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 もう先々月の出来事となったが、「東京創元社 2014年新刊ラインナップ説明会」についてまだ取り上げてないタイトルを紹介する。
 これまでに国内・海外ミステリとファンタジーにSF、それぞれのジャンルにおける新刊ラインナップを取り上げてきた。次なるジャンルは「その他」だ。
 ミステリでもファンタジーでもSFでもない。その他!
 それでは覗いてみようではないか、海より深く山より高い「その他」の世界を。

 まずは夏に刊行予定、桜庭一樹『桜庭一樹読書日記』の第六弾だ。
 資料によると、「超個性的な編集者たちに囲まれ、愛犬とたわむれつつ、寝て食べて読書にふける作家サクラバカズキの日々」とある。なかなかに楽しそうな日常である。
 読書エッセイもシリーズ第六弾となるのだから、取り上げられる本の魅力というよりは、著者の読解センスだとか語り口だとかに魅力があるのだろう。見習いたいものだよ、本当に。

amazon:[単行本] 路地裏の迷宮踏査 (キイ・ライブラリー)  杉江松恋『路地裏の迷宮踏査』は六月刊行予定。
 東京創元社の定期刊行物、「ミステリーズ!」で連載のあったミステリ四方山話が、加筆訂正を施されて単行本化!
 海外作家に限るようだけれど、彼らの知られざる交友関係やちょっとした創作秘話、ミステリ初心者でもマニアでも楽しめるであろうエピソードが本書には満載らしい。
 それらの事柄を知らなくたって、個々の作品はそれとして十分に面白いわけで。でも、楽屋裏の逸話を知ったら知ったで、作品をよりいっそう楽しめるかもしれないわけで。そうならないかもしれないけれど。
 期待の一冊である。

amazon:[単行本] 怪奇文学大山脈 (1) (西洋近代名作選 19世紀再興篇)  さあ、「その他」ジャンルの最後は、碩学大魔王の畢生の「怪奇文学大山脈」だ。
 碩学大魔王とはつまり荒俣宏をさす。でもってこのアンソロジーは全三巻となる。
 第一巻は『西洋近代名作選 19世紀再興篇』。
 六月より隔月刊行予定のアンソロジー。これは、「十九世紀」「二十世紀」「パルプフィクション」のそれぞれの時代を、怪奇幻想文学史の流れのなかからピックアップする。「至高のアンソロジストが精選した、西洋怪奇幻想の神髄」の集成とあって、期待は高まるばかりだ。
 イベント当日は編者である荒俣宏大先生が登場。このアンソロジーにかける熱い思いを語ってくださって。
 この企画、そもそもは2001年の春に刊行されるはずだったのが、時節柄から御破算となった経緯がある。911と311を乗り越えて、ようやく実現の運びとなったわけだ。
 ただし、刊行までに時間がかかったのは、外的要因ばかりではないようで。
 荒俣宏先生が仰るには、英米の怪奇幻想文学を取り上げるのに、しかしドイツとフランスから目を背けてはいられないことに気付いた、と。
 相互の影響を考えると、ドイツ語圏とフランス語圏の作品をどうしても取り上げざるを得ない。
 アメリカで一番の人気を誇るのは、ワシントン・アーヴィングの「スリーピー・ホロウの伝説」ということだ。「スリーピー・ホロウ」がニューヨークの地名になるくらいに愛されているらしい。
amazon:[DVD] スリーピー・ホロウ  ジョニー・デップ主演で映画化もされた「スリーピー・ホロウの伝説」だが、これにドイツが大きく影響している。
 荒俣宏曰わく、「イギリスのかなりの部分はドイツ!」。
 王朝はハノーヴァーからの流れであり、つまりはドイツから招いた王ということである。その後、二度の戦争があって敵性国家から生じた家名を変更して、ウィンザー朝となった経緯がある。
 いやいやいや、そもそものアングロ=サクソンこそ「アングリアのザクセン人」を意味するわけで。ザクセン、つまりドイツ。
 そんなイギリスから独立を勝ち得たアメリカ合衆国。戦時に、その状況を背景とする怪談話が生まれる。
 それは、首無し騎士が出現するというものだ。
 なぜ「首無し騎士」なのか?
 この化け物はドイツ人なのだそうだ。
 アメリカ独立戦争で当事国であったイギリスは、戦場に傭兵を投入した。なぜ傭兵に頼ったのかというと、アメリカ大陸は遠いから。遠征は厳しい、と。
 そして、この傭兵というのがドイツ人なのだ。大柄で戦上手のドイツ人が戦場を駆け回った。
 そのドイツ人兵士を殺して首を掻っ切ったのが、「首無し騎士」である。
 アメリカ人にとって恐怖の対象である「首無し騎士」。それは化け物だから怖いのではない。ドイツ人としての正体を恐れたのだ。
 ドイツ人だから恐い。そういうことだ。

 もはや事は新刊紹介ではなくなった。イベント会場は、荒俣宏先生の怪奇幻想文学講座の様相を呈して。

 フランスはグランギニョル。
 これが取り扱うのは、大都会を舞台のコワイ話。怪談とは異なり、スーパーナチュラルな現象は範疇にない。
 現実に則した恐怖、犯罪実話を舞台化したものがグランギニョルだ。
 フランスのグランギニョルがアメリカに与えた影響というのがハードボイルドだ、と。ドイツでは観念主義となったそうだ。「ロング・グッドバイ」も「カリガリ博士」もグランギニョルから派生したというわけだ。
 個人的にはグランギニョルと歌舞伎の共通点も見逃せないところだが、荒俣宏先生の講義はそこまでは触れないで。むしろ、そこまで手を広げてしまったら収拾がつかなくなるのは必至!
 かくして、英米の怪奇幻想文学の精華集を編むはずが、英米にとどまらず仏独を含めた広範囲の文化を網羅しなければならない、との結論に荒俣宏先生は達した。
 だから全三巻の分量となってしまった、とのこと。

 畢生の大仕事について語る場を与えられ、言葉にも熱がこもる荒俣宏大先生。熱弁はいつまでも続くかと思われたが(実際、いつまでも聴いていられるくらい面白かった)、意外なところからストップの声が!
 本当のところは意外でもなんでもなくて、司会の池澤春菜嬢がその役目を果たしただけで。
 まだまだ紹介すべき作品や事柄は控えていて、式次第を円滑に執り行うには講義を中断するほかはなくて。だから仕方のないことだったのだ。
 たとえそうであったとしても、「荒俣宏の講義を中断させたオンナ」の異名は彼女についてまわるだろう。秘拳「アラマタ殺し」の伝説とともに。

 さて、『怪奇文学大山脈 西洋近代名作選 19世紀再興篇』をもって、「東京創元社 2014年新刊ラインナップ説明会」の第一部「ラインナップ紹介」が終了となる。
 以前、このイベントのSF部門を紹介した際、「エディターズ・チョイス」を含めて第一部としてしまったが、これは私の間違いでした。「エディターズ・チョイス」は第二部です。その記事の当該箇所には訂正文を追加しました。失礼しました。
 その記事で、「その他」とともに「エディターズ・チョイス」も紹介すると申しましたが、その口約束は反故にします。スミマセン。
 やっと第一部が終了しました。あと第二部から第四部まで残ってますが、すべてを紹介するのはホント勘弁。
 次に第二部「エディターズ・チョイス」を取り上げて最後とさせていただく。
 ただし、それがいつになるかは私もわからない。わからないのです。スミマセン。

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