夢の実現まであと一歩! | HOME | 敵意の宿らぬ右手

泥沼離婚劇

amazon:[Blu-ray] 刑事コロンボ コンプリート ブルーレイBOX 「刑事コロンボ 構想の死角」は面白い!
 レギュラー化が決まって第一段の本作は、監督がスティーヴン・スピルバーグ。この後、「激突!」「ジョーズ」「未知との遭遇」と話題作を連発する彼が、「刑事コロンボ」をどう料理したのか、映画ファンにとっても楽しみな作品となっている。

 ジム・フェリスとケン・フランクリンはコンビを組んでミステリ作品を発表している。コンビで書いていると云っても、執筆するのはジムで、ケンは専ら渉外を担当しているにすぎない。役割分担の不均衡は、それぞれが自分に合った仕事に専念できるのだから、この点に問題はない。問題は、それとは別の理由でジムがコンビを解消すると云いだしたことだ。
 ミステリを否定するわけではないが、次はシリアスなものを書きたい。ジムの主張は作家のうちなる欲求であり、それ自体に文句はないが、文章を書けないケンにとってジムの主張を受け入れることは収入減を意味する。死活問題だ。いや、死活問題どころか、プライドがひどく傷付くことになる。これは避けたい。
 コンビ解消の後、ジムは順調に作品を発表し続けるのにケンが鳴かず飛ばずでは、今までの読者もいずれ気付くだろう。実はケンは執筆していなかったことを。スタイリストであるケンとしては、たとえそれが紛れもない事実であっても、自分が辱められるようなことを知られるのは避けなければならない。絶対に嫌だ。
 また、ジムがこれから単独で書く本の印税は、当然のようにケンの懐には入らない。今後、ケンが自力で原稿を書くことはないだろう。よしんばケンが独力で小説を書いたとしても、下手な作品を物して笑い物になるのは、彼のプライドが許さない。ケンの収入源は既刊分の印税、しかもケンの取り分のみとなる。コンビ解消後はインタビューの依頼が入って、雀の涙ほどのギャラを手にするだろう。そんなもので食いつなぐのはケンのプライドが許さない。あくせく働くことも嫌だ。
 書けない作家との辱めを受けて、収入は激減する。ジムの独立がこのまま実現したら、ケンは地獄の日々を生きることになる。ジムが今まで通りメルヴィル夫人シリーズを書き続けるのが最良だが、彼自身が二つの異なるジャンルを並行して書けないと云う。不器用な自分には無理だ、と。それならばジムがメルヴィル夫人シリーズをこれ以上書かない事態を想定して、次善の策を用意しておくべきだろう。
 たとえばジム・フェリスが死ぬとする。ジムが死ねば、二人でここまで育てたメルヴィル夫人をジムと共に葬るとして、ケンがシリーズを書き続けない、尤もらしい理由となる。また、ケンとジムは互いを受取人とする高額な保険に加入している。この保険金が入れば、それ以降の実入りの少なさなんて気にならない。
 ジムの死はケンの問題を解決するのだから、ジムは死ななければならない。そのうえジムの死は、それによってケンに保険金がおりなければ意味がないので、ジムは確実に保険のおりる死に方をしなければならない。
 そうだ。ジムを殺してしまおう!

amazon:[文庫] 刑事コロンボ 構想の死角 (竹書房文庫)  ケンが保険金を受け取るために、ジムの死は他殺として扱われなければならない。そして他殺となると、そこには犯人が存在する。動機を探るうちに怪しい人物として浮上するのはケン・フランクリンだ。コンビ解消に関して二人の間に激しい口論があったことは、ジムの細君のジョアナが証言するだろう。そして、いずれはジムの死によってケンが多額の保険金を手にすることが知れる。動機からアプローチする際に「その死によって利益を受ける者は誰か?」はひとつの指標になるが、これにピタリと該当するケンは自分以外の殺人者を設定する必要があった。そして同時に、自分にはジムを殺すのは不可能であることを示す必要も。
 ケンが考案したのはアリバイトリックだ。それは、犯行時刻に彼が犯行現場から遠く離れた場所に居たとするものだ。ケンのトリックのキモは、被害者であるジム本人にアリバイ工作をさせる点にある。

 ケンはジムのオフィスを急襲。コンビ解消の件では口論をしたが、仲違いしたまま別れるのは忍びない。仲直りをしたい。ついては自分はこれからサンディエゴの別荘に行くのだが、君を連れ去ろうと思う。長年、コンビで活動していたのを、君が独立したいと云うから解消するのだ。円満に別れるためにも、ここはひとつ僕の最後のわがままを聞いてはくれないか?
 押しの強いケンと、そんなケンの云うままに流されてきたジム。妻との約束もケンの強引さの前では何の効力もない。そのジムが我を通した独立は、だから本当に強い決意なのだ。
 ジムを連れて駐車場まで戻ったケンだが、忘れ物をしたとオフィスに引き返す。オフィスを荒らして何食わぬ顔で車に戻り、別荘まで走らせる。
 別荘に到着する前に馴染みの食料品店に立ち寄ると、ケンは店主に話しかけて目撃者確保。その後に店の公衆電話でジョアナに電話をかける。ジムとは仲直りをした。今、自分はひとりで別荘に来ている。何か緊急の用件があれば別荘に連絡してくれ。
 計画は大詰め。別荘に着いてからケンはジムに電話をかけさせる。仕事を理由に約束を反故にすることをジョアナに謝る電話だ。交換手を呼び出すジムにケンは慌てる。ジムはオフィスで仕事をしていることになっているのに、交換手に取り次がれてしまえば、それが嘘だと露見する。頭に局番を付けると直通になるのだから、そのようにしてかけるべきだ。
 ジムがジョアナと話している最中に、ケンはジムを射殺した。
 しばらくすると電話がかかってきた。ジョアナからだ。ジョアナ曰く、ジムから電話があって話していると、いきなり銃声がしてそれきりジムとは連絡が取れない、と。
 ジョアナに至急戻るよと答えて、ケンは別荘を後にする。トランクにジムの死体を積んだ車を走らせて。

 以上のように、今回は犯行現場に錯誤を持たせるアリバイトリックだ。そのために、片道三時間もかかる道程を自分で車を運転したのだ。後に「なぜ飛行機で帰ってこなかったのか?」とコロンボに突っ込まれるのだが、さりとてこれが犯行を示す証拠になるわけでもない。
 被害者に嘘を吐かせて、実際に居るのとは違う場所に彼が居ると第三者に思わせる。犯行現場はジムのオフィスだと考えられている限りにおいて、アリバイ工作をしているのは被害者であるジム自身なので、犯行時刻に別荘に居たケンは完璧なアリバイを手にする。
 このトリックには、ケンがサンディエゴに居たことに対する目撃証言と、ジムがオフィスに居たように誤認させるための証人との両方ともが必要だ。どちらか片一方だけでは意味がない。前者は食料品店の女店主のラ・サンカ、後者はジムの細君のジョアナ。ケンはラ・サンカの食料品店で両替し、その際にサインを入れた著書をプレゼントしている。記憶に残るプレゼントで自分に関する目撃証言を確保。食料品店の公衆電話でジョアナに電話をかけた。その後、別荘でジムがジョアナと電話で話している最中にケンはジムを射殺。ケンはジョアナに銃声を聞かせたかったのだ。ジムがオフィスで襲われたとジョアナに誤認させるために。この電話だが、別荘からフェリス宅に電話があったことは記録に残る。現にコロンボは、どのような用件で電話をかけたのか、ケンに尋ねている。ケンはその質問に、ラ・サンカの食料品店でかけた際の内容を答える。これには唸った。電話があった事実は記録として残るが、その内容までは当人同士でなければわからない。実際の通話はジムとジョアナのものだが、一方が死んでもう一方が誤解していたら、本当のところは誰にもわからない。

 物的証拠を残さず、捜査の方向性を誘導し、自分を容疑圏外においたと確信したケンだったが、ロサンゼルス市警察本部殺人課の刑事は思ったように動かない。別荘地にある食料品店の女店主が取り引きを求めてくる。計画通りにいかないったらない。
 ラ・サンカは食料品店の女店主で、ケンにとっては自分のアリバイを証明する目撃者だ。メルヴィル夫人シリーズのファンを自認していることもあって、目撃者として殺人計画に配置するにはうってつけの人員だった。そのはずだったが、物事というのは何事によらず計画通りに進まないものだ。
 自分がサンディエゴに居たことを目撃させて、それについて証言をさせるつもりが、ケンはラ・サンカ自身の好奇心までは読み切れなかった。まさかジムの姿まで目撃してしまうとは! この目撃情報は計画を根幹から破綻させる。どうにかして彼女に沈黙を保たせなければ!

 個人的なことを云えば、小学生の頃に祖父から本作のノベライズ本を贈られて、それを繰り返し読んできた。「構想の死角」に関しては観るより読むほうが体験として多いのだ。
 ノベライズでは、大部分がケン・フランクリンに寄り添って描かれ、彼の過去もメルヴィル夫人に対する想いもすべてが明らかになる。犯行動機が奈辺にあるのかということや、殺害計画に対する自信、馬に対する拭いがたい嫌悪が窺える。決定打に欠けるコロンボの最後の一手も、ノベライズを読むぶんには十分に納得できる。
 ノベライズにおけるコロンボは、最後の対決でケンのプライドを刺激する。ジム・フェリス殺害は見事だとか完璧な殺害計画だとか大いに褒め称える。そして、これはジムが作品に使うために考案したトリックだと云う。それに比べてラ・サンカ殺しのお粗末なこと。これはケンの考えたものだろう、と。
 実際はジム殺害のトリックはケンの考えたものだ。「メルヴィル夫人」シリーズのためにケンが考案したトリックで、唯一ジムが認めたものだ。それがジムを殺すのに使われた。
 しかしこの事実をコロンボは歪めた。ケンがトリックを剽窃したものと決めつけて、計画にないラ・サンカ殺しこそはケンが考えつくに相応しいとした。つまりはケンを馬鹿にしたのだ。
 ケンは、この挑発に思わず「ジム殺しこそ自分が考案したのだ!」と反駁してしまう。あの素晴らしいトリックを自分以外の誰が考えつくと云うのだ!

 ケンは自分のプライド故に敗北を喫してしまった。物的証拠も信用するに足る証言もなく、コロンボとしては手も足も出ないのが実情だった。ケンの勝利は確定していたようなものだ。それを手放してしまった。
 ケンはプライドのために殺害を犯し、プライドのために自供した。
 これがケン・フランクリン。罪も敗北もプライドと骨絡みである。

夢の実現まであと一歩! | HOME | 敵意の宿らぬ右手

Comments:0

Comment Form

Trackbacks:0

TrackBack URL for this entry
http://mescalinedrive.com/mt-tb.cgi/65
Listed below are links to weblogs that reference
泥沼離婚劇 from MESCALINE DRIVE

Home > 泥沼離婚劇

Feeds
blogram投票ボタン フィードメーター - MESCALINE DRIVE 人気ブログランキングへ
Message
Visitor

Return to page top