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アパートの鍵貸します

amazon:[Blu-ray] REC/レック  シリーズ三作目の公開が間近なスパニッシュホラー、その第一作目「REC/レック」は怖い!
 テレビ番組「眠らぬ街」のレポーター、アンヘラ・ビダルはカメラマンのペドロと共に消防隊の密着取材をしていた。
 火災や事故の対応で目の回る忙しさになるものとの予想とは異なり、通報ひとつない平穏な夜。暇を持て余していたところに響き渡るサイレンは緊急出動の要請。アンヘラとペドロは二名の消防士に同行する。
 到着したのは一軒のアパート。一階エントランスには住人が集まっていた。二階に住む老婆の部屋から叫び声が聞こえたとのことで、通報は他の住人によって為された。
 そこに二名の警察官が到着し、消防士とテレビクルーとともに件の老婆の部屋を訪ねた。部屋に入ると、そこには血に塗れた下着を身に纏った老婆がうっそりと立ち尽くしていた。話し掛け、近付いた警官に、次の瞬間襲いかかる老婆。老婆は警官の首筋に咬みつく。
 周りの者が慌てて二人を引きはがし、消防士ひとりを残して部屋から引きあげる。一階に戻った彼らは負傷した警官を病院に搬送すべく外に出ようとするが、建物は外側から封鎖される。アパート内に残る者は全員が警察と保健当局によって隔離されてしまった。
 外部の者が疫病の発生の可能性を告げるも、それ以上の詳しい事情は一切説明のないまま。また、アパート内の事情も斟酌することなく外に出るなの一点張り。
 このアパートで何が起こっているのか?
 そのとき、二階に残った消防士が降ってきた。

amazon:[DVD] ダークネス  ホラー映画を評して「ジェットコースターに乗ったような」という表現があるが、本作はまさにそのレトリックのとおり。お化け屋敷の中を走り抜ける感覚を味わえる。
 ジェットコースター映画は、どちらかというと怖がらせるというより驚かせることを主眼としていて、普通ならば私の嫌うところだが、さすがはジャウマ・バラゲロ。観客に絶望的なまでの閉塞感を抱かせた挙句、逃げ場のない恐怖を心に刻み込む手腕に脱帽だ。「ダークネス」で見込んだホラー演出は本作においても光っている。
 本作の売り文句であるP.O.V.(ポイント・オブ・ビュー:主観撮影)が、事件に巻き込まれた人物の目線そのままに物語を切り取り、それが故に劇中の出来事が臨場感をもって観客に迫る。P.O.V.映像が観客に与える影響は大きく、それこそジェットコースターに乗って滑走しているような気分にさせられる。息吐く暇もないとはこのことだ。
 P.O.V.の手法を使った作品といえば有名なところで「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「クローバーフィールド/HAKAISHA」があり、最近では「トロール・ハンター」が思い出される。手持ちカメラによって物語を切り取る方便としての撮影理由は様々だが、記録することを目的としているという体裁のある点でこれらの作品は共通している。事件の記録としての価値を得た時点で撮影者が不在となっているところも。
 記録映像が生前の彼らの姿とともに怪異をモニター上に再現すること、そして撮影者の身の上に悲劇的結末が訪れるのを暗示することから、動画そのものが呪物であるかのように感じられる。この点は実に面白い。映像記録が呪物というのは、映像怪談を描いた「リング」に通じる。

 本作における怪異の源について、アンヘラのレポートではそれらしき事柄を描かれはしたが、これとて真相にどこまで肉薄したものか疑問だ。本作においては仄めかし程度にすぎない。
 悪魔的な疫病についての真相は本作と陸続きの物語において明かされるかもしれないが、本作においてそれは関係ない。本作はアンヘラのレポートが全てだ。疫病の正体も、本作が扱う事件以降の疫病の広がりも(少女の父親はアパートの外に出ている!)、「REC/レック」という単体の作品においては何の意味もない。
 遺されたビデオテープはそこに記録された事柄のほかは何も語らない。P.O.V.の手法は、物語の背景を説明し過ぎないという点において、つまりは視野の狭さにおいてホラーとの相性が良いのだろう。
 ホラーにおける視点というのは近視眼的でなければならない。大局的見地で眺めるのでは臨場感に乏しくて怖くないし、第一に面白くない。

 アンヘラが伝える極限状況には二つの面がある。
 公権力による封じ込めが登場人物たちを孤立させる。これに逆らうことは即ち銃撃を意味する。少なくとも作中人物たちはそれを確信している。
 そしてなにより疫病罹患の恐怖がある。この正体不明の疫病は唾液によって感染し、その症状は文字通りの悪鬼となること。人間としての尊厳を失い、暴力に訴えかけて食欲を満たす。感染力の強さはパンデミック級。これは新たなゾンビの形態といえる。
 外に公権力による暴力、内に疫病の猛威。これらに挟まれ、死とそれよりも恐ろしい状況に直面する作中人物たち。外に内に現状打開を図るも、事態は加速度的に悪化してゆく。
 優しき隣人が、頼もしい英雄が、今や魂の危機を媒介する災厄そのものと化す。人としての尊厳が剥ぎ取られた姿は、彼らが人の姿形を持つだけにおぞましい。物語終盤のある場面、螺旋階段を見下ろしてそこに見る悪鬼の顔、顔、顔。この場面にゾンビ物の持つ恐怖の真骨頂が見られる。
 本作は八十分にも満たない短さだけれど、観賞中はエンドロールを今か今かと待ち侘びた。早く終わって欲しい、と切に願ったものだ。

amazon:[Blu-ray] ナイト・オブ・ザ・リビングデッド  本作の疫病の罹患を、その症状を指して新たなゾンビの形態と前述したが、現代的ゾンビ映画の嚆矢「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」と本作との対比が面白い。
 ジョージ・A・ロメロの「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」において、作中人物に非常事態に対する解説を果たした報道機関は、本作ではアンヘラに見られるように無力のまま翻弄される。一方で「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」の英雄であるベンの末路と同じ悲劇が、本作ではアパートを取り囲む警察権力の強硬な態度において示唆される。アパートから脱出を図った英雄がいたとして、それが見付かった場合、彼らにもれなく死を与えられるだろうことは想像に難くない。
 ゾンビ映画において愛する家族によって咬まれるのは、それが庇護すべき存在であれば尚更に悲劇だ。本作においても定石通りの展開が待っている。これは、弱者の象徴である子どもの扱いにおいても同じだ。本作に登場する少女とそのペットの存在は感染経路を示す。最上階の住人と交流を持てるのは、このアパートにおいては頑是ない少女だけだろう。このことは最上階の部屋から続く屋根裏の存在を彼女が知っていた事実に符合するといったら、牽強付会に過ぎないだろうか。

 牽強付会といえばこれも牽強付会だが、本作から「赤頭巾」を想起してしまう。
 アンヘラの上着の色は赤く、彼女たちは老婆の救出に向かう。インタビュー取材を仕事の一環とするアンヘラの姿は、おばあさんに化けた狼に例の問い掛けをする赤頭巾を反映しているようだ。本作の場合、本来は猟師の役割を果たすべき警官や消防員が最初に"狼"に屠られてしまうのが面白い。
 一旦は狼の腹に収まる赤頭巾と同じく、アンヘラはアパートに閉じ込められてしまう。後に彼女がアパートの外に出ることがあるとして、それは一本のビデオテープにおさめられた在りし日の姿だろうか。それとも死と災厄を振り撒く存在としてだろうか。また、「赤頭巾」には主人公が生き返らないパターンがあり、楽な道行きを選んだアンヘラは通過儀礼に失敗して成熟しない赤頭巾と同じように生き返らない、つまりアパートから生還できないという考え方もできる。
 生き延びたところで世界中が狼の腹の中、ということになりかねないし。

 最後に、気になった点を挙げる。
 警官が老婆に対して発砲した現場を押さえられなかったアンヘラに乞われ、彼女に当該場面を見せる為にパブロがテープを巻き戻して再生してみせるのだが、その操作自体を映像上で再現するところに違和感を覚えた。
 強調したいという意図はわかるのだけれど、あまりにも無粋なものだから興ざめしてしまう。事件後に発見されたビデオテープという体裁であるからには、その再生状況は観賞者によるだろうに。どうにも納得いかないなあ。

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