信念を闇夜に照らして | HOME | 桃色遊戯

暗号解読は踊る!

amazon:[Blu-ray] SHERLOCK / シャーロック  アーサー・コナン・ドイルの生んだ探偵は、シリーズ探偵の面白さを多くの人に知らしめ、国境と時代を越えて世界中で今も愛されている。なにしろ相次いで映画化とテレビドラマ化をされるくらいなのだから。
 ガイ・リッチー版「シャーロック・ホームズ」シリーズは従来のイメージを覆すシャーロック・ホームズ像を打ち出して衝撃的だったが、BBC製作の「SHERLOCK」もまたインパクト大である。
 ヴィクトリア朝のロンドンで大活躍をした名探偵を21世紀に甦らせるという発想が素晴らしい。科学技術も法整備もまるで異なる時代背景のもと、探偵の役割に変化は生じてない。
 ガイ・リッチー版「シャーロック・ホームズ」シリーズで世界一の名探偵を演じるロバート・ダウニーJr.が新たなシャーロック・ホームズ像を演じあげたというなら、「SHERLOCK」のベネディクト・カンバーバッチも「まさしくシャーロック・ホームズ!」といいたくなる風貌と雰囲気を持っている。
 ベネディクト・カンバーバッチ演じるシャーロック・ホームズには、多種多様な個人の在り方を受容する現代においてさえ、常人の枠から外れてしまう天才の孤独を感じさせる。そんな世界においてシャーロック・ホームズを此岸に留めるのは、彼の興味の的である難事件と忠実なる助手の存在にほかならない。
 難事件に向き合うことだけがシャーロック・ホームズに生き甲斐を齎す。そして事件解決の手助けをし、日常生活を営ませるジョン・ワトソンこそ、シャーロック・ホームズの冒険には不可欠な存在である。
 マーティン・フリーマン演じるジョン・H・ワトソンは、誠実さと精悍さを併せ持ち、シャーロッキアンに「これぞジョン・ワトソン!」と唸らせる。役柄としての完成度は、ベネディクトのホームズ以上のものがある。

amazon:[単行本] 暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで  BBCこと英国放送協会製作の「SHERLOCK」第二話は「死を呼ぶ暗号」だ。
 本作においてホームズは暗号解読に挑む。しかしこれがすこぶるつきに難解なのである。
 暗号というのは、それをやりとりする当人同士の間でのみ解読できるものでなくてはならない。第三者が目にして読み取れてしまうようでは、暗号としての役割を果たしてないことになる。
 そこにあるのは、情報漏洩防止の意図である。
 客商売においては客前であからさまにできない事柄を隠語や符丁を使って伝達することがある。ゴキブリ出没を「お客様がいらっしゃいました」と表現する等がそれだ。
 情報の保護という観点で暗号は決してなくならない。インターネット全盛の現代においては、なおさらに情報管理が重要視されている。
 ネット上で何かしらのサービスを利用するのに際して、ログイン時に暗証番号の入力を求められるのが普通だ。この暗証番号こそ、情報の送受信を安全に行うための暗号にほかならない。だから、名前や生年月日等の推測の容易なアルファベットや数列を暗証番号に設定してはいけない。
 数桁の暗証番号ならそのままを記憶することも可能だが、連絡事項等の複雑な情報の伝達にはその内容を暗号化しなければならない。これには暗号文の受け手が解読できなければ意味がない。つまり初見で解読できないようでは、情報伝達として成立してないことになる。
 情報伝達として成立しつつも外部への漏洩を防ぐ。これが暗号として求められる性能だ。
 本作で用いられている暗号システムは、二重三重に情報が加工されていて、解読は困難だ。
 まず、一見すると落書きにしか見えない、しかし侵入者がわざわざ書き残していった記号それ自体が手掛かりだ。何も盗らずに去っていったのなら、侵入者はそれを書くためだけに忍び込んだことになる。高層階のしかもセキュリティー体制の整っている一室に?
 このことから、記号の意味するところだけが重要なのでなく、それが残されたこと自体にも理由があるということが考えられる。
 記号はその意味を知らなければ落書きにすぎないけれど、その意味を知る何者かがこのフロアにいるから書き残されたということがわかる。そして、秘密裡に伝達がなされなかったことには、情報の送り手から受け手への穏やかならぬ意図を感じる。
 もしや、これは脅迫なのではないか?
 だとするならば、この暗号の受け手を特定するところから始めよう。

 ロンドンの大英博物館にはロゼッタ・ストーンが展示されている。
 他言語にて記された内容を自国語に翻訳することは暗号解読に通じる。言語体系のルールを理解することは暗号システムを破るのと同じ。ロゼッタ・ストーンはヒエログリフの解読において重要な鍵となった。
 ロゼッタ・ストーンの碑文は、同じ内容を三種類の文字で刻まれている。判読可能なギリシア文字を手掛かりにヒエログリフ解読に挑む先人たちの物語は、それだけで燃える内容なのだが、本作の内容からは懸け離れているのでここまでとする。
 暗号解読の方法は、ロゼッタ・ストーンがそうであるように、記号変換に際して鍵となるものを探り出す必要がある。暗号システムの構造を看破したところで、鍵を見抜けなければ解読には至らない。そして鍵の設定は任意であるため、これを特定するのは困難を極める。
 ここで考え方を変えてみる。
 暗号文を解読するには暗号システムのすべてを解明しなければならないが、その内容を知るにはもっと手っ取り早い方法がある。暗号システムを知る者に読んでもらうことだ。自力で読めなくとも内容さえわかればよいと割り切るのも、事件解決のためには必要だ。
 かくして人捜しが始まる。情報の送り手と受け手に利害関係の不一致が見られるなら、まして一方に生命の危機が迫っているなら、安全を保証することで解法を聞き出せるかもしれない。
 独力で暗号システムを解明せずとも、早期に事件解決できればそれにこしたことはない。しかし物語の展開として、そうは問屋がおろさない。
 三人が殺され、ワトソンまでが拐かされる。

amazon:[文庫] シャーロック・ホームズの冒険 (創元推理文庫)  シャーロック・ホームズと同居することで家賃が折半となったものの、ジョン・ワトソンの生活が楽になったわけではない。ロンドンは無職の人間が一般的な暮らしを送れるような街ではない。
 カードの支払いすら受け付けてもらえないようでは早晩破綻するのは避けられない。
 せっかくの医師資格だ。これを活かさない手はない。これしか生計はないのだけど。
 面接では嬉しい出逢いがあり、前途は明るいものと思っていたところに依頼が舞い込む。高額な謝礼を受け取ろうともしない探偵と暮らしていたのでは、アッという間にホームレスと化してしまう。
 こうなったらホームズにはなんとしても社会性を身につけてもらわなければ。
 無理である。
 ワトソンの献身ぶりは涙ぐましいものがあるけれども、だからといってホームズが常人のように社会性を身につけるはずがない。
 シャーロック・ホームズが魅力あるキャラクターなのは、その能力の高さのみが理由ではない。一般通念から懸け離れつつも筋の通った理念を持ち、自分なりの正義を貫いているところに魅力を感じるのだ。偏屈なところも高慢なところも麻薬に耽溺するところも、一般に長所といえないような特徴をそなえている、シャーロック・ホームズという人物のすべてが愛おしい。ひとつ屋根の下に暮らす気分にはなれないけれど。
 だから、ワトソンの願いは叶わない。シャーロック・ホームズはシャーロック・ホームズのままだ。
 自ら望んで飛び込んだシャーロック・ホームズとの生活。冒険に満ちた非日常が待ってはいたものの、非日常の特殊性はホームズが引き起こしている。
 本来はホームズが為さねばならない雑事の数々と人を人とも思わぬ彼への不満を当てこすって、ワトソンは窮地に立たされる。中国人の雑な仕事がとんでもない勘違いに発展する。
 とんだとばっちりだ。
 恋人でも作らなければやってられないのはわかるが(しかも、ホームズと行動をともにすると、行く先々でゲイのカップルと勘違いをされるし!)、これについて気になることが。
 ワトソンの同僚となり、恋愛関係となる女性だが、その名をサラ・ソーヤーという。
 聖典におけるワトソンの細君は、「四つの署名」に登場して恋仲となったメアリー・モースタンだ。これについてはガイ・リッチー版でも聖典に従っている。ところが、これまで聖典の設定に忠実だった「SHERLOCK」において、あからさまな相違点。よもや死なせるつもりか? ワトソンに悲しい別れを味わわせるのか? その後釜にメアリーがおさまるということ?
 ホームズ譚において、一般的な人としての営みはワトソンが引き受けなければならない。ホームズとて感情はある。その喜怒哀楽は常人よりも豊かでさえあるけれど、そのスイッチが常人とは大違い。
 謎解き物語において、天才として変人であることを引き受けなければならないシャーロック・ホームズは、「普通」であることをキャラクターとして斥けなければならない。浮世離れしたホームズとの比較でワトソンは浮世にドップリ浸かってなければならない。
 あんな目に遭ったからサラはワトソンの前から去るかもしれないな。変人付きの恋人にはウンザリだろうし。
 ともあれ、ワトソンとサラの関係は経過観察の必要がある。

信念を闇夜に照らして | HOME | 桃色遊戯

Comments:0

Comment Form

Trackbacks:0

TrackBack URL for this entry
http://mescalinedrive.com/mt-tb.cgi/135
Listed below are links to weblogs that reference
暗号解読は踊る! from MESCALINE DRIVE

Home > 暗号解読は踊る!

Feeds
blogram投票ボタン フィードメーター - MESCALINE DRIVE 人気ブログランキングへ
Message
Visitor

Return to page top