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さわるな危険!

amazon:[Blu-ray] ボーン・スプレマシー  マット・デイモン主演、「ボーン・スプレマシー」を観た。
 ベルリンでひとつの取り引きが行われようとしていた。過去に多額のCIA資金が失われた事件があり、この取り引きではそれに関する情報を得られるはずだった。その現場が襲撃され、CIA局員と情報提供者が殺された。証拠書類は奪い去られ、ひとつの指紋が残った。それは二年前に失踪したジェイソン・ボーンのものだ。
 インドのゴアでマリーと暮らすジェイソン・ボーン。平和な日々を送る彼を苛むのは悪夢。断片的な映像が瞬くそれは、彼が取り戻せていない過去の記憶に繋がるようで。ある日、ボーンのセンサーに引っかかる男が現れた。マリーとともに逃げるボーンだったが、追跡者は悪路を走る車の運転手の頭部を正確に狙撃する。車もろとも橋から川へ転落したボーンとマリー。
 安らぎを与えてくれる唯一の存在を喪ったボーンは、封印していた人間兵器としての自分へと立ち戻る。あのとき、「追ってきたら殺す」と宣告しておいた。それが無視されてマリーは殺されてしまった。あの言葉がただのブラフでなかったことを思い知らさねばならない。決着は必ずつける。

amazon:[Blu-ray] 【Amazon.co.jp限定】ジェイソン・ボーン・トリロジーBOX スティールブック仕様(完全数量限定)  艱難辛苦の末に愛する女性を得て大団円、とならないのがドル箱作品の宿命か。ジェイソン・ボーンの物語は三作品が製作されて、現在はその名を冠した「ボーン・レガシー」が絶賛公開中である。「ボーン・レガシー」観賞前に「ボーン」シリーズ総復習というわけで、改めて「ボーン・アイデンティティー」から観ている。本作はシリーズ二作目。
 さて、ジェイソン・ボーンを日常に繋ぎ留める役割を果たしていたマリーは、早々に退場を余儀なくされた。復讐者となったボーンは、しかし復讐心に逸って闇雲に暴走することはない。当たり前のように冷静且つ計画的に物事を進める。非日常こそが彼の日常なのだ。
 再びボーンに追跡の手がのびる。CIAの記録にも残されていない"最初の仕事"との対峙があって、過去から逃れられないジェイソン・ボーンの業が浮き彫りとなる。

 なぜ今頃になってジェイソン・ボーンの名前が諜報戦の表舞台で取り沙汰されるようになったのか?
 ジェイソン・ボーンの離脱宣言と直後に起きたコンクリン殺害。その後、"トレッドストーン"計画の責任者だったアボットは計画の終了を決定。CIAにとってジェイソン・ボーンは最高の成果を遂げた実証例であり、同時に最悪の事態を招いた張本人であり、だからこそ振り返りたくない存在であったはず。どんなに有能であったとしても自由意思を持った殺人兵器なんて恐ろしいものは、いくら騙しのプロフェッショナルとて思うままに操るのは無理。とっとと過去へと追いやりたいのだが、万が一にも接触をしなければならないとするならば、その選択肢は多くない。速やかに排除するのが望ましい。
 死せるジェイソン・ボーンにて生けるCIAを走らせる。ボーンを標的とした一連の事件は、事件の黒幕がジェイソン・ボーンの名前の持つ効果を期待して彼を巻き込んだものだ。ジェイソン・ボーンの関与を疑わせる物的証拠を用意し、身の潔白を叫ぶかもしれない本人を始末して真相を闇に葬るというのがそのシナリオ。しかし、ジェイソン・ボーンはレッドへリングを素直に引き受けてくれるような人物ではない。
 無関係な男に濡れ衣を着せる狙いは、しかしその対象は一筋縄でゆかない難物。ジェイソン・ボーンを亡き者にできてさえいれば成功した企みも、暗殺に失敗したが故に崩壊を兆す。過去の事件への調査を食い止めるために偽装工作をし、ボーンに暗殺者を差し向けたというのに、偽装工作はともかくとしてボーン暗殺に失敗した。それだけでなくボーンの最愛の女性が死んでしまった。それが理由となって、CIA内部にも比肩し得る者のないほどに凄腕の工作員の介入を招いてしまう。追及を避けるための方策が却って耳目を集める結果となり、かくなる上は被疑者死亡のまま状況終了へと持ってゆくしかない。

 自分たちが進めていた作戦を台無しにされ、その真相究明に取り組んでいたパメラ・ランディと彼女が率いるCIA内部調査局。彼らの前にアクセス拒否となる情報が現れる。同じ組織の中に身を置きながらも全体を把握できないくらいに巨大なCIA。一枚岩でないのは当然といえよう。
 そうはいっても諜報の世界の住人であることにかわりはない。パメラも"裏切り者"ジェイソン・ボーンに何らかの背景があるものと考えて、その身柄の確保に全力をあげる。ボーンは事件の鍵となる人物であり、彼から事情を聴くことでそもそもの調査対象であった資金喪失事件さえも真相解明へと近付くかもしれない。だから、ボーンを死なせてはならないのだ。
 ここでジェイソン・ボーン殺害に状況を持ってゆこうとする者は怪しい。ただし、その主張も無理からぬところではある。ボーンは危険な存在であり、本当にCIAに復讐するつもりでいるとするなら大いなる脅威だ。それに対抗するためには先手必勝とばかりに仕留められるときに確実に仕留めるというのは、あながち間違ってはいない。これが成立するのは、ボーンが襲撃事件に関与していてCIAに復讐するという前提が正しければ、である。その前提が間違っているなら、その意見にはもしかすると何らかの意図があるかもしれない。たとえば事態の収束に「死人に口無し」を狙っているのかも。
 パメラ・ランディは現実的な理想主義者だ。自身は諜報活動に従事してはいるものの、その仕事についてアメリカ合衆国の国益に適うものと信じている。そこに誰に恥じることのない"正義"はないかもしれないが、自分たちの活動は理想を唱えるだけでは実現できない平和と栄光を同朋に齎していると確信している。少なくとも自分の欲を満たすためにCIAの組織活動を利用したことはない。彼女はむしろ組織内部の不正と戦っている。
 ジェイソン・ボーンとパメラ・ランディ。彼らは単独行動と組織活動との違いはあるものの、それぞれが隠された真相を追い詰めるプロフェッショナルだ。自分の目的を果たすため、協力関係と呼ぶにはあまりにも細い結び付きを作る。ボーンはパメラを組織の論理で動く歯車と見做さず、パメラはボーンを冷酷非情な殺人兵器と捉えず、互いに相手が人間だと感じた。ボーンがコンクリンやアボットとの関係においては自覚することのなかった意識がパメラとの間に芽生えた。信頼とまではゆかないが、共闘の意識は明確に抱いたであろう。これはパメラも同じ。
 ボーンとパメラ、二人に共通するのはもう一点。彼らの求める真相とその解明を妨げる敵はCIA内部に存在し、彼らはそのことを確信する。

amazon:[文庫] 私は幽霊を見た 現代怪談実話傑作選 (文庫ダ・ヴィンチ)  かつてベルリンのホテルの一室でロシアの議員が死んだ。状況から、議員夫人が夫を射殺した後、自殺したものと判断された。しかしこれは間違いである。二人を殺したのはジェイソン・ボーン。彼の初任務が議員暗殺であった。
 しかしこの任務についての記録はCIAに残っていない。これは組織活動の一端ではなかった。ひとりの男が己の個人的な資金運用のために"トレッドストーン"を悪用したのだ。CIAが失った資金がロシアに渡って、かの地に石油王を生んだ。これもCIAの活動とは無関係である。
 つまり、この件の黒幕が犯したのは横領と殺人だ。CIAという巨大組織を舞台としているので先入観が物事を複雑に見せているが、その本質は業務上横領であり、絶対的に忠実な人間兵器を使っての個人的用件での殺人である。
 CIA内部調査局は消えた資金の行方を追うべく、内部の裏切り者へと繋がる重要な情報を入手しかけた。しかし先手を打たれて情報提供者と局員は殺され、資料は持ち去られた。時を違えずボーンは暗殺されかけた。この一連の事件は、つまりは過去の不正の隠蔽工作なのだ。一般企業における隠蔽工作とは規模も内容も大きく異なるが、横領した金額とそのために犯した殺人が黒幕の尻に火を点けたのだろう。
 先手必勝と死人に口無し。単純だが事態収拾には効果的だ。これはあくまで成功すればの話だが。
 ここで注目すべきは、執拗にボーン殺害を唱える人物だ。先手必勝と死人に口無し。事件の黒幕がとった方策もこれらの考えが通底している。これはどういうことか?

 ジェイソン・ボーンは自分が個人的用件のために利用された過去に辿り着いた。その隠蔽工作で今頃になって狙われたことも、マリーが巻き添えになって殺されたということも。自分が人間兵器だった過去から決して逃れられないことを思い知らされる。そして彼は決意する。過去の自分が亡霊となって今を苛むのなら、徹底的に過去と向き合おう。すべてに決着をつけよう、と。
 パメラ・ランディは調査の過程でジェイソン・ボーンに突き当たる。彼を通じて"トレッドストーン"計画を知る。CIAの暗部に触れて、彼女は自らの立ち位置を定める機会を得た。自分は誰のために日夜戦っているのか、自分の敵は何か、と。
 アボットは観念する。手駒にすぎなかった男と尻の青い女に追い詰められた。引退を控えて老後のための貯蓄を増やしただけなのに。この年齢になるまでこの身を国家に捧げて、しかしその報酬が見合わないからあんなことをしたのだ。正当な金額の報酬を手に入れようとしただけで、その際に殺さざるを得なかったのは国家運営には関係のない他国の政治家ではないか。何の問題がある?
 過去の亡霊と対面してそれぞれに思うところがあり、それぞれに行動を決した。

 ボーンは再びパメラと連絡をとる。その際にパメラがボーンに明かした情報、彼の本名がデビッド・ウェッブであり、彼がイリノイ州ニクサ出身であり、彼が71年4月15日生まれであることは、彼女がCIA局員であることを考えると、そのまま鵜呑みにするわけにはいかない。パメラは諜報の世界に身を置いているのだ。その言動には何かしらの魂胆があると考えても、これは考えすぎとはいえないだろう。
 果たしてパメラは情報に嘘を混ぜていた。これは「ボーン・アルティメイタム」で明らかとなる。そこにおいてジェイソン・ボーンは始原の怪物と再会する。

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ボーン・スプレマシー from いやいやえん 2013-03-02 (土) 07:32
一作目のヒロインで恋人のマリー(フランカ・ポテンテさん)は早々に退場してしまう、殺されるというやり方で。 この事実と自分の過去に苛まれる主人公ボ...

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