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ANGER MANAGEMENT

amazon:[Blu-ray] インクレディブル・ハルク  この夏はアメリカンコミックのヒーローを題材にしたハリウッド映画が続々と日本上陸を果たす。
 DCコミックから、クリストファー・ノーランによってシリアスに生まれ変わった「バットマン」シリーズの最終章「ダークナイト ライジング」が見参。闇を駆けるヒーローの決着に、観る者は希望の光を見出した。
 Marvelからは、スパイダーマンの物語をリブートした「アメイジング・スパイダーマン」が先陣を切る。そしてMarvelヒーローのクロスオーバー大作、「アベンジャーズ」がついに公開だ。
 スーパーヒーロー大行進ともいうべき「アベンジャーズ」。そのヒーローのうちのひとり、ハルクの苦悩と葛藤を描いた「インクレディブル・ハルク」を観た。
 本作ではエドワード・ノートンがハルクことブルース・バナーを演じている。「アベンジャーズ」ではこれがマーク・ラファロに代わる。エドワード・ノートンのエリックがトニー・スタークやスティーブ・ロジャース、ソー・オーディンソンと絡むところは見たかったなあ。

 ブルース・バナーはガンマ線の研究に携わっていたのが、とある実験中に事故が起こり大量のガンマ線を浴びてしまった。その結果、ひとつの後遺症に悩まされる。
 怒り等の感情の高ぶりによって心拍数が上昇しアドレナリン血中濃度が高まると、ガンマ線の効果で全身が緑色に変色するとともに質量の増加を引き起こす。その巨体に相応しい怪力を手にしたブルースは、その外見から「ハルク(廃船)」と呼ばれる。
 一旦、ハルクに変化したなら、緑色の巨体にブルースの知性と理性は微塵も感じられない。内なる攻撃衝動をブルースは自分でも抑えられない。彼自身、この状態を忌避するのだが。
 アメリカ合衆国陸軍のロス将軍はブルースの身に現れた化学変化を軍事目的に利用するため、ブルースの身柄を拘束しようとするも、特殊精鋭部隊を繰り出してさえそれは叶わない。失敗続きのロスがとった次なる手段とは。

amazon:[Blu-ray] キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー ブルーレイ+DVDセット  ロス将軍らアメリカ陸軍が夢みたのは、「強いアメリカ」の実現。そのために、第二次世界大戦時にただ一体の成功例を生んだ、 「スーパーソルジャー計画」の再現を目指した。生物化学による人体強化のただ一体の成功例とは、アメリカ初のスーパーヒーロー、キャプテン・アメリカである。そしてこの実験に協力したのが、天才ハワード・スタークだ。その息子もまた天才。ちなみにトニー坊や、本作では最後の最後に上等なスーツを着てロス将軍の前に現れる。
 ところで、キャプテン・アメリカはレッドスカルとの戦いによって長い眠りに入っていたが、地球最大の脅威を前に目覚める。
 ロス将軍のハルク捕獲作戦に一部協力し、Mr.ブルーの正体をグレイバーン大学のサミュエル・スターンズ博士と明かしたS.H.I.L.D.は、戦う長官ニック・フューリーが率いる。彼はやがて迫り来るであろう脅威に備えて、超人たちで編成する部隊の創設を目論む。
 これらてんでバラバラに見えた糸は紡がれ、その先に最強部隊の誕生が待っている!

amazon:[文庫] ジーキル博士とハイド氏 (光文社古典新訳文庫)  感情と理性の相克を描いている点で、本作は「ジキルとハイド」を踏襲している。感情と理性、人間の本質はどちらにあるのか。ヒトとしてそなわっている喜怒哀楽こそがそうなのか、ヒトが社会生活の中で作り上げてきた行動規範のうちに存在するのか。誰もが答えを出せないような問いを自らに投げかけては悩む。
 ひとりの科学者が、己の肉体に現れる変化とその強大な力の為すところに打ちのめされる。暴力とは無縁の人生を送ってきた男が、感情の赴くままに腕力をふるうことに思い悩む。今まで「そのようなもの」と完全に把握していたはずの"自分"に潜む、荒々しい一面。身に覚えのない、しかししっかりそなわっていた攻撃性が、心を灼く。己のなかに破壊衝動が眠っているのかと思うとやりきれない。暴走の後に訪れる激しい疲労と脱力感は、尚更に男を苛む。
 自己嫌悪の針が振り切れたら自己否定に変わる。自殺まではあと数歩だ。しかし、ブルース・バナーは諦めない。ままならない状況にも挫けず、前に進むことだけを考える。ただし、彼が考えているのは、ハルクを殺して自分を取り戻すことだ。これも一種の自殺願望だろうか。
 スティーヴンソンの「ジキルとハイド」は、人狼と同じように、人間の二面性をモチーフとした作品だ。教養あふれる紳士が欲望むき出しの粗野な悪漢へと変貌する。そこには秩序と混沌の対比があり、美徳と悪徳の拮抗がある。その結末は悲劇的であり因果応報ともいえる。そこには、克己をめぐる激烈な闘争の終局がある。
 現代アメリカの「ジキルとハイド」の物語は、主人公の近くに反面教師を対置することで、わかりやすく教訓を提示する。明確な敵を用意することで、物語は主人公に対して彼が抱える問題の決着を強いる。外圧を配して決着をつけざるを得ない状況に追い込む、というわけだ。
 ただでさえハルクの外見と行動には"正義の味方"らしいところが見当たらないというのに、ヒーローとしての立脚点を見出せないならば、この緑色の巨人はむしろヴィランそのものである。ハルクは秩序の破壊者としての特徴を、あまりにもそなえている。その証拠に、ブラジルを舞台とした活劇の場面で見せたハルクの姿は、闇夜に潜む巨大な怪物といった趣があり、そこには人間社会への根本的な破壊衝動さえ感じられる。
 ハルクとは、醜悪な外見と強大な力を持つ肉体であり、理性による抑制を受けない暴力にその行為の本質がある。力の解放は感情の発露だ。その肉体は興奮の度合いによって強度が増減し、暴力の激しさも感情の大きさに引きずられる。酔えば酔うほど強くなるのが酔拳ならば、怒れば怒るほどに強くなるのがハルクだ。ただし、ハルクのスイッチは怒りのみではない。
 肉体をコントロールすることで精神状態の安定を図るというアプローチに惹かれたブルースは、呼吸法による心拍の制御を試みるもこれに失敗する。こうなると、より科学的に対処することを考えるしかない。いよいよハルクを制御するより抹殺することに考えが傾く。
 災厄に等しい暴力の恐怖にさらされ、その影に怯える毎日。とはいえ、自分の一部となっているハルクを抹殺する決意でいたブルースを翻意させたのは、エミル・ブロンスキーの変貌した姿だ。そこには抹殺すべき自分自身がいた。

amazon:[文庫] 日本書紀 5冊 (岩波文庫)  いにしえに「四方に求めむに、豈我が力に比ぶ者有らむや。何して強力者に遇ひて、死生を期はずして、頓に争力せむ」と云った力自慢は、背骨を踏み折られて死んだとされる。力を競うという単純な欲求に男は憑かれる。「日本一」だの「世界一」だの、「無敵」だの「最強」だのいう言葉に惹かれ、届くかどうかも定かでないまま、それでも手をのばす。強くありたい、強くなりたい。
 エミル・ブロンスキーもまた「最強」の称号に身を焦がしたひとりだ。
 四十路を目前に力の衰えを自覚して、ブロンスキーはそれを受け入れることができない。いつまでも現役でありたいと望んだ。せめて世界最強を実証できたなら、年齢相応の自分を生きてゆけたかもしれない。
 ブロンスキーの最強への尽きせぬ思いは、想像だにしない手段を提示されて歪んだ。圧倒的なまでの強さ、まさに「最強」の称号に相応しい存在を目の当たりにして、しかもその力を自分のものにできると囁かれたら、強さを追い求めてきた男は陥落する。それが地獄への一本道だとしても、退くことは考えられない。
 ここでブロンスキーは負けた。常に対峙し敗北を受け入れやすい相手との闘争において、彼は負けたのだ。その勝ち難い相手とは、"自分"だ。
 本作は「ジキルとハイド」に代表される、「克己」をテーマにしたヒーロー物語だ。ブロンスキーはテーマを浮き彫りにする反面教師として用意され、乗り越えるべき試練としてブルースの前に立ちはだかる。英雄物語には退治されるべきドラゴンが必要なのだ。
 ふと思う。エミル・ブロンスキーの最強への思いを語るのに相撲に関連する記述をしたけれど、ハルク・スマッシュは四股に通じるものがあるな。大地を叩く姿には、邪を祓う力強さが漲っている。ハルク=方相氏というのは、ウン、面白い!

amazon:[ハードカバー] にんげんだもの  感情があるから人間だ。身の丈以上の欲望を持ち、他者に嫉妬し、己の軽挙を後悔する。これもまた人間だ。そして人間だから様々な感情を理性でコントロールできる。特に負の感情をそのまま爆発させないように心がける。
 感情を殺して生きるのは、人間の形をした別のナニカだ。感情の赴くままに行動するのも人間ではない。人形も獣も人間と同列には語れない。
 感情と理性。人間というこのユニークな生き物の本質は、一人ひとりのうちにこれらが揃っているところにあるのではないか。時に感情に衝き動かされ、時に理性でもって己を律する。一方で感情を迸らせて、もう一方で自分で自分を従わせる。片一方だけでは人間として足りていない。不完全だ。
 ブルース・バナーは感情(ハルク)を抹殺しようとした。エミル・ブロンスキーは感情(アボミネーション)に従った。いずれも人間として歪である。勿論、外見を指してはいない。
 ハルクとなって力が増大するならば、その力をどのように使うか考えるのが人間だ。驚異の力を体感して驚き、また喜ぶのも人間だが、力の酩酊に自分を見失えば行く先は見えている。
 だから克己。その鍵は、ひとりの女性によって齎された。
 エリザベス・ロス。ロス将軍の娘にしてブルース・バナーの恋人。ハルクが危害を加えず、むしろ身を挺して守った唯一の人物。
 感情に押し流されるまま暴力に走るハルクが、それでも最愛の女性には手をあげず全力で守る。この事実にブルースこそ驚く。なぜベティを攻撃しない? なぜブルース・バナーがそうするようにベティを守る?
 ハルクを抹殺することばかり考えていたブルースは、緑色の巨人との間に共通点のあることを知り、そこに己の"芯"を見出す。決してブレない"芯"があることを確認して、ブルースはハルクを制御することの可能性を再び模索する。
 もう逃げない。殺す必要もない。ハルクとともに生きてゆく。

 アボミネーションを倒し、ベティの前から姿を消すハルク。再び逃亡生活に入ったブルースは感情を制御すべく修行を積み重ねる。その成果は現れつつある。

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インクレディブル ハルク from 象のロケット 2012-08-16 (木) 20:53
実験中に大量の放射能を浴び、驚異体質となった科学者ブルース・バナーは、感情が高ぶり心拍数が200を超えると、巨大な緑色のモンスター=【ハルク】に変身してし...

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