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掟も綻びも定めのもとに

amazon:[Blu-ray] ウォンテッド【Blu-ray ベスト・ライブラリー100】 「ウォンテッド」を観た。
 監督はティムール・ベクマンベトフ。主演のジェームズ・マカヴォイがたっぷりとアクションを見せる。アンジェリーナ・ジョリーが主人公の"運命の女"たる殺し屋を演じ、モーガン・フリーマンが暗殺組織のリーダーを貫禄たっぷりに演じる。

 ウェスリー・ギブソンは日常に倦んでいた。
 会社で顧客管理担当の仕事を務めるウェスリーは、上司の嫌がらせにひたすら耐えていた。同棲中の恋人は彼の同僚と浮気を繰り返し、そのことにウェスリーは気付いていた。住環境は劣悪で貯金額は僅か。明日は糞みたいな今日の繰り返し。日常はいつまでもウェスリーを苦しめて圧し潰す。
 ウェスリーはストレスを感じるとその感覚に変化が生じる。動悸がどんどん速くなり、それにつれて眼に映るものの動きが遅くなる。この症状を抑えるため、彼はパニック障害の薬を服用している。
 ある夜のスーパーマーケット、ウェスリーがいつものように薬を処方してもらっていると、二人の人間と目が合った。そのときから彼の人生は変わった。まさに急転直下で。

amazon:[文庫] 文庫版 鉄鼠の檻 (講談社文庫)  画図百鬼夜行に「頼豪の霊鼠と化と、世に知る所成」とあるのは、鉄鼠である。
 頼豪が三井寺戒壇建立に尽力するも対抗勢力であった比叡山延暦寺の横槍を受けて悲願は達成せず、これを怨んだ頼豪が断食に入って餓死する。生前より法力で高名だった頼豪は死して鉄鼠と化し、数万匹の鼠を率いて延暦寺に攻め上り、経典ばかりか仏像さえも食い散らかしたという。
 鉄鼠といいペストといい、鼠は災厄を齎すのだ。

 冒頭のケレンに満ちた殺し合いに度肝を抜かれた。観客に対する監督からの宣戦布告の効果は大きく、本作が桁外れのアクション映画であることをたちどころに了解した。
 そっちがその気ならばこちらにも迎撃の覚悟あり。知らぬ間に笑みが広がる。
 平凡な日常を破壊する銃撃戦とカーチェイスの処理がハリウッド映画にしては思いのほか淡白で、却って凄みが感じられた。これは監督がロシアの人間ということと関係しているのだろうか?
 ハリウッドのアクション映画ならば衝突や爆発のひとつひとつに派手な映像演出を施す。それが理由で流れが途切れてしまい、映像のスピード感がいちいち殺されてしまうことも少なくない。
 本作にはそれが無い。フォックスとクロスの闘争がどんなに大きな惨事を呼ぼうと、そんなものをその都度映す暇は無いのだ。一般市民や警察官がどんなに悲惨な目に遭っていても、それはカメラのフレームの外で起きたこと。知ったことではない。
 この割り切った考えのもとに作られた映像は、観客を物語世界に連れ去る。
 やるじゃないかティムール・ベクマンベトフ。「ナイト・ウォッチ」はそんなに面白くなかったのになあ。やはり予算の差が面白さに表れるのだろうなあ。

 暗殺組織「フラタニティ」の設定が滅法面白い。遊び心たっぷり。小道具といい暗殺技術習得の過程といい超遠距離射撃といい銃弾を任意で曲げることといい、どれもこれもケレン味が横溢していてとても愉快だ。
 混沌のなかに秩序を見出して、浮かび上がった運命に盲目的に従う。傍から見れば偶然の産物を恣意的に曲解する狂信者の集団である。しかし照らし出された道筋の正しさを実例をもって知る者にとって、"啓示"はまさに天から下された使命である。
 自分が読み取れないからといってそこに記号化された情報が無いというわけではない。自分が理解できないからといってそれをオカルトの棚に投げ込むのは野蛮な行為にほかならない。とはいうものの、「フラタニティ」には偏執的運命論の薫りがするのは否定できない。
 1を倒して、1000を救う。ひとりの犠牲の上に最大多数の幸福がある。「フラタニティ」の理念はこれに尽きる。ひとりの人間の死がどのような因果をもってより多くの人間の生死にかかわるのかはわからないが、その殺害を指示されたのならそれを執行するのみ。
 織機の"啓示"が命ずるままに人を殺して、しかし殺さなかった場合の影響を知ることはできない。組織に属する暗殺者たちはその時点でシステムの中に組み込まれているのだから。
 システムの内部にある者は、そのシステムが正しく機能しているかどうかを知る術が無い。システムを正しく評価する為には、システムの外部に出なければならない。しかし、システムそのものと骨絡みとなっている者にとって、それはできない話だ。
 ウェスリーが「フラタニティ」に入って最初に為されたこと。それは「修理屋」による洗礼だ。これは洗脳の第一段階だ。暴力によって自己認識をはじめ価値観を白紙状態に戻されるのだ。その後、「フラタニティ」色に染め上げられて誕生したのが、暗殺者ウェスリー・ギブソンだ。
 暗殺という行為を成し遂げる特殊な人材を管理するには、洗脳という手段も意思の統一を図るためには必要な措置である。尤も、これは暗殺組織にのみ当てはまる考え方ではない。
 自ら属する組織を疑わないこと。それができないようであれば、有能であったとしても組織にとって要らない人材である。組織が内なる憂いを排除するのは当然であり、本作のクロスはまさにこれに当てはまる。
 裏切り者は必ず粛清しなければならない。これは一般的な組織であっても通用する論理だが、暗殺組織といった特殊な事情を抱えていれば尚更だ。

amazon:[DVD] メカニック  難しいことは棚上げして、本作はバカ映画なのだから素直に愉しむのが正解。所詮は暗殺集団の内輪揉めだ。アンモラルにアンモラルを重ねて娯楽作品と銘打っているのだ。柳眉を逆立てたところで何も始まらない。
 結局、織機の啓示のその通りの結末となったことは、その"啓示"が示した名前の全員が暗殺者であったことを鑑みれば納得できる。彼らこそ多くの人間の生死を左右する"1"である。
 この逆転の構図が主人公のキャラクターに厚みを持たせる。
平凡な日常から脱したいだけの男が秘密組織によって己の才能に目覚めて組織きっての凄腕へと成長する。自分を変えたいという熱意は、父の仇討ちとの動機付けがあって持続され、復讐の実現を確信した時、信頼が裏切られたことを思い知る。
 父親の死と暗殺者修行、父親の死は師と仰いだ者が携わった陰謀という共通点から、本作が「メカニック」を裏返したような展開を持っていることがわかる。これも逆転の構図といえよう。

 本作で「メカニック」におけるチャールズ・ブロンソンやジェイソン・ステイサムの分厚い存在感を引き継ぐのはアンジェリーナ・ジョリー。ジェームズ・マカヴォイが青さを滲ませた主人公に血肉を与えているように、アンジェリーナ・ジョリーは主人公を新たな世界へと連れ去る役割を不自然なく演じている。こんな女性ならどんな世界に生きていても不思議はないし、彼女についていってもいいかなあ。助平心をくすぐられる。
 それにしても、アンジェリーナ・ジョリーはいつまで今のポジションでいるつもりだろうか。他人事ながら心配してしまう。
 そしてモーガン・フリーマンだ。
 この老優の演技に脱帽である。時に軽やかに、時に重厚に、自在に存在感を変えられる俳優だ。本作では紡績工場の責任者であり、暗殺組織の頂点に君臨するスローンを演じている。それぞれに納得の雰囲気を漂わせていた。作中、物語の進展と共に大いなる変貌を遂げるウェスリー・ギブソンの、彼を演じあげたジェームズ・マカヴォイにも感心したが、モーガン・フリーマンの貫禄には及ばない。余裕というべきだろうか、完全に主演俳優を食っていた。
 がんばれジェームズ・マカヴォイ!

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