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家に帰るまでが強盗です!

amazon:[Blu-ray] インサイド・マン  さあ、これで三回目だ。まだ続いているのが自分でも信じられない。
 スパイク・リー監督による2006年公開のアメリカ映画、デンゼル・ワシントンとクライヴ・オーウェンとジョディ・フォスターが出演する「インサイド・マン」を観た!
 前二回はここで梗概を書いたけれども、さすがに三度も同じことを書くのは辛い。今回は勘弁してもらいたい。
 まずは本作を取り上げた前二回に目を通してほしい。そうしなければこの記事を読んでもよくわからないだろう。ただでさえアレな文章だというのに、ソレをコレしてドウなるの?
 何はともあれ、前二回の記事をとりあえず読むことをお勧めします。

 また、本作「インサイド・マン」を取り上げた記事は、今回を含めてすべてネタを割っているものとお考えください。「まだ観てないからオチを知りたくない」ということでしたら、厳かに「戻る」をクリックでございます。

amazon:[文庫] 新装版 長い家の殺人 (講談社文庫)  キース・フレイジャーは違和感を覚えていた。
 破格の要求、クイズ、エンバー・ホジャの演説。これまでの強盗団の行動からは意図が窺えない。何が狙いなのか?
 膠着状態のまま、ただ時間が過ぎるばかり。
 時間が過ぎる?
 籠城事件では警察サイドが時間稼ぎをする。それが定石だ。
 では、籠城犯に何かしらの理由があって時間稼ぎをしたければ、どうだ? 警察の行う時間稼ぎに付き合えばよい。
 ここに至って、これがただの強盗籠城事件ではないことにフレイジャーは気づく。籠城事件における警察の定石、事件解決のための方法論こそが犯人に利用されたのだ! これは強盗事件ではない。犯人グループは何かしらの理由があって進んで籠城しているのだ。
 こうなれば籠城犯にこの推理をぶつけて揺さぶってみよう。
 そうでもしなければ、これまでの時間が無駄になる。もしこれが強盗事件ではなくて籠城事件であるなら、警察は犯人グループについて今もって何も知り得ていないことになる。てんで見当違いを続けてきたことになる。
 本当に時間稼ぎが狙いであるとすると、それを後押ししてきた自分たちこそ大馬鹿野郎だ!

 時間を使って交渉を続けてきた警察が、一転してジャンボジェットという途方もない要求を飲んだ。そのかわりにフレイジャー自身による人質の安否確認を条件に出した。
 自分たちの要求が通ったからには、刑事のひとりくらい招き入れるのを拒めない。それはさすがに不自然だ。犯人グループの首領、ダルトン・ラッセルはフレイジャーの銀行内への立ち入りを許可する。

 実際に犯人と対話してみてフレイジャーは気付いた。彼らが少しも焦っていないことを。むしろ自分たち警察陣営のほうが浮き足立っている。
 犯人のこの落ち着きは計画に対する絶対の自信があってこそのものだろう。彼らによって練り込まれた計画は、警察がどのような対応をするかも想定しているはずだ。
 この状況を打破するには、彼らの想定外の行動をとるしかない。
 ごく平和裡に終わった対話の最後、いよいよ出て行こうとするフレイジャーが握手を求める。ダルトンがそれに応えると、フレイジャーは差し出された手をつかんで押し倒す。さあ、捕まえた! こいつを外に引きずり出せば俺の勝ちだ!
 乾坤一擲の策だったが、フレイジャーはこれに失敗した。ダルトンの仲間が援護に現れたのだ。
 失敗したとはいえ、フレイジャーは満足していた。一時間前は正しいイメージすらつかめていなかった犯人に対して、実際に会って話すことでその人となり一端なりとも触れられたのだから。少なくとも奴らは流血を望んでいないことがわかった。この実感を手掛かりにして、この奇妙な籠城事件を解決してみせる。
 そのとき、銀行内に動きが。犯人から通達があり、通りに面した二階の部屋に注目する。その窓から犯人と人質の姿が確認できる。人質のひとりと見える人影に銃を突きつける犯人。次の瞬間、銃声が轟き赤い液体が迸る。
 フレイジャーの暴走に対する見せしめとでも云うのだろうか。あまりに残酷な光景であった。
 被害者が出てしまったなら、もう猶予はならない。交渉による解決ではなく、強行突入で決着を図る。
 事態がこうなったからには、フレイジャーはお払い箱だ。しかし14万ドルの小切手横領疑惑が払拭されようとも、このままでは彼の気は晴れないだろう。

 朝、強行突入の準備が進められるなか、通報した制服警官との何気ない会話から、フレイジャーはあることに気付く。
 いくら完璧な計画を立てたにしても、それを実際に行うとなるとうまくゆかないものだ。まして相手のあることならその動向次第で状況は有利にも不利にも変わる。せっかくの計画も状況をコントロールできなければ破綻する。
 物事を計画通りに進めるには状況をコントロールしなければならず、そのためには状況を正しく把握する必要がある。警察が解放された人質から事情聴取したり差し入れのピザの箱に盗聴器を仕掛けたりして状況把握に努めたように、犯人も警察陣営の出方を知る努力をしたはずだ。
 フレイジャーの頭に閃いたのは、銀行から持ち出された唯一の物、二番目に解放された人質が首から提げていた引き出し。あれには犯人からの要求文が書かれており、重要な証拠物件として自分たちの傍らに置いていた。作戦を練っているときも何かしら指示するときも、そこにはあの証拠物件があった。
 犯人グループの行動はそのすべてが計算づくなのだとすると、人質の解放も要求をあんな物に書いて寄越したのも、何らかの意図があったはずだ。
 フレイジャーは独断で証拠物件たる引き出しを分解すると、そこに盗聴器を発見する。
 自分たちが盗聴器を仕掛けるその前に自分たちが盗聴されていた! どんなに頭を絞って犯人を出し抜こうとしても、盗聴されていたのであれば作戦は筒抜けではないか! まんまとしてやられた!
 フレイジャーは気付く。今も盗聴されているのなら、直後に実行される強行突入は犯人グループに知られている。奇襲攻撃として成立していない!

 フレイジャーの制止も叶わず、特殊急襲部隊がまさに銀行内に突入せんとする瞬間、扉が開いて煙幕煙の向こうから人々が飛び出してきた。ゴム弾を受け、あるいは組み伏せられる人々。彼らは犯人一味なのか人質なのか。
 犯人も人質も一緒くたに確保して、特殊急襲部隊は建物内に入ってゆく。フレイジャーもまた決着を見届けるために銀行内へ。
 事件現場で警官たちが見たのは、手をつけられていない現金と人質たちの衣服。女性トイレで見つかったガラクタ、白い布に注射器で赤い液体を噴射する仕掛けは昨夜の処刑を演出したオモチャだ。オモチャと云えば、犯人たちが構えていた銃が残っていて、それらはすべてモデルガンである。
 つまり、この銀行では金も奪われず、誰も殺されなかった。犯人たちは凶器すら所持していなかったのだ。どのような罪に問えばよい?
 フレイジャーは銀行がもぬけの殻となったことを確認して、事件発生以来、最大の驚きに襲われた。あの長身の男はどこへ消えた? 犯人グループのリーダー格であり、昨夜、会話を交わしたあの男はどこだ?
 ダルトン・ラッセルは警察の前から姿を消した。

 それからは事情聴取に次ぐ事情聴取。あのとき、銀行から飛び出てきた者は、誰が犯人で誰が人質だかはっきりしない。全員の供述を取って、そこから犯人を見極めるしかない。たとえ犯人が自分は人質だと主張しても 、その供述には穴があるはず。また、本当の人質が犯人を指摘するだろう。
 案に相違して事情聴取は困難を極めた。人質が強いられた服装の統一と覆面の着用は。互いの人相風体を判別し難くするために用いられたと思しい。これに逆らって覆面を外そうものなら、無慈悲な制裁が待っているようだ。幾つかの供述で明らかになったのは、若い男が覆面を外したらば犯人がその男を引きずって部屋を出て行き、直後に制裁を加えたらしいということ。その出来事以降、人質はよりいっそう従順になったようだ。
 犯人は誰かを人質が告げてくれると期待したが、服装とマスクで特徴を消されたうえに部屋を次々に移動させられたとあって、誰もが誰に対してもアリバイを確言できないでいる。脅したりすかしたりして口を割らせようとするが、対象者が多すぎる。彼らは人質かもしれず犯人かもしれず、現時点では参考人として扱うしかない。
 フレイジャーらの懸命な努力にもかかわらず捜査は進展しない。そこに信じられない情報が舞い込む。
 何も盗られず誰も傷つけられず容疑者すら特定できないことから、捜査は打ち切られるとのこと。
 あれだけのことをしておいて、何も盗らなかっただと?
 馬鹿な! 犯人は常に警察の数手先を読んで動いていた。そんな奴らが何の目的もなく籠城しただけ?
 あり得ない!
 このまま捜査を打ち切ると、出し抜かれたまま終わってしまう。

 個人的な秘密を人目に触れさせなくないというアーサー・ケイスの望みは、籠城犯が消えたことで叶えられた。秘密の内容を示した品は犯人に持ち去られたようだが、警察もマスコミも嗅ぎつけてない今、事を公にしないためにも事件の鎮静化を図るべきだ。
 犯人が後になって恐喝してきたなら、そのときに対応すればよい。どうせ脛に傷持つ身だ。金だろうと何だろうと、おおっぴらに要求できやしない。
 マデリーン・ホワイトの報告にケイスは満足した。失った物はあれど、秘密が暴露されたわけではない。とりあえず今の地位と名誉は保たれた。
 加えてホワイトが尋ねる。あの籠城犯の本当の狙いは、ダイヤモンドですね?
 ナチスから逃れる際、ユダヤ人は身軽になるために財産をダイヤモンドにかえた。現金にしろ株券にしろ額が大きいほど嵩張ってしまう。金塊は尚更だ。持ち運びに適してない。だからダイヤモンドだ。
 アーサー・ケイスはそのダイヤモンドを持っていたのだ。彼が世に出るために費やした金は、収容所送りにしたユダヤ人から奪ったダイヤモンドが原資となっている。
 眼前の卑劣漢に対して、内心では唾を吐きかけつつもそれをおくびにも出さず、良い関係を築いてゆこうと語るマデリーン・ホワイトであった。

 籠城犯の狙いを探るため、マンハッタン信託銀行32番支店の書類を調べるフレイジャーは、392番の貸金庫の記録に注目する。1948年の開業以来、この貸金庫が借りられた記録が無い。こんなことはこの支店でこの392番貸金庫のみ。これはおかしい。
 392番の貸金庫に表沙汰にできない何かが保管されていたとしたら、そして籠城犯の狙いが392番の貸金庫の中身だとしたら、今の状況を説明できはしまいか。記録上、マンハッタン信託銀行32番支店にあるはずのない物が盗まれたとしても、本来は存在しないなので被害届を出すに出せない。つまり、それは公にできない代物だ。
 犯人はそういう事情をすべて承知で計画を立案したのだ。貸金庫の秘密、それを知るのは創業者。半世紀以上の長きにわたってアーサー・ケイスが隠し続けてきたことを、犯人は知っているのか。ならば、自分も知らなければならない。
 フレイジャーはマンハッタン信託銀行32番支店の392番貸金庫を検めるために捜査令状を申請する。

 とうとうここを出る時がきた。ダルトン・ラッセルは宣言通りに正面から銀行を出てゆく。
 この一週間、ダルトンが隠れ潜んでいたのは備品管理室。入り口の正面、壁際にスチールの骨組みだけで立っている棚があり、ダルトンはその向こうに小さな空間を作って隠れている。
 ダルトンが時間稼ぎをした理由、それは備品管理室に新たに小部屋を作るためであった!
 木下籐吉郎の墨俣一夜城ほどの規模ではないが、ちょっとした改築工事を仕上げるには相応の時間を要する。それを承知していたので、ダルトンはあの手この手で時間稼ぎをしたのだ。
 その甲斐あって小部屋は完成し、ダルトンは一週間にわたって隠れ潜むことができた。人質を解放した瞬間から、ダルトンの籠城生活は始まったのだ!
 ほとぼりの冷めた本日、ダルトン・ラッセルは正面入り口から銀行を去ってゆく。完全犯罪の完成である。

 392番の貸金庫を開けるためにマンハッタン信託銀行32番支店へとやってきたキース・フレイジャー。アーサー・ケイスがどんなに偉いか知らないが、今に吠え面かかせてやる。
 扉を入ってすぐにひとりの男性とぶつかった。その背の高い男は頬を無精髯に覆われていた。双方ともに先を急いでいるため、軽く謝意を示して別れる。
 392番の貸金庫には置き忘れたように指輪がひとつ。そして「指輪を追え」の書き置き。指輪は年代物のカルティエだ。これほどの逸品、そしてカルティエほどの企業ならば、半世紀以上前の売買であろうと、きっと購入者の名前を控えているはずだ。さて、この指輪を買ったのは、果たしてアーサー・ケイスだろうか?
 ケイスよ、お前の戦争犯罪を明るみにしてやるから覚悟しておけ!

 アーサー・ケイスの戦争犯罪を証明する物的証拠は、人間的にも能力的にも信用のおけるフレイジャーに預けた。
 仲間と合流したダルトンの頬には笑みが浮かんでいた。
 ケイスの「隠し財産」を知っているということは、ケイスが何をしてその「財産」を得たのかを知っていることを意味する。ケイスがこれまで秘匿してきた秘密を知り得る者とは、彼の犯罪の被害者かそれに連なる者に違いない。だから、ダルトンの仲間にはユダヤ人がいるのだ。
 差別問題に意識的なスパイク・リー監督作品ということで、皮膚の色や言語、民族的出自の異なる作中人物が多数登場するのは、彼の作家性から当然と受け止めたのだが、この思い込みすら目くらましに利用したのだ。舞台は人種の坩堝であるアメリカ合衆国、しかもニューヨークでそのうえ下町となれば様々な人間が行き来する。世界中から人々が集まるが故に、物語に多彩な人間模様を描ける。その中に罠を用意しておくことも容易い。
 自らの作家性やキャリアまで利用するなんて、つくづく巧妙であると云わざるを得ない。ホント、スパイク・リーには脱帽だ。

 三回にわたって取り上げた「インサイド・マン」。本作のような「きっちりと構築された謎解き物語」は、ミステリ好きには堪らないものがある。
 ミステリ好きという人種は、騙される愉悦は勿論のこと、精緻に構築された犯罪大伽藍には称賛を惜しまない。そして本作はまさにその境地にあるのだ。何度となく観たい作品のひとつであることは間違いない。
 ここまで三つの記事を読んでくださった方には是非とも観てほしい作品なのです。
 騙されたと思って、試しに観てくださいな。決して損はさせない。

 昇進の喜びを胸に恋人を訪ねたフレイジャーが手回り品を片付けていると、上着のポケットから身に覚えのない物を見つけた。一粒のダイヤモンドだ。
 思い出すのは、銀行でぶつかった長身の男性。そしてあの夜の会話。犯人グループのリーダー格、背の高いあの男は「正面から出てゆく」と宣言した。今日ぶつかったあの男性は正面から銀行を出て行った。
 あの野郎!
 犯人と会話を交わすなかで、フレイジャーは恋人と結婚したいが指輪を買う金もないと愚痴をこぼした。なるほど、だからダイヤモンドか。
 フレイジャーの顔に笑みが浮かんだ。

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