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amazon:[Blu-ray] 刑事コロンボ コンプリート ブルーレイBOX 「刑事コロンボ 死者の身代金」は面白い!
 前作「殺人処方箋」でのコロンボは、勿論ピーター・フォークが演じたのだけれど、トレードマークのレインコートもモジャモジャ頭でもなく、むしろスマートにすら感じさせた。葉巻をふかしたりペンを失くしたりと、コロンボらしい特徴はそなえているものの、威圧感さえ漂わせる姿はコロンボのイメージとして一般的に持たれているそれとは大きく隔たっている。
 本作のコロンボは、「これこそがコロンボだよ!」と誰もが認める外見と所作を持つ。雨のあまり降らないロサンゼルスでよれよれのレインコートを着て、櫛を通したとは思われない髪型。好物はチリで、本人曰くなんでもこなす親戚がいる。
 私たちのコロンボの完成だ。

 やり手の女性弁護士であるレスリー・ウィリアムズは法曹界で確固たる地位を築くため、これまで攻めの一手で邁進してきた。それはこれからも変わらない。栄達の道を邪魔する者は誰であっても許さない。容赦しない。
 年齢差のある夫は大物弁護士だ。先妻が亡くなったのを幸いに、彼に取り入って結婚。おかげで事務所の共同経営者に名を連ねることができた。担当できる案件も大きなものになり、レスリーの上昇志向はいよいよ満足させられるのだった。
 いや、まだだ。まだ足りない。
 本当ならば手が届かないくらい若くて美しくて聡明な女が妻になってやったというのに、愛情を感じられないだのとつまらないことで離婚しようとする夫。私は妻になってやったのだから、その報酬を支払うのは当然だろう。金を寄越せと云っているのではない。金が欲しくないわけではないが、大事なのは今の地位と大物弁護士のパートナーという肩書き。これさえあれば、あとは自分で手に入れてみせる。いくらだって儲けてみせる。それを今になって支払い拒否、契約解除なんて、虫が良すぎる!
 もう殺すしかない。

 レギュラー化を睨んで作られた「死者の身代金」だが、このパイロット版の成功で「刑事コロンボ」のシリーズ化は決まったようだ。それも納得の出来栄えだ。
「殺人処方箋」で犯人のレイ・フレミングは、被害者に身代わりを立てて、犯行時刻の錯誤を企んだ。仕掛けたのはアリバイトリックだ。本作のレスリーが仕掛けたのもアリバイトリックだ。

 帰宅直後のポールを射殺。死体を遺棄。夫の愛車も乗り捨てる。
 前もって用意していた脅迫状と、ポールの声が録音されたテープから会話を装える部分を切り取る。スケジュールを忘れないためと称して、友人に確認の電話をかけるよう依頼する。かくして、実態のない誘拐事件の用意はできた。
 翌日、オフィスには約束通り友人から電話連絡が。この電話を自分で受け取ったレスリーは、友人が電話を切った後にひと芝居を打つ。あたかも、ポールを誘拐したことを報せる電話であるかのように。
 自宅にはFBIの捜査員が詰めかけて、電話の録音や逆探知の装置を取り付けている。ここにロサンゼルス市警の刑事が報告に現れる。
 誘拐事件ということで、"犯人"が指定する身代金受け渡しの方法は、レスリーにセスナ機を操縦させて、指定する空路を飛ばせる。その間に地上から光を発して合図を送るので、身代金の入った鞄を投下すること。身代金受け渡しの現場を狭い範囲に特定させない妙案だ。
 そこにかかってきた"誘拐犯"からの電話。その声はポールだ。身代金の金額が三十万ドルであることと、受け渡しが明晩だということをレスリーに伝えると、電話は切れる。しかしこれは事務所からかかってきた電話で、タイマーをセットするとその時刻に自動で電話をかけて、テープに録音した内容を話すという、最新式の電話機なのだ。

 レスリーのアリバイ工作は犯行時刻と犯行現場との両方において錯誤させるもので、その偽装に"誘拐"が使われた。この点でレイ・フレミング考案のトリックを超えようという、脚本家の気概が感じられる。
 フレミングは妻殺しの犯人に鉢合わせした強盗という架空の犯人を用意したが、レスリーは夫殺しの容疑を架空の誘拐犯に押し付けた。FBIがどんなに懸命に捜査したところで逮捕できるはずのない"誘拐犯"の実在を信じさせるのに、レスリーの打った手は思ったより少ない。コストパフォーマンスの高さは、そのまま彼女の能力の高さを示している。

 万全な計画を立てて実行したレスリーだったが、物事は計画通りに進まないものだ。その最たることは継子の帰還だ。身代金受け渡しを演じた後、帰宅して隠し金庫に三十万ドルを入れる。そこへ姿を現したのは、ポールと先妻との間の娘だ。父親誘拐の報せに、マーガレットが留学先から帰ってきたのだ。
 殺人を誘拐に偽装することでアリバイを確立したレスリーだが、そのために捜査関係者等からの目を意識せざるを得なかった。自由に行動するには監視の目が多すぎる。このことはコロンボにも告げられた。マーガレットへの叱責というかたちで。
 監視されているからには、行動には細心の注意を払わなければならない。誘拐が見せかけのものだという決定的な物的証拠を保管しているが、これを処分することもできない。ほとぼりが冷めるまで隠し続けなければならないが、隠し続けること自体は難しいことではない。
 本来、隠し続けられるはずだった。レスリーの失敗は油断から生じたのではない。レスリーがレスリーであることの心性が、彼女をして失敗せしめたのだ。
「殺人処方箋」でもそうだが、トリックそのものは解いても、それを裏付ける物的証拠や信用するに足る証言を提示しなければならない。しかし、犯人としては証拠を残さないように心がけるものだ。だから、犯人がそれと気づかずに証拠を持ち出すように仕向けなければならない。
 コロンボの策略は図に当たり、レスリーは己の価値観のままに行動して、そして敗れた。コロンボのレスリーに関する読みは外れなかった。「刑事コロンボ」第1シーズンに、コロンボがこれと同じ罠を仕掛ける作品がある。その際は少女ひとりを動かすなんてものではなく、突貫工事を餌に犯人を欺いたわけだが、この記事はそれを語る場ではない。今からその作品を語るのが楽しみだ。

 レスリー本人の手から決定的な物的証拠を引き出す方法といい、コロンボの捜査に対する執念が窺えるのだが、もうひとつ、コロンボの凄みが発揮される場面がある。
 ポールの死体が発見されて、その報告に、休廷中の法廷にレスリーを訪れたFBIのカールソン捜査主任とコロンボ。夫の死を告げられて気が遠くなるレスリーに違和感を覚えるコロンボと、そんなコロンボの言動に怒りを覚えるカールソン。カールソンはFBIの捜査にくっついてまわるコロンボに釘を差すのだが、これにコロンボが噛みつく。
「お言葉ですけどね、そりゃあ筋違いじゃないですか? 単なる誘拐事件じゃなく、殺しと決まったんですよ。つまりこの事件はアタシの畑だ。後へは退けませんな」
 どうだい? 痺れるだろう? こういうゾクゾクするような科白があることも、「刑事コロンボ」の魅力なんだよねえ。

 間違いなく名作リストに数えられる「死者の身代金」だけど、唯一気になる点がある。
 父親の車の鍵を見付けたとマーガレットが屋敷にコロンボを招いた場面。彼女の足元を見ると、立ち位置を定めるためにバミってあるのが映り込んでいる。これを撮したカメラマンの凡ミス、編集作業でこれを通してしまった編集マンの凡ミス。本作の瑕疵。
 残念。

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刑事コロンボ 完全版1 from 象のロケット 2011-10-31 (月) 01:07
『殺人処方箋』 『死者の身代金』 前半で犯人の犯行を予め見せて、後半でコロンボが謎を解いていくという独特のスタイル、ピーター・フォーク演ずるコロンボの強烈...

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