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どこへ行くにも風まかせ

amazon:[単行本] ゆうれいのまち (怪談えほん4)  怪談えほん『ゆうれいのまち』を読んだ。
 本書は岩崎書店の「怪談えほん」シリーズの第四弾。文章を恒川光太郎、絵を大畑いくのが担当している。
 このブログでは、怪談えほんのシリーズについてこれまでに二冊を取り上げている。京極夏彦と町田尚子の『いるの いないの』と、加門七海と軽部武宏の『ちょうつがい きいきい』だ。二作ともに32ページという「お手軽な」分量を忘れさせる濃密な読書体験を齎してくれた。
 ただ「見る」という行為がそこにあり、そのことで非在から実在へと立ち位置を変える"その人"。一旦、その実在を受け入れたら最後、脳梁から見下ろされる"気配"を何かにつけて意識せざるを得ない。大いなる呪い、『いるの いないの』。
 身近に迫った死の運命を警告するのは超自然の存在。それらの声を借りて叫びに叫んでも、逃れる術は誰からも与えられない。恐慌のまま走り続けて、それに合わせるように命が軋る。余韻の名は"死"、『ちょうつがい きいきい』。
 恒川光太郎と大畑いくののコンビは、心にどんな爪痕を残すだろうか?

amazon:[文庫] 夜市 (角川ホラー文庫)  恒川光太郎という作家は、その作品の多くで「ここではないどこか」を描いてきた。デビュー作の「夜市」からして、人間社会から異界へと迷い込む子どもを描いているのだ。
 迷い込んだ先で生きて次第に人間ではなくなってゆき、ついにはそこの住人となる。帰る場所を見失って、ここに"永遠の迷子"は完成する。
 彼は行ってしまった。僕はどうしよう?
 境界線上をウロウロしながら自分を見つめ、周りの人への思いを新たにし、そして世界の本当の姿をその一端なりとも目撃する。
 世界は大きくて自分はちっぽけで、そしてこの決意と踏み出した一歩は些細だけれどとても大きな意味があって。だから、前に進むんだ。
 誘われても背中を押されても、それが自分の意図しないことなら流されずにきっぱり拒否して、たとえそれが間違った選択だとしても自分の信じた道を行く。行き先を誤った道行きは破滅が待っているのが通過儀礼の物語。でも、それはそれとして。
 試練を克服して成長を遂げる英雄の物語を恒川光太郎は物してきた。
 それでは、遠く彼方を幻視する小説家が幼い子どもたちに宛てた本書、『ゆうれいのまち』はどんなだろう?

amazon:[文庫] 草祭 (新潮文庫)  冒頭、いきなり"ともだち"の誘いにのって家を飛び出す主人公。少年が着ているパジャマの上下はストライプ柄。まるで囚人服。これは主人公が虜囚の身となることを暗示したものか。
 第一に怪しいのは"ともだち"だ。
 この"ともだち"、固有の名前は明かされず、絵のタッチは彼の輪郭を朧にする。
 本当に友人なの?
 この後、少年を先導する"ともだち"の姿が数ページにわたって確認できる。誘い、連れ出して、置き去りにする。あたかも、それが目的であったかのように。それが役割であるかのように。
 少年が逃げおおせないように町の奥までおびき出したように見えるのは、私が"ともだち"に対して疑惑の眼差しを向けているから?
 異界の空気を吸って、異界の食べ物を口にして、異界の言葉で歌って遊んで、異界の考え方に染まって、そして少年は異界に取り込まれる。これは黄泉戸喫に限ったことではないが、異界に生きた者の逃れられない定めである。
 元気な魂を取り込んで、死んだ町を活性化させる? 外部からの刺激に反応して、そして異界は少年の記憶を町史に刻む。
 神隠しと壺中天。
 大人になった少年に真夜中の訪問者。窓いっぱいに"ともだち"の顔。覗き込まれて壺の中。また誘われて夜の冒険。
 さあ、次の町だ。その町は子どもを待っている。それは切実といえるほどに!

 ああ、"ともだち"の妖しい表情!
 うっとりと魅入られてしまうよ。
 これは帰れない子どもの物語。行ってしまった彼のお話。
 ぐるぐるぐるとまわってくりかえしてかなしいとかさみしいとかひとりぼっちなことさえ忘れてしまった、風の伝説。

amazon:[単行本] 金色の獣、彼方に向かう  真夜中の冒険で少年が辿り着いた「ゆうれいのまち」は、天然自然の世界に現れた異状空間。
 この場面で画家は絵のタッチとはまったく異なる図柄のコラージュを多用。空間に厚みを持たせ、読者にそこはかとない違和感を抱かせる。
 ページを捲ってゆき、町中に見られる光景を違和感なく受け入れられるようになったなら、それは危険な兆候だ。遠く彼方にあるという「ゆうれいのまち」の住民票に自分の名前が浮かび上がって、いつの間にか町行く影のひとつとなって。
 そうなったなら、もう。

 もう戻れない。

  • 2012年3月6日 「マヨヒガに猫は集う」
  • 2012年5月6日 「錆色の叫び」
  • 岩崎書店ホームページ「怪談えほん」
  • 岩崎書店ホームページ「怪談えほん」恒川光太郎先生インタビュー
  • 2パーセントの紳士たち | HOME | 錆色の叫び

    Comments:2

    tenmama 2012年5月10日 13:22

    私も恒川さんの作品、色々読みました。ちょっと独特で静かにゾッとさせてくれる雰囲気にたまらなく惹かれます。

    一番好きなのはやはり「夜市」かも。暗い暗い何も見えないような「闇」をあんなに傍に感じた作品はありませんでした。久し振りに読み返したくなってきたかも。サテさんはどの恒川作品が一番グッときましたか?

    サテヒデオ 2012年5月11日 21:27

    tenmama様
     デビュー作品は作家のすべてが詰まっているとはいいますが、「夜市」は恒川光太郎的モチーフが盛り沢山ですね。『ゆうれいのまち』もまた恒川光太郎的なモチーフの横溢した作品で、“帰れない”ことが文中で仄めかされていて、だから「グッ!」ときましたよ。
     行ったきりというのは自宅大好きな出不精にはキツイ!

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