、それを受け止める側にまわると心から疲れるものだ。
 こちらの気持ちをちっとも汲み取らないで、しかもそれが当然であるように関係を結ぼうとする。グイッと踏み込んでくる。
 迷惑だ。かかわりたくないし、かかわってほしくない。
 ただし、そのように感じる自分だって他人様には無神経な行為を働くこともあって。そんな自分を許せなくて。
 杏奈は自分の居場所がほしくて「世界の外側」を作った。自分が逃げ場を作ったことも、そこに居てもいつか誰かに排除されるのではないかと怯えていることにも、少女は気付いている。
 だから、踏み込まれるのは厭なのだ。ここを外側から内側へと変えられるのも、そこから追い立てられるのも、必死に立ち位置を確保する少女には絶対に避けなければならない事態だ。
 札幌を遠く離れて、頼子の影響下から逃れて、あまり干渉してこない大岩夫妻のもとでようやく人心地ついたのに、ここにも侵略者はいて、さっそく目をつけられてしまった。
 もう、厭だ。

 だから、マーニーは現れた。

 さて、記事を進める前に。
 よくよく考えると、本作「思い出のマーニー」は一般公開を目前に控えているわけで。
 各地で試写会が催されているが、当然のことながら、本作を楽しみにしているスタジオジブリのファン全員がこれに参加できるというものではない。
 公開前の作品について語るのにネタを割るのは躊躇われるが、かといって語るべき事柄を黙するのは不本意だ。記事を更新する意味がない。
 なので、ここから先はネタを明かされたくない向きは読み進めないようお願いします。
 あらかじめ断っておきます。本作のネタを割ります。まだ知りたくないという向きは「戻る」をクリック!

amazon:[単行本] 特装版 思い出のマーニー  マーニーは「世界の外側」に存在する。彼女の住まう「湿っ地屋敷」そのものが、幽霊話のあるサイロと同じく、周辺地域における「外側」に属している。サイロは崖の上、「湿っ地屋敷」は入り江の対岸に位置していることも、「境界の外」ということを示している。
 誰も近寄らない「外側」だから、杏奈は安心できたし、親近感を持った。初めて訪れた場所にもかかわらず、不思議な既視感を抱きはしたけれど。
 そこで出会ったマーニーは杏奈にとって救いにほかならなかった。
 拒絶されることを怯えて人との交わりを避けていた少女は、そういう自分自身の心のありように嫌気がさしていた。自分が嫌いだった。
 外国人の血が流れているのも自分が生粋の「部外者」であるように思われて、それが瞳の色に表れているようで。それを指摘されて頭に血が上った。
 言わなくてもいいこと、そんなつもりでいたわけでもなかったことを、思わず口にしてしまった。おかげで自己嫌悪に押し潰されそうになる。
 療養に来ていながらストレスを抱え込んだ杏奈に、自分への絶望をつのらせた少女の前に、いかにも「異人」といった外見を持つ少女が現れた。
 そして「ともだちになろう」と言ってくれた。
 初対面のはずなのに、杏奈を知っているというマーニー。これによって杏奈は心からの平安を得る。マーニーは自分を拒絶しないでいてくれる。マーニーは私を受けとめてくれる。
 杏奈に必要なのは転地療養ではない。彼女は自分を自分として受け入れてくれる存在を必要としていたのだ。それも杏奈自身が認める存在でなければならない。
 そういうわけだから、頼子は駄目だ。

amazon:[Blu-ray] パンズ・ラビリンス  杏奈は幼少時にトラウマを負った。保護者を喪った彼女に対して、喪服の大人たちは配慮を欠いた言動をとって。小さな女の子には理解できないと思い込んで、随分と無遠慮なことを口にして。
 杏奈の目に映る大人たちは、彼女について話し合いをしていたにもかかわらず、誰もこの小さな女の子を見ていなかった。
 人形を抱いて椅子に腰かける杏奈は、ひとりぼっちだった。泣くこともせず、ただ孤独だった。
 里子に出され、改めて家族を得た杏奈は、そこで笑顔を取り戻したのだが、ある日、自治体からの通知を見てしまう。そこに記載の内容は、思春期の少女を傷つけるもので。
 自分は自分として求められているのではない。金銭的価値を有するが故に居場所を与えられているにすぎないのだ。
 その認識は、杏奈のアイデンティティの崩壊を引き起こすところだが、最悪の事態を回避するべく生み出されたのが「世界の外側」だ。居場所を失った少女が、それでも現実を生き残るために身を寄せた「世界の外側」。
 しかし、療養先に異界を象徴する場所を見つける。
 その外観に既視感を覚え、それだけに運命的な出会いを感じ取った杏奈。湿っ地屋敷は、少女が空想の翼を広げるにはかっこうの場所であった。
 現実を生きるのは辛く、苦しみから逃れるために空想世界に遊ぶのはよくあること。
 今の杏奈に「現実から目を背けず、そのまま受け入れろ」と責めるのは容易だが、それが彼女にとっての救いにはならないだろう。むしろ追い詰めるだけ。
 杏奈の苦しみは彼女のなかで解決を見なければ消えやしない。
 それでは、杏奈の苦しみとは?

amazon:[DVD] 思い出のマーニー  杏奈の両親と祖母は、彼女が幼い頃に亡くなった。自分を置き去りにした彼らを嫌う旨を、杏奈はマーニーに対して発言する。
 空想における言動は、空想の主体の心情を反映したものだ。それがそのままストレートに表れるだけでなく、思いとはうらはらに正反対を向くこともあって。この場合、杏奈が肉親に対して何かしらの思いを寄せていることだけは明らかである。
 自分は「世界の外側」にいる。置き去りにされた。誰からも顧みられない。捨てられる。
 杏奈の「ひとりぼっち」への忌避が凄まじい。何かしらの人間関係を結んでおいて、しかし最終的に拒まれ排除されるくらいなら、最初からひとりでいることを選ぶ。そういう考え方に帰着するくらいである。
 その点、マーニーは裏切る心配はない。

 マーニーは杏奈にとって全能。美しい外見は勿論のこと、境遇から何から恵まれていて、杏奈には文句のつけようがない。
 夢のような生活を、杏奈はマーニーに投影して。
 勿論、その通りだ。なぜなら、マーニーは杏奈の空想上の存在だから。
 それなのに、マーニーの行動は次第に杏奈の思惑を逸脱するようになる。あたかもマーニー自身に自我があるかの如く。
 そして事態は、杏奈が空想のうちに生み出したわけではない人物までが登場するに至る。マーニー、その男の子は誰?
 あなたは何者なの?

 杏奈はある日、湿っ地屋敷に入居者があるのを知る。
 もはやあの素敵な場所は「世界の外側」ではなくなった。私の立ち入れる場所ではなくなった。
 マーニーとの繋がりを断たれて沈み込む杏奈に、入居者と思しき少女が声をかける。

「あなた、マーニーね?」

 嗚呼、ダラダラと書いていたら、また長くなってしまった。いつものことだけどね。
 というわけで、「思い出のマーニー」については次回の記事に続きます。
 今回よりもネタを割るつもりなので、読んでくださる向きにはその点を留意していただきますよう宜しくお願いします。

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