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愛は地球を救う

amazon:[文庫] ラブ@メール (光文社文庫)  黒史郎『ラブ@メール』を読んだ。
 ホラー小説、特に長編作品であればその構造にミステリのそれを用いるという手法がある。その内容は、以下のようなものだ。
 探偵役を演じる作中人物が、怪異の原因を探るうちにその正体や事の真相に辿り着く。そしてこれらを知ってしまったが故に、何も知らなかった時点にくらべて、いっそう深い恐怖の淵へと落ちてゆく。それまでぼんやりと感じていた不安や恐怖が、明確な姿を現して襲いかかってくる。
 このパターンの作品のキモは、怪異の正体やその奥に潜む真相を知ったところで、根源的な解決にはならないという点だ。真相に辿り着いたとか事件は解決したとか思っても、それは事態のほんの表層を撫でたにすぎない。物事すべてがきっちりと割り切れないままに物語は幕を閉じて、読者は心細さを感じつつ物語世界に取り残されてしまう。
 探偵の推理によって事件の真相は解明され、日常は取り戻される。これが一般的なミステリの結末だ。しかしホラー小説の場合、ジャンルプロパーとしてこのような結末は望ましくない。怪異の正体が明らかとなっても、平穏な日常が戻ってくることは二度とないのかもしれない、と読者に思わせるようでなければならない。
 ホラー作家は長編作品に物語としてのケジメをつける。作中にちりばめられた伏線は回収され、全編を覆った謎は解かれる。提示された答えには納得するし、どこからも文句の出ることはないけれど、それでも恐怖の悲鳴を上げるのがホラー小説だ。知らなくてよいことを、知ってはならないことを、不注意にも知ってしまった読者が、後悔を抱きつつ悲鳴を上げるのだ。

 ある日を境に世界は終末へと向かう。人類がこれまで構築してきた法やシステムは崩壊し、生き延びることがなにより優先される世界。それまでの約款は通用しなくなる。
 そんな世界に残るのは弱肉強食のシンプルな論理。そして、「いったい何が起きたのだ?」「何が原因でこんなことになったのだ?」という謎。謎はそのままにしてはおけない。人は生き残りをかけて謎を解決しなければならない。
 現状を正しく認識することが事態の解決に向けた一歩となり、謎を解明することが今日を生き延びて明日に命を繋げることとなる。生きるのを諦めないうちは、立ち止まっていても事態は好転しない。前に進まなければならない。極端なことを云えば、謎に対して誤った解釈をしても構わない。一歩を踏み出すのに、勢いとなればそれでよい。結果的に停滞が正しい選択だったとしても、それはあくまで結果にすぎない。人が生きようと努力することに意味があるのだから。ただし、生きるためにも謎の解明は必要だ。
 だから、謎を謎のままにしておくわけにはいかない。
 黒史郎『ラブ@メール』において、人間社会は未曾有の危機に直面する。愛が人を殺すのだ。「愛が人を殺す」とはロマンティックな表現だが、この物語で描かれる死はただただおぞましい。愛に取り憑かれ、性衝動に駆り立てられた者たちは、性交のさなかに息絶える。その一方で、ペアリングに失敗した者は血を噴いて悶死する。
 愛に狂った人は言葉をなくし、衣食住に頓着しなくなり、さながらゾンビの如くに街を彷徨う。異性を見つければ全力でこれを追い、捕らえた後はすかさず欲求を果たす。ジョージ・A・ロメロ以降のゾンビが新鮮な血肉を貪るなら、本作に登場するのは愛の成就をひたすら求める愛の亡者だ。
 いったい何が起きたのか? 何が原因でこんなことになったのか?

 謎があるならば、何をおいても必要なのが、探偵だ。
 探偵は、彼自身が事態の好転を意図するかどうかはともかく、謎の解明には必要な人材である。「事態の好転を意図するかどうか」という点は重要だ。事態の好転を望んでその為に尽力するのに、優秀な頭脳を有する必要はない。事態の好転に必要なのは確固たる意思だ。探偵というひとつの個性のなかに、優秀な頭脳と事態を打開することへの確固たる意思とがなければならない、というわけではない。
 本作『ラブ@メール』に登場する探偵は、二見健司だ。そして、彼の片腕となるのが、大熊晃一だ。二人の間柄は、名探偵と助手の関係の典型だ。偏屈だけれど推理にかけては天才的な能力を発揮する名探偵。名探偵の唯一の理解者であり友人、且つ、彼の忠実なる助手。二見は常識知らずでこそないが、常識を超越した発想をする。対して、大熊はごく普通の常識人。真相探究の為、時に道徳を逸脱することもある二見と、生き残るうえで遂行せざるを得ない行為と己の良心との間でバランスをとる大熊。
 これらの対比も、ミステリ作品では馴染み深いものだ。名探偵と助手、それぞれの人物造型における典型と云える。そして本作では、謎を解く頭脳と事態の打開を図る確固たる意思とが、二人の人物に分けられている。

 探偵は登場した。彼は推理に集中できる環境に身を置いている。推理の根拠となる物的証拠や証言は、探偵の忠実なる助手が集める。探偵が謎の解明をするのを妨げる要素はどこにもない。
 仮説を立てる。仮説に基づいて考察する。これらを実証するために実験する。実験の方法が正しければ、その結果は信頼できる。仮説と実験結果との間に齟齬が生じなければ、その仮説は正しいということになる。
 推理は上のような段階を経る。仮説を立てるにも考察をするにも実験をするにも、事実関係を正しく認識しなければそもそもがはじまらない。『ラブ@メール』では、二見は微生物学の泰斗ということであり、彼にそなわっている知識が問題の真相究明に適している。あまりに都合がよくて、呆気なさを感じるとしても無理はない。この点をよくよく考えれば、この物語で探偵に求められている働きがどういうものなのかわかる。
 二見が展開する推理は(人物設定としては、二見は科学者なので推理ではなく科学的考察とするべきかもしれないが、ここは彼が探偵役を担っているということで、あえて推理と表現する)、その内容が実に突拍子もないものだ。人間社会が現在の繁栄を築いたことの、その原動力となった事柄についての二見の考察は、これをおいそれと認めるには抵抗がある。二見の説を認めると、人が無批判無邪気に讃美する"愛"は、ただの幻想ということになる。
 友好や敵対といったものを根底に、人と人とは関係を結ぶ。また、無関心ながらも関係が生まれてしまうことがある。どんなかたちにせよ、ただ衝動のままに刹那的な関係を結ぶのであれば、そこに言葉は必要ない。言葉とは、相互理解を深める為に生み出されたものだ。そして、言葉とは過去から未来へと繋がれる記録であり、関係そのものである。言葉を失った者は、他者との関係を放棄し、ただ"今"のみを生きる存在。少なくとも、本作で二見に"担体"とラベリングされた者は、ただ己の衝動に従うのみだ。

 闇の中や遠くまで見通す眼を持たず、敵を引き裂く爪を持たず、堅い皮膚やそれを貫く牙を持たず、空を自由に飛ぶ翼や水中を突き進む鰭や地を風のように駆ける脚を持たない人間が、熾烈な生存競争を今まで生き残ったのは、それは群れたからだ。集団で生きることで、種の弱さを克服したのだ。
 個体として弱い存在である人間は、関係を重要視して言葉を発明し、社会を構築した。理性による問題解決の一方で、理性では解決できない愛に目覚める。そして、人類は集団としての強さをもってして、ついには地上を制覇する。
 社会構造に組み込まれた暴力を軍隊が象徴するならば、自衛隊員である大熊は社会の一面を体現している。言葉によって体系化される学問が社会の要請によるものするならば、二見もまた社会の一面を体現している。大熊と二見は、社会としての人間の強さを表現すべく、作者に召喚されたものと云える。だから、物語冒頭にはじまる展開こそ大熊の脆さが目立つけれど、最も小さな共同体であるところの家族ですらない二人組との邂逅後、彼らと対比させることで大熊の強さが浮き彫りとなる。大熊の強さは訓練されたそれであり、彼の抱く"護る"という強い意思も訓練によって育まれたものだ。彼ら自衛隊員に訓練を要請するものとは、つまり日本の社会だ。
 大熊には"護る"という強い意思があり、その為の知識があり、想いを成し遂げるだけの技術がある。しかし、何に対してどのような行動をとればよいのかわからない。状況がはっきりとしなければ動くことの許されない立場を守るのは、彼の所属する組織自体に長い間に染み付いてしまったものか。なるほど、シビリアンコントロール。しかしそんな大熊も、二見の登場によって明確な作戦行動へと移行し、本領発揮となる。

 長いッ!
『ラブ@メール』について感想を垂れ流すつもりが、何がどうしてこんな流れになってしまったのか。自分で自分の文章を制御できないなんて、まるで島鉄男("さん"を付けろよデコ助野郎!)。
 もう諦めてさ、「黒史郎の『ラブ@メール』は面白いから読むといいよ。」って、素直に書けばいいんだよ。まあ、そうなんだけどさ、何か書きたい衝動に駆られたのさ。
 そういうわけで、次回こそは、黒史郎『ラブ@メール』をちゃんと語り尽くすぞ、ジョジョォオオ!!

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