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レッドデータアニマル

「トロール・ハンター」公式サイト 「トロール・ハンター」を観た。
 公開二日目に有楽町のTOHOシネマズ日劇に足を運んだが、場内を見渡して思うのはただひとつ。とにかく男子率の高さが悪夢的。券売窓口の配慮で他人と隣り合うことはないのだけれど、ひと席空いて男、またひと席空いて男。これがテキスタイルパターンのように延々と連続するのだ。これはつまり、誰も彼もが友人と連れ立って観に来たわけではなく、北欧産巨大怪獣映画をひとり堪能しようと気合いを入れてきたことを示している。
 チビッコが詰めかけるヒーローショーの会場の如き熱気が場内に静かに充満していて、彼らの心の中の黄色い声援が聞こえてくるようだ。

 熊の密猟に関するドキュメンタリー映画を制作中の大学生三人組が、密猟者と目される男性と接触を持つところから映画は始まる。
 その狩人の行動は、それが熊の密猟を目的とするなら奇異に映るものばかり。学生らはその姿を逐一カメラにおさめているが、それらの行動が何を意味しているのかまではわからない。
 学生らを取材に駆り立てるのは純粋なるジャーナリズムか名声への渇望か。いずれにしても彼らの熱意がついに狩人の真の姿をカメラにとらえたとき、そこには巨大な影が映り込んでいた!
「トロールだ!」

amazon:[Blu-ray] 【初回限定生産】トロール・ハンター ブルーレイ&DVDセット  本作を端的に表現するなら、「ドキュメンタリー映像に見る現代トロール事情」というところか。「風光明媚とはこのことか」と得心するほどに美しいノルウェーの自然を背景に、とことん馬鹿げた内容をしかも大真面目に描く。
 こういうところが男子のアンテナに引っかかるのだろう。
 大学生の自主制作映画の体裁、手持ちカメラによるP.O.V.ということで「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を想起させるが、巨大なトロールが登場しそこに陰謀が絡んでいることから「クローバーフィールド」を思い出す。また、作中人物に報道への熱意や執着を感じるところは「REC」かも。
 だからといってパクリだとか低予算が故の劣化版だとかいうつもりはない。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」はともかく「クローバーフィールド」のようなハリウッド大作映画とは規模も完成度も異なるのだから比較するほうがおかしい。微妙さ加減を含めて玩味するのが本作の正しい観賞法だ。

 本作は、伝説上の存在であるところのトロールが実在するものとして、そしてその実在をノルウェー政府が隠蔽している前提で描かれたドキュメンタリー映像であり、しかも出所不明の映像記録として取り扱う念の入れよう。陰謀論好きには堪えられない設定だろう。
 いわゆるフェイクドキュメンタリーなのだが、題材が題材だけにおそらく地球上の誰ひとりとして本物のドキュメンタリー映像と信じないであろう、そんな完成度である。P.O.V.にありがちな手ブレや夜間撮影用の赤外線映像の演出は、「ありがち」と表現したようにいずれも先行作品で目にしたものばかり。今や新鮮味はない。
 本作が独特なのはトロールの存在にある。かの地でおとぎ話に語られてきたトロールが血肉を与えられて森や山を駆け回る。針葉樹が天をつく北欧の風景は、些かなりとトロールの実在を信じ込ませる力を有するが、ノルウェー政府の隠蔽工作があまりに杜撰なために苦笑とともに現実に引き戻される。熊の死体が着ぐるみにしか見えないのは、あれはハイブロウなギャグなのか?
 そうはいってもフェイクドキュメンタリーではあるので、子どもに見せると本気にしてしまうかもしれない。トロールを探して野山を駆け回る少年少女というのは微笑ましいが、遭難の危険がないとはいえない。無責任にけしかけるのはあまりに危険だ。

amazon:モンスターハンター3G  本作で題材にとられているトロール。いったいどのような存在なのか?
 トロール保安機関に雇われているトロール・ハンターのハンスによると、トロールの寿命は千年から千二百年。雌の妊娠期間は十年から十五年。何にせよとてつもないスパンで生きている。
 成長するにしたがって頭状の突起物が生えるが、これに感覚器はそなわっていない。嗅覚に優れ、人間の匂いに敏感。トロールに近付くには清流で体を洗い(特に腋と股間は念入りに!)、ハンスが精製した「トロール臭」を体中に塗りたくらなければならない。
 いくら体を清めてトロールの匂いを発散させたところで、目の敵であるキリスト教徒は見つけ出されてしまう。これはトロールがキリスト教伝来によって駆逐された土着信仰における神であったことに由来するようだ。ハンスも撮影クルーにキリスト教徒でないか再三尋ねている。でも本当のところ、イスラム教徒の場合はどうなのだろう?
 トロールは大きく森トロールと山トロールとに分けられる。細かく分類すると、リングルフィンチ、トッサーラッド、マウンテンキング、ハーディング、ヨットナール等が存在する。いずれも太陽の光を浴びると石化し、あるいは爆発する。このことから彼らは夜行性の習性を持つ。
 雑食。ゴムが好物。知能は発達していない。
 本来はテリトリーから離れないトロールがこの数週間というもの、その活動を異常に活発化させて人里に程近い地点にまで出没するようになった。ハンスはこの事態を危惧している。
 彼が明かすトロールの実状はまさに哺乳類生物の生態そのものであり、そこには空想上の存在としての不思議はない。食べて寝て生殖するだけの存在だ。だからこそ己の数倍数十倍もする巨人とハンスは互することが可能なのだけれど。
 空想上の存在を生物学的に解体することでトロールは害獣扱いされ、人間社会の都合によって絶滅危惧種へと追いやられる。ここに宮﨑駿の「もののけ姫」におけるエボシ御前やジコ坊に通じる思想がある。大いなるものへの畏敬の念はどこにもない。ハンスの抱える懊悩も絶滅動物へと向けられるそれであって、だから畏れの意識は窺えない。
 この点がやや冗長な展開を見せる序盤と並んで些か残念に思われるのだが、ここは"そういうもの"として受け入れるしかない。
 トロールが紫外線を浴びて爆発したり石化したりする理由を獣医師が説明する。それは科学の言語で為されてしまう。魔法や呪いといったファンタジーの文脈はどこにも見当たらない。血肉の通った巨大生物の死がそこにある。最後にはトロールの異常行動の原因が明らかとなるのだけれど、それもやはり生物としての病理。
 だから本作は巨大怪獣映画なのだ。
 巨大怪獣、たとえばゴジラはゴジラとして誕生した。本作にてトロールは巨大な哺乳類生物にさせられた。この違いは大きい。

 なんだかんだと瑕疵はあれど、本作はいろいろな意味で面白い。
 ノルウェー産の悪ふざけに触れられるし、往年の水曜スペシャルを映画館で観られるのだから。スクリーンの魔術で実際の完成度よりもずっと面白く感じているかもしれないが、だからこそ本作は映画館で観てほしい。観賞後、「バカなものを観てしまった」と笑みを浮かべるのが、本作「トロール・ハンター」との付き合い方だろう。

 ノルウェーはトロールでバカ映画を作り上げた。オンリー・イン・ジャパンで世界に知られる我が国も負けてはいられない。光の巨人や巨大怪獣を生んだ日本だからこそ遅れをとるわけにはゆかない。
 こうなったらダイダラボッチを題材に妖怪ハンターが活躍する日本映画を作るしかなかろう。心踊る怪獣映画を!

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 ”陰謀”といえばフリーメーソン、こんな日本では常識(?)と思えることは世界では非常識だったりします。まあ、世界で一番有名な秘密結社っていうことじたいが、...

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