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深更の闇に紛れて

amazon:[Blu-ray] 【初回生産限定スペシャル・パッケージ】ダークナイト(2枚組)  アメリカンコミックの一方の雄、DCコミックのヒーローといえば「鋼鉄の男」ことスーパーマンが思い浮かぶ。星条旗をモチーフとしたコスチュームの彼は、空を自由に飛びまわる。それとは対照的に、闇に紛れる扮装で夜の街を駆る男がいるが、彼もまたDCの看板である。
 クリストファー・ノーラン監督作品の「ダークナイト」は、題材こそアメコミヒーローに取ってはいるが、これは紛れもなく「人間」を描いた作品である。極限状況に置かれて人は何を思い、如何に惑い、その先にどのような選択を下すのか。矢継ぎ早に繰り出される問い掛けは、観る者を揺すぶる。
 自分はどのような答えを出すだろうか? 果たして自分を保てるだろうか?
 主演はクリスチャン・ベール。前作に引き続いてマイケル・ケインとモーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマンが脇を固める。ヒロインはケイティ・ホームズからマギー・ギレンホールへと代わった。
 本作のヴィランは二人。狂おしいまでに燃えたぎる魂の器を演じた二人の俳優が、「ダークナイト」を傑作へと押し上げた。ひとりはアーロン・エッカート。正と邪の間で揺れて物狂いの境地に達する男を演じた。もうひとりはヒース・レジャー。
 精神を研ぎ澄まして、ひとりの偏執狂の抱える底無しの虚無に己のすべてを流し込んだ男は、もうこの世にはいない。「演じる」ことを究めて役柄に喰われた役者馬鹿、ヒース・レジャーに最敬礼である。彼はその凄絶なる演技によって伝説となった。

amazon:[Blu-ray] 【初回生産限定スペシャル・パッケージ】バットマン ビギンズ  ヒーローの物語には、神や異星人との邂逅を経て、あるいは進みすぎた科学技術の齎す身体組織の変化を経て、主人公が超人的能力を身につける、あるいは秘められた特殊能力に目覚めるといった定型がある。己が強大な力を有することを主人公は自覚し、そこではじめてヒーローとしての役割を果たすことに思いが至る。
 ゴッサム・シティには不法の自警市民がいる。アウトローでありヒーローでもある彼は、鍛え上げた肉体と身につけた格闘技術、親から受け継いだ財力こそ人並み外れてはいるものの、地球の引力に逆らって空を飛んだり、念動力や精神感応といった超能力を操ったりするわけではない。ある日、突然に強くなって、そしてヒーローを志したわけではない。
 その正体であるブルース・ウェインはただの人だ。幼い頃に暗闇と蝙蝠、そして人の暴力によってトラウマを負い、人生のうちの短くない期間を迷走に費やした。
 復讐心のおさめどころを失ったブルースは、胸にたぎる怒りから純然たる力を求めて、厳しい修行の道を選ぶ。そのなかで克己の何よりも困難であることを知る。超越者たらんと欲して求めた力も、それ自体が麻薬のように人を溺れさせることを目の当たりにする。
 力はそれ自体を評価するものではない。それをどう使うかが重要なのだ。何のために力を手に入れるのか、身につけた力をどう役立てるのか、ブルースはそれを自らに問う。
 ゴッサム・シティに帰ったブルース・ウェインが目にしたのは、父親が愛して命を捧げた故郷の腐敗しきった姿。経済格差によって生まれた歪みに組織犯罪が入り込み、不正と汚職が蔓延する。正義なんてものを市民の誰も信じてはいない。
 ここにおいてブルースは己の使命に目覚める。今の彼は闇雲に理想を掲げるだけの子どもではない。無力でもないし、力の何たるかを知らないわけでもない。確固とした信念を持ち、それを実行するだけの力を有し、その使い方を知っている。
 在りし日のゴッサム・シティを取り戻すため、ブルース・ウェインは街の健全化に邁進する。

amazon:【ムービー・マスターピース DX】 『ダークナイト ライジング』 1/6スケールフィギュア バットマン  ゴッサム・シティの問題は、一部の市民が受容せざるを得ない貧困にある。経済格差自体は、資本主義経済の仕組みから逃れられない以上、これが生じてしまうのはやむを得ない。しかし、容易に犯罪に手を染めさせるほどに生活を逼迫させる貧困は、社会における病巣だ。早急に治療を始めなければならない。
 この状況を覆そうにも、それを阻む勢力が存在する。ゴッサム・シティでは官民ともにマフィアと癒着しており、この反社会的な組織は健全な経済活動の回復を望んでいない。
 マフィアは社会に歪みを作り出し、そこに利益を求める。健全な社会のたとえ一部であっても、ひとたび犯罪組織に取り憑かれたなら、見る間に肥大した癌によってその社会は機能不全を起こす。
 だから、街の健全化には組織犯罪の撲滅が必須なのだ。マフィアを壊滅に追い込まなければならない。
 問題点はわかった。ならばその解決方法は?
 マフィアが暴力によって街を支配するなら、よりいっそう大きな力を用いて悪党どもに恐怖を植え付けよう。恐怖によって犯罪行為を抑制しよう。
 力による粛正しか選択肢を持たないのは、ブルース自身が力に囚われているから。暴力を憎む一方で、手段としての暴力が持つ圧倒的な効果を放棄できない。
 また、「非暴力」を掲げて無抵抗の力を恃むには、ブルース・ウェインは社会の暗部を知りすぎてもいた。理想だけでは何も成し得ない。信念を貫くには断固たる覚悟と実行するための力が必要だ。
 ブルースは信念を己のトラウマに仮託して、何人たりとも侵せない力の具現を果たした。
 ケープを纏って闇に潜む十字軍騎士。かくしてバットマンが誕生する。

 バットマンは組織犯罪の撲滅を目指している。おのずと標的はマフィアとなる。
 組織力に長け、司法内部に協力者を持つマフィアを相手にするのだからとやりたい放題を尽くせば、バットマンこそが暴力の権化となり、尊い信念も評判も地に堕ちてしまう。
 力の持つ麻薬的魅力とそれが齎す結末を知るブルースは、自らが道を誤ることの恐怖を抱いている。克己を貫くために、彼はバットマンの活動にルールを課す。
 己の欲望を満たすため、思うままに力を行使する者をヒーローと呼べるだろうか?
 無論のこと、そんな奴はヒーローじゃない。ヒーローとは呼べない。
 バットマンが立てた誓いは「不殺」だ。どんな悪党であっても自ら手を下すことを禁じる。数々の法律を犯しても、殺人だけはどんな理由があっても赦されない。
 バットマンは、自らは法の外に立ち位置を決めているが、懲悪を法の正義に委ねている。「目的達成のためなら手段を選ばない」というのは、このヒーローには当てはまらないのだ。本来は。
 自ら定めたルールに忠実であろうとすると、それが枷となって行動に心理的な限界が生まれる。バットマンには前述したような最後の一線がある。それを踏み越えさせようとする者が現れる。
 すべての約束事を鼻で嘲笑う道化師だ。

 組織を運営するにも先立つものがなければ成り立たない。ならば、金の動きを断つというのは、まして巨大な組織に対しては大いに効果的といえる。
 マフィアのマネーロンダリングの実態を白昼のもとに曝すことで、名目はともかく実質は犯罪組織のものである資金を警察に押収させる。バットマンの狙いは、マフィアを経済的困窮に追い込んで組織壊滅を実現することにある。
 組織運営にとっての血ともいうべき資金を吸い上げるバットマンは、マフィアにとってみればまさに吸血蝙蝠にほかならない。このまま自由にさせておくと、自分たちが干上がってしまう。夜の闇を嫌って夜間の活動を自粛せざるを得ないというのに、今度は資金源まで断たれてしまうというのか。
 組織が生き延びるのに蝙蝠対策は火急である。
 そこに現れたのが狂気の道化師だ。最近、縄張りを無視して好き勝手に暴れまわっているゴロツキ。

amazon:【ムービー・マスターピース DX】『ダークナイト』 1/6スケールフィギュア ジョーカー  バットマンは社会の更正を目指している。マフィアは社会と共生しつつ悪事を為す。いずれもその影響力の増大によって自らが望む社会の実現を企図している。
 かたや不法の自警市民、かたや犯罪組織。いずれも法律を逸脱しておきながら、自分たちは社会という枠組みがあってはじめて存在を許されているということを弁えている。
 ここに社会との関係を一顧だにしない者がいる。これまでどんな人生を歩んできたのか、ほんの少しも窺えない男だ。
 この偏執狂がバットマンとマフィアの関係を掻き回す。社会不安の権化となってゴッサム・シティを恐怖のドン底に叩き込む。
 男は「ジョーカー」を自称している。
 世界にポトリと垂れた染み。毒の黒。はじめは一点の小さな染みだったのが、拭わずに放置しておいたばかりに滲みに滲んで、世界を染め上げんとばかりに勢力を増している。それがジョーカー。
 ジョーカーの虚無は闇よりも深くて黒い。ドロドロと溜まった黒が噴き出し、ゴッサム・シティに降り注ぐ。昼と夜の区別なく悪夢に染め上げる。
 この毒は、光の騎士をも黒く染めるのだ。

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