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狂宴の空に別れはありて

「ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨」公式サイト 「ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨」を観た。
 ミッドランドの王都、ウインダムの城には、地底深くへと続く螺旋状の階段がある。この階段は、伝説の覇王が建設した都市へと到るのだそうだが、この廃都はかつて天使たちに滅ぼされたという。太陽の光が決して射し込まない滅びの地に、栄光を一身に受けていた男が幽閉されている。
 この地下牢で来る日も来る日も拷問を受け続けているのは、過日、ミッドランド王国にて白鷹将軍に任命されるはずであったグリフィスその人である。
 あの冬の日、グリフィスはすべてを失った。ひとりの男が麾下より去った。ただそれだけのことがグリフィスを狂わせ、彼に感情の赴くままに行動を起こさせた。シャルロット王女に夜這いをかけたところを目撃され、反逆の罪で捕らえられてしまう。同時に、「鷹の団」もまた謀反人の集団と判断され、白鷹騎士団としてミッドランド王国正規軍に組み入れられる栄光から一転して、昼夜を問わず追われる立場へ。救国の英雄は国家的大罪人へと転落した。
 軍略の天才、グリフィスを欠く「鷹の団」をまとめあげるのは、千人長のキャスカだ。かつて、グリフィスの剣たらんと欲した彼女が、グリフィスの留守を預かる。キャスカの統率力も大したものだが、総大将のいない傭兵集団が空中分解を遂げてないのは、彼らに希望があるからだ。その希望とは、グリフィス。
 キャスカをはじめとする「鷹の団」団員の総意はシンプルだ。グリフィスを奪還する。すべてはそこから始まる。グリフィスさえ帰ってきたなら、すべては元通りになる。「鷹の団」の誰もがそう信じている。グリフィスがこの窮地を逆転する秘策を齎してくれるものと信じ込んでいる。だから辛いのは今だけ。臥薪嘗胆はグリフィスを奪還するまでのこと。
 グリフィス奪還計画が進むなか、夜討ちを仕掛けられる「鷹の団」。そのとき、一年前に団を離脱した切り込み隊長が帰ってきた!

 ゴッドハンド。これは、「使徒」どもが崇め奉る守護天使をさす。
 ボイド
 スラン
 ユービック
 コンラッド
 そして五人目の守護天使「闇の鷹」フェムトが、世界を蝕む宴のさなか、血の儀式をもってして生誕する。
 本作にて生まれるは黒い天使のみに非ず。宿命の「刻印」も人と妖魔との絶望的なまでの違いにさえも抗う魂、「黒い剣士」が瞋恚のなか生まれる。隻眼にして隻腕のこの男は、狂おしいまでの復讐心を胸にたぎらせている。その背には人ならぬものを両断するに足る大剣を背負う。
 目指す敵は遥かに遠くにありて、しかし必ず決着をつける。自分で始めた闘いを途中で投げ出すことはない。

amazon:[Blu-ray] ベルセルク 黄金時代篇III 降臨<本編DISC2枚+CD1枚>  本作は、白泉社はヤングアニマル誌上で二十年もの長きにわたって連載の続く、三浦健太郎のダークファンタジー大作、「ベルセルク」の映画化作品、その第三部である。「使徒」と呼ばれる妖魔との戦いを続ける「黒い剣士」ことガッツ。この狂戦士を主人公に据えた物語において、彼の輝ける青春時代をさしてそのエピソードを「黄金時代篇」とする。
 天才軍人グリフィスとの邂逅、「鷹の団」への加入、はじめての仲間。「鷹の団」のミッドランド王国軍への加勢とそこでの栄達が、「黄金時代篇」ⅠとⅡを通して描かれた。
 ミッドランド王国に敵対するチューダー帝国がミッドランドの喉元に突きつけた刃、ドルドレイ要塞とそこに駐留する紫犀聖騎士団を攻略撃破したことで、グリフィスと彼の「鷹の団」はミッドランドの長年における憂いを取り払う。この功績によって彼らは救国の英雄となった。しかし、禍福は糾える縄の如し。
 グリフィスと「鷹の団」の絶頂期は一瞬にして過ぎ去る。そしてガッツの黄金時代篇もまた終局を迎える。ついに"蝕"が訪れるのだ。
 さあ、「黄金時代篇」はこれにて終わりを告げる。原作漫画の熱烈なファンにとっては一連の映画化作品を不本意に捉えるところもあるだろうけれど、無事に降魔の儀を執り終えたことは評価すべきだろう。ただし、ここまではかつて深夜のテレビ番組でアニメーション化されている。「ベルセルク」ファンが待ち望むのは、ここから先のガッツの旅路をアニメ化すること。その前兆はある。ガッツが後に出会い旅をともにする仲間たちは、そのうちの数人が「黄金時代篇」三部作において顔見せを済ませている。私としてはただただ続編を期待するのみだが、やはりそれは興行成績次第だろうか。DVDやBlu-rayのソフトの販売実績も加味される?
 だから、「ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨」を映画館に観に行きましょう。そのとき、自分ひとりで観に行くのではなくて、家族恋人友人会社の同僚と連れ立って映画館へ。封切は2月1日。毎月1日は映画サービスデイで入場料が男女を問わず千円。いつもより安い料金設定となっているので、この機を逃さず"蝕"を体感しましょう! そのうえでBlu-rayソフトを買うのです。すべては続編実現のために!

amazon:[Blu-ray] ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵  グリフィスの手に真紅のベヘリットが戻る。支度は調った。約束の時は来たれり。二百十六年に一度の宴がここに開幕する。
 数多の戦場を駆け回って、敵からは恐怖と憎悪の念を向けられ、味方からは歓呼として迎えられた傭兵集団、「鷹の団」はここに消滅する。再起をかけて一年間を戦い続けた男たちは、その甲斐もなく死を迎える。否、ひとりの男の夢に喰われてしまう。生き残ったのは、その男の夢に縋らないことを決めた一組の男女のみ。
 生き残ったにせよ、ガッツとキャスカは二人とも多くのものを喪失した。仲間を喪い、心身ともに穢されて、それまで胸に抱いていた思慕も尊敬の念も微塵に打ち砕かれた。
 キャスカは、自分を守るためにすべてを手放した。記憶と自我を失うことで、そこまでして辛うじて心の安定を保っている。正気を保てないキャスカは、深い井戸の底に身を投げた。もはや浮かび上がることは叶わないかもしれない。
 それでは、キャスカと同じように心と体に傷を負ったガッツはどうか?
 ガッツは、ようやく自覚することのできた友情をその対象から弊履の如く棄てられた。喪失の度合いは計り知れないほど大きくはあるけれど、ガッツにはそもそもの心の強さがあり、幸せかどうかはともかく彼は狂うこともできずにいる。混乱の後にガッツが取り戻したのは、戦士としての心構え。右目と左腕を欠いたところで戦場で為すべき事柄はシンプルだ。敵を倒し、生き残る。
 そうだ。生き残らなければならない。自分には為さねばならないことがある。
 自分で始めた闘いは、自分で決着をつけなければならない。それが誰であろうとも。

amazon:[Blu-ray] ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略  王城を望む路地裏。少年は権威と権力の象徴を眺めて、そこに到達することを夢みた。その夢はいつしか叶えるべき目標となり、一歩また一歩と夢の実現に向けて着実に前進していた。
 グリフィスが少年の日に得たのは、頂点への夢と真紅のベヘリット。これを運命だの因果律の定めによる導きだのと称する向きもあるようだが、そのわりには当の運命論者が最後にグリフィスの背中をひと押ししている。主張とは異なり、大いに恣意的ではないか。
 グリフィスは王城を目掛けて路地裏を駆けてきたが、見上げるその城は天空に鎮座しているようなもの。そこに到るには天と地とを繋ぐ橋が必要となる。天空に向けて架ける橋とはつまり、延々と積み上げなければならない土塁。これは栄光をつかむ途上に喪われる生命を意味している。喪われる生命、つまりは死体にほかならない。グリフィスの行く道には敵味方を問わず死体の山が築かれる。これぞ覇道を突き進む者の宿命。グリフィスが足下に踏みしめる死体は、彼を前へと進ませた踏み台なのだ。これらの死体に心を引きずられては、前へと進めない。目指す場所はまだ遥かに遠いのだ。おいそれと歩みは止められない。
 ゴッドハンドはグリフィスの決断に際して彼を誘導した。グリフィスの抱える少年の心を惑わせた。しかし!
 しかし、最後に決断を下したのはグリフィス自身だ。彼にそれを促したのはひとつの光景。それは、天使がしたり顔で披露する三文芝居よりずっとグリフィスの心に訴えかける光景であった。
 自分を助けだそうと駆け寄る"親友"。その姿を目にして、その生き様に触れて、永遠の少年は心を決めた。この友人には負けたくない。彼には変節する自分の姿を見せたくない、と。夢を得た自分は、その実現に邁進するからこそグリフィスという個性を保てるのだ。今更、夢を投げ出せやしない。
 目指す場所があるも、そこへ到る道程は険しい。それでもはじめの一歩を踏み出したのなら、行くも退くも決めるのは自分自身。「自分で始めた闘いは、自分で決着をつけなければならない」のだ。だから、グリフィスは云った。
「捧げる」
 そして儀式が幕を開ける。

amazon:ベルセルク 髑髏の騎士 生誕祭の章 1/10スケール  とうとうガッツとキャスカが結ばれた。
 世界を孤独に生きてきた男が一個の天才と出会い、その麾下におさまる。異質の新参者が古参から疎まれることは珍しくない。ガッツを疎んじる古参メンバーの代表格がキャスカだった。グリフィスの懐刀たらんと欲する彼女は、自分が夢みる立場に一足飛びに辿り着いた者の出現に焦り、苛立つ。このことから彼女はガッツに対してなにかと敵意を抱いてしまう。ガッツも敵意を受け流したり受け止めたりできる性格ではないので、二人の間ではしばしば諍いが持ちあがる。そんな間柄だったガッツとキャスカがついに結ばれた。
 その生い立ちからか、心に完全武装の鎧を纏う二人が、互いに己をさらけだせる間柄となった。己の人生を変える契機そのものであるグリフィスとは結ぶことのない関係性を、ガッツとキャスカは互いのうちに構築することになる。しかしそのことに当の二人は気付かない。ガッツとキャスカが互いについて思いを馳せるとき、そこにはグリフィスが必ず意識の上にのぼる。グリフィスの立場とカリスマを考えるとこれは無理からぬことであり、だからこそガッツは「鷹の団」を離脱することでグリフィスの引力から一旦自由になろうと考えたのだ。惹かれて当然のグリフィスを呪縛とする己の心の在り方を見直すことは、当のグリフィスと対等となることを求めるガッツには必要だった。
 ガッツは、自らグリフィスと距離を置くことを選んだ。対してキャスカは、状況が彼女にグリフィスとの距離を取らせた。奇しくもガッツとキャスカは同じ時間だけグリフィスと離ればなれになったわけだ。ただし、ガッツはガッツと出会うまでのグリフィスを知らず、キャスカはガッツと出会う前からそれ以降のグリフィスを見てきた。その違いが、キャスカにグリフィスの真実に辿り着かせたといえよう。
 己の目的のために仲間と袂を分かち、グリフィスのもとから去ったガッツ。ガッツはグリフィスと対等の関係になるため、グリフィスの配下であることを潔しとしなかった。だから「鷹の団」を離れたのだ。ガッツのそんな思いとは裏腹に、真実はまるで違うことにキャスカはわかってしまった。出会いのそのときからガッツはグリフィスにとって特別な存在だったのだ、ということを。
 グリフィスの懐刀はガッツがその役割を果たし、さりとて愛人になれるわけでもない。自分は「鷹の団」千人長であり、グリフィス不在の今は彼の代理として団長を務める。自分の今の状況はグリフィスが求めるものではない。どんなにグリフィスのためを思っても、自分はグリフィスの求める存在には成り得ない。一年間を気丈に生きてきたキャスカであったが、思いがけないガッツの帰還に心が揺れる。
 振り向いてはくれない相手に尽くすには疲れ果て、だからガッツに役割を代わってもらって静かに休みたい。自ら決着をつけようと、崖から身を投じるキャスカ。彼女を死の淵から引き上げたのはガッツ。
 グリフィスの麾下にある者は、自分たちの首領が連れて行ってくれるに違いない高みにこそ心が奪われているが、キャスカはグリフィスその人に関して自らの夢を置いている。キャスカにとって悲劇なのは、彼女自身がその夢の叶わないことに気付いてしまったこと。
 そんなとき、しっかりと自分を見てくれる男の存在をキャスカは実感する。振り返ると、この男はいつも自分を助けてくれた。そのために自らを危険にさらした。そして、グリフィスの剣になりたいとの夢を笑わずに聞いてくれた。そもそも、キャスカが秘めたる思いをガッツに告白したことが重要だ。この時点でガッツはキャスカにとっても特別な存在なのだ。
 ガッツは無愛想でぶっきらぼうだが、人の夢や想いを無碍に否定することはない。キャスカはガッツに命だけでなく魂をも救われた。それも一度のことではない。そしてガッツという男は、それを恩に着せるような真似をしない。だから余計にキャスカは苦しまなければならない。自分が競うべき対象から助けられて、そのうえ相手はその出来事をもってして優位に立とうとしない。そんなことを考えもしない。
 ガッツの思考はシンプルで、それだけに力強い。そして何よりも真っ直ぐである。ときに冷酷に感じられるが、それは彼がこれまでに他者を顧みることのなかったことに理由がある。そしてそれは、戦場のみを自分の居場所として生きてきた、ガッツのこれまでの生涯を反映しているのであって、彼に他意はない。
 ガッツの人となりを知れば、彼が殺人鬼でも人非人でもないこと、彼に人として魅力があることに気付く。グリフィスは天才的直観でガッツに惹かれた。凡才であるキャスカは時間と必要とした。その時間の流れが恋愛へと至る関係性の素地を育ませたのだろう。
 紆余曲折のあったガッツとキャスカの間柄だけに、互いへの愛情を確認しあうと歯車が噛み合ったかの如くにごく自然なかたちで関係性の上書きが成される。まるで運命の恋人であるかのよう。幸せな結末を願いたくもなるけれど、この願いが成就することのないことを「ベルセルク」ファンは知っている。
 ガッツとキャスカの愛の交歓は激しくも優しさのうちに為され、その姿には美しさすら感じられた。これは後に用意されているグリフィスによるキャスカへの強姦との対比が意図されている。だから、ガッツとキャスカの愛ある性交はどこまでも美しく、それだけにグリフィスとキャスカのそれはいかにも酷くておぞましくあらねばならない。そしてそれは、それぞれに成功している。

 流れが滞ればそこに澱みが生じる。人の世も、人の心もまた同じ。
 夢に向かって一目散に駆ける少年は、背後にひとりの男の存在を感じて足を止める。振り返る少年の目には当然のように王城が映らない。
 夢に生きてきたグリフィスにその夢を忘れさせた男。その男こそグリフィスにとって世界に唯一の特別な存在。手足の腱を切られ、舌を切り落とされ、二目と見られない面相に変えられて、身動きとれぬまま言葉を発せぬまま、グリフィスは闇の下に眩い光を眺める。光の射し込まない地下牢において、グリフィスは己のうちに自らのもとを去った男の姿を描き出して、それをただただ眺める。その姿に何を思う?
 光あるところに影あり。地底の闇が天才の心に浸潤する。

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