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のばした手の先にあるもの

「ベルセルク 黄金時代篇Ⅱ ドルドレイ攻略」公式サイト  一回の記事で語りきることのできなかった「ベルセルク 黄金時代篇Ⅱ ドルドレイ攻略」。
 本作は、白泉社のヤングアニマル誌に不定期ながらも二十年以上にわたって連載している、三浦健太郎の漫画「ベルセルク」の映画化作品第二弾である。
 隻眼の流浪の剣士が、その旅のなかで「使徒」と呼ばれる異形の怪物と死闘を繰り広げる内容だ。身の丈ほどもある大剣をふるう、「黒い剣士」ことガッツは宿敵との対決を求めて、あえて「使徒」に挑み続ける。
 ガッツの道行きは、果たさなければならない復讐と決着をつけなければならない己の宿命とを背負った旅である。
 今回映画化される三作品は、ガッツが呪われた宿命を背負う以前の物語。その救われることのない半生において、黄金時代と表してもよいほどに輝いていた青春時代を描いている。

 ミッドランド王国とチューダー帝国との間の百年戦争。終局の見えない戦況に著しい変化が生じたのは、ミッドランド王国軍に常勝不敗の傭兵集団が加わったことが理由だ。
 天才グリフィスが率いる「鷹の団」。正規軍随一の軍歴を持つ王弟ユリウスさえグリフィスの前では凡庸な軍人でしかなかったが、彼が暗殺されてからはこの新参者がミッドランド王国軍の屋台骨を支えていた。
 グリフィスと「鷹の団」の働きによって戦勝を重ねるミッドランド王国軍。そんな彼らの前に、難攻不落の代名詞ともなるドルドレイ城塞がたちはだかる。
 天然の要害を利用して建てられた城塞は高く堅く、駐留する兵員数は三万にのぼる。しかも帝国随一の武将と名高いボスコーン将軍が率いる紫犀聖騎士団は帝国最強と謳われている。
 この無敵の盾と最強の矛を有するドルドレイ攻略を、グリフィスは兵数五千の「鷹の団」のみで成し遂げると宣言する。

amazon:figma ベルセルク ガッツ 黒い剣士ver.  前回の記事では、ガッツとキャスカの間に生まれた人間関係の変化、そしてグリフィスの仕掛けたドルドレイ攻略の内容について述べた。
 ここからはグリフィスの試みたもうひとつの攻略、失敗したミッドランド王国攻略について述べる。
 強固なハードウェアに対して正攻法で挑まず、奸計をもってこれを奪取したドルドレイ攻略。
 ミッドランド王国においては、軍功を数々打ちたてて将軍の地位までのぼった。既に爵位を手に入れているグリフィスだが、翌月の叙任式まで待てば晴れて白鷹将軍の誕生だ。自分の国を持つという夢の実現にグリフィスは大きく前進したわけだ。
 グリフィスの栄達は彼の夢の実現やミッドランド王国の軍事力強化に留まらない。グリフィスはその昇進によって、身分階級制度という強固なソフトウェアに大きな風穴を穿つのだ!
 自分の国を持つ。それは具体的にはどの国を指している?
 ミッドランド王国だ。
 ミッドランド王国を手に入れるとはどういうこと?
 ミッドランドの国王になるということだ。国を裏から動かすという考えもあるだろうが、グリフィスは自分の夢をそんなかたちで成し遂げたくはないはず。
 ミッドランドの国王になるのならば、しかも正当なかたちでなるには、どういう手段がある?
 王位継承者と婚姻を交わすことだ。つまり、シャルロット王女との結婚だ。
 これを達成することによって身分階級制度という強固なソフトウェアは崩壊し、グリフィスのミッドランド王国攻略は完成する。
 この攻略において、グリフィスはキャスカがドルドレイ攻略で果たした役割を自らに課した。ミッドランド王国の内部深くまで潜入し、きっとシャルロットを陥落させることを選んだ。危険をものともしないところは、ボスコーンが根っからの軍人であるように、グリフィスもまた戦いに生きる軍人であることの証左だ。
 映画化による改変は散見するけれど、青鯨超重装猛進撃滅騎士団の団長アドンを「トロイの木馬」に仕立てたのは上出来である。堅い守りの内側に入り込む流れを作り、後のグリフィスの失敗との対比を鮮明にする。
 グリフィスは、欲するものを手に入れるためなら進んで危険と向き合える。目的のためなら手段を選ばないところがある。ヒヒ爺と同衾することも辞さない。ドルドレイ攻略にはゲノンとの奇縁すら利用した男だ。否、ゲノンの存在があったからこそドルドレイ攻略を思いつき、だから敵対するミッドランド王国を自分の国盗りの対象に選んだのかもしれない。
 深謀遠慮のグリフィスのことだから、ミッドランド王国攻略も大胆且つ慎重に進めるはずだったろう。幸いにしてシャルロットはグリフィスに想いを寄せている。ここは短兵急に事を進めず、じっくりと状況を見据える必要がある。
 事実、国王のシャルロットへの秘めたる想いをグリフィスは看破していなかった。それを情報として得ていたなら、ミッドランド王国攻略作戦は違う推移を見せていたかもしれない。
 稀代の戦略家であるグリフィスによる一世一代の国盗りである。失敗は許されない。だから、本来ならば戦端をきるまでに万全を期する必要があった。しかし、ある出来事がグリフィスから平常心を奪い去った。
 ガッツの脱退である。

amazon:[Blu-ray] ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵  ここで話題は変わる。グリフィスの失敗は人間関係の変化に大きく影響を受けているからだ。
 前回の記事において、本作における人間関係の変化を指摘した。
 ガッツとキャスカの間にそれまでの冷戦状態からの変化が見られた。グリフィスに対するものとは違うガッツへの感情がキャスカに芽生え、しかしそれに気付かないキャスカの姿は彼女が望まない女性そのもの。
 そして次に変化の生じた人間関係は、ガッツとグリフィスとの間のそれだ。
 前作の終盤、舞踏会の喧騒から逃れたグリフィスとシャルロット。彼らの会話を漏れ聞いたガッツの意識に変化が生まれた。その会話においてグリフィスが語った、自分にとって友とは以下のような存在だ。
 誰かの夢に縋らなければ生きてゆけない者ではなく、自分の夢を実現するためならこのグリフィスでさえも敵対する気構えの持ち主。それは自分と上下関係にない者であり、つまり対等な間柄ということだ。
 グリフィスのこの言葉はガッツに衝撃を与える。夢とか生きることの意味とか考えずにこれまで生きてきた男だ。ただひたすらに剣を振り回してきて、気付いたら今がある。何のために自分は今を生きているのか? そんなことはわからない。
 だけど、グリフィスの友人観は胸に突き刺さった。
 グリフィスの言葉を耳にしたとき、ガッツは要人暗殺を果たして帰還した直後。しかもその仕事はグリフィスから頼まれたもの。王弟ユリウスを暗殺し、そのさなかに幼い子息まで手にかけた。追い回され堀に落ち、心身ともに泥のようにしてグリフィスのもとに帰り着き、そこで夢の実現へと駆け上がる男の言葉を聞く。
 対等な関係でなければ友とは呼べない。
 ガッツは自分が何者であるかを思い知らされた。
 やがてガッツはこう考えるようになる。自分を探し出すためにまた一から始めなければならない。今度は自分ひとりの力で。それをしなければグリフィスと対等な間柄になれない。だから、「鷹の団」を出て行かなければならない。

amazon:figma 映画「ベルセルク」 グリフィス (ノンスケール ABS&PVC製塗装済み可動フィギュア)  ガッツとグリフィスとの人間関係の変化はガッツの内側から生じたものだけれど、その種を植えたのはグリフィスだ。
 こうしてみると、グリフィスがガッツに及ぼす影響が甚大なこと、ガッツの人生における転換はグリフィスによって齎されることがわかる。グリフィスはガッツにとって人生の岐路にあって道筋を指し示す里程標なのだ。
 ガッツはグリフィスによって自分の行く末を見定めることができた。少なくとも目指すべき生き方というものを自分のなかに見つけられた。それはグリフィスと対等な関係になって並び立つというもの。
 それでは、グリフィスはガッツをどのように捉えていたのか?
 ガッツは「鷹の団」の一員だ。当然、グリフィスの部下だ。グリフィスにとってみれば自分の夢の実現に必要な手駒のひとつ。
 手駒といってもグリフィスがその扱いを疎かにすることはない。グリフィスは自身の夢に縋りつく者を全力で守り丸抱えすることをまるで厭わない。かつてゲノンの寵愛を受け入れたのも、そのほうが安全且つ確実に部下を養えるという理由があった。自分がゲノンに抱かれることで「鷹の団」全体が援助を受けられるのなら、この身を差し出すのに否やはない。死の危険のないところで爪を研ぎ牙を磨けばよいのだ。
 グリフィスにとって部下は友になり得ないが、それでも大切な存在だった。ましてガッツはグリフィス自らが加入を求めた男だ。そしてグリフィスには欲しいものを手に入れずにはいられないという一面がある。一度手中に収めたものを手放せない。
 グリフィスは、自分のもとから去るガッツをどのように捉えたろう?
 ガッツを部下のひとりであるとしか考えてなければ反逆と捉えただろう。このまま自分のもとにいれば、普通では考えられないくらいの栄達だって夢物語ではない。
 今、自分のもとを去るというのはこの先に待っている栄光を捨てることにほかならない。
 それほどまでに自分たちと一緒にいたくないのか? そんなに俺から離れたいのか?
 ガッツが自分のもとから去る理由も自分がガッツに拘る理由もグリフィスにはわからない。わからないまま、だからといってこのままガッツを行かせるわけにはゆかない。
 剣によって奪われたものは剣で取り戻す。
 誰が何を奪われて誰から何を取り戻すのか。これは一方的な流れがあるわけではない。ガッツとグリフィスの間柄は、いつの間にか本人たちの気付かない関係へとなっていた。双方がともに自分たちの関係性に気付いてなかったことが不運。
 本人たちも上下関係であるとしか思わなかったのだろう。初対面のその瞬間から、二人はそんな表面上の結び付きではなかったのに。
 剣のみを携えて戦場を生き抜いてきたガッツ。剣の腕のみならず策謀を巡らせて夢の実現を図ってきたグリフィス。剣で人生を切り開いてきた二人の男が三度対峙する。

amazon:[Blu-ray] ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略  今までに味わったことのない喪失感を抱えて、グリフィスはシャルロットの寝所へ赴く。失ったものを取り戻す代償行為として束の間の征服欲を満たす。否、弱った心を抱きしめてほしかったのかもしれない。
 しかしそこは一国の王女の部屋。たとえ救国の英雄だとて入ることの赦されることではない。
 グリフィスのミッドランド王国攻略計画にシャルロット王女は最重要な装置として組み込まれていたはずだが、それでも彼女との直接的な関係を結ぶのはもっと後になるはずだったろう。王位継承権の第一候補者であるシャルロットとはいずれ結ばれるはずだったのだが、どうにも時期が早すぎた。ミッドランド王国での地位を盤石のものとしてから事を起こすべきだった。
 二人の情事は王女の侍女に発見され、不敬を働いた罪でグリフィスは投獄される。
 こうして、グリフィスのミッドランド王国攻略は一旦は失敗する。すべてはグリフィス自身の軽挙が原因だ。

 仲間と袂を分かち、ひとり己の道を進むガッツ。ミッドランド王国から反逆者の集団として追われる「鷹の団」。投獄のすえ拷問を受け続けるグリフィス。
 物語は大いなる破局へ向けて動き出す。次はいよいよ「蝕」である。若者たちの黄金時代は終焉を遂げる。
 待ち遠しい。でも、その一方で先延ばしにしたい気持ちもある。
 胸の痛くなる展開になることはわかっている。でも、その痛みを肉体と精神に刻んで男は「黒い剣士」となったのだ。絶対に避けては通れない。
 この冬、「ベルセルク 黄金時代篇Ⅲ 降臨」を観に行く。青春の行き着く先を見届ける。

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