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敵は無慈悲な夜の帝王

「フライトナイト 恐怖の夜」公式サイト 「フライトナイト 恐怖の夜」を観た。
 本作は1985年公開の「フライトナイト」のリメイク作品。リメイクにあたり改変部分もあるようだけど、基本となる骨子は変わってないようだ。
本作で吸血鬼ジェリーを演じるのはコリン・ファレル。眉毛の濃さと太さが特徴的な伊達男だ。
 ベラ・ルゴシやクリストファー・リーがクラシックな装いで演じて貴族的イメージを確立した吸血鬼は、時代が下るにつれてその有り様が細分化する。夜の住人の纏うデカダンな美しさを極めた、永遠の放浪者。身ひとつで社会体制を破壊する、暴力のカリスマ。蟻や蜂のように個の意思を持たず集団の利益のために行動する、取り替えのきく歯車。
 コリン・ファレルは彼自身のイメージに重なる「大人の色気たっぷりのタフガイ」という吸血を提示してみせた。その振る舞いには頼もしさを感じ取られるが、時にそれは底知れない凄みとなって「ああ、やはりこの男は人外なのだな」と思わせるに足る。
 陽光の下が似合いそうな色男は、しかし吸血鬼の宿命として夜の闇から決して足を踏み出せない。

amazon:[Blu-ray] フライトナイト/恐怖の夜 3Dセット  本作の舞台は、ラスベガスはカジノ街近郊の新興住宅地。荒野にポツンと町並みが佇む様子は、まさにコロニーと呼ぶのに相応しい。
 この決して大きくはないベッドタウンが侵略の危機にさらされる。侵略者の名はジェリー。正体は吸血鬼だ。
 吸血鬼を題材にした物語の醍醐味というものを、私は「人間 VS 吸血鬼」の構図に見る、人間による吸血鬼掃討戦にあるとは考えない。その前段階、むしろ吸血鬼の侵略によって果たされてしまう「共同体の崩壊」、その様子にこそ胸躍らされる。
 だから開幕早々に示され、一目瞭然となった共同体全域の佇まいを見て、「ここが侵略されるのだな」と、これから眼前で繰り広げられるだろう吸血鬼の容赦なき覇道に、大いに期待し胸ふくらませた。
 しかし、予想に反して物語の開幕時には既に吸血鬼の侵攻が始まっていた。一家が全員毒牙にかけられ、主人公の通う高校では欠席者がちらほら出ている。教師が出欠の点呼をとる場面から欠席者の数が増えていることが提示され、ここから吸血鬼が着実に支配の手を広げているのが窺える。
 攻めるとなれば一気呵成に事を成す。その一方で櫛の歯が少しずつ抜けていくように、密やかに侵攻を進めるのが吸血鬼の定石。それぞれ吸血鬼の戦術と戦略の特徴をよく表している。吸血鬼は侵攻計画を実行するにあたって慎重を期する一方で、個々の襲撃は電撃作戦を敢行する。これらは数多くの弱点に悩まされる吸血鬼ならではの事情による。

amazon [DVD] ぼくのエリ 200歳の少女  夜の世界で最強を誇る吸血鬼が意外に弱点の多いことは、このブログの「ぼくのエリ 200歳の少女」を取り上げた記事で述べた。なのでここでは繰り返さないが、本作が「ぼくのエリ」と大きく異なるのは、大人に成りきらない姿と意識のまま彷徨わなければならないエリと、身ひとつで侵略を成し得るジェリーの能力の違いだ。それに加えて、エリは吸血鬼を呪われた存在だと自認しており、ジェリーは吸血鬼の人間に対する存在の優位性を信じている。
 人間社会にあって独力で暮らしてゆけないエリは、それ故に庇護者を必要とした。ジェリーが必要としたのは、夜に活動する者としてそれが許される環境だ。だからラスベガスを選んだ。夜間勤務ということにしておけば、昼間は家に閉じこもっていても怪しまれずに済む。ましてやここはカジノ街近郊にあり、住民にも夜勤労働者がいるだろう。昼夜逆転といった程度では「異常者」のレッテルは貼れない。
 また、名にし負うカジノ街であればそこを訪れる観光客も多い。観光客がそのまま行方知れずとなったところで誰も気付かないだろう。たとえ失踪が明るみになったとしても、破産してそのまま逃げたのだと云われれば納得する。ラスベガスはそんな街だ。
 このように、夜に花開く街にこそ吸血鬼の棲まう場所がある。
 ラスベガスのように吸血鬼がその正体を隠そうとしてそれでもさほど怪しまれずに済む街に辿り着いたことに感嘆。これはジェリーというより本作の製作陣への称賛である。

amazon:[文庫] 呪われた町 (上) (集英社文庫)  Tシャツにジーンズ姿のジェリーは、人間社会に入り込む方法こそ現代的だが、その本質は旧来の吸血鬼像を踏襲している。
 その力は強大にして、その有り様は限りなく不死に迫り、毒牙にかけた者を自らの眷属とする。霧に変じ狼と化すほどの大吸血鬼というわけではないが、本来なら単独でひとつの町を制圧してしまうほどの力を持った、それこそ人間社会に対する"脅威"そのものである。
 吸血鬼としての強さを有するジェリーだが、それらと同じく「吸血鬼といえば」の弱点をもその身にそなえている。
 その姿は鏡に映らず、カメラで撮影することはできない。十字架や聖水に弱く、これらを掲げられたり掛けられたりすると滅びるまではゆかないがダメージを負う。心臓に杭を突き立てられることで滅び、太陽の光を浴びると消滅する。
 これらの弱点があるからこそ、吸血鬼の侵攻は緻密な戦略のもとに進められ、その襲撃は一気呵成に成される。彼らが優勢に立っていられる時間は長くないのだから。

 ジェリーは侵略者だ。転居というかたちで小さな共同体に入り込み、内側から侵食してゆく。自らの地盤を堅固なものにすべく、住人を次々に眷属に加える。そこには覇道を突き進む者の余裕は感じられない。まるで何者かの襲撃に備えようとしているかのよう。
 ドラキュラの名を戴いていないがジェリーもまた竜なのだ。その本質は英雄に斃されるべき存在。その英雄がチャーリー、さえない高校生(童貞)だ。
 チャーリーとその恋人のエイミー、吸血鬼退治のエキスパートの看板を掲げるピーター・ヴィンセント。彼らとジェリーとの対決の構図はかの名作、ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」を彷彿とさせる。チャーリーとエイミーはジョナサン・ハーカーとミナであり、ピーターはヘルシング卿である。
 この人間関係に加えて、吸血鬼退治に最新の科学技術を用いる点も、当時の最新科学を取り入れた「ドラキュラ」に重なる。その敗北も。

 さて、本作は吸血鬼譚であると同時に、通過儀礼を描いた青春物語でもある。
 もともとはスクールカーストの最下層にいたチャーリーが、クイーンビーであるところのエイミーに恋をして成り上がろうと奮闘する。幸いにしてエイミーと恋仲になるものの、それによってチャーリーの地位が上がることはなかった。クイーンビーに相応しい男たらんと欲したところで、ジョックの座につくだけの男では決してない。
 ヒエラルキーの頂点は空位ではなく、ここに新参者のジェリーが君臨する。ジェリーは学生ではないが、外見や知性、運動能力に魅力といった有り様はスクールカーストに君臨するジョックそのもの。このカリスマはすぐさま人心を掌握し、ついにはチャーリーからエイミーを奪い取る。
 男の成長に女性の存在が大きく影響を及ぼすのはよくあることで、ここに至って吸血鬼退治はチャーリー自身が為さなければならない問題となった。エイミーを取り戻すため、チャーリーはジェリーとの対決に臨む。
 スクールカーストに則して本作を単純化すると、ただのナードでしかなかった男がワナビーとなり、その甲斐あってかクイーンビーと交際できるようになるも、その恋人をジョックにあっさり奪われる。このショックが男を狂わせて「俺のオンナに手を出す奴ァ、絶ッ対に許しゃしねえ!」とジョックに喧嘩をふっかけさせる。ジョックとの喧嘩に勝利したなら、恋人を取り戻すとともにスクールカーストの頂点を極める。要は下剋上なのだ。
 チャーリーが死ぬ気になって強大な敵に立ち向かうのも宜なるかな。エイミー役のイモージェン・プーツがかわいらしくて華がある。こんなにかわいい娘が恋人なら、ちょっと頑張っちゃうよね。

amazon:[文庫] 屍鬼〈1〉(新潮文庫)  吸血鬼はその侵略によって共同体に死を齎し、英雄に滅ぼされることで共同体に再生を促す。かくて英雄の通過儀礼は果たされ、共同体は繁栄を約束される。これが吸血鬼譚のひとつの定型である。
 世の中には成功者の物語ばかりが存在するわけではない。英雄が英雄として機能せず、選択を誤り、試練を克服できず、通過儀礼に失敗する物語もまた語り継がれ読み継がれている。竜が英雄を屠る物語は、これはこれで魅力がある。
 本作はそういう結末を持たない。チャーリーは勝ち、ジェリー帝国は滅亡させた。失ったものがあり、 手に入れたものがある。大団円はエイミーとベッドの上。窓の外に夜はひろがってゆく。
 夜が自分たちだけのものではないことを、彼らはもう知っている。

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