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鷹が眼下に見下ろす獲物

「ベルセルク 黄金時代篇Ⅱ ドルドレイ攻略」公式サイト 「ベルセルク 黄金時代篇Ⅱ ドルドレイ攻略」を観た。
 本作は、白泉社のヤングアニマル誌に不定期連載のドル箱作品、「ベルセルク」の同名映画化作品第二弾だ。ちなみに不定期連載の理由は、作者の三浦健太郎がアシスタントを使わずに原稿を仕上げているからだ。作者生存中に完結するのかしら。
 2012年、劇場における映画観賞の一本目は、完成披露試写会で観た本作の第一弾「ベルセルク 黄金時代篇Ⅰ 覇王の卵」だった。

 「我が青春はあの大空とともに」

 それから半年。"黄金時代"の終わりのはじまりを観るために映画館に足を運んだ。

 ミッドランド王国とチューダー帝国の百年に及ぶ戦争は、ひとりの天才軍人と彼の率いる軍団がミッドランドに与することで情勢に変化が訪れる。
 傭兵の世界では知らぬ者のない、グリフィスと「鷹の団」。戦場に生きる者にとってこの傭兵集団は、味方側につけば心強いが敵側にまわったなら戦慄とともにその名を聞くことになる、「戦場の死神」。常勝不敗と謳われる「鷹の団」がミッドランド王国に加勢した。
 戦果を上げる「鷹の団」と比してミッドランド王国正規軍は精彩を欠くばかり。王弟ユリウスが暗殺されてからは抜きん出た軍才を持つ者はおらず、国王のグリフィスに対する信任はいよいよ厚くなるばかり。
 天然の要衝に築かれた城塞ドルドレイ。それはミッドランドが百年を費やしてついぞ落とせない、チューダー帝国の防衛線の要。三方を峻険たる山に囲まれ、攻めるは城塞の前面からのみ。その城塞も高さと堅さを誇り、一兵すら壁を乗り越えられない。攻城戦に手を焼いていると、帝国最強の紫犀聖騎士団の突撃を食らう。
 ドルドレイを攻略することはミッドランド王国百年の悲願。チューダー帝国にとっては巨大な楔を打ちつけられることになる。
 ここまでは「鷹の団」の活躍もあって快進撃を続けてきたが、難攻不落のドルドレイを前に軍議は紛糾する。これを機にドルドレイを一気呵成に攻略すべしという声のある一方で、被害を拡大せぬよう長期的な展望に立って攻略すべしという慎重論も。
 兵力と戦費とを秤にかける議論の続くなか、国王から意見を求められたグリフィスは一言。
「御命令とあらば」
 かくして、兵員約五千の「鷹の団」が三万もの兵力を擁するドルドレイ攻略に挑む。

amazon:[Blu-ray] ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略  本作において、「鷹の団」を中心とした主要登場人物の人間関係に変化が訪れる。
 顔を合わせば何かと喧嘩していたガッツとキャスカの関係は、ある出来事を発端としてキャスカのガッツへの印象に変化が生じたことで、あからさまな反目からほのかな友好へと推移する。
 キャスカの体調不良を起点として転がり落ちるように招いてしまった絶体絶命の状況。敵陣地内に入り込んでしまった、たった二人きりの「鷹の団」。
 疲労と高熱のなかキャスカはガッツにグリフィスへの想いを吐露する。あの人の剣になりたい、と。
 キャスカが見るグリフィスとガッツの関係性は、それこそ彼女自身が望むそれであり、だからキャスカはガッツに嫉妬するのだが、当のガッツが抱くグリフィスへの想いは、キャスカの願う関係性とは違う。自分はグリフィスの懐刀になりたいわけではない。グリフィスと対等な間柄になるのだ。
 ガッツとキャスカの見ているものは違う。同じものを目指すならそこに競争意識が生まれ、そこから憎悪の感情が生まれるかもしれない。しかし、ガッツとキャスカがそれぞれ求めるところは違う。本来は反目する間柄ではないのだ。
 だからガッツは目指す自分に邁進するキャスカを応援できる。目指すものの具体的なイメージを持つキャスカを、むしろ眩しく感じているかもしれない。彼女を羨んでいるかも。
 キャスカは自らの価値観と合致しないガッツの言動に対して反感を覚えていたのが、自分が抱く性差を超えた夢にガッツが理解を示すことに戸惑う。まして身を挺して自分を逃がしてくれた男だ。
 チューダー帝国軍兵士に囲まれ孤立無援の「鷹の団」斬り込み隊長は、ここに百人斬りの戦績を残す。グリフィスら「鷹の団」の面々を引き連れ、死屍累々の戦場に戻ったキャスカは、それまでの態度とは正反対にガッツの生死を気遣う。これまでならガッツの単独行動をスタンドプレイと非難していたのに。その言動から彼女の意識の変化が窺える。
 ガッツの人となりに触れるなかで、キャスカは自分の望みと改めて向き合う。自分はどうありたいのか、グリフィスにとってどういう存在でありたいのか。
 そしてこれは別の話になるのだけれど、自分の立ち位置をガッツとの対比のなかで何度も確認してきたキャスカだから、ガッツの変心にいち早く気付けたのだろう。

amazon:figma 映画「ベルセルク」 グリフィス (ノンスケール ABS&PVC製塗装済み可動フィギュア)  人間関係の変化について語るのは、一旦、措いておく。
 次に語るのは、グリフィスの図った"攻略"についてである。
 ドルドレイの城塞はチューダー帝国の国土防衛における最重要拠点。天然の要害と帝国軍最強を誇る機動兵力を有する。まさに無敵の盾と最強の矛をそなえているといって過言ではない。
 ハードウェアで勝る相手に正攻法で立ち向かうのは賢い戦法とはいえない。城塞も兵団も正面から攻めきれないならば、人を攻めるしかない。
 ドルドレイ攻略に先駆けて敵方の将を捕らえたのは僥倖であった。そして、ドルドレイの総督がグリフィスと旧知であり、しかも彼に執心であったことも。これらの巡りあわせも勿論のことだが、ドルドレイ城塞が難攻不落であることや紫犀聖騎士団が帝国最強であることに加えて戦力差が激しいことが、グリフィスのドルドレイ攻略に必要な条件だった。これらの状況が揃ってはじめて勝ちの目が浮かぶ。
 そしてこれは当たり前ではあるが、寡兵であっても自らの率いる「鷹の団」の強さをグリフィスは信じていた。殲滅されなければ自分たちは必ず勝つ、と。
 グリフィスが仕掛けたのは奸計に属するものだ。いわゆる「トロイの木馬」作戦。
 いかに堅い殻に覆われていようともその内側は得てして脆いもの。力押しに攻めて落ちない城塞ならば、少数の精鋭部隊を潜入させて内側から落とすしかない。
 この作戦において「トロイの木馬」の役割を担わされたのは、先の戦いで捕虜となったアドンだ。彼とその部隊のドルドレイ帰還が即ち「鷹の団」による潜入工作であった。この少数精鋭部隊を指揮するのは千人長のひとり、キャスカ。キャスカとアドンの間には浅からぬ因縁があり、この対決はドルドレイ攻略のちょっとした見どころだ(「ちょっとした」としかいえないのがアドンに所以するところであり、アドンのアドンたる存在意義である)。
 さて、「トロイの木馬」作戦によってドルドレイ城塞内部に精鋭部隊を送り込めたにせよ、城塞内に留まる兵力がそれを大いに上回っていたなら意味はない。潜入部隊は殲滅させられるだろう。ここでグリフィスが考えるべきは、ドルドレイの守りを手薄にすることだ。そしてそれを可能にする仕掛けのタネは随分と以前に蒔かれていた。
 傭兵集団「鷹の団」の若き団長は、かつて現在のドルドレイ総督と関係があった。男色家のゲノンはグリフィスを寵愛することで「鷹の団」を庇護下に置いていた。ゲノンのもとから立ち去ったグリフィスにこの老人は未だ執着を持っていた。
 グリフィスはゲノンの己に対する執着心をドルドレイ攻略に利用した。自らを囮として、ゲノンをはじめ城塞の守備要員を引きずり出したのだ。これにはグリフィスを生け捕りにできるものとゲノンに思い込ませる必要がある。それには圧倒的な兵力の差を提示してやるのがわかりやすい。だから、グリフィスは三万の兵に五千の寡兵で挑むという奇策を用いたのだ。
 敵方の将を捕らえるのはただ勝利するより難しい。戦力で圧倒していても戦局の推移次第では生け捕るはずの敵将を戦死させてしまうかもしれない。また、生け捕るにしてもその対象は敵将なのであるから、その身辺には少なからず護衛がいるだろうことを考えると、さらに難易度は増す。
 ゲノンは、一方でドルドレイ総督としての立場があり、他方で男色家としての個人的な欲望を満たしたい。自国防衛のために勝つには勝たねばならないし、だからといって圧勝のすえに敵将を討ってしまうのは認められない。
 戦局を優勢にしつつも手加減を強いられる。紫犀聖騎士団をはじめとするドルドレイ駐留軍は、兵力において圧倒的優位にありながら戦いの選択肢を狭められるのである。それも上級官職の命令によって。
 紫犀聖騎士団を率いるボスコーン将軍は軍人として優れている。グリフィスほどの創造性はないにせよ、紫犀聖騎士団がチューダー帝国最強と謳われるのは、ボスコーンの統率力とそれを為さしめるカリスマ性による。そしてそのカリスマ性は、戦場におけるボスコーン自身の戦闘能力の高さから生まれる。ボスコーンは根っからの軍人なのだ。
 上下関係は絶対の軍隊に身を置いているからこそ、ボスコーンはドルドレイにおける総司令官としてのゲノンの命令を無碍にはできなかった。幸いにも自軍は敵に数倍する戦力を有する。敵兵を少しずつ削ってゆけば、敵将を生け捕りにするのも不可能ではない。いずれにせよ勝利は揺るがない。このように考えたことだろう。
 しかし、そこにゲノンが余計な一手を打つ。
 グリフィスを無傷で捕らえた者に、思うままに報償金をとらせる!
 この下知によって、国のために死線を駆け抜けていた兵士に生存への強い欲望が生まれた。それまでは死を覚悟していた兵士も、目の前に莫大な金額の褒美を提げられたら考えを改める。死んだら損だ。あるいは、俺が褒美を独り占めだ、と。
 ボスコーン直属の紫犀聖騎士団はともかく金に目のくらんだ兵士に組織だった軍事行動は期待できない。ボールに群がる小学生のサッカーのように、グリフィス目掛けて動くだけ。
 生け捕りという命令のもとに仕留めるつもりのない剣を前にして、これを捌けないグリフィスではない。注意すべきは根っからの軍人であるボスコーン将軍。この剛の者に拮抗できるのは、百戦錬磨の「鷹の団」においてもグリフィス自身かあとはガッツくらいのものだ。
 ゲノンとしては多くの兵員を投入しエサをちらつかせることでグリフィスの身柄確保を確実なものにしたかったのだろう。しかしその実態はどうかというと、ゲノンはドルドレイをチューダー帝国とミッドガルド王国の二国間戦争の激戦地から己の催したる鷹狩りの場へと変えてしまった。ここで鷹狩りと表したのは、大勢で獲物を追い立てる様子が前作「覇王の卵」に見られた鷹狩りの場面そのままだから。
 この時点でグリフィスの戦略は成功している。戦局を思うままに動かした。あとは部下を信じるのみ。
 その期待に応えたキャスカとガッツ、そして「鷹の団」の面々。難事を成し遂げた達成感のなか、ガッツはひとり決断する。

amazon:[Blu-ray] ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵  ドルドレイを驚くべき策にて攻め落とし、しかもチューダー帝国最強の紫犀聖騎士団率いるボスコーン将軍を討ち取った「鷹の団」。団長のグリフィスは今やミッドランド王国内で英雄視されていた。
 凱旋の宴にて国王はグリフィスと「鷹の団」の働きを称えて、続いて驚くべき発言をする。それは、グリフィスを白鷹将軍に、「鷹の団」を白鷹騎士団としてミッドランド王国正規軍として迎え入れ、各千人長には騎士の位を与えるというものだ。
 根無し草の傭兵集団が、一国の正規軍にまでのぼりつめた瞬間である。
 宴に参列していたキャスカら千人長は、この信じられない出来事に大喜び。泥を啜って生きてきた者にとって身分階級を上がることなど想像だにできないことだが、自分たちはそれを成し遂げた。すべてはグリフィスについてきたからこそである。これだけの良い目を見させてくれたグリフィスなのだから、これからも彼を信じてついてゆこう。
 その生き方を肯んずることのできない者がひとり。
 ガッツはグリフィスの夢に縋りつくわけにはいかなかった。グリフィスと対等でありたいと望んだ。だから、グリフィスのおかげで騎士になる、なんてことを自分に認められなかった。
 だから、ガッツは「鷹の団」を去るしかなかった。
 黄金時代の終焉は、その絶頂期に始まったのだ。

 思ったよりもずっと長くなってしまった。それでいてまだ語り終えていない。どうしたことだ。ダラダラと引き延ばしているわけではないのに、ホント困ったものである。
 というわけで、次回もまた「ベルセルク 黄金時代篇Ⅱ ドルドレイ攻略」を語ります。お付き合いくださいますよう宜しく御願い致します。

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ベルセルク 黄金時代篇I 覇王の卵 ベルセルク 黄金時代篇II ドルドレイ攻略 ベルセルク 黄金時代篇III 降臨 from いやいやえん 2013-07-01 (月) 14:30
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