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木の葉を隠すなら?

amazon:[Blu-ray] インサイド・マン  前回、前置きで終わった「インサイド・マン」の続きである。
 差別問題を題材にとるスパイク・リー監督作品。武装強盗の首領をクライヴ・オーウェン、交渉担当の刑事をデンゼル・ワシントン、やり手の女性弁護士をジョディ・フォスターがそれぞれ演じている。ウィレム・デフォーがアクセントとなっている。

 ニューヨークのマンハッタン信託銀行32番支店は、今や大富豪として名高いアーサー・ケイスの起業の礎である。1948年にここを開業したのが、ケイスの成功神話の発端である。
 そのマンハッタン信託銀行32番支店を、強盗が襲う。四人組の男女が塗装工に扮して侵入。監視カメラを使用不能にして、人質をとる。
 巡回中の制服警官がマンハッタン信託銀行の扉の隙間から煙が漏れているのを発見。近付くと扉が開き、大口径の拳銃を手にした男が。サングラスに覆面で人相を隠した男は外国訛りで銀行を占拠した旨を宣言する。これは大事件だ!
 マンハッタン信託銀行の籠城事件を担当する刑事は、ニューヨーク市警のキース・フレイジャーだ。彼は14万ドルの小切手を着服した疑惑をかけられて内勤に回されていたが、本来なら担当するであろう同僚刑事が休暇のためお鉢が回ってきた。つまらない疑惑で出世街道から外れてしまったが、この事件を解決して名誉挽回するのだ!
 マデリーン・ホワイトがアーサー・ケイスから直接の電話を受ける。彼の銀行を強盗が侵入。現在、籠城しているという。そこには個人的な秘密が隠されており、ケイスはその秘密が暴かれるのを望んでない。だからケイスが云うには、腕利きの弁護士に強盗と取り引きしてもらいたい、と。ケイスの望みを叶えられるか否かが、ホワイトの将来を大きく左右するに違いない。彼女は笑顔で依頼を受ける。
 人質が解放される。二人目の彼が銀行から出されたときに首から提げていたのは、取り外された引き出し。それに犯人の要求が書かれている。
 バス二台と燃料満タンのジャンボジェット機をパイロット付きで。
 白昼の籠城劇、どんな結末を迎えるだろうか?

 さて、今回こそは「インサイド・マン」について微に入り細を穿って語ってみよう。ネタを割るのも辞さないつもりだ。本作をまた観てない、まだ詳しく知りたくないという向きは、これより先を読み進めないように。
 さあ、「戻る」をクリック!
amazon:[文庫] ブラウン神父の童心 (創元推理文庫)  フレイジャーら警察の姿勢は、犯人に対して定石通りに時間をかけて交渉することにある。対応を長引かせることで手に入れた時間を使って、銀行内の状況の把握に務め、犯人の人数や外見上の特徴、その素性や背景を探る。
 犯人に交渉の意思ありと見るや、これを幸いに自分たちのペースに持ってゆこうと企む。まずは犯人の要求に「Yes」と返答する。ただし条件を付ける。このたびの要求は破格に壮大な内容だ。ジャンボジェットなんておいそれと用意できるものではない。しかし交渉するにあたっては、これが実にありがたい。なんだかんだと理由をつけて時間を引き延ばすことが可能だ。
 時間がかかるということで、その間に空腹を覚える者が出てきてもおかしくない。これは犯人であろうと人質であろうとかわりない。腹くちくなれば気持ちが落ち着く。犯行継続のモチベーションが下がれば勿怪の幸い。よしんばそうならなくとも、差し入れの品に仕掛けを施すことは可能だ。たとえば盗聴器はどうだろう?
 交渉を有利に進めるには、交渉によって事態を好転させられると相手に思い込ませるのが一番。自分の思い通りに事が進むと信じさせることができれば、受諾させることの難しい条件も飲ませられる。この場合、イニシアチブを握るのはこちらである。

 マンハッタン信託銀行32番支店には創業者の個人的な秘密が眠っているという。マデリーン・ホワイトはそのアーサー・ケイスの依頼、ケイスの秘密をどんな手を使っても人目に触れさせないというそれを完遂すべく、自らのコネクションを利用する。最終的に強盗と交渉しなければならないが、それを実現するためにも事件現場に立ち入られるように根回ししないと。
 ケイスの云う、人目に触れさせないというのはマスコミは勿論のこと、警察や武装強盗もこれに含まれる。警察組織に対してはホワイト自身のコネクションを駆使することでうまく立ち回れるだろうが、武装強盗を相手にするとなるとホワイトの交渉術次第。
 ケイスはホワイトの顔の広さと交渉能力に期待して彼女に依頼したものと思われる。この期待に応えられるかどうかがホワイトの今後を左右するだろう。そしてホワイトは自分の成功を信じて疑わない。

 アーサー・ケイスの秘密は、かつて彼がナチスに協力した過去にある。
 ケイスが起業するのに用意した資本というのは、収容所に送られたユダヤ由来のものだ。彼はユダヤ人の居場所を密告し、その見返りとして彼らの財産を自分のものにした。まさしくロスチャイルドの言葉、「街に血が流れたら投資の好機」を実際に援用したのだ。
 ケイスがナチスに差し出したユダヤ人のなかには、彼と友誼を結んでいた者もいた。ケイスは莫大な財産を手にする誘惑に勝てず、友人を裏切ったのだ。
 マンハッタン信託銀行32番支店の貸金庫392番には、ケイスがユダヤの富豪から財産を取り上げたことを示す帳面と、彼が奪ったことのはっきりしている宝飾品が眠っている。いずれも表沙汰にできないものである。
 今や篤志家として知られる男の過去の罪。誰にも知られるわけにはいかない。

 ケイスの意向を受けてダルトンと交渉するホワイト。彼女自身、ケイスの秘密がどんなものか知らない。眼前の強盗も知らないものと思い込んでいた。しかし案に相違して強盗はアーサー・ケイスの戦争犯罪を知っている。
 ダルトンはホワイトの提示する条件に興味を示さず、ケイスが如何にして最初の富を築いたのかを語る。このマンハッタン信託銀行32番支店を開業するのにどこから資金を捻出したのか、を。
 ホワイトは依頼人の残忍で卑劣な過去を知り、眼前の男がこちらの要求を決して飲まないことを実感した。
 成功するはずだった交渉は決裂したが、だからといってケイスの秘密が暴かれるとは限らない。依頼内容は、ケイスの秘密が人目に触れないこと。これについてはまだ望みがある。今後、状況がどのように推移するか注視しなければならない。

 ダルトンら強盗団が塗装工に扮したこと、人質に自分たちと同じ服装に着替えさせたこと、特徴のある呼び名で呼ぶこと。これらはいずれも計画完遂するのに必要な要素である。これらが有機的に結び付いて幾つもの効果をあげ、それらの積み重ねが一風変わった籠城事件を完全犯罪へと押し上げている。
 塗装工に扮したのは、どこにでもいる作業員として「目に入っていても見えていない」存在になりきるのが目的のひとつ。もうひとつの目的は単純だ。計画を進めるうえで塗装する場面が出てくる。そのため、それに相応しい服装と用意が必要だった。何を塗るのか? それは「壁」である。
 この「壁」を仕上げることが籠城計画のキモである。警察との交渉において時間稼ぎに終始したのは、すべてはこの目的があったればこそ。

 ダルトンら強盗団に着替えさせられた人質は、全員が同じ服装、加えてマスクをかけている。強盗団と人質の外見上の違いはサングラスの有無のみ。顔を消した強盗団と外見的特徴のほとんどを失った人質。この状態で強盗団のひとりがサングラスを外して人質の輪の中に紛れ込んだとしても、それが強盗団の一員だとは誰も気付かない。
 強盗と人質とを判別できなくするのを徹底するため、更なる工夫をしている。人質を幾つかのグループに分けて銀行内の小部屋に分散させ、ある程度の時間を経るとグループ内の幾人かを違う部屋に移動させる。グループのメンバーをシャッフルすることで、人質全員が確固たるアリバイを主張も証言もできなくなる。
 ダルトンを除く強盗団のメンバーは、籠城のさなかに幾度か人質に紛れ込んだ。その狙い二つ。ひとつは、自分は強盗団の一員ではなく人質であると供述する際、それに信憑性を持たせるため。たとえば強盗のひとりに暴力をふるわれるところを見せつければ、その場にいる者に人質として認識されるだろう。もうひとつの狙いは、人質をコントロールするため。強盗の姿で人質に指示するのは勿論だが、群集心理をも利用して人質の行動を操作するのが狙いだ。たとえば、強盗の指示に逆らった場合、どのような目に遭うかというのを、人質に扮した強盗団メンバーが身をもって示す。つまりは自作自演だ。哀れな被害者を反面教師に、人質の態度は一段と行儀の良いものとなる。
 人質は携帯電話を没収された際、ピーター・ハモンドの蛮勇が彼に何を齎したか目撃している。逆らえば何をされるかわかったものではない。頭を低くして嵐の過ぎ去るのを待つような気持ちで、今はただじっと我慢の時である。
 人質に我慢をさせること、おとなしく指示に従わせること。計画を遂行するにはそれが必要であり、そのために奇妙とも思われる手を打つのだ。

 強盗団のうち、首領のダルトンを除く三人は互いに「スティーブ」「スティーブ O」「スティービー」と呼び合う。これらは当たり前だけど変名だ。変名を使う理由は実名を隠すだけではなく、重要な意図がある。名前を呼ぶことは、伝達事項がある等の理由で対象の人物に対して注意を喚起するものに他ならないが、この場合は仲間であることを示す符丁として使ってみせている。
 四人組が押し入ってきて、リーダー格のひとりを除いて互いに同じような名前、「スティーブ」「スティーブ O」「スティービー」で呼び合っている。こうした状況下であれば当たり前のように思い込むだろう、強盗団は四人組だと。
 ダルトンら強盗団は五人組である。四人が銀行に侵入したとき、五人目のメンバーは既にそこにいたのだ。そして人質として囚われた。この五人目のメンバーの重要な役目は、他の三人に対する目撃証言を捏造し、警察の事情聴取を攪乱することにある。
 人質解放後、そのなかに紛れ込んだ強盗犯を警察は事情聴取で炙り出そうする。その際、人質それぞれの供述を突き合わせて犯人を特定するつもりだったが、これは大いに失敗する。ただでさえ生きるか死ぬかの極限状況に置かれて、しかも個体識別の難しいありさまで、落ち着く間もなく部屋を移動させられて、どうして冷静に観察できよう。
 そこに強盗団五人目のメンバーが虚実交えて供述することで、警察は誤った認識を得ることになる。その供述には、仲間のアリバイを保証する内容が含まれる。
 確かな手掛かりすら得られずに犯罪捜査を強いられるのは徒労である。犯人検挙など夢のまた夢。

 さて、ここで残念なお知らせ。
 前回から取り上げている「インサイド・マン」なんだけど、まだ終わりません。だってまだまだ語りたいんだもん! むしろ語り切れていない。
 いやあ、こんなに長くなるなんて自分でもビックリ!
 次回こそは決着するはず。そういうわけで、次の更新を刮目して待つといいかも!

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