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てのひらを太陰に

 シャーロック・ホームズもゴジラもファンの要望に応えて死の淵から帰ってきた。怪談だって帰還を果たすさ。

 本日、2012年11月1日は記念すべき日となる。午前十時から「てのひら怪談」が、午後一時から「みちのく怪談コンテスト」が、それぞれ募集を開始するのだ。
前者は記念すべき第1回、後者は第3回の開催となる。両者ともに「ビーケーワン怪談大賞」から派生した、血を分けた兄弟である。
 ここで「ビーケーワン怪談大賞」について、自分なりに纏めてみる。
 今はその名をとどめないインターネット書店「bk1」は、書店主催の公募文学賞を設立した。この文芸賞は、ほかでもない怪談に焦点を当てて、しかも800文字以内という字数制限を設けたことによって、世に数多ある文学賞とは一線を画すものであった。
 恐怖心を刺激するツボは人それぞれであり、これを反映して投稿作品には多様性が認められる。また、800文字の字数制限も参加への敷居を低くしている。これらの点が参加者の広がりを呼び込み、そして「ビーケーワン怪談大賞」の骨子となった。
 このユニークな文芸賞は、回を重ねるごとに参加者を増やしてゆき、今日の怪談文芸の静かなる隆盛に寄与したといえよう。

amazon:[文庫] てのひら怪談 ビーケーワン怪談大賞傑作選 (ポプラ文庫) 「ビーケーワン怪談大賞」創設当時、「新耳袋」をはじめとする怪談実話のジャンルに勢いがあり、この機に平成ニッポンの世に怪談文芸復興運動を積極的に目論んだことの結果なのかは寡聞にして知らないのだけれど、この奇妙な文芸賞設立を仕掛けた人物には時勢を見抜く卓見の主がいたのだろう。仕掛け人のひとりは、このブログで幾度か取り上げさせていただいている東雅夫氏である。
 選者にプロの怪談作家を招聘し、全投稿作品をブログ上で公開する。様々な手を打つことで文芸賞の性格を明確にし、そしてユニークなものにした。これらの業績を東雅夫氏がひとりで手掛けたわけではないにせよ、この辣腕出版人は有能な広報マンであり、この企画を効果的に広めた点については見事といえよう。
 ジャンルは怪談と決まっており、字数も四百字詰め原稿用紙二枚分と決まっていることで、挑戦者にとってみれば完成した作品をイメージしやすい。選考にあたってプロの小説家や編集者が必ず読んでくれて、優れた作品には個々に選評を残してくださる。しかも、選考の模様は文章化されてインターネット上に公開される。また、投稿された作品もすべて公開される。誰でも読める、誰からも読んでもらえる。インターネット環境にある者なら誰であろうと関係を結べるということで、これが選考の透明性を生んだ。
 運営サイドがどこまで意図していたものかわからないけれど、この効果によって「ビーケーワン怪談大賞」は他に類を見ないほど選者自身が試される場となり、投稿者と選考委員との世にも稀なる真剣勝負が繰り広げられることとなった。しかも、回を重ねるごとに投稿数は増加していったのだから、選ぶ側としては堪らないだろう。ジャンルが盛り上がってゆくのを肌で感じる喜びがあるにせよ、玉石混淆のなかでの重労働といえる。
 コネは関係ない。出来レースは選者自身の首を絞める。真剣だからこそ面白い。誰しもが参加者になれる。踊る阿呆に見る阿呆、同じ阿呆なら踊らにゃ損だ。
「800字以内で怖い話を書けばいいんだろ?」楽勝じゃん!
 楽勝なんてとんでもない! 考え違いも甚だしい! 何を云いだすんだろね、この子は!
 短く纏めるということのなんと難しいことか。ダラダラと長いばかりで内容の薄いブログ記事を書き散らす私のような者には、800文字以内で何かを書き上げるなんて叶いもしないことだ。

amazon:[文庫] てのひら怪談 壬辰:ビーケーワン怪談大賞傑作選 (ポプラ文庫 日本文学)  怪談文芸のエポックメイキングとなった「ビーケーワン怪談大賞」だが、運営母体であるbk1がhontoと統合されたことで、記念すべき第10回の開催を前に消滅した。今年の出来事である。
 毎夏の楽しみ、腕試しの場を失った書き手たちは、しかし悲嘆に暮れる暇がなかった。日本各地で「ご当地てのひら怪談」というべき文学賞が次々に企画され、800文字の怪談はますます発展を遂げているのだ。「ビーケーワン怪談大賞」の子どもたちは、商業と同人とを問わず、日本列島のあちらこちらで語られ、生み出されている。
 この大きなうねりの端緒となったのが、このたび第3回を迎える「みちのく怪談コンテスト」だ。柳田國男の『遠野物語』刊行百周年記念ということで生まれた企画については、幾度かこのブログで取り上げている。ここでまた語るのは重複ということで、この記事の最後にそれらの記事へのリンクを列記する。興味を持たれたなら読んでいただきたい。
 ご当地てのひら怪談は土地への縛りがあり、その縛りが書き手にも読み手にもイメージを喚起させるのは確かだけれど、それを窮屈に感じる向きもあるだろう。また、ご当地てのひら怪談関連企画が催されてない地域もあるから、そこを舞台とした怪談話でとびきり怖いものを用意したところで応募先がないということも大いに考えられる。土地の色に染まってない怪談をあたためていた向きは、無印の「てのひら怪談」で挑戦できる場を求めていた。
 この秋、「てのひら怪談」が帰ってきた!

 生まれ変わった「てのひら怪談」は、運営を「てのひら怪談実行委員会」が行い、ダ・ヴィンチの軒を借りているそうだ。年二回の開催となった公募文学賞は、選考委員も実行委員会もその顔ぶれを「ビーケーワン怪談大賞」から変えてないようだ。ただし年二回のうち、夏は東雅夫氏と加門七海女史が選考委員を務め、冬は東氏と福澤徹三氏が選考委員を務めるようだ。ちなみに、これは公式サイトに記載の2013年の予定である。東雅夫氏を除いた加門女史と福澤氏が年一回のお務めに限定されているのは、800文字以内とはいえ数百もの数の怪談を読まねばならないことを思えば得心だ。職業作家に本業以外のことであまり負担をかけられない。しかし、これで夏と冬とで応募数に差異が生じたら、ちょっとした騒動になるかも。これは冗談。
 詳細な募集条件等は当該サイトに記載がある。これを一読すると「ビーケーワン怪談大賞」で練り上げたノウハウが活かされているのが窺える。ただ一点、投稿作品は公式サイトで掲載されるのかどうか明記がなかったのが気になる。公式サイトにおける全投稿作品掲載は、「てのひら怪談」公募を盛り上げる大切な要素なのだ。誰でも読める、誰からも読んでもらえる。このことの意義と選考の透明性を保つことを手放すのなら話は別だが。
 ま、そんなわけはないと安心してるのだけれど。
 年二回の開催となると手間も年二回。ご当地てのひら怪談によって応募者がそれぞれの企画に拡散するとは思えないが、だからといって淘汰が始まるわけでもない。イヤ、まだ募集が始まっているわけでもない時点で成否を云々するのは滑稽だ。怪談初心者としては今後も裾野が広がってレベルが底上げされることを望むばかり。
 小学生の夏休みの宿題に「てのひら怪談」が課せられるくらいになったら本物だろう。それはそれで世も末か?

 さあ、両手に怪の季節がやってきた。今から楽しみなんだよね。

追記

 募集開始に伴って「てのひら怪談」サイトでは投稿フォームが設置された。
 そこに、「ウェブサイトへの掲示までの流れ」として以下の記載がある。

投稿は、実行委員会が内容を確認した後に、実行委員会の基準により判断のうえ本ウェブサイトに掲示いたします。掲示までに少々お時間がかかる場合がありますことをご了承ください。
 なんでもかんでも公開されるわけではないようだが、よくよく考えれば「ウンコチンチン」を800文字分書き連ねたものが投稿されたとして、そんなモンわざわざ読みたくはないしな。実名を挙げての誹謗中傷もウンザリだ。
 なるほど、読むに堪えられないものは弾いてもらうというのも必要なのだな。
 恐れ入りました。

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