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また会う日まで

 今回、いつにもまして長い記事となった。いつものようにダラダラと思ったことを書き連ねてみたら、考えていたよりもずっとたくさんのことをあれやこれやと詰め込んでいて、正直、収拾つかなくなってしまった。
 我ながら驚いたね。びっくりだよ。
 だから、「字ばっかりで、しかもありえないくらいの長文って!」だとか「素人のレビューなんて読んでられない!」だとかいう向きがあっても、それを非難できません。その気持ちはわかります共感できますご尤も。
 でもって、「こんなのを読むより当の映画を観るわ」というアナタ、正解です。百聞は一見に如かず。実際に作品を観るのが一番!
 それでも、「なんだかんだで読んでみようかしら」という心優しき方がいらっしゃるのでしたら、どうぞお読みくださいませ。好きすぎて、いささか空回り気味になってしまった思いの丈を。
「アイアンマン3」を観た。

「アイアンマン3」公式サイト  シリーズを彩る顔ぶれは相変わらず。タイトルロールのアイアンマンことアンソニー・スタークを演じるのは、ロバート・ダウニーJr.だ。トニーの恋人でスターク・インダストリーズの現社長、ペッパーことヴァージニア・ポッツをグウィネス・パルトロウが、トニーの盟友ジェームズ・ローズ中佐は二作目から引き続きドン・チードルが、それぞれ演じる。本作では監督の仕事から降りたジョン・ファヴローは、スターク社の警備主任に就任したハッピーを演じてシリーズ皆勤賞を達成した。
 この面子に、ガイ・ピアーズ演じるアルドリッチ・キリアン、レベッカ・ホール演じるマヤ・ハンセンの科学者と、ベン・キングズレー扮する「マンダリン」が加わり、物語はシリーズの収束へと向かうのだが。
 物語は主人公の独白から始まる。
 その始まりはスイス。ミレニアムを祝うその夜。今から十年以上も前、トニー・スタークが遊びにうつつを抜かしていた頃のこと。
 一期一会を大切にせず、戯れのうちに幾つもの出会いを台無しにしていた男は、後に禍根となる化学反応を自らの手で成したまま、それを放置した。
 それから時間は流れ、一年前。地球を史上最大級にして未曾有の脅威が襲う。宇宙最強の呼び声も高い軍団、「チタウリ」による侵攻である。

amazon:[Blu-ray] アベンジャーズ 3Dスーパー・セット(4枚組/デジタルコピー & e-move付き)  ヨトゥンヘイムに生まれ、アスガルドに育ったロキは、オーディンにとって「敵対する二つの勢力を融和へと結ぶ希望の子」だったが、養父の願いも虚しく、策謀によって王位継承権の簒奪を目論む。ロキは「兄」ソー・オーディンソンとの闘争に敗れ、その結果、どことも知れぬ銀河へと流れる羽目に。
 このロキを救い、彼を尖兵にしてチタウリを地球に送り込んだ存在がある。その正体についてはともかくとして、この地球規模の危難に際して結成されたのがアベンジャーズである。
 ニューヨーク上空に口を開いたのは、次元の壁を穿つ穴。そこから襲来する異界の軍隊。摩天楼を舞台にしたアベンジャーズとチタウリの全面戦争は、数に勝るチタウリの優勢は否めず、アメリカ合衆国政府はすべてを灰燼に帰するためマンハッタン島への核弾頭ミサイル攻撃を敢行する。
 あれから一年。
 地球を救った英雄のひとりとして人々の称賛の的となったトニー・スターク。お調子者の彼のことだからさぞや大得意の絶頂にいるかと思いきや、案に相違して彼は不眠に悩まされていた。
 あの一件でアイアンマンは穴の向こう側、大宇宙のただなかに放り出されるかっこうとなった。このときは間一髪でこの世界に戻ってこられたけれど、究極の孤独と絶望を味わった体験はトラウマとなって、昼に夜にトニーを苦しめる。一年を経て、なおもその傷は癒えていない。
 度重なるフラッシュバックに襲われ、パニック障害に苦しむトニー・スタークの安眠は遠のく一方である。夜の無聊を慰めるのはアイアンマン・スーツ。戯れに新型スーツを次々に作る姿は、人工知能であるジャーヴィスに気遣われるほど。
 自分を心配する声も馬耳東風。トニーは、42番目のアイアンマン・スーツを完成させたばかり。この新型は調整段階にある。

 これまで、このブログで「アイアンマン」シリーズ前二作を取り上げてきた。シリーズ第一作にゴシックロマンの文脈を見出してこれを読み解いた。第二作では、過去を振り返ることで先人より受け継いだ理念を貫く意志に注目した。
 ゴシックロマンの定型のなかに生まれた英雄は、悪党を退治して自らの物語を成立させ、次に過去の因縁を解きほぐすことと死の試練を克服することをともに果たした。英雄譚に生きる男がこのたび直面するのは、どんな試練だろうか?

 このところ、アメリカ合衆国をはじめとする国際社会を震撼させているのが、テロ組織「テン・リングス」だ。その指導者は「マンダリン」を名乗り、アメリカ合衆国大統領への挑発を続ける。マンダリンは要求を繰り返すが、アメリカ合衆国政府の基本姿勢はテロリストと交渉するのを認めない。したがって、要求は決して飲まれない。
 その報いとばかりに為されるのが無差別爆弾テロだ。
 この事態に多くの人はアイアンマンの出馬を願うのだが、当のトニー・スタークは何の興味も示さない。また、治安維持を民間の一個人による英雄的行為に頼らざるを得ない、という状況に危機感を抱く政府は、アイアンマン・スーツの組織的な運用を推し進める。トニーからローズ中佐へ進呈された「ウォーマシン」を、エリス大統領の肝煎りで若干の改造を施し、「アイアン・パトリオット」へと改名。
 星条旗カラーに塗り直され、「愛国者」の名を戴く新生ウォーマシンに対する国民からの評判は、これを仕掛けたエリス大統領の意図に反して芳しくない。これはアイアン・パトリオットに対する不評ではなく、外見を繕うことに終始して本質を伴わない政府首脳への不信感の表れである。
 ここまでの展開から、マンダリンと彼が率いるテン・リングスが本作における敵かと思いきや(トニーとテン・リングスの間にはアイアンマン誕生の因縁があるので)、ひとりの人物の再登場でこの考えは早計だと知れる。
 アルドリッチ・キリアン。
 シンクタンク「A.I.M.」の創設者であり、科学者でもある彼は、かつてスイスでトニーに放置プレイを食らった経験がある。当時、キリアンは自らの志向するところを実現するためのシンクタンクに加わるよう天才トニー・スタークをスカウトしたのだが、心の向いたままの頭脳活動を専らとするトニーが集団におさまりきれるはずもなく、トニー自身もそんな自分を理解していて。だから、キリアンの勧誘は最初から無理筋だったのだ。トニーもきちんと断ればよかったのだが、女性の目があったのと直後に待っている甘い時間を雑事で逃したくなかったのとで、あのような対応に。
 過去の因縁はともかく、キリアンの変わりようには目を見開く。杖なくしては歩行も不自由だったのが、今やまるで健常者のよう。否、何らかの治療が奏効して脚は完治したようである。
 変わったのは所作や外見だけではない。これらに表れる内面の変化も著しい。以前には感じられなかった自信が、今は全身からほとばしっているかのよう。
 その変化もそうだが、アルドリッチ・キリアンの存在自体に戸惑う。物語の冒頭に顔を出した冴えない男が、十年以上の時間を経て、変身を遂げて現れた。そこにはどんな意味がある? そもそもアルドリッチ・キリアンはどのような役割を持って本作に登場したのだろう?

 キリアンがスターク・インダストリーズのヴァージニア・ポッツ社長に面会したのは、「エクストリミス」に関する共同研究の打診である。キリアンの説明によると「エクストリミス」とはウィルスであり、このウィルスは脳の未使用領域に働きかけてこれを活性化させる。したがってエクストリミスを用いることで、人はその能力を爆発的に向上させられる。
 キリアンの提案は人類の進化を示唆するように思われたが、超人化計画といえる内容からこの研究は軍事転用の危険性も高い。かつては軍事産業のトップを走っていたスターク社だが今や大きく方針転換を果たしている。軍事との接近は現在の社是とは相容れないことから、ポッツは共同研究の訴えを断る。
 ここで活躍するのがスターク社の警備主任となっていた「ハッピー」ことハロルド・ホーガンだ。来客者を十年以上も前に一度会ったきりのキリアンと特定し、その言動に焦臭いものを感じたハッピーは独自に調査を始める。このことがやがてA.I.M.とテン・リングスとの繋がりを浮かび上がらせることになるのだが、このとき、ハッピーは爆発に巻き込まれて重傷を負う。
 意識不明の友人を病院に見舞い、トニーの心にようやく火が点る。彼を突き動かすのは怒りだ。それはテン・リングスにのみ向けられたものではない。一年前から続く状況、それはトニー・スターク自身のうちにあるものであり、彼を取り巻く社会情勢でもある。彼のストレスを増大させているもののひとつにマスコミ攻勢があるが、対テン・リングス戦にアイアンマンを引っ張り出したい自称「ジャーナリスト」の挑発が、トニー・スタークの怒りに方向性を与えた。
 トニー・スタークはマスコミを通じてマンダリン率いるテン・リングスとの闘争を宣言し、「来るなら来い!」と自宅住所を明かす。
 この後、ポッツの待つ私邸に帰宅したトニーは、ハッピーが巻き込まれた爆発事件の考証を始める。データを並べて推理を進めるその姿は、彼を演じるロバート・ダウニーJr.がガイ・リッチー監督作品で好演する「世界一の名探偵」、シャーロック・ホームズを彷彿とさせる。どちらのシリーズも好きな私としては、幸せすぎてニヤニヤと笑みを浮かべてしまう。
 ハッピーから託された情報をもとに、トニーは謎を解明するための糸口を見つけた。その彼に矢継ぎ早の訪問者が。まず、かつて一夜をともにしたマヤ・ハンセンが、次に襲撃者の放ったミサイル弾が、スターク邸を見舞う。
 アイアンマン・スーツ「Mk-42」の機能を活かしてポッツとハンセンを安全圏まで逃がしたトニーだが、彼自身は窮地に陥って。

amazon:[大型本] アート・オブ・アイアンマン3 (ShoPro Books)  トニー・スタークはアイアンマン・スーツを纏って無敵。この大前提を守りながら彼を窮地に立たせなければ、物語は当たり前の展開を辿るだけでちっとも面白くない。だから、トニー・スターク自慢の工房を破壊し、万全のサポートを受けられないように彼を追い詰める。
 襲撃を受ける直前に設定しておいた飛行計画が自動的に実施され、Mk-42が不時着したのは雪のテネシー。仲間から隔てられ、しかも死亡報道すら流されてしまう。この状況それ自体は隠密行動にうってつけなのだが、居所を明かす危険を避けるため、これまで培ってきたコネクションをしばらく封じなければならない。
 経済力すら封印して、ここまでくると徒手空拳に等しい。せめてものお守りにとトニーの手元に残ったのは、調整段階のスーツがひとつ。しかも、エネルギー残量はゼロ。ポンコツとまではいわないまでも、墜落その他のダメージが残っていてメンテナンスの必要がある代物。
 最先端技術を搭載したコンピュータ機器を自在に操り、自室にいながらにして真相究明の糸口を見つけたトニーは、テネシーの田舎町では状況が一変する。知人ひとりいないなかで、自らの足を使って調査することとなる。現場に足を運び、関係者から供述をとる。地道な作業だ。
 トニーは、専門外の分野さえ一部を聞いただけで全きを識る天才だ。何事によらず一足飛びに正解や真理に到達してしまう彼だからこそ、マヤ・ハンセンと数分間会話を交わしただけで彼女の研究テーマを深く理解して示唆を与えられるまでに至ったし、安楽椅子探偵の真似事から国内の爆発事件とテン・リングスによる爆破テロとの共通点に気付くことができた。
 そのトニー・スタークがデータ収集からこなさなければならない。それとてもただ闇雲に歩き回ればよいわけもなく、その行動にも頭脳活動は反映される。とはいえ、彼にとって実地の現場検証や聞き込み調査は不慣れなことばかり。いつもなら、その手のことが得意な者に丸投げするのだろうが(そもそも事件の調査はトニーの専門分野ではない)、このたびは彼自身が成し遂げねばならない。
 しかもこのたびの相棒は、心強いとか頼りがいのあるとかいう形容詞とは縁の薄そうなチビッコ。学校では苛められているハーレー少年。
 アイアンマン・スーツもなく、気心しれた仲間にも頼れず、素性を明かして協力を大々的に募ることもできないトニー・スターク。彼は果たして目的を達成できるのだろうか?

 トニー・スタークの目的?
 それは何だ?
 マンダリンの正体を暴くこと? 彼の逮捕?
 テン・リングスの壊滅に追い込む?
 トニーが直面した試練とは、宗教的・政治的対立のなかで見出されるものなのだろうか?
 テン・リングスは宗教的にも政治的にもアメリカ合衆国との対立項をそなえているように見えるが、アメリカの平和を守るためにトニーは立ち上がったのか?
 否、違う。一国の平和維持のために戦うというところに彼の立脚点はない。それはアイアン・パトリオットことローズ中佐に任せておけばよい(ローズとて軍の命令の範囲内でしか動けやしないが)。
 ならば、友の復讐がテーマなのか?
 これも違う。ハッピーが生死の境をさまよっていることに関して、犯人に対するそういった気持ちがないわけではないが、だからといって彼が復讐心に飲み込まれているわけではない。
 本作でトニー・スタークは、自分のなかに生じた問いに向き合い、それに対する答えを出そうと藻掻く。
 先に、トニー・スタークはその天才がゆえにどんな難問にもすぐさま正解に到達する、というようなことを書いた。
 イヤイヤイヤ、まるで正反対のことを、まさに今、述べたばかり。「答えを出そうと藻掻く」って!
 その通り。理知では導き出せない、頭の中だけでは解決できない、そんな問題にトニーは真正面からぶつかったのだ。
 その問いとは、「トニー・スタークは、アイアンマン・スーツがなければ凡人以下に成り下がるのか?」というものだ。「そうであるなら、アイアンマン・スーツのないこのトニー・スタークとは、いったい何者なのだ?」
 天才科学者トニー・スタークは、アイアンマン・スーツを装着して無敵。しかし、チタウリ襲来でトニーの内面に拭いがたい恐怖が巣食った。これが彼にとって大きな転機となる。
 その結果、トニーは逃げ込むようにアイアンマン・スーツ開発に没頭し、それはMk-42というかたちで結実する。

amazon:【パワー・ポーズ】 『アイアンマン3』 1/6スケール限定可動フィギュア アイアンマン・マーク42  アイアンマン・スーツMk-42は、これまでのどのスーツよりも着脱が自在。一部分だけでも独立して操作が可能だ。
 また、トニー以外の装着も受け入れる。そのうえ、誰も装着せずとも動かせるのだ。勿論、トニーによる遠隔操作は必要だ。Mk-42は人工知能を搭載したアンドロイドではない。
 このことが意味するのは、ひとつ。アイアンマン・スーツを身に纏うことについてトニー・スタークが忌避感を抱いているという事実だ。原因は、一年前の事件にある。無敵であるはずのアイアンマンが宇宙空間において無力を痛感した。孤独と絶望を味わった。
 日常生活でさえ不意に襲われるフラッシュバックに苦しんでいるというのに、アイアンマン・スーツを装着することでトラウマを得たのと同じ状況下に置かれてしまう。これが精神衛生上、好ましいわけがない。
 だから、自分のパニック障害への対応策として、いつでもどこでも着脱できるアイアンマン・スーツを、それどころか自分が装着せずとも済むスーツを、トニーは開発した。
 民衆から英雄視される現実と英雄的行為に伴う心理的抑圧とを、科学的に解決しようとするところは、さすがはトニー・スターク。テン・リングスによって拉致監禁された事件で着脱式飛行機具を開発してこれを解決したこと(「アイアンマン」より)。アーク・リアクターのエネルギー源に最適な物質を求めて新たな元素を創出したこと(「アイアンマン2」より)。これらの経験と同じような姿勢でこの問題に対処するのは、トニー・スタークの経験則からくる「解決への道」なのだろう。
 しかし、トラウマは癒されることなく、日々、パニック障害に苦しめられる。トニーの問題解決のためのアプローチは間違っている。問題はトニーの外部にあるのではない。彼自身のうちに存在する。
 それならば、心理療法のプロフェッショナルの力を恃むかといえば、トニー・スタークに限ってそれはない。天才であるがゆえにカウンセリングの手法も、それが何を目的としているかも理解できるため、積極的に受診しようとは思わない。
 また、トニー・スタークが取り組む問題は、他人によって答えを提示されて解決と捉えられるものではない。彼が自分の力で解決しなければならないのだ。

 この記事の結論を述べる前に、悲しい事実を告げねばなりません。
 今回、「アイアンマン3」についていろいろ書いてきましたが、ここまでかけて書きたいことのようやく半分。トニー・スタークを中心に書いただけで、真の敵役であるアルドリッチ・キリアンについてはチラッと触れるにとどまった。
 だって、こんなに長くなるとは思わなかったんだもの!
 というわけで、「アイアンマン3」は機会を改めてまた取り上げます。それがいつになるかは未定です。本作のキモである「エクストリミス」についての認識に不足があり、誤った認識のまま記事を書くわけにはゆかないので、改めて作品をじっくりと観なければなりません。
 とはいえ、今現在「アイアンマン3」をスクリーンにかけている映画館は都内になく、となるとDVDなりBlu-rayなりのソフトが発売されるまで待つしかない。ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンによるとソフトの発売は9月4日になるとのことで、この続きはあと二ヶ月お待ちいただきたい。発売は年末になるかと思ったけど、あと二ヶ月だよ。ずいぶんと早いなあ。
 こういうわけですので、何卒ご容赦くださいませ。

amazon:[Blu-ray] 【Amazon.co.jp限定】アイアンマン3 3Dスーパー・セット(デジタルコピー付き:スチールブック仕様) (完全数量限定)  本作で語られるのは、トニー・スタークとは何者であるか、ということだ。
 しかし、この問いには既に答えが出ている。しかもトニー・スターク自身が答えている。ただし、このときはその言葉に実感が伴ってなかった。何の考えもなしに口をついて出たというわけでもないが、トニーとしてはただ事実を告げただけで、その言葉の真の意味合いまでは彼の頭になかったはずだ。
 今、トラウマとそれが引き起こすパニック障害に苦しみ、しかしトニー・スタークは希望を体現することを止めない。無敵のスーツを手放さず、戦うことを止めない。
 それは、かつて自らが発した言葉の本当の意味と出会うため、前に進むしかないことをこの男の魂が知っているからだろう。一度や二度の敗北や撤退はトニー・スタークのプライドを傷付けない。ただし、勝利を諦めてしまうこと、納得できない事柄について目を背けてしまうこと、負け犬を受け入れることには我慢がならない。この点でトニー・スタークは紛れもなくお坊ちゃんなのだけど、育ちの良さからくる素直な思考は彼の美徳だ。
 トニー・スタークは敗北を知らない天才なのではない。負け犬となることを潔しとせず、逆境に抗い続ける勇者なのだ。その過程で勝利と変革を社会に齎し、それらが時代の要請に応えるものだから、だから彼は英雄として称えられるのだ。
 トニー・スタークは悩み、迷い、それでも道を踏み外さずに着実に前へと進んで、ついに唯一にして絶対の答えに辿り着く。地位や肩書き、名声から何から放り出し、それこそアイアンマン・スーツすら脱ぎさって裸になった男が、己を顧て至った答え。
 改めて問う。「トニー・スタークとは何者か?」

 スターク社のアーク・リアクター研究所を壊滅させた、鋼鉄人間たちの壮絶なる戦いの夜が明けた。マスコミ各社は取材スタッフを、スターク社の最高経営責任者にして奇行で知られる天才科学者のもとへ派遣する。まるでわけのわからない状況が起こって、あのトニー・スタークが関与してないはずがない。その口から真相を語らしめよ!
 天才科学者が開発した一人用着脱式飛行機具は、機動性ひとつをとっても画期的な発明ではあるが、兵器としても高評価できる代物。その開発者と所有者を公にするのは、その影響を鑑みて時期尚早だ。このように考えたS.H.I.L.D.は、偽のアリバイを用意して、世間の目をトニーから逸らそうとする。
 様々な思惑が交差するなか、記者会見の場に立ったトニー・スタークは、一瞬の逡巡の後にこういった。

「I am IRON MAN」

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