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コールの息子

 アメリカンコミック大手のMarvelで活躍するヒーローを集めた、クロスオーバー大作が映画化。2008年から続いた長き助走が、ここに結実する!
 全世界のアメコミファン待望の映画化作品だけあって、この作品には世界各地の興行成績を塗り替える勢いがある。そして、期待を裏切らないだけの魅力を確かに有する映画である。
 出演するはロバート・ダウニーJr.、クリス・ヘムズワース、マーク・ラファロ、クリス・エヴァンス、スカーレット・ヨハンソン、ジェレミー・レナー、サミュエル・L・ジャクソンら。主役級の顔ぶれだけで豪華というもの。それぞれトニー・スターク、ソー・オーディンソン、ブルース・バナー、スティーブ・ロジャース、ナターシャ・ロマノフ、クリント・バートン、ニック・フューリーを演じている。
 彼らは侍でこそないが外敵から地球を守る七人、地上最強の部隊を構成する七人だ。
 ただし、能力の高さと比例するように個性も強力な面子が揃っている。その代表格はトニー・スタークだ。スターク・インダストリーズの顔である天才科学者は、衝動的でナルシズムの傾向が強く、協調性に欠けると表されるほど。異邦人であるソー・オーディンソンに地球人類としての常識や思考は期待できず、ブルース・バナーの"もうひとつの人格"に理性を求めるのは無理。最もまともであろうスティーブ・ロジャースは浦島太郎状態にあり、その性格はあまりにも四角四面。これは生来のものであり彼が育った時代を考えると当然のようにも感じられる。スパイや暗殺者のナターシャ・ロマノフにクリント・バートンも十分に個性の強い人物なのだが、それが霞むほどに他の面子がずばぬけて物凄い。彼らを率いるニック・フューリーは性格を云々するほど内面を晒さず、いつも何か企んでいそう。謎多き人物という点では七人の中では群を抜いている。
 選りすぐりのメンバーで構成されたこの集団にして、チームとして機能するかどうかが地球存亡の鍵を握る。

 世界樹ユグドラシルからのびる九つの世界と、それらを繋ぐ虹の橋ビフレスト。それを悪用されぬように、神の鎚ことムジョルニアが振るわれた。決断を下して自らそれを為したのは、オーディンの不肖の息子だ。愛する者の暮らす世界、ミッドガルドを守るために世界の架け橋たるビフレストを破壊する。破壊してしまえばミッドガルドに脅威は及ばないにせよ、己もミッドガルドとの往来をできなくなる。それは、愛する者との別離を意味する。
 苦渋の選択は、しかし優先すべきことは何かを考えると即座に決断できるというもの。
 こうしてビフレストは破壊された。オーディンがこれに関して息子を責めなかったのは、その決断を尊重したのだろう。
 後継者に返り咲いた王子には悔やむことがある。これまでの生き方ともうひとつ。ビフレストを破壊した際にひとりの男をその犠牲にしたことだ。男の名はロキ。その出自については重大な秘密があるが、ともにオーディンの子として育った歴史がある。弟への情愛が薄れることはない。
 それではロキはどうか?
 父王への憧憬から後継者となるべく策謀をめぐらせるも、一旦は陥れた"兄"が精神的な成長を遂げて神々の王国に舞い戻った。そのまま玉座から引きずり落とされたかっこうのロキ。彼は"兄"との対決にまたもや敗れ、ビフレストから深淵へと落ちていった。
 ここまでは本作に先立つ英雄譚で語られた内容。そして、本作冒頭においてロキの身柄は既に救出済み。ロキはある存在との間に契約を交わす。それはミッドガルドに存在するある物体をめぐる契約だ。それを差し出す条件で、宇宙最強の軍隊の貸与を受けるというものだ。
 ミッドガルドにあるという物体はテセラック。大いなる存在はこれを欲している。そして、宇宙最強の軍隊とはチタウリ。ロキはテセラックを餌にチタウリの協力を得て、ミッドガルドを征服しようというのだ。ちなみに、「ミッドガルド」とは北欧神話における呼び名であり、一般には「地球」として知られる。
 ロキの標的は、父王オーディンがその昔にヨトゥンヘイムのフロスト・ジャイアントの侵略から守り、"兄"が宇宙的脅威が及ばぬようビフレストまで破壊した、美しき青き地球である!

 北極海からテセラックを回収し、研究の一切を秘密裏に進める組織はS.H.I.L.D.だ。宇宙物理学の権威であるエリック・セルヴィグ博士を招聘し、この未知なる物体の解析に邁進するも、成果は芳しくない。しかし、この物体が無限のエネルギーを秘めているのは推測できる。
 そのテセラックが常にない反応を示す。異常事態に研究施設全体に退避命令が出されるなか、テセラックを通じてロキがこの世界に出現する。その槍で胸を突かれた者は即座に洗脳され、ロキに寝返ってしまう。セルヴィグとS.H.I.L.D.エージェントを味方に引き込んだロキはテセラックを奪って逃走する。
 このとき、"地上最強の射手"ことクリント・バートンが洗脳されロキの側近となったのは、S.H.I.L.D.にとって大きな痛手となる。
 テセラックの暴走は巨大な爪痕を残した。研究施設は全壊し地底へと崩落した。施設の損害だけでなく人的被害もまた計り知れない。それだけの威力を持つテセラックが害意ある者の手に落ちた。これは非常事態だ。
 S.H.I.L.D.長官ニック・フューリーは決断した。今こそ彼らの力を結集すべき、と。

 テセラックは微量のガンマ線を放出する。これを手掛かりに在処を探り当てる。それにはガンマ線研究の第一人者が必要だ。彼はある理由から厭世的な性格となっており、また怒らせると手に負えないので交渉すら命懸けとなる。頗るつきの要注意人物だ。
 ブルース・バナーのもとに説得に現れたのはナターシャ・ロマノフ。この美女が自分を殺しに来たのでも"捕獲"に来たのでもないと知り、ブルースは敵対するつもりのないことを示す。眼前の女性だけでなく周りを取り囲む彼らを脅えさせるのは本意ではない。
 命を賭した交渉が実を結び、ブルース・バナーはS.H.I.L.D.への協力を約束する。

 天才科学者アンソニー・スタークは着脱式のスーツ型飛行装置を開発。この装置の汎用性は高く、軍事転用の後には世界の軍事バランスはひっくり返るだろう。しかし、個人的体験によってトニー自身は兵器産業に反対のスタンスだ。彼はこの装置を平和利用することしか頭になく、現在はスターク・タワーの改良に活用している。
 化石燃料を使わず、原子力発電ほどの危険を伴わず、きわめてエネルギー効率の高く、しかも安定して供給できる。そんなエネルギー理論を具現化したものが、アーク・リアクターだ。これはトニーの父親にしてやはり天才の名をほしいままにしたハワード・スタークが開発したもので、ある事情によりトニーの胸には小型のアーク・リアクターが光り輝いている。これは彼の生命維持装置である一方で、自慢の飛行装置の動力源でもある。
 トニーはスターク・タワーの全消費電力をアーク・リアクターで賄おうと考えて、自らその作業に携わっている。そんな彼のもとにS.H.I.L.D.のフィル・コールソンが訪れる。あまりに賢しいトニー・スタークをその気にさせるのは容易ではない。しかしだからといって不可能でもない。彼の知的好奇心を刺激するか、彼に対して影響力を持つ者を味方につけるかすると、事は意外に簡単に進む。トニー・スタークが他者によってその言動を左右することは稀なのだが、ペッパー・ポッツはその稀なる反応をこの偏屈な天才から引き出す。
 フィルはポッツとのコンビネーションによって、トニーをテセラック探索の土俵に上げることに成功する。なんだかんだでフィルも有能なのだ。

 永き眠りより目覚めたスティーブ・ロジャースは肉体を鍛える日々を送る。とはいっても、彼が遠い過去に獲得した強靭な肉体は、トレーニングの必要もないほどに完成されている。明確な目的意識があるのかないのか自分でも定かではない。サンドバッグと向き合っては叩き壊す毎日。他にするべきことがこの時代には見付からない。
 21世紀のアメリカ合衆国において、スティーブ・ロジャースは孤独を感じざるを得ない。
 この日、既に幾つかのサンドバッグをお釈迦にしたスティーブを男が訪ねる。ニック・フューリーだ。長い間、戦場から遠ざかっていたスティーブに復帰の命令が下される。テセラック探索チームに加わるということだが、何にせよ命令を受けるというのはありがたい。無為の日々を送るより甲斐があるというものだろう。
 否、時代は違えども兵士が上官の命令に従うのは当然だ。その命令が妥当なものであるならば、だけれど。スティーブの胸のうちには軍属としての忠誠心と軍上層部への不信がともにある。

 ロキはドイツのシュツットガルトに現れた。自ら陽動を行い、その隙にクリントがイリジウム塊を奪う。後は撤収するだけだが、ここでロキが示威行動に出る。市民を跪かせ演説をぶち、王者たるべく睥睨する。そんなことをしている間にも追っ手は迫るというのに。
 スティーブとナターシャ、最後にトニーが加わって、ようやくロキを拘束することに成功する。護送のさなか、遠くない空に雷鳴が轟く。身を固くするロキ。稲妻が一閃し、神々の世界より雷の申し子が来訪する。
 身内の不始末は自分たちの手で片を付ける。ましてロキは弟だ。このところの反逆行為には自分にも原因がある。道を外れたロキを裁き、更正させなければならない。
 アスガルドからの使者はもうひとつの使命を帯びていた。テセラックの回収である。そもそもテセラックを管理していたのはオーディンだ。その宝物庫から紛失していたテセラックが地球で発見され、強大な力を有するが故に教会で秘密裏に保管されていた。これがヒドラに奪われて、最終的に北極海に沈んだのは第二次世界大戦でのこと。
 テセラックは地球人類には手に負えない代物だけに、正しく管理できる者の手に委ねるべきというのはアスガルドの見解だ。これには反発が起きる。これまでテセラック研究に従事してきた者には納得できない。テセラックに未来の可能性を見た者も同じように反対する。異世界の住人に奪われてなるものか。

 こうして、協調性に難のある面子が物語上に顔を揃えた。個々の能力の高さは折り紙付き。ただし、戦う相手の規模があまりにも大きすぎると、ひとりでは応戦できない。
 ロキの狙いは宇宙最強の軍隊を召喚することにある。チタウリに対して単独で当たるのは無茶というもの。犬死にしないまでも敗北するのは目に見えている。
 チームワークが必要不可欠なのだが、この面子にそれを求めるのは難しい。むしろ不可能かもしれない。
 ここでキーパーソンとなるのがフィル・コールソンだ。

 ロキの目論見通り、個性の強い者たちが諍いを起こす。
 軍部に不信を持つトニーにブルース、そしてスティーブが独自に動く。ニックはテセラックを平和利用するつもりがあるのか? エネルギー開発に利用するのなら、アーク・リアクターを有するトニーに声をかけないのはおかしくないか? もしや軍事目的に転用するのでは?
 ロキの目的を知ったナターシャはブルースを他所へ移そうとするが、ラボには兵器開発の事実を知った男たちが。
 そもそもがこんな状況に陥ったのはロキが悪い。これには"兄"も黙ってはいられない。だから自分がやってきたのだし、地球人に悪用されぬようテセラックも回収する。正直、地球人を見損なった。
 世代間の差異と個性の違いにより意見の衝突を起こす者たち、腫れ物扱いに心底からうんざりする者、弟を厄介者呼ばわりされ激高する者、危機感を募らせて声高になる者。それぞれが自分の我を通そうとする。誰もが一歩も退かない。優先順位は我にあり。
 口論のなかでそれぞれの論旨はズレてゆき、諍いを自ら求めるのために口論を続けているような状況へと推移していた。そこに団結はなく、チームはまさに空中分解の危機を迎える。

 力とは、意思を貫くために用いられる。力を持つ者はそれを行使して己の意思を押し通す。嫌なことを嫌と言い、己の思うままにやりたい放題。人間社会においてそんな生き方を貫ける者は稀である。社会のどの階層に生きていても何かしらの外的圧力や拘束はあるものだ。
 権力にせよ財力にせよ腕力にせよ、いくら大きな力を持つといっても上には上がいるもの。強者が弱者を従わせるというならば、その強者も相対的な強者の前では己を曲げなければならなくなるだろう。簡単な理屈だ。
 しかし時に人は、勝ちの目がなくっても負けるとわかっていても、それでも強者に立ち向かう。それをすることが正しいと信じるからだ。
 ブルース・バナーは自らに潜む強大すぎる力との闘争に疲れきっていた。もはや抗するのを諦めていたが、トニー・スタークの言葉にもう一度挑むことを決意する。九死に一生を得たその理由を考える。無敵の肉体は呪いではなく特典だとするなら、それを活かす術は?
 人智の及ばない力を有するロキの眼前で、貴様なんぞには跪かぬとばかりに老人が立ち上がった。彼も戦うべきときに自分の全存在を懸けた。それはひとりのS.H.I.L.D.エージェントも同じ。
 フィル・コールソン。一見すると冴えない中年男だがこう見えてS.H.I.L.D.長官ニック・ヒューリーの腹心である。
 一旦は頓挫した計画を諦めないニックと同じように、フィルもまた計画の成功を夢みている。偏屈な実業家や異邦人との間に信頼関係を結び、偉大なる先人に憧れるこの男は彼らの心に種を植える。トニーがほんのちょっと手入れをしたことでブルースの心に埋まっていたものが芽生えたように、フィルの願いがその死をきっかけに各人のなかで芽を出す。
 魔法をよくするロキに一般人が勝てるはずがない。負けるだろうことはわかっていても、己の願いを果たすために立ち向かわなければならない。人生にはそんな場面があることをフィルは知っていた。口を開けていればヒーローが感動を運んでくれるなんて、そんな都合のよい話はない。自分の夢の実現を願うなら、他の誰でもなく自分が戦わなければならないのだ。
 致命傷を負い、血がとめどなく流れてゆく。死は近い。薄れゆく意識のなかで、上官に自分の死を彼らの結束に役立てるよう進言する。死ぬことが自分の仕事だ。フィルの言葉に一流のエージェントとしての凄みを感じる。これについてはニック・ヒューリーも同様だったようで、告げられた際のニックの表情がそれを物語る。
 フィル・コールソンの死はニック・ヒューリーの演出を施されてスティーブらに提示された。血まみれのトレーディングカードにフィルのヒーローへの想いが込められて。
 彼らは怒った。フィル・コールソンを死なせた原因のすべてに対して。勿論、そこには自分たちも含まれている。
 強い力を誇れども結果を伴わなければ意味はない。正しい信念を持たない力の不毛を男たちはそれまでの経験によって知っている。もし正義を志すのなら、それを為すには力が必要だ。力はある。それぞれ経緯は異なるけれど、それぞれに力を手に入れた。その力も使い方を知らなければ強さを発揮できない。
 今ここに彼の願いが叶うときがきた。ヒーローが団結して強大な敵と戦い、地球の平和を守る。アベンジャーズ計画の骨子は、幼い頃の夢想そのもの。この古臭い夢を長じてからも抱き続けてきた男こそ最後のアベンジャー、フィル・コールソンである。

 敗北と喪失が平手打ちとなって目を覚まさせてくれた。
 その男は七十年の時を経て目覚めた地球最初のヒーロー。"超人ソルジャー"キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースは怒っていた。自分が旧弊なのは自覚してるしそれを揶揄する者がいるのも理解できるが、だからといって自分が周りを顧みない理由にはならない。任務を最優先にするからとそれ以外に関心を持たないのも間違いだ。集団を自分色に染め上げるのではなく、様々な色をバランス良く配置するのが自分の役割だ。もっと早くこれに気付いていれば、自分に憧れる男を死なさずに済んだかもしれない!
 天才科学者であり"戦う実業家"でもあるトニー・スタークもまた目覚めた。彼はスーツ型の着脱式飛行装置を装着することでアイアンマンとなる。過去の出来事から兵器開発を忌み嫌うトニーにとって、無限の可能性を秘めるテセラックとその研究は軍事転用の危険性があった。利用されるのは御免とばかりに背後ばかりを気にした結果、知人の死を招いてしまった。フィル・コールソンとの付き合いは他のヒーローより長い。個人的な相談に乗ってやるほどに。
 オーディンの息子、"神失格の男"ことソー・オーディンソンは後悔する。ロキとテセラック、いずれもアスガルドより生じた問題であるがために、自分ひとりで背負い込もうとした。それが地球の友人を死なせる結果を齎した。フィルとは地球への追放の際に知り合った。出会いこそ幸福なものではなかったが、後に和解が成立したこともあって、彼を信用できる人物であると目していた。
 フィルの上官にしてチームの"司令官"であるニック・ヒューリーは怒っていた。己の理念に邁進していたならもっと早く対策を立てられたかもしれない。理念に合致しない命令を退け、後ろめたいところなく計画を進められただろうに。秘密主義によって不審を招いたのは自分の責任だ。信念を同じくする有能な部下をあたら死なせることになったのも自分の責任だ。その死を粉飾したのだから成果を上げなければ申し開きが立たない。
 チームの紅一点、"魔性のスパイ"として知られるナターシャ・ロマノフは、ブラック・ウィドウの名で呼ばれている。情報を引き出してもそれを利用できなければ意味はない。ブルース・バナーを抑えられず、事態をロキの計算通りに進めてしまった原因は自分にある。人を超越した暴力に怯えて為す術なくへたり込んでいた自分を許せない。そして、同僚の死と自分の過去を知られたことも許さない。ロキには大きな借りができた。
 洗脳が解けた、"地上最強の射手"ホークアイことクリント・バートン。一瞬の油断から味方を裏切るかたちとなり、多くの命を奪ってしまった。フィルを直接に射殺したわけではないが、そもそも洗脳されなければ今の事態を呼び込んでない。奪われたものを取り返すために決着をつけねばならない。
 ロキが次にとる行動はわかった。扉を開くつもりだ。テセラックとイリジウムを用いて扉となる仕掛けを作った。あとは扉を開くためのエネルギー、ロキの云うところの"温かい光"を手に入れるだけ。条件に見合う場所がある。エネルギー開発の第一人者が建てた建築物、スターク・タワーだ。
 決戦の地はニューヨーク。時すでに遅く、次元の扉は開かれた。そこから飛び出してくる宇宙最強の軍隊。劣勢に立たされるヒーローたちの前に"苦悩の科学者"が!
 ブルース・バナーは後悔のなかで目覚めた。彼は自ら施した人体実験の結果、致死量のガンマ線を浴びてしまい、しかし生き延びて後遺症に悩まされるようになった。感情が高ぶると血中アドレナリン濃度が上昇し、そこにガンマ線の影響が現れて肉体は緑色となり巨大化する。変化は外見に留まらず、その内面は荒ぶる感情のままにすこぶる獰猛だ。ハルクと呼ばれる脅威に自分がまたもや敗北したことを痛感するブルース。このまま尻尾を巻いて敗走するか? 逃げられない自分を相手に? それともハルクを受け入れて、そのうえで戦うか?
 各々が問題を抱え、自分たちの与り知らぬ思惑が絡み、それぞれがチームの一員との自覚を持てなかった。個々の主義主張を云々するつもりはない。ただし、人には立たなければならないときがあり、目的が同じならばともに戦うことを敢えて避けることはないのでは?
 ひとりの男の夢はヒーローに指標を与えた。
 背中を預けられる戦友を得て、かくしてアベンジャーズは集結せり!

「アベンジャーズ」公式サイト  ひとりの男が命を落とし、それによって集団に団結力が生まれた。振り返ってみると、フィル・コールソンはそもそもがヒーローたちの心を纏めるために用意された生贄の羊だったように思われてならない。
 初登場は所属組織の略称も決まってないような頃。「アイアンマン」で正式名称を落語の「寿限無」のように繰り返していたのが四年前。誠実なキャラクターでヒーローやその関係者との間に信頼関係を築いてきた。S.H.I.L.D.は長官にニック・ヒューリーを戴いているが、ヒーローや私たちにとっては内面を窺い知れない強面より、身近なフィル・コールソンこそがS.H.I.L.D.の顔だ。しかしそれも新顔のヒルが取って代わるのだろう。あらかじめ用意はできているというわけだ。
 そのフィル・コールソンが死んだ。このたびの元凶であるロキに殺された。複雑な事情のなかでこんがらがっていたヒーローたちの気持ちは、この事実によって整理された。自分たちは誰と戦うべきなのかがはっきりした。
 この流れを見て、フィル・コールソンは死ぬのを前提に生み出されたのではないかと思うのだ。「この戦争が終わったら結婚するんだ」に連なる、一部で死亡プラグと呼ばれる定型を見事に踏襲しているのも、骨の髄まで喰らい尽くすようで。搾取されているような気がしてならない。
 ともあれ、フィル・コールソンの存在を抜きにしてアベンジャーズは語れない。ヒーローも人だ(神もいるけど)。強面で傲岸なニックの命令より、にこやかで丁寧なフィルのお願いに動かされることもある。
 個性の強い面子を、その死をもってひとつにしたヒーローがいる。その名はフィル・コールソン。その生涯は決して惨めなんかじゃない。

 2012年、夏。
 痛いほどの日差しを浴びて道を行く。死ぬ死ぬ死んでしまう、このままでは絶対に溶け死ぬに違いない等と言いつつ、熱気を避けて映画館へ。冷房のきいた館内の居心地が好い。真夏に涼気は何よりのご馳走だ。
 涼しいはずの映画館で、しかし燃えたぎるような映画体験をした。
「アベンジャーズ」を観た。

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