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野良犬の群れ

amazon:[コミック] 少女ファイト(2) (イブニングKCDX)  日本橋ヨヲコ『少女ファイト』2巻を読んだ。
 私立黒曜谷高校をスポーツ特待生で入学した大石練。幼なじみの式島未散もまたスポーツ特待生で黒曜谷高校へ。そして、小学校で二人と一緒だった小田切学も黒曜谷高校スポーツ科学科に入学。
 入学式の後は、いよいよバレーボール部監督や現役部員、新入部員との初顔合わせである。練にとっては新たなバレーボール人生の開幕だ。女子バレーボール部の新入部員は六名。見知った顔もあれば関西から来たという者もいる。なかでも変わり種は、体験入部したその日にバレーボールを始める決意をした初心者だ。
 いよいよ本格的な部活動が始まるその日、新入部員たちが意外に感じたのは女子バレーボール部であるにもかかわらず、そこには男子部員の姿があることだ。しかも練にとっては見知った顔。
 男子バレーボール部で正セッターだった式島滋が退部して、女子バレーボール部のトレーナー兼マネージャーを務めることになった。これは昨年の白雲山学園中等部での不純異性交遊疑惑が原因の措置と見る向きもあり、当事者の一方であり、選手としてのシゲルを高く評価する練の衝撃は大きい。自分のせいでシゲルが誤解され、それが理由でバレーボールを辞める羽目になるなんて!
 自分を責める練に本当のところをシゲル本人に尋ねることを勧める学。その助言に従うと、トレーナーをするという選択はあくまで自分のためとシゲルは告げる。将来、父親の後を継ぐので、今から経験を積んでおきたい。それも、どうせなら自分の技術を求められるところで。
 シゲルのトレーナー転向に動揺し消沈する練。そして彼女に助言する学、恋人との電話が長引いた早坂奈緒。入部早々、部活動に遅刻した三人と残りの三人とで新入部員による紅白戦が行われることになった。練習期間は一週間。ただし、遅刻組は前半三日間を掃除に費やすこと。
 監督が云うには、目的を持って工夫して練習すること。

 初対面で実力差を見せつけた二年生部員。その二年生が礼儀正しく接するのが陣内笛子監督だ。彼女が入部にあたって突きつけた条件は独創的で、彼女の言動に慣れない新入部員には奇異に映る。しかし二年生部員は、三人ともが監督の言葉を当たり前のように受け入れているようで、そこから師弟の結びつきの強さ、揺らぐことのない信頼関係が窺える。
 その笛子が発案したのが、入部早々、一年生部員による紅白戦。A、Bの二つのチームに分かれて三対三のミニゲームだ。
 AチームとBチーム、それぞれにリーダーシップをとる者が現れて、各々が打ち出したコンセプトのもとに練習をする。
 Aチームは伊丹志乃と延友厚子と長谷川留弥子。セッター志望の志乃、高身長のアタッカーである厚子とルミ子がいることで、攻撃的な性格のチームになるのは自然な流れかもしれない。
 対してBチームは大石練と早坂奈緒、ここに初心者の小田切学が入る。高さはないものの巧さの光る練とナオ、バレーボールの動きが身についてない学。この面子でどのようなバレーボールを目指すべきか、まずはそこから考えなければならない。
 キャリアは十分のAチームと、初心者・学と中学時代を補欠で過ごした練を擁するBチーム。双方の戦力に大きな差があるように見える。
 この紅白戦、果たして試合が成立するのか?

 志乃と練のチーム作りは対照的だ。
 志乃の念頭には「あるべきチームの姿」があり、それに向かって邁進してゆく。理想を追求することでそれが結果に繋がる、理想の追求が結果を齎す、と彼女は信じている。志乃が目指す"結果"とは、この紅白戦においては"レギュラー定着"である。しかも彼女は正セッターの座を狙っている。それは新入部員歓迎のエキシビションで完璧なトスアップを披露した犬神鏡子と競うことを意味するが、だからと云って諦めるタマではない。まずはこの紅白戦に勝って自分の実力を見せつける。紅白戦をレギュラー獲得の橋頭堡とするのだ。まずは勝たなければならないし、そのためには理想のチーム作りをしなければならない。
 練のチーム作りはある意味でシンプルだ。現時点での保有戦力を正しく把握し、戦力に見合った戦い方をするだけ。できることとできないことを挙げてゆき、できないことをできるように努力するのではなく、できないことはとりあえず今は切り捨てて、今できることの精度を上げる。勿論、バレーボール初心者の学にできることは少ない、と云うかできることはほとんど無いに等しい。だからと云ってバレーボールに必要だからとアレもコレもと求めるのではなく、自分たち味方がレシーブしたボールを、どんなかたちであれとにかくトスアップしてくれればそれでよしとする。この紅白戦の狙いは勝ち負けを競うところにない。現時点の実力を効果的に披露することにある。
 これはなにも実際の試合における実力というだけではない。試合を前に「どのように取り組んでいるか」も評価の対象となる。「漫然と練習するな。目的を持って取り組め。各々、工夫せよ」との言葉にどのような答えを出すのかが問われているのだ。
 こうなるとAチームはその成果を上げてないと評価せざるを得ない。志乃にはポジションに対する拘りがあり、その弊害で現有戦力における適材適所を実現していない。あくまで志乃の理想を反映させたチーム作りをしている。自主練習にしても男子バレーボール部から練習相手が出張してきて行った対戦形式の練習にしても、試合相手を見据えて練習に取り組んでいたわけではない。練を意識していなかったわけではないが、具体的に何をするでもなく、いざとなれば高さを活かした三枚ブロックで相手の攻撃を粉砕するのみ。三対三ということでコートが狭く設定されているので、ブロックの成功率は高くなる。
 対してBチームはそうでなくとも工夫せざるを得ない状況にあり、罰である掃除から無駄に過ごさない。初心者の学に恐怖や苦痛を感じさせないように練習方法を考え、その一方でAチームの練習を観察する。現有戦力を正しく評価して、現時点でとることのできる戦法を磨く。男子バレーボール部から練習相手が来た際も闇雲に対戦形式の練習するのではなく、男子部員にAチームの三人を模してもらい、対策をちゃんと練る。これはルール上有効である三枚ブロックも同様だ。高さのあるAチームはいずれこれに手を出すと睨んで、練は男子バレーボール部の由良木龍馬を相手にブロックアウトの練習を積み重ねていた。三対三ということでコートが狭く設定されているので、ブロックアウトの成功率も高くなる。それでも練の記述の高さは桁違いなのだが。
 勝つために強くなろうとしたAチームと、自分たちのバレーボールをするために自分たちにできることをしたBチーム。チームとして機能したのはBチームだ。眼高手低の現実に苛立つ志乃と、自分たちにできることしか求めていない練の違いが、それぞれのチームの状態を反映している。
 切り札の三枚ブロックを逆手に取られ、打つ手のなくなったAチームは、とうとう志乃がセッターから退く。ようやくチームとして機能し始めた対戦相手に練の闘争本能に火が点く。
 かつて「狂犬」と呼ばれ恐れられた大石練の帰還である。
 ボールに食らいつく練がナオと接触事故を起こした。事故というほどのものではないが、練の脳裏には中学時代の京極小雪との接触事故がまざまざと甦り、戦闘不能に陥ってしまう。
 かくして、紅白戦は呆気ない幕切れを迎える。
 戦略の上でも戦術の上でも試合を支配していた練だったが、弱点であるメンタルの弱さを露呈し、それが最終的には勝敗を決した。

 二年生部員は新人歓迎のエキシビションでその実力を垣間見せてくれた。そのときに新入部員は咄嗟の対応、気質を知らず知らずのうちに露わにした。紅白戦ではバレーボールのセンスと技術を披露する。御披露目という点で考えてみれば、自分を売り込むという志乃の狙いはあながち間違いではない。ただし、志乃は結果を求めるのに事を急ぎすぎだ。たった一度の紅白戦でレギュラーを決めるほど単純な思考を持たないことは、これまでの笛子の発言内容を振り返るとわかりそうなものだ。
 志乃に限らず、一年生部員はそれぞれに課題のあることが明らかとなった。それはもうホントにいろいろと。それらを浮き彫りにした紅白戦には意味があったが、自分の課題を正しく理解していない者がいるのも事実。練もそのひとり。しかし、わかってないことがわかったこともまた収穫だ。
 少しずつ前へ進んでゆこう。目指す先はまだ遥かに遠い。

 さて、3巻は練がただひとり「友達」と呼ぶ唯隆子が登場する。そして、練が恐れていた事態に直面する。乞う御期待!

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