へのへのもへじ | HOME | どこへ行くにも風まかせ

2パーセントの紳士たち

「キラー・エリート」公式サイト  ゴールデンウィーク明けに日本教育会館一ツ橋ホールで試写会が催された。
 そこで「キラー・エリート」を観た。
 監督はゲイリー・マッケンドリー。ラヌルフ・ファインズの『キラー・エリート』を原作に持つ本作は、実際にあった暗殺事件に基づいているという。なかなかにスキャンダラスな背景を持っているが、実際にあったとかどうとかいう点はどうでもよい。こういう娯楽路線は面白いかどうかでしょ?
 本作に出演するのは、主人公をアクション映画の常連であるジェイソン・ステイサム、主人公の師匠であり相棒でもあるベテランにロバート・デ・ニーロ、強敵をクライヴ・オーウェン。この顔ぶれが揃ったのだから濃厚な男汁を頭からぶっかけられるのは覚悟しなければ。男祭りを堪能した後は、性別を問わず青々と無精髭が生えているはず。
 彼らが演じるのは、実力派俳優が扮するに相応しいプロフェッショナル。背景はそれぞれに異なるものの、いずれ劣らぬ腕前を誇る殺し屋だ。

 本作は公開を目前に控えている。内容を詳らかにするのは心苦しいが、文章力のなさが災いしてサラッと表面を撫でるだけで済ませられない。
 なんていうの? 不器用?
 だから、「キラー・エリート」の観賞を楽しみにしている向きは、ここから先を読み進めるのは止めたほうがいい。「戻る」をクリック!
 あ、ひとつだけ云っておくと、とりあえず髭は生えるぞ!

amazon:[文庫] キラー・エリート (ハヤカワ文庫 NV)  1981年に実際にあった事件だという。
 ジェイソン・ステイサム演じるダニーは、殺し屋稼業から足を洗って平和な日々を過ごしていたが、一通の手紙によって血と硝煙の匂いが立ちのぼる世界へと舞い戻る。
 ポラロイド写真の向こうから見知った顔が見返している。それはダニーの暗殺技術の師匠であり相棒でもあった男だ。
 ハンターを演じるのはロバート・デ・ニーロ。600万ドルの報酬につられて依頼を受けたそうだが、相手が悪すぎた。分が悪いと逃げ出そうとしたが捕まってしまった。殺しの標的ではなくて依頼主に。
 殺しの依頼主はオマーンのある部族の長老だ。今は故郷の地を離れて暮らしている。彼には四人の息子がいて、上から三人は死んでいる。三人が三人とも殺されたのだ。
 罪人には死をもってする復讐を果たすのが彼らの昔からの掟である。しかしひとり残った幼い四男の安全をはかるため、長老はその領地から離れた。
 そして現在。余命を半年を残すばかりとなった老人は、自らが死して後に四男が帰郷できるよう、先送りにしていた復讐を果たすことにした。
 復讐する相手は戦闘のプロフェッショナルだ。たやすく殺せるはずもない。だからプロフェッショナルを雇う。
 ハンターはダニーを巻き込むための囮だ。裏社会も世知辛い。
 ダニーの標的は三人。長老の三人の息子を殺した犯人だ。
 依頼内容は、それぞれの標的に殺害を自白させて記録をとり、そのうえで事故に見せかけて殺すこと。単純に殺すだけでは目的を達せられないところで、仕事としての難易度は高い。
 しかし、この仕事の難易度を上げているのは、その標的がいずれもSAS隊員だという点である。

 英国特殊部隊として知られるSAS(Special Air Service)。オマーン戦争においてイギリスはこの最強部隊を派遣、人知れず軍事介入していたということだ。
 三人のSAS隊員は戦地で殺人を行い、しかしその事実は隠蔽されていた。なにしろイギリスは軍事介入を行っていないことになっている。
 一年のブランクはともかくSASの猛者を相手に尋問して、自白をさせたうえに事故を装って殺す。凄腕をもって鳴らすダニーにとっても最高ランクの難易度だ!
 標的の名前は、ハリス、クレッグ、マッキャン。この最高難度の暗殺をどうにかこなしてゆくうちに、ダニーとその仲間は妨害を受ける。
 それは第一の標的を殺す前から始まった。ハリスをはじめとする標的が何者かを確認するため、調査に着手したばかりだった。
 何者かの偵察に気付いたダニーだったが、追いつめはしたもののついに斥候を捕らえられず、その手際から相手がプロフェッショナルであることを実感する。
 ここで物語は、復讐代行の流れに新たな流れが注ぎ込んで、大きな渦を作る。狙っているつもりが狙われて、主人公たちも安全地帯にいられなくなった。
 いったい、"敵"は何者だ?

amazon:[コミック] MASTERキートン 1 完全版 (ビッグ コミックス〔スペシャル〕)  ダニーたちの行動に気付いたのは秘密結社「フェザーメン」。その性格は元SAS隊員の互助会か?
 同じ大学出身者がクラブを作って「みんなで面白いことしようよ、助け合ってみんなで幸せになろうよ」という風に、何かと理由をつけては集まって決め事したり近況を報告したりするようなもの。
 秘密組織を完全に互助会扱いしてしまっているが、大きく違ってはいないだろう。一部に跳ねっ返りはいるが、会の中心を占めているのは"事業家"だ。
 そしてダニーを追うのは、フェザーメンの跳ねっ返りであるところのスパイクだ。彼を演じるのはクライヴ・オーウェンだ。
 英雄的献身で左目を撃たれて失明、除隊せざるを得なくなったスパイクは、フェザーメンの実行部隊を統率する、根っからの戦闘人種である。
 日常生活に倦み疲れ、世相を反映した軟弱な若者に腹を立て、組織からの連絡を待つ日々。帰属する集団があり、そこにおいて自分は正当に評価されている。居場所を与えられている。だから生きていられる。
 戦場以外に生きる場所を見つけられない男は、だからそれがきっかけだとしても"仲間"の敵討ちをするつもりも"仲間"を守るつもりもない。
 戦場にあるのは勝ち負けだけ。
 戦場でしか生きられないのに、そこで敗北するのは耐えられない。自分の価値は「勝利する」ことにある。それができなくなれば、今の居場所を失うことになる。
 スパイクは組織の中でこそ活きる男だ。左目の視力を失っても、それを補ってあまりある能力を有している。その最たるものが、敵を嗅ぎ分ける能力だ。

 友人を人質にとられて暗殺稼業に舞い戻ったダニー。"身内"の変死に襲撃の匂いを嗅いで臨戦態勢に入るスパイク。彼らはいずれも他人の戦争に介入しているだけ。
 恋人の存在が露見し、あるいは敗北を脳裏に刻み込まれて、彼らは自分を生きるために勝利をつかむことを己に求める。ここでようやく男たちは自分のための戦争に邁進する。
 勝たなければ生き残れない、自分の居場所を確保できない。
 そもそもの発端は、自分の息子に故郷での居場所を作ってやろうと考えた老人の愛情。そのための復讐だ。しかし、当の若者は「神の見捨てた土地」に愛着も郷愁も感じない。なぜそんな何も無いような土地に移り住まなければならないんだ!
 それぞれに自分の居場所を守るため、男たちは自分の戦争を遂行する。
 男たちの"戦争"は、それぞれに重なるところはあるものの、勝利条件がそれぞれに異なるだけに完全に重なり合うわけではない。だから男たちは共倒れすることなく終戦を迎えることができる。
 それは幸せなのか? それとも不幸せなのか?
 それぞれに傷を負い味方を喪い、完勝というわけではないけれど、戦っただけの成果を手にする。

amazon:[Blu-ray] 【初回限定生産】キラー・エリート ブルーレイ&DVDセット(2枚組)  イギリスの帝国主義が領土と憎悪を世界中に拡大し、それがSAS隊員への個人的復讐となって表面化する。そしてここにも搾取の思惑が。
 オマーン戦争が暗殺の背景にあるのは勿論のこと、それを遂行するダニーがオーストラリア人であることは偶然ではない。
 罪は本国で生まれて、その罰を受けるのは彼らが指定した"罪人"だ。この歪な構造を是正するためにかつての"流刑地"から死刑執行人がやってきた。
 ダニーが、長老の息子を殺害した男以外を殺すことを禁じるのは、彼が彼の定めたる法に基づいて今回の"仕事"を行っているからだ。
 法律を遵守するより己の定めたルールに生きる。それが、生きるか死ぬかの世界に身をおく者の処世だ。ダニーがそうであるように、ハンターがそうであるように、スパイクがそうである。部族社会の掟も、経済価値を優先する大人の価値観も、そんなのは知らない関係ない。特にダニーもスパイクも損得勘定抜きで自分の勝利をつかみにゆく。
 ダニーもスパイクも同じ紳士録に名を連ねている。ハンターも老獪なだけで、彼もダニーとスパイクとかわらない。
 ダニーとスパイクを偏ることなく描こうと意図したものか、一方の視点でのみ情報提示をしていたなら感じられたであろうサスペンスがどうにも不足気味。めまぐるしいほどのどんでん返しが続くならともかく、さりとて意表をつくような展開にも恵まれず、いってみれば淡々と状況が変わってゆくことに、違う意味で驚いた。
 伏線を丁寧に描いていることもあって、一連の復讐の裏に陰謀が張り巡らされていたことが明らかとなっても、製作陣が期待したほどの驚きも興奮もなく、「なるほどなあ」なんて。
 驚いたというなら、長老の長男を殺した真犯人とされる男の名前だ。自叙伝にてその場面を書き記した元SAS隊員の名はファインズだ。
 えっ、そういうことなの?
 なるほど、発表後に騒動になるはずである。

 ダニーは凱旋し、恋人のもとに戻る。この安らぎを確かなものにするために修羅場を潜り抜けたのだ。
 事の発端となった妄執を終わらせて、思いがけなくも大金を手にした者。不毛の土地への移住を免れた者。それぞれに成果はあった。

 こんなことが実際にあったかって?
 面白かったんならそんなことはどうでもいいじゃん!

へのへのもへじ | HOME | どこへ行くにも風まかせ

Comments:0

Comment Form

Trackbacks:14

TrackBack URL for this entry
http://mescalinedrive.com/mt-tb.cgi/125
Listed below are links to weblogs that reference
2パーセントの紳士たち from MESCALINE DRIVE
「キラー・エリート」肉弾アクション満開!ステイサム万歳!! from シネマ親父の“日々是妄言” 2012-05-13 (日) 01:44
[ジェイソン・ステイサム] ブログ村キーワード  チラシの画像からして、男臭さ全開!!「キラー・エリート」(ショウゲート)。いやあ~今回もハジケてまっせ...
[映画『キラー・エリート』を観た(短信)] from 『甘噛み^^ 天才バカ板!』 byミッドナイト・蘭 2012-05-13 (日) 06:03
☆なんちゅうか、面白いんだけど、面白くない作品でした。  国際的に活躍していた殺し屋が、自分の仕事に疑問を持ち 足を洗うも、元仲間が仕事に失敗し、依頼主...
キラー・エリート from 新・映画鑑賞★日記・・・ 2012-05-13 (日) 17:32
【KILLER ELITE】 2012/05/12公開 アメリカ PG12 117分監督:ゲイリー・マッケンドリー出演:ジェイソン・ステイサム、クライ...
映画「キラー・エリート」感想 from タナウツネット雑記ブログ 2012-05-14 (月) 00:10
映画「キラー・エリート」観に行ってきました。元SAS(Special Air Service、イギリス陸軍特殊部隊)のラヌルフ・ファインズの実話を元にした...
キラー・エリート from とらちゃんのゴロゴロ日記-Blog.ver 2012-05-14 (月) 17:48
イギリスの植民地だったオマーンが共産主義になり損ねたドファール内戦を背景に、粛清されたゲリラの復讐に雇われた殺し屋が元SASのメンバーを相手に壮絶な戦いを...
キラー・エリート from だらだら無気力ブログ! 2012-05-14 (月) 20:39
ジェイソン・ステイサムの声が渋くて好きなんだな。
キラー・エリート from ゴリラも寄り道 2012-05-15 (火) 04:42
<<ストーリー>> 殺し屋稼業から身を引いたダニー(ジェイソン・ステイサム)は、 かつての相棒ハンター(ロバート・デ・ニーロ)が オマーン首長の...
キラー・エリート/Killer Elite/こんなに冴えないジェイソンだとは… from LOVE Cinemas 調布 2012-05-23 (水) 00:01
元英国陸軍特殊部隊(SAS)隊員のベストセラー小説を基に映画化。凄腕の殺し屋が元SAS隊員を相手にして死闘を繰り広げるアクション・サスペンスだ。主演はジ...
俺の戦争は終わった~『キラー・エリート』 from 真紅のthinkingdays 2012-05-24 (木) 08:48
 KILLER ELITE  1980年、メキシコ。凄腕の殺し屋、ダニー(ジェイソン・ステイサム)は、師匠 であり相棒でも...
【映画】キラー・エリート from 映画鑑賞&洋ドラマ& スマートフォン 気まぐれSEのヘタレ日記 2012-05-24 (木) 12:29
JUGEMテーマ:洋画 ジェイソン・ステイサム、ロバート・デニーロ、クライヴ・オーウェンの3人が出た作品として一部で話題を読んでいる本作...
『キラー・エリート』 from 京の昼寝〜♪ 2012-05-25 (金) 08:17
□作品オフィシャルサイト 「キラー・エリート」□監督 ゲイリー・マッケンドリー □脚本 マット・シェアリング□原作 ラヌルフ・ファインズ□キャスト...
映画『キラー・エリート』を観て from kintyre's Diary 新館 2012-09-09 (日) 10:57
12-41.キラー・エリート■原題:Killer Elite■製作年・国:2011年、オーストラリア■上映時間:117分■字幕:種市譲二■観賞日:5月19...
キラー・エリート : ハゲ兄、キメキメですね! from こんな映画観たよ!-あらすじと感想- 2012-10-09 (火) 08:55
 三連休明けの本日、皆様いかがお過ごしでしょうか。ちなみに、私は今日と明日の連休です。今日は、ステディと手品のお店に行こうかなと考えております。本日紹介す...
キラー・エリート (Killer Elite) from Subterranean サブタレイニアン 2012-10-17 (水) 17:11
監督 ゲイリー・マッケンドリー 主演 ジェイソン・ステイサム 2011年 アメリカ/オーストラリア映画 116分 アクション 採点★★★ 近代の争い事っ...

Home > 2パーセントの紳士たち

Feeds
blogram投票ボタン フィードメーター - MESCALINE DRIVE 人気ブログランキングへ
Message
Visitor

Return to page top