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にんげんていいな

amazon:[文庫] 狂奇実話 穽 (恐怖文庫)  黒木あるじ『狂奇実話 穽』を読んだ。
 気鋭の怪談作家、黒木あるじ氏の最新刊とあって、発売前から注目していた本書。先にこのブログで取り上げた『怪談実話 無惨百物語 ゆるさない』が素晴らしかったので、期待はいや増すばかり。ちなみに、『怪談実話 無惨百物語 ゆるさない』については、このブログで二回も取り上げるほど。
 また、本書は平山夢明氏が監修する「FKB」シリーズの一冊ということで、これは完成度に不安はないことを意味する。これも期待材料だ。
 さあ、面白さ、満足度ともにハードルは上がるだけ上がった。もはやハイジャンプに等しい障害物競争を、無事に駆け抜けることができるだろうか?

 前口上を読んで驚いた。
 騙されたと思った。
 作者のバカヤロー、って叫んだ。本当はもっと口汚く罵った。実は電車の中でのことだったので、心のなかで叫んだ、罵った。
 私が黒木あるじという作家に求めているのは、生きている人間の闇を描くことではない。作者の特徴である、超自然現象をまるでこの目で視ているかのように感じ取らせる描写力、その文体をこそ味わいたいのだ。不可視を脳内で具現化させる魔法を楽しみたいのに、イカレた人間による被害届を差し出されるとは!
 視覚をビンビン刺激するあの文体によって人間の醜い所業を描かれたら、それは恐いよ。恐いに決まってるじゃないか!
 なんでそんな恐い目に遭わなければならないんだ! 恐いのは苦手なんだぞ!
 恐怖映像も、ホラー映画は娯楽として観賞できるけど、事故等の記録映像は恐くて仕方がない。同じ血の赤であっても、記録映像のそれは鉄臭い匂いが鼻をつくような、そんな現実感を味わう。
 実話というのはただでさえ作り物という云い訳が用意されていないのに、そのうえ超自然現象でもないとなると、見間違いだの幻覚だのの最後の砦さえ陥落してしまっている。
 どうにもファンタジーがないのだ。

 ひと通り読んで思ったことは、厭な気分にさせられはしたけど悲観していたほどではない。軽さを感じさせる文体が理由か、通り魔的な被害を多く取り上げているのが理由か、加害者の剥き身の悪意をドーンとぶつけられずに済んだ。あるいは、彼岸を渡った者の狂った理屈を前に、無防備なまま曝されずに済んだ。
 大して立派でもない信条や堅固というほどでもない常識しか持っていないけど、これらを問答無用に侵す悪意や狂気に、私はどうにも弱いのだ。すぐに毒されてしまう。
 ホント、勘弁してほしい。

 収録されているエピソードには話者が自分の子ども時代を語ったものがあり、その決着の付け方に違和感を覚えた。
 それらは決まって、大人が子どもの純真を逆手にとって自らの欲求を叶える真相が待っており、それはひとつのパターンとして認められる。ここで引っかかるのは、真相が明かされる際の周りの大人の思慮分別の無さである。
 奇禍に遭った子どもはその幼い了見において、自分が悪い大人に利用されたとは思いもしない。それならそれで真相を知らないままでいられたなら良かった。しかし、周りの大人が明かさなくてもよいことを告げてしまう。
 馬鹿か、と。子どもに聞かせられる内容でもあるまいに。あえて真相を話さない程度の配慮もできないのか。他愛のない嘘を吐くことだってできたろう。
 嘘。そう、嘘だったのかもしれない。子ども相手に驚かそうと吐いた嘘なのかも。そんな想像をしてみた。子どもは何も知らないと決めつけて、ちょっと気味悪がらせようなんて悪戯心を起こす。実際とは違うことを語る。気味悪い要素を盛り込んで。その子が話題の人物と関係があったとは思いもしないで。
 まあ、なくはないだろうが、すべてがこのパターンというのも無理がある。ならば、子ども相手には伏せておくような事柄を語って聞かせるような、ちょっと思慮分別に欠ける大人があちこちにいたということになる。この大人も程度の差こそあれイカレてる。
 ふと思う。そんな大人がいたからこそ、話者はトラウマを抱えるまでに至ったのだ。真相を知らないままなら、幸福とは云わないまでも不幸ではなかった。トラウマを抱えることなく生きてこられたはず。ひいては本書収録のエピソードがひとつ減っていたわけだ。
 話者の不幸は大人に騙された点にあるのではない。騙されたこと、純真を利用して為されていたことの真相、これらを明かされた点にある。
 これを敷衍すると、世の中には真相を知らないが故に不幸に陥ってない事例が、思っているよりずっと多い数のそれが、眠っているのかもしれない。いつそれが目覚めるか自覚のないまま、今も暮らしているのかもしれない、私もアナタも。

 ああ、やっぱり厭だねえ。

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