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嵐の前の腹ごしらえ

「遊星からの物体X ファーストコンタクト」公式サイト  ジョン・カーペンターによる1982年の「遊星からの物体X」は、正体不明の生命体による侵略を描いた傑作映画だ。この作品はSF要素を加味したホラー映画だが、その一方で類を見ない「犯人探し」を内包したミステリとしても高く評価できる。閉塞感高まる状況にあって盛り上がるサスペンスと、仲間同士で疑心暗鬼の生じるストレスは特筆モノ。そして余韻を残す結末には、作品としての枠内に収まりきらない物語性を感じさせられ、この作品に"怪奇の血"が流れているのを実感する。
 それから三十年。件の事件の前日譚と位置付けられる作品が公開となった。
「遊星からの物体X ファーストコンタクト」を観た。
 この作品は、アメリカ合衆国南極観測隊第4基地に一頭のハスキー犬とそれを追ってヘリコプターが飛来する、その直前までの出来事を描いた内容となっている。1982年のあの南極大陸を舞台にしたホラー映画だ。
 ノルウェー隊が、災厄の詰まった箱ならぬ宇宙船を発見し、そこから少し離れた場所に氷漬けになっていたエイリアンを自分たちの基地に持ち帰る。このことから惨劇は開幕する。
 世紀の大発見に色めき立つノルウェー隊。ここで生物学の権威が、欲に駆られて体組織のサンプルを所望する。未知なる生物を相手に、たとえそれが十万年ほど前に死んでいたとしても、その扱いに慎重になりすぎることはない。未だ危険性の有無すら確定してないのに手を出すのは危機管理の意識に乏しいのではないかと疑問を呈する者はいたが、学問の世界でも政治はある。キャリアの浅い者が何を云っても通じない。検体はドリルによって穴が穿たれ、異邦人の体は長い時間を経て刺激を受けた。
 その夜、ノルウェー隊が祝杯をあげるすぐそばで"それ"は目覚めた。

 本作は邦題に「ファーストコンタクト」とあるように、作中では異星人との最初の接近遭遇が為される。ジョン・カーペンターの1982年の監督作品「遊星からの物体X」は前作だが本作の後日談となるわけだ。
 だから、本作がどんな結末を迎えるかは前作で提示済み。何が起こるのか、ある程度わかっている。それ故にネタを割る心配はいらない。ノルウェー隊は、ヘリコプターの操縦士ともうひとりを残して全滅する。その二人にしても死は確定している。
 本作は悲惨な結末にしかならない。これは確定事項だ。
 はじめに結末ありき。

 時代背景と舞台設定は決まっている。展開と結末も決まっている。宇宙船を発見するところから、氷漬けになった異星人を基地まで運び、惨劇を演じるまでをオリエンテーションのようにこなさなければならない。次へと渡すバトンも決まっている。ハスキー犬だ。それも用意しなければ。
 数多の拘束があって、だからこそ裁量の認められているところは自由に遊ばせてもらう。本作は「遊星からの物体X」へのオマージュに満ちていて、かの傑作と呼応する場面や展開が散見される。だからといって本作が前作とまったく同じ筋道を辿るのかというとそうではない。前作にあったような状況へと導く一方で、それぞれに前作とは異なる展開に帰する。似ているようで違うのだ。
 それにしても、本作「遊星からの物体X ファーストコンタクト」の前作「遊星からの物体X」への寄り添いっぷりは尋常ではない。これには明確な意図があるのを感じざるを得ない。

amazon:[Blu-ray] 遊星からの物体X  ここで思い出さなければならないことがある。それは、本作では"エイリアン"、前作では"それ"と呼ばれる生命体の奇妙な生態だ。この生物の捕食と生殖は等号で結ばれており、それは「同化」というかたちをとる。
 この「同化」の完成度は頗るつきに高い。外見上の差異はおろか声やふるまいさえも異状を感じさせない、完全なるコピーを成し遂げる。また、同化した個体の持つ記憶や技術さえ自分のものにできることから、同化と擬態を為す生命体があることを知らなければ内なる変化に気付かないだろう。中身は決定的に人間ではなくなっている。
 また、同化は体液の一滴でも体内に入り込んだら始まる。これは最も小さな規模で為される侵略行為であり、これを数限りなく続けられることで地球はこの異星人に支配されてしまう。前作で生物学者が試算したところ、この侵略者が人間社会に到達したなら二万七千時間後には地球全体同化達成するとの数値が叩き出された。約三年。三年後が地獄か、三年間が地獄なのか。

 それにしても、あまりに似すぎている。これは印象による感想ではない。ここにおいて前作と本作との共通点の多さは恣意的なものであると確信した。
 まさしく「同化」である。
 一部隊員の強制的隔離と脱出。判別テストとそのさなかの正体露見。前作では頭に脚が生えたが、本作では腕に脚が。大仕事を終えた後、二人の人物が残るが、果たして彼らは人間なのだろうか? これら以外にも共通点を挙げてゆけばキリがない。
 SF的要素を持ったホラー作品でありながらミステリとして楽しめる、キマイラ的魅力の「遊星からの物体X」。これと同化した「遊星からの物体X ファーストコンタクト」もまたSF的要素のれっきとしたホラー作品であり、やはりミステリとしての仕掛けを有している。そのうえ本作は恋愛要素も加味している。まさにキマイラといえよう。

amazon:[Blu-ray] 遊星からの物体X ファーストコンタクト  さて、「遊星からの物体X」の"それ"といえば、まさにキマイラといえる造形を持ったクリーチャーが暗闇をカサカサ動き回るイメージ。あるいはウニョウニョクネクネ。
 特殊撮影の技術は向上し、今やイメージできる物事なら映像化は可能となった。CGがどんな化け物であってもあたかも実在するかのようにスクリーンに映し出す。ただし、それらしく見せることと恐怖を抱かせることは別だ。
 前作の"それ"は、ロブ・ボッティン渾身の造形によって血肉を得た。異形は生物としてのリアルをそなえており、よしんば動きや反応にぎこちなさを感じたとしてもそれは異星人が故のことと得心できる。ホラー映画のガジェットとしては完璧であった。
 翻って本作の"エイリアン"はどうかというと、CGの完成度は高いだろうけれど、あまりに"見せすぎ"である。最新鋭の技術を駆使して本物らしく提示できることから、その姿を堂々と見せつけてしまっている。チープな出来損ないをどうにかしてそれらしく見せようという、ある意味で後ろ向きな努力をせずに済んでいるのが却って気の毒になる。どうにか誤魔化して観客の想像力に訴えかけるのがホラーとしてのアプローチだろうに。出来の良いCG映像が想像を喚起させる隙間を与えてくれない。
 肝心なところを見せずに観客に委ねるのと、見せられるものは映像として見せて観客全員に同じ体験をさせるのとでは、どちらが良い悪いではない。仄めかすのと明示するのでは演出の方法から変わるということだ。前作と比較して概ね遜色のない本作だが、"エイリアン"が正体も露わに暴れまわる場面は存外に怖くない。あからさますぎて笑いさえ洩れてしまう。
 CGとしての完成度は折り紙付き。それがホラー作品にとっては瑕疵となるのだから、映画は不思議である。

 とにもかくにも、「同化」をモチーフとした本作を楽しむには、あらかじめ「遊星からの物体X」を観ておく必要がある。観たことのある向きは、それでも復習をしておくべき。そうすれば、アメリカ合衆国南極観測隊第4基地へと続く結末を目の当たりにして、云いようのない感慨を味わうことになるだろう。

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