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彼方からの手紙

「ももへの手紙」公式サイト  よみうりホールにて催された試写会で「ももへの手紙」を観た。
 アニメーション製作スタジオはProduction I.Gである。監督の沖浦啓之は「人狼 JIN-ROH」を代表作に持ち、その「人狼」の成功があるだけに本作への期待は高い。主人公の声を美山加恋、その母親を優香が演じ、"見守り組"の馬鹿トリオを西田敏行、山寺宏一、チョーの芸達者が固めるという布陣。

 宮浦ももは小学六年生。ももは父親を亡くしたばかり。この夏から母親の親戚筋を頼って瀬戸内は汐島に住むこととなった。
 この島にはももが赤ん坊の頃に連れて来られたことがあるらしいけれど、当人はそのときのことなんか当然覚えてない。久しぶりの再会を喜ぶ母親や親戚には悪いけど、身内といわれても他人も同然だ。
 東京とは大きく異なる生活環境に囲まれ、友人をはじめとする人間関係は白紙となり、頼るべき母親は家を留守にしがち。
 この土地でももが出会ったのは三体の妖怪だった。

 本作を喩えるならば、「思いのほか潤沢な予算を与えられて浮かれた料理人が、アレもコレもと食材を買い集めるも、その一つひとつを料理しきれていない」である。
 面白く展開させられる設定やガジェットが数々用意されているも、「そういう設定やガジェットがあるものならば当然このような展開になるだろう」との予想をことごとく覆す展開を迎える。観客の予想を裏切る展開。そのこと自体は悪いことではない。予想を上回る展開なら大歓迎だ。しかし、本作においてこのような幸せな裏切りはない。いくらでもふくらませられる要素が完全には活かされずに終わっているのが散見されて、なんとまあ勿体ないことか。
 こんな風に、本作を批判しようと思うならそれをするだけの要素をいくらでも挙げられる。ただし、そんなことをしたところで本作の瑕疵が消えるわけではないので、いちいち取り上げることはしないけれど。いや、たぶん。

 本記事では「ももへの手紙」の内容についてその内容に踏み込んでいる。なにぶん全国公開前の作品ではあるので、いろいろと明かされるのは真っ平御免という向きもあろう。とにもかくにもまずは作品を観てから、ということならばここから先に進まないこと!
 さあ、敢然と「戻る」をクリック!

amazon:[Blu-ray] ももへの手紙 (初回限定版)  屋根裏の物置にあった一冊の本。和綴じの黄表紙は『新版 化物御用心』の上巻とあり、この家の前当主が蒐集していたものの一品だという。
 この和本のとある頁に潜り込んだのは、空より降ってきてももの後を追ってきた滴。これ以降、ももは自分たち母子の住む家屋に何者かの気配を感じ、家人以外の話し声を聞く。
 ももが悩まされる気配や声、島で多発する農作物の収奪、これらはともに三体の妖怪が起こしていた。
 冒頭、空からそれだけ落ちてきた水滴が、汐島へと向かうフェリー上のももに当たってそれでも砕けずに形を留めたまま、しかも意思があるかのように自ら動き回る。これが妖怪本の中に潜り込み、その後に三体の妖怪が出現する。三滴と三体、滴と妖怪の因果は明白だが、どういう仕組みが働いているのかということまではわからない。
 わからないのはそれだけではない。妖怪がなぜももやいく子の動向を窺っているのか、ということも。
 謎の答えは妖怪のうちの一体、イワの語りによって明かされる。謎の解明を科白による説明で済ますのは、作話においてセンスが良いとはいえない。小学六年生に不可思議な事態の真相解明が可能とも思わないが、だからといって怪異の主体そのものに語らせるのはいかがなものか。そもそもイワの言葉が信用するに足る供述かどうかを客観的に判断する術を誰も持たない。イワの述べるところに疑惑を差し挟んでしまうと、本作は物語の根幹からグラグラと揺らいでしまう。
 見守り組は、その来し方はともかく現在は死者になりかわって遺族等の大切な人をその名の通りに見守り、その動向を報告することを使命としている。
 そして今回はひとりの男から自分のかわりに妻子の様子を見守ってほしいと要請があったということだ。つまり、いく子の夫でありももの父親の願いだ。
 これらについてもイワによる自己申告がすべてであり、事の正否はももにも観客にも確かめられない。イワの個性を鑑みて、「ああ、これはたぶん本当のことを云っているのだろうな」と、彼の言葉を信じるしかないのだ。
 成仏するまでの間、それをできない死者の霊にかわって彼らの大切な人を見守る。本来ならば隠密行動であるはずが、イワの推測通りかどうかはともかく、ももにその姿を見られてしまう。
 ここでまた疑問が生じる。
 なぜイワらは妖怪の姿を借りているのか?
 報告に文書の体裁が求められるというのなら、それをしたためるために人型の容姿が必要かもしれない。よしんばそうであったとしても、妖怪の姿を借りる理由にはならない。
 妖怪とは、説明できないことを説明するために生み出されたものだ。現象が先にあって、それに見合った姿形を与えられる。しかしイワ・カワ・マメは、姿形はそれぞれ妖怪のものだがそれぞれの妖怪の持つ特性とは異なる行動原理を持つ。『新版 化物御用心』の記述に彼らの行動原理が引きずられるようならば面白いのだけど、実際はそうではない。その良い例がカワだ。
 カワは河童に連なる物の怪の姿形を持ち、そのうえ強烈な屁を放つという特性を持ちながらも水嫌い。相撲をとる場面もない。ただただ姿を借りているだけのようだ。
 マメは垢嘗(アカナメ)を模しているようだが、それらしき行動を起こしたのは一度きり。ももとの邂逅時のみ。マメというキャラクターは完成してるものの、それは妖怪「垢嘗」とは何の関連もない。それはイワもカワも同じだ。
 ここからわかるのは、キャラクターが作品に登場することの必然性が見当たらないということだ。妖怪を題材にとった「ゲゲゲの鬼太郎」が個々の妖怪のキャラクターを確立しているだけに、そして先行作品として大きすぎる存在だけに比較せざるを得ず、そうなるとどうしても不満が残ってしまう。
 尤も、見守り組と妖怪の姿形との関連性については、私が浅学のあまりそれを見出せていないだけなのかもしれないけれど。

amazon:[新書] 瀬戸内の民俗誌―海民史の深層をたずねて (岩波新書)  本作は家族間の葛藤と和解を描いている。
 仲違いしたままそれを解消することなく父親と死別を迎えてしまったことの後悔。ヒロインが胸に抱えるこの思いは、この年齢の子どもには重すぎる。母と二人で生活を再出発させようとするも、その基盤はももにとっては見知らぬ土地で作らなければならない。
 活発で社交的な性格とはいえないももにとって、この状況は辛い。
 状況への対応力が優っているとはいえ、それまで住んでいた東京とは随分と異なる環境にあって、大いなる後悔を抱えているもも。再出発の環境がどう整っているにせよ、彼女自身の用意ができていないのが実情だ。
 本作の時代背景は、それを示す描写があることから瀬戸大橋開通直前である。クライマックスは、台風接近中に開通前の瀬戸大橋を百鬼夜行がゆくというもの。正直に云うと、これは期待を下回るヴィジュアルなのだけれど、それはそれとして携帯電話が今日のように普及してないことに時代設定の妙がある。東京の友人たちとの繋がりさえ許されないから、ももは孤独を深める。
 こうなると無理矢理にでも環境に馴染ませる働きかけが必要だ。島の子(陽太、海美)がももを通過儀礼に誘うも、その冒険は彼女が臆病を克服できずに終わる。逆に考えると、通過儀礼が成ったときにももが島の一員となるのだ。
 未だマージナルな存在であるももが島の一員となるには、真に異人である見守り組との関わりのなかで芽生える心境の変化を待つしかない。畑を荒らし盗みを犯すイワたちに、それはやってはいけないこととももは諭す。これは彼女にとっては当然の道徳倫理であり、特別に島の掟というわけではない。しかし、ももの意識が次第に共同体のそれに寄り添ってゆくのは確かだ。
 見守り組による異化効果が、異境の地にあるはずのももを共同体の一員へと向かわせている。ももと共同体の関わりにおいて、いく子の存在は進展の邪魔にしかならない。だからももといく子の関係はギクシャクし始め、そしてももと見守り組との関係は濃密になってゆく。ここにおいて馬鹿トリオに、人外の存在であることも含めて、物語に登場する必然性を見付けられる。人外であっても妖怪であることの必然性は上記にあるように感じられないのだけれど。
 そしてクライマックス。母親の危急に際して命懸けの冒険に旅立つもも。成功はおろか生還の保証があったわけでもない。それをしなければならないからそれをしただけだ。結局は見守り組が土着の物の怪の力を借りてももの冒険を後押ししたのだが、これは人外の理屈で動いただけ。少女と妖怪の心温まる交流と捉えるのは正しくない。
 最小の共同体である家族の間における和解が成ったとき、より大きな共同体に対する帰属への道筋ができる。母親と仲直りし、父親からの手紙を受け取って互いに許し合い、そして少女はこの島で生きることを自分自身に決める。バンジージャンプさながらの度胸試しを成し遂げて、ももはすっかり島の子だ。

amazon:[Blu-ray] 人狼 JIN-ROH 【廉価版】  本作には数多くの瑕疵がある。なかでも、日本の共通認識に跨る設定やガジェットが用いられていることが攻撃対象となっているようだ。いくつかの映像や展開が「どこかで見たことあるような」というふうに受け止められるかもしれない。
 この点では日本が有する豊かな幻想世界を誇りこそすれ本作を腐す必要はないのだが、作品に対する期待外れの印象が強いばかりに「袈裟まで憎い」との思いを呼び起こしてしまうかもしれない。
 尤も、ヒロインと同年代であるところの子どもたちが感じるのはもっと違うものになるのかもしれない。瀬戸内を走る風を感じ、それに乗って鼻先をくすぐる潮の香りを嗅ぎ、今日とは少しく異なる時間の流れを実感するかも。
 本作の主題や題材には描かれ取り上げられるだけの価値がある。しかし、本作には瑕疵がある。ただし観るべきところも少なくはない。
 私が本作に対して云えるのは、今のところはこれだけだ。本作のようなオリジナル脚本の作品は応援したいのだけど、あまり面白くないものを「面白いッ!」と評価できないよね。
 言葉ばかり費やしても届けられないものがあることを今の私は知っている。思いを込めた言葉をやり取りできたヒロインに対して嫉妬しているというわけでもないけど、彼女を羨んでいないわけでもないのは確かである。
 こんなふうに真っ直ぐ伝えられない性格がそもそも問題なんだろうなあ。

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Comments:2

2013年12月16日 00:30

私は、郵便局でバイトしているので、郵便局のバイクが出てくると嬉しかったです。
「協力 郵政省」とか出てくるかなぁと思って、字幕を注視していましたが、出なくてガッカリでした。
「ももへの手紙」というタイトルといい、郵便局でもっと宣伝してもいいのに、と思いました。

サテヒデオ 2013年12月17日 21:01

羊さま
 コメントありがとうございます。
 日本郵便とのタイアップですか。それは考えてもみなかったことですね。「文部科学省推薦」って冠がつくのはよくありますけど。

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