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活字の国の人だから

 インターネット書店のbk1がこのたび五月中旬をもって電子書籍販売サイトのhontoと合併、hontoとして再出発することとなった。bk1の名前が残らないところをみると、吸収されるものと考えるべきか。
 私は都心の大型書店に気軽に気軽に足を運べるものだから、本を通信販売で購入しようとは思わない。店頭で見つけられないような本を買うくらいだ。
 私はbk1の良い客ではなかった。
 こんな私だがbk1に思い入れがないわけではない。
 この十年、毎年初夏の頃に開催される「ビーケーワン怪談大賞」、通称「てのひら怪談」のコンテストを楽しみにしていた。
 このコンテストは、実話と創作とを問わず、"怪談"であること、800文字という字数制限、これらを満たせばどんな内容でも構わないというもの。なかなかに懐の深い、しかし一筋縄でゆかない募集要項だ。
 800文字という外枠は決まっている。このフレームから如何に怪異を望むのかが書き手の頭を悩ませるところ。全体を収めるのか、目に入った一部を抜き書きするのか。たった800文字が「怪談」としての在りようを決める。
 頭を悩ませ苦労するのはなにも書き手ばかりではない。「ビーケーワン怪談大賞」の選考委員はその全員が送られてきた全応募作品を読むという。そのすべてに評価を下すわけだから(それが「評価に値しない」という評価であっても!)、これは大変な作業だ。
 2012年は「ビーケーワン怪談大賞」にとって記念すべき第10回となる。これはどんな盛り上がりを見せるだろうかと期待していたのだが、ここに至ってそれどころではなくなった。
 bk1の名前は消滅することになり、「ビーケーワン怪談大賞」は昨年の第9回をもって終了となった。
 今年は記念すべき第10回ということで挑戦を考えていたのだが、出鼻を挫かれたかっこうだ。
 それはともかく!
 bk1の終焉が意味するのは、娯楽嗜好品の"本"が買われなくなったということなのだろうか?

 紀伊國屋書店新宿本店で催された皆川博子先生サイン会に参加した。

amazon:[単行本] 双頭のバビロン  暑い。
 まだ四月だぞと怒りを天に表明したいくらいに暑い土曜日。ただでさえ暑いのに大勢の人でごった返す新宿である。暑い、暑苦しい。こんなに暑いと"サムの息子"が出ちゃうよ。
 新宿は大型書店と映画館に恵まれていて、私のような本好き、且つ映画好きにはありがたい街だ。本を買うべきか映画を観るべきか悩むことはあるけれど。
 そんな街において紀伊國屋書店は私にとっての新宿の顔である。新宿に着いたらまず紀伊國屋書店新宿本店か新宿南店に足を向ける。岐阜の友人が上京する際、待ち合わせに使うのも紀伊國屋書店新宿本店である。彼は思う存分に本を渉猟する目的で東京に来る男なので、本屋で待ち合わせすることに何の疑問も覚えない。
 紀伊國屋書店新宿本店と目と鼻の先にあったジュンク堂書店新宿店は、先頃、閉店した。これは、店舗を構えていた新宿三越の閉館に伴ってのことだろう。昨今叫ばれている出版不況とは無関係であってほしい。
 ジュンク堂書店新宿店をあまり利用しなかったのは、たいていは紀伊國屋書店で手に入るのと、ジュンク堂書店なら池袋本店に行くという気持ちがあるのとで、だからなんとなく前を通り過ぎちゃっていた。経営状況とは別の理由であろうと、名の知れた本屋が閉店すると仄聞するたびに、なぜだか気持ちが焦ってしまう。

 本日も紀伊國屋書店新宿本店には出版業界の人間が手を叩いて喜びたくなるであろう数の人がいて、彼らの手にはこの日の収穫が。
 わかっていたことだけど本は買われている。少なくとも大型書店では売れている。大型書店を利用する私は、どの本屋でもこんな光景ばかりを見ているので、「出版不況だ!」といわれてもピンとこない。所詮は外側から眺めている者の印象でしかないのだけれど。
 本にある程度の金額を費やせる愛すべき人々が「もっと本を、もっと面白い本を!」と叫んでいるその間をすり抜けて、サイン会開始を待ちわびる行列のひとりとなる。
 作家デビュー四十周年、『双頭のバビロン』刊行記念で企画されたサイン会が、実際に開催されたことがまず欣快の至り。皆川博子先生は、作家デビュー四十周年と長年にわたるキャリアをお持ちなだけに、こういっては失礼ながらお年を召されておいでで、だから体調次第では中止もないではないな、と。
 このたび、紀伊國屋書店新宿本店が用意した整理券は100名分。これがすべて配付されたのだから、皆川先生は100人を相手にしなければならないわけだ。心配せずにいられようか。
 整理券配付が一週間前の4月21日、開店と同時にスタート。幸いにして暇だったので開店直後に入店、数分後には対象書籍の『双頭のバビロン』を手にしていた。レジカウンターにサイン会の説明を受ける購入者が仲良く並んでいるのを見られた。
 そして本日。本が濡れるのを殊に嫌うので雨は降ってくれるなと願った。それが叶ったのは嬉しいけど、なにしろ暑すぎる!

 14時、サイン会開始。
 誰もが知るという小説家ではないけれど、そのかわり熱烈なファンを獲得している皆川博子先生。サイン会場から黄色い声が聞こえてくる。
 ああ、サイン会に来たんだな、と改めて実感する。
 皆川先生の待つ部屋に入るとそれまでと違って涼しい。エアコンが頑張っている。ホッと息をついた。
 整理券には為書きのために名前を書く欄があり、係の方から云われたのは、なるべく字を大きく書いてほしいということ。憧れの先生を前に話したいことがあるだろうけれども、それは整理券の裏にでも書いてほしい、と。
 ご本人も仰られていたが、目も耳も若い頃のようにはゆかない。だからサインをしている間は隣に常に女性がついていて、彼女の筆記によって間違いのない伝達が為されていた。
 そんな状況にあってサイン会を承諾してくださった皆川博子先生には、ただただ頭が下がるばかり。ありがたいことだ。肉筆の入った『双頭のバビロン』は宝物に認定!

 ネット上でお付き合いのある方が「皆川博子先生の大ファン!」ということで、このサイン会に参加したはず。
 ファンレターを綴って渡すとのことだったけど、首尾はどうだったろう?
 twitterの呟きを見るに、『双頭のバビロン』発売日前からソワソワしていて、この一週間は恋文をどう書けばいいのか悩む中学生のよう。果たして無事に作家の前に立てたのかしら。
 同じサイン会に参加して、私よりあの人の方が得るものの多い時間を体験したのだろうなと思うと、ひどく羨ましい気がするのだ。

 ともあれ、サイン会場で感じた熱気は"本"の魅力と強さを再確認させてくれた。

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Comments:2

tenmama 2012年4月28日 20:53

サテさんもいらっしゃったのですね!もしかしてどこかですれ違っていたかも!?
本日、何日も前から推敲に推敲を重ねた(その割にお粗末な文…)懇親のラブレターを花束とちょっとしたプレゼントと共に皆川先生にお渡しすることが出来ました。恐れ多すぎて手紙を書くことに物凄い及び腰になっていた私の背中をイケイケドンドンとばかりに押して下さったサテさんのご好意、感謝に耐えません。今の自分の精一杯の気持ちを書ききったつもりです。悔いはありません。そんなご報告が出来て嬉しく思います。

こんなに好きになった作家さんもおられないというくらい、私にとって皆川先生は大切な方です。もう一度お会いする機会が得られると思っていませんでした。本当に本当に幸せな瞬間でした。胸がいっぱいです。生涯忘れられない一日になりました。

サテさんも共にあの場に居合わせたという僥倖。ヨエコさんのラストディと共にかけがえのない思い出が増え、ふと思い出した折にでも語り合える方を得られ、それも私にとっては嬉しいことなのでした。色々有難うございました!(長々失礼致しました)

サテヒデオ 2012年4月28日 21:35

tenmama様
 おお、ファンレターと花束を渡されましたか。それはよかった!
 私はtenmama様のお気持ちを忖度せずに「You、ファンレター書いちゃいなよ」と唆しただけで、書いていただいているような大それたことをしたわけではありません。You、花束贈っちゃいなよ、って。
 思いを手紙に綴ったのもプレゼントの花を選んだのも私じゃないです。tenmama様です(花は花屋さんにお任せだったかもしれないですけど)。それらを嬉しい気持ちで為さったことでしょう、「これでいいのかな?」と不安にも感じたことでしょう。そういったこと全部をひっくるめてtenmama様のサイン会でしたね。
 だから、それが羨ましいのです。

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