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汎クリプトン主義

amazon:[大型本] THE DC ENCYCLOPEDIA DCキャラクター大事典 (ShoPro Books)  前回の記事で、次に続くような雰囲気を出さないまま記事を締めくくったけれど、今回も「マン・オブ・スティール」を取り上げる。
 クリストファー・ノーランとザック・スナイダー、デヴィッド・S・ゴイヤーがチームを組んで描くは、「鋼鉄の男」ことスーパーマンの伝説。これを、より現代的に語り直すことで、英雄を若返らせる。
 素敵な仲間や好敵手とチームを組むのは次回以降のお楽しみとして(2013年8月25日現在、次回作でバットマンを演じるのは、ベン・アフレックと決まっている。あくまで今のところは、だけど)、まずは本作でヒーローの誕生を描く。これに関して最初にやらなければならないのは、彼の出自を明らかにすること。
 どこで産まれてどのように育ったのか。強大な力や特殊能力について、その根拠となるところに興味がないではないけれど、それよりもヒーローの根っこのところが知りたい。
 スーパーマンよ、君は何者なんだ?
 本作では、主人公の背景を描くことを決してなおざりにしていない。カットバックをたびたび用いて、彼のこれまでの時間をそのまま血肉とするような、そんな描き方に人物を描くことの説得力を感じる(私が騙されやすいお人好しってだけなのかもしれないけど)。

 この記事では、スーパーマンこと地球人クラーク・ケントの生まれ故郷、惑星クリプトンについて語りたい。
 前回の記事のように今回も配慮はするけれどネタを割ってしまう可能性がないわけではないので、「まずは映画を観てからだな」と思われましたなら「戻る」をクリックです。
 観賞後、お暇がありましたら一読のほどをよろしくお願いします。

amazon:[Blu-ray] マン・オブ・スティール  惑星クリプトンの消滅に先駆けて、ある一団がファントム・ゾーンでの幽閉を余儀なくされた。これは正しくは彼らの犯した罪に対する正当な処罰であり、つまりは禁固刑である。皮肉にも、流刑扱いを受けていた彼らが生き残ったことで、クリプトン人の絶滅を辛うじて防いだのだが。
 間近に迫る危機からクリプトンを守るために蜂起したゾッド将軍は、最終的な目的を果たすことなく拘束され、裁判にかけられて刑に服した。そこへ惑星クリプトンの消滅だ。ゾッドは「クリプトンを守る」という絶対にして唯一の生存目的を失う。
 存在意義を失ったゾッドだが、彼は諦めなかった。宇宙に点在する、かつてのクリプトンの植民星。クリプトン再興の手立てはないかと、ゾッドはそれらを巡ってみるが成果は得られず。遠い過去に本星からの連絡と支援を断たれた星々は、既に死の星と化していた。
 クリプトンは滅んだ。残る希望はただひとつ。
 ゾッドが思い出したのは、自分たち以外のクリプトン人、いまひとりの生き残りが存在する事実。あの蜂起の日、科学者ジョー=エルの息子がコデックスとともにクリプトンを脱出した。
 コデックスがあればクリプトンを再興できる。ジェネシス・チェンバーは植民星に打ち捨てられたものを使えばよい。ワールド・エンジンも確保してあるから、どんな惑星だろうと居住可能な環境へと作りかえられる。
 クリプトン再興の目星は立った。それに必要なものは用意が整った。あとはコデックスを入手するのみ。

 カル=エルはどこにいる?

 クリプトンの繁栄は科学技術の発達とそれを活用した拡大政策によって齎された。
 資源を求めて母星を離れ、次々に植民の地を増やす。やがてクリプトンは銀河にその勢力をのばす。そして、クリプトンの政策に方向転換が生じた。
 繁栄を支えた拡大主義からの脱却。植民星は放置というより遺棄され、クリプトン人は惑星クリプトンにのみ生きることとなる。ところが、発達した社会を支えるには惑星クリプトンの資源に限度があって。
 ジリ貧のクリプトンを救おうと立ち上がったのが二人の男だ。それぞれ科学者として、軍人として生まれ、そのように育った。
 クリプトン存続のために彼らが到達した結論はそれぞれに異なる。ジョー=エルは産児制限の撤廃を目指し、ゾッド将軍はかつてのような領土の拡大に活路を見出した。
 ここでいう産児制限とは、出産数についてのみ意味するのではない。計画生育というべきだろうか。
 クリプトンの生殖は男女間において成されるものではなくなっているのが現状だ。妊娠出産はジェネシス・チェンバーがその役割を果たす。
 ジェネシス・チェンバーによって科学的制度的にクリプトンの人口は調節される。それだけではない。かれこれ数百世代、クリプトン人は男と女とを問わず、その形質や人格を人為的に設計されて誕生してきた。
 すべての遺伝情報を内包した、登記簿の如きコデックスがその鍵だ。社会がその存在を必要とする人物をコデックスが設計し、これをもとにジェネシス・チェンバーが新生児を産み出す。それがたとえば優秀な科学者であったり、勇猛な軍人であったりする。
 社会の構成員をその誕生の前に決定し、彼らに決められた役割を全うさせる。そこに職業選択の自由もなければモラトリアムも自己同一性の危機もない。生涯を通じて旅の供となるのは、おそろしく明確な目的意識。クリプトン人は誕生の瞬間には既に人生の道筋が決められているのだ。
 望むかたちで花が咲き実を付けるよう改良した品種。これを予想図と比較して何の誤差もなく芽吹かせ花を咲かせる。乱暴な比喩ではあるが、コデックスとはそのようなものだ。この花に種は要らない。次にどんな花を植えるかは園丁が決めること。勝手に受粉することは許されてない。その一方で、園丁は園丁で美観の維持を唯一絶対の命題としていて。
 制度だけではなく社会の状態そのものを維持するのが、いつの間にかクリプトンの至上命題となっていて、それを転換するだとか改革するだとかの不確定要素は顧みられない。だから、ジョー=エルとララ・ロー=ヴァンが成し遂げた自然妊娠と分娩は、どんな個体が生まれ育つのかわからないという点で、それ自体が革命的行為だった。

 ひとつの種族の遺伝子情報がまるまる詰まっているのがコデックスであり、これとジェネシス・チェンバーさえ揃えば、クリプトンは再興できる。
 惑星クリプトンの消滅後、なぜゾッドがカル=エルの行方を捜したかというと、実はゾッドの目的はジョー=エルの息子にあるのではなく、ジョーが息子に託したコデックスにあることがわかる。
 ジョー=エルにとっては差し迫る危機だった惑星クリプトンの消滅、ゾッド将軍にとっては実際に起こってしまった惑星クリプトンの消滅。それぞれに思い描くクリプトン像があったろうが、いずれにしてもコデックスがクリプトン再興の鍵であった。

amazon:[コミック] テラフォーマーズ 1 (ヤングジャンプコミックス)  かつてのクリプトンの繁栄を支えたのは、必要な人材を必要なだけ「量産」できたことと、植民先で環境との生存闘争をする必要がなかったことに起因する。産児制限はコデックスとジェネシス・チェンバーによって、環境適合についてはワールド・エンジンが問題を解決した。
 ひとつの惑星において、資源の有無と居住可能な環境とは必ずしも相容れるものではない。喉から手が出るほど渇望する資源が埋まっているのがわかっても、そこで発掘作業ができなければ意味がない。居住可能なそれへと惑星環境を整備することが急務となる。
 ここで為されるのが惑星改造である。ワールド・エンジンの機能とは、惑星の環境を変えることにある。
 植民星においてクリプトン人は、環境に自らが適合するのを待つのではなく、自分たちが快適な居住できるように、科学の力をもってして環境を変化させた。これは、火星を人類の居住が可能となるように改造する、テラフォーミングそのものの考え方。
 つまり、惑星クリプトンをそのま持ち込むのだ。これは文化とか生活習慣とかいうレベルではない。大気の組成から何から何まで、星を丸ごと惑星クリプトンへと変化させるものと考えてよい。先住生物は、激変した環境に耐えられなければ、たとえ種が絶滅したとしてもそれは不可抗力。クリプトンの繁栄と秤に掛ければ、それは些細な犠牲でしかない。仕方のないことだ。
 かくして銀河は惑星クリプトンの複製に満ちてゆき、そしてクリプトンの拡大政策は打ち切られる。

 地球にも拡大への意思が国是となった国がある。新天地を求めて渡ってきた人々が、開拓精神を発揮して西へ西へと歩を進める。その一歩が領土の拡大を意味し、その若い国は急激に力を増してゆく。土地に国家意識の紐付けをする過程で、それから外れる先住民との争いが生まれる。土地と結び付いた土着の信仰は、この国に相応しくない。この国は、われらが神から賜いし土地に生まれたのだから。
 蛮族の陶冶は近代国家が担うべき定めである。だから、全力でこれに取り掛からねばならぬ。
 かくして侵略行為は美化され、非人道的行為は正当化される。それは生存のための闘争だったわけで、そこに勝者と敗者が生まれるのも当然であって。そこに正義があるかどうかは問題ではない。刻一刻と広がりつつある国土に遍く法が機能するはずもなかった。
 まず勝つ。手に入れる。難しいことはその後だ。
 戦いを挑んで、そのうえで勝ち取ることですべてを手にしてきた国家は、拡大への飽くなき渇望を闘争によって癒やす。次々に闘争を仕掛けてはこれに勝利し、望みのものを手に入れる。また、剥き身の暴力志向でもって交渉を有利に進める。まさに覇権主義。
 他国に攻め入る際には、施設から生活習慣から自国のものをそのまま現地に移植し、その徹底ぶりに周りから顰蹙を買う。熱帯雨林地域であろうと砂漠であろうと、そこに自国の街並みを再現してしまう偏執狂的国家意識には、それを当たり前とするところに、かの国の静かな狂気を感じ取れる。
 ある程度、成熟した感のある国際社会において、武力闘争によって領土問題を解決するのは難しい。野心ある国家が国土を拡大するには、単純に武力を行使すればよいというわけではなく。実効支配をしたところで、国際司法裁判所に提訴されたら、理によって覆ることは必定。「無理が通れば道理引っ込む」は通用しない。
 目に見えるかたちでの拡大路線は、これを断念するほかはない。ただし、経済的支配地域の拡大という点は、むしろ勢いを増している。コデックスもジェネシス・チェンバーもないが、現実としてそれらの役割を社会制度が果たしている。
 経済だけでなく、様々な格差が厳然として存在し、それらは当該世代だけでなく次の世代の可能性までも狭める。これが繰り返されることで、その社会は極度に二分化されてしまう。持つ者と持たざる者とに。
 その善し悪しはともかく、社会構造の硬直化は免れないだろう。惑星クリプトンは消滅した。そこに寓意を認められるだろうか。

amazon:[単行本(ソフトカバー)] たのしい科学実験365日  細胞分裂的に同朋社会の増殖を果たしたクリプトン。その実情はアメーバの生態と違いはなく、母星とは異なる環境で得られる発見や変化とも無縁だ。そこに新天地へ進出することの意味はない。
 クリプトンはそれまでの拡大政策を捨てたにもかかわらず、その政策の後押しした技術までは捨てられず、それがためにその社会は縮小再生産を余儀なくされた。役割を固定した人材の持つ意義とは、新たなる冒険への意思を挫き、ただただ現状維持を推し進めるだけ。
 異なる環境や文化との出会いによって生じる化学反応的変化こそが、社会を次の段階に押し上げる契機となる。それを考えると、息子を地球へと送り込んだジョー=エルの行為は、クリプトン社会においては異色といえるほどに革新的だ。
 しかし、彼のそんな個性もコデックスによって織りなされたものである。
 ジョー=エルは、コデックスとジェネシス・チェンバーが作り上げた「科学者」だ。愛情がそれをさせたということも否定はしないけれど、何よりも科学的な考察がまずあって、その末にララ・ロー=ヴァンとの間の自然分娩を選び、これを実行したのだ。そこにはおそらく、科学的好奇心からの求めもあったろう。
 たとえ社会制度から外れようと、自ら立てた仮説の正しさを立証するには、実験による結果を示すのが一番。それを実行できるかどうかが優れた科学者か凡庸なそれかの違いなのだろう。
 ジョー=エルは優れた科学者として生まれ育った。社会にその天才を求められたのだ。
 だからこの物語は、ジョー=エルによる壮大な社会実験から始まったともいえようか。そして彼の実験の結果は出た。
 スーパーマンだ。

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