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弱肉強食のルール

「THE GREY 凍える太陽」公式サイト  リーアム・ニーソン主演、リドリー・スコットとトニー・スコットの兄弟が製作に名を連ねる作品、「THE GREY 凍える太陽」を観た。
 アラスカに不時着した旅客機。生き残った七人の男。大雪原の真っ只中に放り出されて、携帯電話は通じずどこにも連絡をとれない。救援があるのか定かではないが、このまま座して待つのは死への一本道。まず暖を採る。次に食料の確保。
 七人の男を大自然の猛威が襲う。極寒の地を吹雪が荒れ狂う。そして狼の出現。悪条件が重なるばかりで福音はどこにもない。ただただ白い世界が広がる。
 個人の力の及ばない状況にあって、それでも大自然に抗いつつ前へ進む男たち。そこに希望があると信じて足を踏み出すも、現実はそんなに甘くない。ひとり、またひとりと斃れてゆく。狼に屠られ、あるいは力尽きて、せっかく長らえた命を散らす。
 仲間の屍を踏み越えて辿り着いた先に男が見たものは?

 今回は内容に詳しく踏み込まずに記事を書くことができた。けれども展開を約めているので、少なからずネタを割ってしまった。いつものように、まだ本作を観てない向きは「回れ右!」である。
 さあ、「戻る」を確実にクリックするのだ!

amazon:[Blu-ray] ザ・グレイ  見渡す限りの大雪原。なんら代わり映えのしない背景が続くというのは大袈裟だが、それだけに映像作りに意を用いているのが窺える。序盤の人間社会はガサガサした荒いタッチ、対して大自然に見る透明感は同じ作品とは思えない。作家の思い描いた通りの映像を再現できたのなら、撮影監督の腕前は大したものである。
 恐いほどの現実感に夢幻の印象が宿る。闇夜に浮かび上がる白い吐息に全きの殺意を見る。少ないサインに膨大な情報量が込められているのがわかる。
 大自然の厳しい環境にあって小さなサインを見逃し、それが意味するところに気付かなければ、そんな者には死が待っている。見ること気付くことが命懸けであり、それが生き延びることに繋がる。
 生を諦めたくなければ、常にアンテナを立てておかなければならない。
 それでも命を落とす。能力以上の何かを発揮しなければ死に食われる。ここはそんな場所なのである。

amazon:[単行本] オオカミ王ロボ (シートン動物記)  酷薄なまでの透明感が自然の容赦のなさを表している。雪原にあるのは白と黒だけ。他には僅かに血の色が滲むくらい。
 この地を統べるのは、唯一の理。つまり、弱肉強食。強ければ生き、弱ければ死ぬ。白と黒ほどにはっきりと色分けされ、曖昧さが一切ない。それだけに曲げられない力強さがある。
 男たちを襲う狼は大自然の猛威そのもの。自然を蔑ろにする人間への復讐を犬神に託したようにも感じられるが、これは思い違いだ。狼が男たちを襲うのは、テリトリーの侵害という側面もあるけれど、本質は弱肉強食。食わねば死ぬ現実があって、あの二足歩行のノロマどもは食える。単純な理屈だ。
 ここに現代に生きる人間の論理を持ち込んでも意味はない。それが通用する場所ではない。
 人間はどんな生き物よりも速く地を駆け、空を飛べるようになった。海中深く潜れるようになった。人間という種は多くの困難を克服してきた。しかし、個人が自然を前にしてできることは多くない。状況によっては手も足も出ないというのもあり得る。個としての弱さはある。これは厳然とした事実だ。
 狼は個を狙って狩りをする。個を標的に絞って徹底的にこれを攻撃する。集団による各個攻撃。人間相手でも基本は変わらない。人間もまた集団となって力を発揮する。狼と人間とでは方法論が似ているのだ。人間には狼の牙はないけれども。

 現在地は不明。救援があるとも断言できない。どの程度行けば人家があるか見当もつかない。生き残れる確率は低い。
 男たちは生き抜くために行動を起こす。その先頭に立つのは、しかし自殺志願者である。妻を喪ってからというもの失意のなかで生き長らえていた男が、強敵を前にして己のなかにくすぶる戦士に駆り立てられる。胸には一篇の詩。
 あれだけ嫌っていた父親にもかかわらず、その父親の詠んだ詩を忘れられない。窮地に陥ってはそのたびに男を叱咤する。

 もう一度闘って
 最強の敵を倒せたら
 その日に死んで悔いはない
 その日に死んで悔いはない
 ここにおいて、男が集団の中の異端者であることが明らかとなる。家族のために彼らの生活を支えるために僻地で働く仲間たちは家族との再会を念頭におく。男に現世で再会できる家族はいない。少なくとも愛する妻はこの世にいない。それでは、男は何のために進むのか?
 男が突き進むのは、生きるための闘争ではない。勿論のこと逃走でもない。勝利のための道行きだ。自殺を思いとどまったのも飛行機事故から生き残ったのも、もう一度闘うためのお膳立て。何をもって勝利とするのか、遭難当初は男自身にもわかっていなかったろう。生き延びることは、確かに勝利といえる。それを目指したことも間違いはないだろう。しかし、次々に仲間たちが斃れていって、生存を成し遂げられると彼は信じ切れただろうか?
 目指すべき勝負のかたちを、男は厳しい状況のなかで見出してゆく。そこで最強の敵を倒せるかどうかは男次第。最強の敵とは?
 大自然に投影される自分自身こそが勝利するのに難しい敵の正体だ。最強の敵だ。諦めないでいる。退かないでいる。それは行程を意味するのではない。己と向き合う心の道程だ。
 つまり、克己だ。大自然を前に、自分がどうあるべきなのかを己に問う。そして自分が出した答えに忠実であるか、常に問い掛ける。これに勝つのは難しい。

 本作の内容からタイトルを深読みすると、「もう一度闘う」という強い思いが男に見させた夢幻かもしれない。だから「THE GREY」、つまり灰色というタイトルなのかも。生死の狭間にあって夢みた闘争。
 勿論、灰色が生死の狭間というのは間違った解釈ではないだろう。しかし、それを現実と夢想の狭間に置き換えるのは、我ながら飛躍しすぎ。むしろ迷走?
 此岸と彼岸との境を綱渡りするような状況と、人間らしい理性と動物として生存本能とが渾然となって、だからマージナルな状況を指して灰色としたのかもしれない。やはり迷走。
 こうなると深読みというより妄想だね。
 人間も自然の一部。そこには勝ちも負けもない。絶対的な白も絶対的な黒もない。よしんば勝負がついたように見えたとしても、それとて灰色の一部だ。そう云われると、そうかもしれないと思う。
 でも、だからといって勝負しないという選択はない。白黒つかないかもしれなくても、挑まなくてはその事実のみが色濃く残る。克己だの何だの云う前に、そんなこと男として許せるか?

 大自然の猛威を前に男たちは敗北した。ちっぽけな存在にすぎない個人は、しかし子どもたちに命を繋げて、愛する人に思いを託して、今もこの世界に生きている。人間は時間も空間も飛び越えた集団の中で生きていて、そして集団となった人間は強い。
 局地的な敗北を取り上げて悲観することはない。幾つかの勝利を挙げて自惚れるのも間違いだ。闘いは続く。弱肉強食のルールも根本において揺るがないだろう。
 そして、人間が人間であるかぎり自分との闘争は終わらない。最強の敵は死なない。

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