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骨身を惜しまない殺人

amazon:[Blu-ray] 完全なる報復 「完全なる報復」について、前回の続き。
 物語の舞台はフィラデルフィア。二人組の強盗に妻子を殺された男をジェラルド・バトラーが、検察官をジェイミー・フォックスが演じている。被害者遺族と事件の担当検察官として始まった二人の関係性が、人の死を重ねることで変化してゆくのを、ジェラルド・バトラーとジェイミー・フォックスが熱演している。
 妻子を殺害した男が司法取引によって三級殺人にしか問われない現実に憤り、それならばと復讐を果たし、返す刀で司法制度そのものに戦いを挑む男。妻子を得た身として男の復讐は理解できるものの、過去の出来事の復讐に終わらない男の暴挙にはその真意をつかみかねる検察官。真意を言動で示す男、周りの人間が死んでゆく極限状況にあって男のことばかり考えることで、男の真意に到達する検察官。
 前回の記事では、殺人者と対するに取り引きすること自体がそもそも間違いであることを書いた。間違った手段で正義が為されることはない。
 今回は、刑務所の独房にあってどのようにして殺人を犯してゆくのかということを、できるだけ書かないようにする。
 書かないようにするって、なんだソレ?

amazon:[Blu-ray] リベリオン 反逆者  本作のスタッフにおいて特筆すべきは脚本だ。カート・ウィマーは「リベリオン」に「ウルトラヴァイオレット」、世界観もさることながらこれらの作品で新たな格闘術を創出したのは記憶に新しい。その名もガン=カタ。
「リベリオン」の内容は、ディストピアとそれに対する革命の物語だ。感情を抑圧して社会制度の維持に生涯を捧げるのではなく、心の赴くままに絵画や音楽や詩歌を愛し、人が人である歓びを謳歌できる社会に立ち返ろうというもの。その筋立てに目新しさはないが、カート・ウィマーはここに新機軸としてガン=カタを投入した。
 ガン=カタとは近接銃拳術とでも云うべきもので、格闘技の間合いにあって射線を取り、銃撃する。ガン=カタの使い手同士の戦いでは、射線の取り合いが観ていて燃える! ガン=カタのカタとは「型」であり、その動きは歌舞伎の見得を彷彿とさせる。これに付け加えて、主人公がクライマックスで身に纏うは、学園モノの少年漫画に見るような白の詰め襟、そして手にするは日本刀だ。「リベリオン」における日本文化への傾斜は並々ならぬものがある。才人カート・ウィマーは日本好きなのかしら?
「リベリオン」好きで、ガン=カタに魅了された身としては、カート・ウィマーの名前には反応せざるを得ない。今度はどんな仕組みを作り上げたのだろうか?

 日本に新本格ミステリの歴史あり。その幕開けを告げたのは若き新人のデビュー作。松本清張をはじめとする社会派推理小説が大流行して、その余波を受けてパズルを解くような楽しみを持つミステリは顧みられなくなった。それでも本格派のミステリに魅せられ、その火を絶やさないよう奮闘する作家は、少人数ながらも健筆をふるっていた。本格的なミステリの復権は、この時代にその兆しが現れていた。
 そこに燦然として出現したのがこの新人だ。彼のデビューはそれ自体エポックメイキングであった。後に新本格ミステリと呼ばれるムーブメントの幕開けである。
 実に四半世紀ほど前のことだ。

 ミステリのトリックに「叙述トリック」なるものがある。そして「叙述トリック」を使われるミステリを「叙述ミステリ」と呼ぶ。
 普通、ミステリにおけるトリックは、作品に登場する犯人が作中人物に対してこれを欺かんとして仕掛けるものだが、叙述トリックは違う。叙述トリックは、作者が読者に対して仕掛けるトリックだ。
 ここで「叙述」という単語の意味を考えてみる。そもそも「叙」も「述」も"述べる"という意味を持つ。同じような意味を持つ漢字を組み合わせて成り立つ熟語の「叙述」は"物事を順序を追って述べる"という意味だ。このことからわかるように、叙述トリックは"記述"ということに関連するものであり、その正体は文章のなかに仕掛けられるトリックである。
 文章中に仕掛けられるトリックとなると、作中人物の手になる著作物が登場しない限り、それができるのは作者ただひとり。そして、作者の仕掛けの対象となるのは、その文章を読むことのできる読者である。つまり、叙述トリックは「読まれることで発動する」ものなのだ。
 ミステリやそのトリックについては、これまでも「刑事コロンボ」作品を語る記事で述べてきた。犯人特定の決め手となる三つの要素、動機・方法・機会についてこれを錯誤させるのが、普通のトリックだ。ミステリの犯人は真の動機や本当の犯行方法や実際の犯行機会を悟られないようにトリックを弄するわけだ。動機がなければそもそも犯罪を行うわけがなく、犯罪を実行したとする方法が不明であったり実行不可能であったりすれば犯行を証明できず、犯罪が行われたとされる時刻に犯行現場にいなかったと証明されれば容疑をかけられることもない。
 動機・方法・機会は、その三点が犯行と結びつき、且つ、物的証拠なり信用するに足る証言なりを提示してはじめて犯人を特定できる。だから普通のミステリでは、これら三点のうちそのいずれか一点でもよい、実態を第三者に錯誤させることを目的とするトリックが使われるのだ。
amazon:[Blu-ray] 刑事コロンボ コンプリート ブルーレイBOX  例を挙げてみる。「刑事コロンボ 殺人処方箋」では、犯人は愛人を引き入れた計画のもと、妻を殺害する。その後、愛人に妻を演じさせて二人して飛行機に搭乗、大勢の前で喧嘩をする。愛人は飛行機を降りて、犯人はそのまま旅行へ。このトリックには犯行時刻、つまり犯行の機会に対して錯誤させる意図がある。被害者である妻と一緒にいるところを大勢に目撃させるのがこのトリックのキモだ。生前の姿が目撃されたなら、犯行時刻はそれよりも後ということになる。機上の人であった夫に犯行は不可能という判断が下される。
 このように、ミステリの犯人がトリックを仕掛けるのは、自分が犯した罪が露見しないようにするためだ。しかし、叙述トリックは違う。作者が読者に錯誤させるのは、作品の中では自明とされる事実だ。これを作者は巧みに隠蔽して読者に誤解をさせる。つまり、作中のある事実について誤読するように読者を誘導するのが叙述トリックである。
 例えば作中人物について、その性別や年齢、身体的特徴に国籍等を実際のそれと誤解させたり、一人称で綴る体裁において複数の人物の語りを同一人物のそれと誤解させたりする。男性と思っていた作中人物が女性だった、若者だと思っていたのに老人だった等々。これらは物語の正しい姿を捉えていないということになる。
 また、これらは読者にのみ有効であり、作中では女性は女性として、老人は老人として生きているし、それは作中では周知の事実だ。読者だけがそのことを知らない、気づいてない。読者は作者に騙されているのだ。
 小説を読むうえでの約束事や先入観を利用する、これが叙述トリックだ。

 カート・ウィマーからいきなり話題が変わった。「完全なる報復」はどこに行ったと思われるだろう。私も探している。
 冗談はさておき、クライドが行った"遠隔殺人"のトリックは、新本格ミステリの開幕を飾った作品で"犯人"が使ったものに酷似しているのだ。そしてそのミステリ作品は叙述ミステリなのだ。つまりその作品において、"犯人"は自らアリバイ工作を行い、"作者"は叙述トリックを用いたというわけだ。二重のトリックが真相を驚天動地のものにして、その作品はまさに時代を動かすものとなった。
 ここまで読んで、「そんなに凄いのなら、作者の名前と本のタイトルを明かせよ」と思われることだろう。でも、それはできない。理由は、その作品が叙述ミステリだから、である。
 普通のミステリならば、アリバイトリックが使われているだの密室トリックが登場するだのを明かしても、それだけでネタを割るようなことにはならない。しかし叙述ミステリは違う。叙述トリックが使われていることがわかると、それは"記述に何かしら誤解を生むような表現が含まれている"ことを明かすのにほかならない。「あなたは作者に騙されようとしてますよ」と教えることになる。それはつまり、「小説を読むうえでの暗黙の前提や偏見に注意して読めば、作者の仕掛けたトリックには引っかかりませんよ」と要らぬ世話を焼かれるのと同じだ。興趣を殺がれること甚だしい。
 ここにおいてご理解いただけるものと思うが、だから新本格ミステリのムーブメントを呼び込んだ作品のタイトルも、念のために作者の名前も告げられない。そして、「完全なる報復」でクライドが使ったトリックも明かすことはできないのだ。これはミステリ好きとしての仁義である。

 囚人にとって陸の孤島とも云える刑務所、それも独房にあって完璧なアリバイを持つクライド。外界で行われる連続殺人を、彼は如何にして成し遂げたのか? そのトリックは?
 トリックを明かせないことを書くのに、この分量が必要か?
 自分でもびっくりなんだけど、これは「完全なる報復」を観てもらうのが一番だ。
 あ、「完全なる報復」はトリックがスゲェから観てみな、って書けばよかったのか。140文字も要らない。ツイートで事足りたな。
 ギャフン!

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