真実は光の如く輝いて | HOME | 真相は闇に溶けて

身命を闇夜に捧げて

「ダークナイト ライジング」公式サイト 「ダークナイト ライジング」を観た。
 本作は、クリストファー・ノーランによる「バットマン」シリーズの最終章となる。
 主人公のブルース・ウェインを演じるのはクリスチャン・ベール。
 ウェイン家の忠実なる執事、アルフレッド・ペニーワースはマイケル・ケインが、ウェイン産業の会長を務めるルーシャス・フォックスはモーガン・フリーマンが、それぞれベテランらしい熟達の演技を披露する。
 エネルギー開発に熱心な実業家として登場するのがマリオン・コティヤール演じるミランダ・テイト。彼女が物語の鍵を握る。
 バットマンの協力者、ゴッサム市警本部長のジェームズ・ゴードンはゲイリー・オールドマン。新人刑事として「インセプション」のジョセフ・ゴードン=レヴィットが登場。
 本作のヴィランは二人。「インセプション」でも活躍のトム・ハーディがベインに扮する。そしてキャットウーマンをアン・ハサウェイが演じる。かわいい垂れ目が猫目に挑戦だ!
 主要登場人物とは別に、たびたび現れるリーアム・ニーソンには驚いた。
 細かいところでは、なんだかんだでジョナサン・クレイン役のキリアン・マーフィも皆勤賞である。頑張ったなスケアクロウ!

 現時点において「ダークナイト ライジング」は公開直後だ。ネタを割るのは控えたいし、真相を明かさないように言葉を選ぶけれども、それにも限界はある。何が手掛かりとなってネタを割ることになるか、どの単語が真相を連想させるか、こちらとしてはわからない。
 だから念のため、本作観賞前の人は「戻る」をクリックすることを絶賛奨励中です!

amazon:[Blu-ray] 【Amazon.co.jp限定】ダークナイト ライジング ブルーレイ スチールブック仕様(完全数量限定生産)  ハービー・デントの死から八年。ヒーローの死を悼む祝日と彼の名を冠した法律が制定され、組織犯罪は驚異的に激減。ゴッサム・シティに平和が戻った。
 市警本部長のジム・ゴードンは「ハービー・デントの日」を迎えるたびに、"トゥーフェイス"ハービーとバットマンの真相を明かすべきとの思いに駆られる。しかし実際にできることといえば、真相を書き綴った原稿を用意するまで。スピーチでは読み上げることなく、その思いは上着の内ポケットにしまうしかない。
 ゴードンには個人的心情とは別に警察官として尊重すべきことがある。その成立こそ裏面があるものの、デント法による治安回復がゴッサム・シティを変えたのだ。
 今更、ハービー・デントを告発してどうなる?
 ヒーローの仮面を剥ぎ取ったところで、希望を見失うのは今を生きる市民だ。
 デント法のもとに捕らえた犯罪者はどうなる?
 放免というわけにはいかない。
 ハービー・デントはこれからも希望の象徴であってもらわなければならないのだ。
 ゴードンが己の苦悩と後悔とを綴った原稿は、その夜に起きた事件のさなか、ひとりの男に奪われてしまう。その秘密は火種のひとつとなる。

 ウェイン産業はエネルギー事業に随分と開発費用をかけたが、ブルース・ウェインの決断でこの部門は凍結を余儀なくされる。大富豪の蟄居生活は、事業失敗や左足を負傷して杖を手放せなくなったことが原因と噂する向きもあるが、本当のところは違う。
 愛する女性の死と正義の敗北に打ちのめされ、その後に制定されたデント法によって治安が回復。使命としていたバットマンの活動に、ブルースは終止符を打った。自分の出番はもう無い。
 そうしてみると、他にすることがない。全く思いつかない。
 ブルース・ウェインは燃え尽きようとしていた。
 退屈な日常に現れたひとりの美女。彼女は母親のネックレスだけでなくブルースの右手の指紋を盗んでいった。実に興味深い。
 女泥棒の行動は興味深いが、同じように気になる存在が現れた。ベインという名の男だ。

 ブルース・ウェインが目指したゴッサム・シティの健全化は、組織犯罪の撲滅を指標としていた。デント法の制定以降、犯罪発生率は下降。ブルースの目標は達せられた。
 それではゴッサム・シティの問題点はすべてが改善されたか?
 そうではない。経済格差とそのなかでも生活が立ちゆかないほどの貧困は改善できないままだ。
 ブルースの目が雇用の掘り起こしと福祉の充実に向かわなかったのは残念だ。ただし、ブルース産業がその取り組みとして安全で安価な電力供給を企図したことはわかっている。このことから、ブルースがインフラ整備後における経済の活発化に期待していただろうことは理解できる。けれども、市場原理は正義と悪の評価軸では決められない語れない。
 金融犯罪やマネーロンダリングという犯罪実態があるならともかく、法律の範囲内で為される経済活動にバットマンは手出しをしない。それは自分の畑ではないことを、彼が弁えているからだ。
 組織犯罪が一掃されて、しかし幸福を得られない市民の存在が、ここにおいて浮き彫りになる。ゴッサム・シティの大恩人、トーマス・ウェインが取り組んで道半ばで亡くなったために達成できなかった問題が、その息子の前に立ちはだかる。
 貧困による苦労は、「持たざる者」に不公平感を齎す。這い上がり成り上がろうとするも、一度でも道をそれた者は、己の"過去"に背中から撃たれる。
 インターネット全盛の昨今、記録された情報は、引用や転載を積み重ねられ、世界中どこへでも拡散しいつまでも残る。些細な価値しか持ち得ない情報であっても、一旦記録された内容を真に削除するというのは不可能であろう。
 ふとした出来心による間違いや困窮によって手を出さざるを得なかった犯罪の記録も、携帯端末から簡単に調べ上げられる。手持ち無沙汰を解消するついでに、知り合いとなった人物の前科を暴けてしまう。
 ガラス張りの社会。それでいて肝心なところは曇っていて内側を覗けやしない。ここにも不公平がある。
 人生をやり直そうとしたところで、「自分」という履歴に追いかけられて足を引っ張られて。
 だから、幸せになれない。
 ブルースが出会ったセリーナ・カイルは、盗みを専らにしながらも社会に対して足掻いていた。ブルースの指紋を盗んだのはある男からの依頼があってのことで、提示された成功報酬につられた犯行だ。
 セリーナが自分個人のために盗みを行うことは珍しい。セリーナにとって盗みは、格差社会への彼女なりの抵抗運動なのだ。

 セリーナはゴッサム・シティの問題点を象徴するような存在だ。貧困から犯罪に手を染め、更生しようにも天上から垂れる蜘蛛の糸がなく、社会の底辺で己の境遇をかこつしかない。この状況を甘んじて生きてゆかざるを得ない。
 セリーナの反骨精神は、富める者から盗み貧しき者に還元することで、ささやかな満足を得ていた。ゴッサムが本来的に担わなければならない社会的義務を自分が肩代わりにしているだけ、という意識を持っていた。義賊的行為はセリーナにとって社会に対する働きかけではあったが、彼女自身が自覚するように小さな抵抗だった。
 セリーナの目標は、ゴッサムを離れることだ。女泥棒はどこでだって生きてゆける。それだけの能力はある。けれども、これまでに重ねた犯罪歴が真っ当に生きることの邪魔をする。自業自得ではあるが、自分を曲げずに生きるためにはこの手を汚すことを厭ってはいられないのだ、この街では。生まれながらの金持ちは一生知らずに済むことだろうけれど。
 セリーナ・カイルの望みはひとつ。人生をリセットするという魔法のソフトウェア、「クリーン・スレート」を手に入れて人生の再出発を図ること。
 そのためならば意に添わない盗みだってやってみせる。セリーナにブルースの指紋を盗ませたのは、ウェイン産業乗っ取りを企むダゲット。この男は本来はセリーナの敵であり標的であるが、ダゲットが「クリーン・スレート」をちらつかせて彼女に仕事を命じたのだ。
 ここにも経済格差と搾取の構図が完成している。そして、それを利用しようとする者が現れる。

amazon:【ムービー・マスターピース】 『ダークナイト ライジング』 1/6スケールフィギュア ベイン  八年前、言葉とともに舌を覗かせ、個性的な話し言葉を操った男は、ゴッサム・シティに混乱を齎した。ジョーカーは特徴的な口許から毒を吐いた。その毒は人々の心を侵し、魂を汚した。
 今また個性的な声の持ち主がゴッサム・シティに現れた。用途は不明だが特徴のあるマスクで口許を隠した男。名はベイン。
 巨体に見合った膂力と格闘技術。非情にして苛烈な判断と実行能力は一般人のできるところではない。すべてが規格外だ。
 ジョーカーが部下との関係性で常に1対1を基本としていたのとは対照的に、ベインは集団の頂点で部下を支配する。カリスマ性の在り方がジョーカーとベインとでは異なるのだ。ベインのそれはすこぶる軍隊的である。
 ブルースがアルフレッドから聞いたところでは、ベインは傭兵である。ベインのそれとして噂される逸話の数々はどこまでが本当かわからないが、その代表的なものは以下の通り。ベインは世界のどこかにあるという最悪の牢獄から脱獄した唯一の人間らしい。
 その通り名を「奈落」とする牢獄は、脱獄不可能とされている。唯一の例外がベインとのこと。脱獄後、ベインが加入したのが「影の同盟」だ。
 ラーズ・アル・グールの「影の同盟」!
 ブルース・ウェインを鍛え上げ、彼に確固とした信念を齎した恩人であり師であり、武力行使による社会の変革と滅亡を図るテロリストとその集団。
 シリーズ第一作「バットマン ビギンズ」でバットマンによって壊滅させられた「影の同盟」の亡霊が、ブルースの前に現れたのだ。
 ベイン自身はラーズ・アル・グールによって組織を破門された経緯があり、だからブルースとは面識はない。しかし、この傭兵の標的のひとつは、間違いなくブルース・ウェインである。ベインにとってバットマンことブルース・ウェインは、ラーズ・アル・グールを師に持つ同門であり、師を死に追いやった裏切り者である。
 前作「ダークナイト」は、ジョーカーが事件を矢継ぎ早に繰り出すものだから、急展開に次ぐ急展開で息を吐かせない152分だったが、本作は165分の長時間ではあるものの、骨と骨との間をゆっくりと突き刺さってゆく刃物の忍耐強さを象徴するかのような、そんなスピード感覚がある。
 セリーナ・カイルが脱出を願うゴッサム・シティにベインは現れた。ブルース・ウェインへの裁きとは別にベインが抱く、もうひとつの狙い。それは、ラーズ・アル・グールの遺志を遂行することだ。
 ラーズ・アル・グールの子がゴッサム・シティの滅亡を目指し、トーマス・ウェインの息子がゴッサムの平和の実現に力を尽くす。ともに死を厭わず、信念に殉ずる覚悟を持ち、その戦闘理論は「影の同盟」仕込み。
 ベインとバットマンの対決構造は、「持たざる者」と「持つ者」の関係を反映していて、社会秩序の崩壊を活動目的とする「影の同盟」の方法論をベインは用いる。

amazon:【ムービー・マスターピース DX】 『ダークナイト ライジング』 1/6スケールフィギュア バットマン  長い期間を凶悪犯罪にさらされずにいたゴッサム・シティ。
 警察も安寧の時を過ごしてきた。頼りの本部長は病室のベッドにあって現場指揮をとれない。
 嵐が来る。強い勢力の嵐が。
 その嵐は、すべてを吹き飛ばし揺さぶる。そして壊す。
 何の用意もしてこなかった街は狂乱の様相を呈する。そこにおいては秩序も良識も価値基準が逆転し、破滅に向かってひたすら突き進む。
 誰かが止めなくてはならない。市民が等しく死の平等を強いられてそれに馴れる日常から誰かが解放しなければ。
 それは死によって為されるのか?
 違う! それは止めたことにはならない。ただの敗北だ。
 誰かが聖地を回復しなければならない。魂のレコンキスタだ。
 ゴッサムは再びヒーローを求める。本当のヒーローを。

 ヒーローはどこにいる?

 やはり一回の記事では纏められなかった。本作については再び取り上げることをここに約束する。まだ語りたいことが山のようにある。ちなみに次の記事のタイトルは決まっている。
 それは「真実は光の如く輝いて」だ。そこに闇はない。

真実は光の如く輝いて | HOME | 真相は闇に溶けて

Comments:0

Comment Form

Trackbacks:21

TrackBack URL for this entry
http://mescalinedrive.com/mt-tb.cgi/140
Listed below are links to weblogs that reference
身命を闇夜に捧げて from MESCALINE DRIVE
映画「ダークナイト ライジング」感想 from タナウツネット雑記ブログ 2012-07-29 (日) 04:49
映画「ダークナイト ライジング」観に行ってきました。 映画「インセプション」のクリストファー・ノーラン監督が製作を手掛ける「バットマン」シリーズ3作目に...
ダークナイト ライジング from Akira's VOICE 2012-07-29 (日) 11:13
スゴいとしか言えなくて震える。
「ダークナイト ライジング」レビュー from 映画レビュー トラックバックセンター 2012-07-29 (日) 11:43
映画「ダークナイト ライジング」についてのレビューをトラックバックで募集しています。 *出演:クリスチャン・ベイル、マイケル・ケイン、ゲイリー・オールドマ...
ダークナイト ライジング from Memoirs_of_dai 2012-07-29 (日) 12:11
影が薄まるベイン 【Story】 ジョーカー(ヒース・レジャー)がゴッサム・シティを襲撃するものの、ダークナイト=バットマン(クリスチャン...
『ダークナイト ライジング』 バットマン最大の敵に立ち上がる from 映画のブログ 2012-07-29 (日) 17:40
 A hero can be anyone...  クリストファー・ノーラン監督は、三部作のテーマをそれぞれ一言で表現している。  『バットマン ...
「ダークナイト ライジング」 from 或る日の出来事 2012-07-29 (日) 20:08
こういう終わり方しか、なかったか。
ダークナイト ライジング を観たゾ from ヤジャの奇妙な独り言 2012-07-29 (日) 21:57
伝説が、壮絶に、終わる。 ダークナイト ライジング を観てきました 観終わった時は ちょっとした
[映画『ダークナイト ライジング』を観た] from 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭 2012-07-29 (日) 22:49
☆観てきましたよ^^  私は、クリストファー・ノーラン監督版『バットマン』シリーズに、「ノレない、ノレない」と言いつつも、  その作品作りの、ノーラン...
映画「ダークナイト ライジング」感想 from 帰ってきた二次元に愛をこめて☆ 2012-07-30 (月) 03:09
光が強いほど影は濃くなり 希望があるほど絶望は深くなる この映画が何故Risesなのか、観終わると納得出来る。 最初から最後まで途切...
映画:ダークナイト・ライズ Dark Knight Rises 壮絶な最終章は、終りでもあり、始まりでもあった(はず) from 日々 是 変化ナリ 〜 DAYS OF STRUGGLE 〜 2012-07-30 (月) 04:15
アタマの中がオリンピックに支配されてしまいそうな今日この頃(笑) バランス取らなくちゃということで、さっそく公開直後のこの映画をチェック。 当ブログ...
ダークナイト・ライジング from あーうぃ だにぇっと 2012-07-30 (月) 05:32
ダークナイト・ライジング@東京国際フォーラム
『ダークナイト ライジング』(ジャパン・プレミア試写会) from ・*・ etoile ・*・ 2012-07-31 (火) 19:44
'12.07.25 『ダークナイト ライジング』(ジャパン・プレミア試写会)@東京国際フォーラム 今年一番楽しみにしていた作品! ノーラン監督が続編を撮...
映画「ダークナイト・ライジング」ひとつの伝説が終わり、新たな伝説が始まる from soramove 2012-08-02 (木) 09:49
「ダークナイト・ライジング」★★★★☆ クリスチャン・ベイル、アン・ハサウェイ、 トム・ハーディ、マリオン・コティアール、 マイケル・ケイン、ゲイリー・オ...
ダークナイト ライジング (The Dark Knight Rises) from Subterranean サブタレイニアン 2012-08-06 (月) 12:16
監督 クリストファー・ノーラン 主演 クリスチャン・ベイル 2012年 アメリカ/イギリス映画 164分 アクション 採点★★★ 自己紹介の際に出身地も...
『ダークナイトライジング』’12・米 from 虎党 団塊ジュニア の 日常 グルメ 映... 2012-08-07 (火) 08:14
あらすじジョーカーとの戦いから8年、バットマンはゴッサム・シティーから姿を消し・・・。解説伝説が壮絶に終わる『メメント』のクリストファー・ノーラン監督によ...
『ダークナイト ライジング』’12・米 from 虎団Jr. 虎ックバック専用機 2012-08-07 (火) 08:14
あらすじジョーカーとの戦いから8年、バットマンはゴッサム・シティーから姿を消し・
『ダークナイト ライジング』 from 京の昼寝〜♪ 2012-08-09 (木) 12:13
□作品オフィシャルサイト 「ダークナイト ライジング」□監督 クリストファー・ノーラン□脚本 ジョナサン・ノーラン、クリストファー・ノーラン □キ...
【映画】ダークナイト ライジング…ラストは『ありがとうバットマン』みたいな感じ from ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画 2012-09-10 (月) 06:40
ここ数日、実家の目の前(本当に目の前)で、映画の撮影をしているらしいのです というのは、実家に出入りする娘と、私の母親からの情報。 子役(とその親)がた...
映画:ダークナイト ライジング from よしなしごと 2012-09-30 (日) 18:46
 2005年のバットマンビギンズから再スタートしたノーラン版バットマンシリーズ3部作もいよいよ最終章。ダークナイトの記事です。
ダークナイト ライジング from 銀幕大帝α 2012-12-07 (金) 23:49
THE DARK KNIGHT RISES/12年/米/164分/アメコミヒーロー・アクション/劇場公開(2012/07/28) −監督− クリストファー...
ダークナイト ライジング from いやいやえん 2012-12-11 (火) 13:59
「バットマン」シリーズ3部作の完結編。 重厚な雰囲気は変わらずですが、前作「ダークナイト」が凄かったので、本作でどう締めくくるのかと期待がとにか...

Home > 身命を闇夜に捧げて

Feeds
blogram投票ボタン フィードメーター - MESCALINE DRIVE 人気ブログランキングへ
Message
Visitor

Return to page top