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「This Old Man」を聴きながら

amazon:[Blu-ray] 刑事コロンボ コンプリート ブルーレイBOX 「刑事コロンボ」は面白い!
 ミステリドラマの金字塔と云えば、これはもう「刑事コロンボ」である。「殺人処方箋」からの旧シリーズ全45話は珠玉の逸品ぞろい。「刑事コロンボ」を観ずして結構と云うなかれ、いや、ミステリ好きを標榜するなかれ。とまあ、これくらい云い切っちゃってもかまわないですよ!
「刑事コロンボ」の何が面白いのかと云うと、倒叙(倒述)スタイルをとることで、探偵と犯人との間の対決構造を鮮明に打ち出したこと。まさにエポックメイキング。ミステリにおける、ひとつの"事件"なのだ!
 今年2011年は、6月にコロンボを演じていたピーター・フォークが亡くなった。年末には、旧シリーズと新シリーズを合わせた全69話を完全収録したBlu-rayのBOXが発売される。良くも悪くも「刑事コロンボ」にとって記念の年なのだ。コンプリートBOXは欲しいけれど、定価71400円は高い。高いよ。旧シリーズのDVD-BOXを持っているだけに二の足踏んじゃう。

 まず断っておかなければならないのは、これは「刑事コロンボ」に関連した記事だということだ。
 犯人を特定するのに証明を必要とする三つの要素がある。いかなる犯罪であれ、三つの要素は証明を必要とする。ただし、この記事は「刑事コロンボ」について語るものだ。そしてコロンボはロサンゼルス市警察本部殺人課に所属する。彼が扱うのは殺人である。だから、この記事で「犯罪」と記述があるものは、即ち「殺人」と認識してもらいたい。また、ミステリには探偵役を担う人物が存在するが、これはコロンボをはじめとする警察機構がその役割を果たすので、通常ならば「探偵」と記すべき事柄であっても「警察」とのみ記述する。

 犯人を特定するには、その人物が間違いなく犯罪を行ったということの証明をしなければならない。ある人物が犯罪を行ったというのなら、他の誰でもなくその人物が行ったということを示す物的証拠を提示して、それに基づいて次の三点を証明しなければならない。

  • 動機
  • 方法
  • 機会
 その人物にはその犯罪を行ったなら、それはどのような理由か? その人物が犯罪を行ったなら、具体的な方法はどのようなものか? その人物が犯罪を行ったなら、それはいつなのか?
 これらの疑問に対して警察は、物的証拠や信用するに足る証言をもって、その人物、つまり容疑者が犯罪を行ったことの証明をしなければならない。

 動機に関する物的証拠や証言を提示するのは難しい。人の内面を「ホレ、この通り」と取り出してみせることなど、誰にもできないのだから。しかし、たとえばある殺人において、容疑者の自宅から被害者に対する殺意を綴った、容疑者の筆跡による日記が見つかったというのなら、これは話は別だ。容疑者が被害者に対して「いつか必ず殺してやる」と云うのを目撃されたというのなら、これも話は別だ。日記は物的証拠として認められるだろうし、殺す云々は信用するに足る証言として認められるだろう。それらが容疑者と被害者との間で交わされてきた冗談だったとしても。
 動機と云えば、昔から「金」「怨恨」「痴情のもつれ」の三点が挙げられる。たいていの犯罪は、これらが原因となって引き起こされる。
 また、「金」「怨恨」「痴情のもつれ」がすべてに起因するわけではないけれど、人の行動には何らかの理由がある。なかでも犯罪、まして殺人は強い禁忌があるだけに、それを為すには相応の理由があるものだ。
 警察は容疑者の身辺を洗って、その人物に犯罪を行うだけの理由があるかを判断する。

 犯罪を行うに足る動機があったとしても、その犯罪を行うのにどのような方法を用いたのか、警察はこれを物的証拠や信用するに足る証言をもって証明しなければならない。
 殺人においてはどのような殺害方法を用いたのかが重要になる。死因からは、物的証拠の最たるものである凶器が何であるかが浮かび上がる。凶器が判明すると、次にその凶器の入手ルートを特定する。同時に凶器の捜索が始まる。凶器が発見されれば、被害者の血液やDNA、犯人の指紋が残ってないか検査にかけられる。凶器は殺害方法を雄弁に語る物的証拠であり、死体もまた犯罪の様子を物語るのだ。

 動機があり犯罪方法を示す物的証拠がある。しかし、犯罪を行う機会がないとなれば、その人物を犯人と名指しできない。
 死体を解剖して死因と死亡推定時刻を特定する。ミステリの物語においては、死亡推定時刻には二時間ほどの幅がある。この間のアリバイがある者は犯行不可能ということになる。アリバイとは犯行時現場不在証明を意味し、これは犯行機会の有無を示すものにほかならない。
 動機があり、犯行に使用された凶器に指紋が付着していたとしても、その人物にアリバイがあるのならば、その人物は犯人ではないのだろう。凶器に付いた指紋の問題はあるが、それを調べるのは警察だ。もしくは、その人物が何らかのトリックを使っているのかもしれない。

 動機・方法・機会と、犯人を特定するのに証明の必要な三点を挙げて、自分なりに説明を試みたのだが、考えていることはちゃんと伝わっただろうか?
 ミステリのトリックというものは、これら三点のうちのひとつでも証明できなくすればよい。犯行の動機がなければ犯罪を行うはずがなく、そう思わせられたなら成功だ。犯行の方法が不明ならば誰が行ったかすらわからないわけだから、犯人特定なんてできるはずがない。犯行時刻に現場や現場近辺にいなかったことが判明したら、犯行は不可能なはずである。
 それぞれ動機におけるトリックにミッシング・リンクが、方法におけるトリックの代表的なものに密室トリックが、機会におけるトリックの代表的なものにアリバイトリックがある。これらのトリックはそれぞれが動機・方法・機会の専用のトリックというわけではないが、ミッシング・リンクと云えば動機を隠すのに使われるし、密室トリックはそれを完成させる方法を解くのに頭を悩ませるし、アリバイトリックは万物に平等に流れる時間を相手にパズルを解くようなものだ。
 とは云っても「刑事コロンボ」は倒叙(倒述)ミステリだ。犯人の視点で描かれるのに動機が明らかにならないというのは不自然だ。動機を問う内容の作品が全くないわけではないが、動機を隠すことによって犯人の人となりを明らかにしない弊害が出る。冴えない外見だが攻撃力は抜群の「コロンボ」という装備をして万全の態勢で攻めてくる男を、やがて全力で迎え撃つ犯人はすべてをさらけ出すしかないだろう? その過程で動機は詳らかになるものだ。だから、自然と方法と機会に関するトリックが専らになる。そもそもの始まり、「殺人処方箋」はアリバイトリックを扱っている。

 さて、「刑事コロンボ」の記事を書くにあたって座右の書とすべき一冊と云えば、別冊宝島の『刑事コロンボ完全捜査記録』だ。この記事に書影を載せようかと思ってamazonで検索をかけたら、定価の倍以上の値段がつけられているではないか。宝島社のサイトに行っても直販はないようだし。
 えっ、絶版品切れなの?もう買えないなんて、こんなことあっていいのか?
 ショックだ。

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Comments:2

三田皓司 2013年7月 6日 08:43

>コンプリートBOXは欲しいけれど、定価71400円は高い。高いよ。旧シリーズのDVD-BOXを持っているだけに二の足踏んじゃう。

まったく同感なので、コメントを書かせてもらいます。

ちょっと手が出ないほど高い設定ですね!売る気がないのだろうか?
まあ、いまでは、huluで新作も眺めることができるので、買わなくて正解でした。

コロンボの同人誌は買っていますか?あれはいい出来ですよ。

サテヒデオ 2013年7月 6日 10:52

三田皓司様
 コメントありがとうございます。
 コンプリートBOXについては、ネット上に定価の半額程度の値段で売っているところもあるようで、心動かされるものがあるんですけど、でもやっぱり高い! まだ様子見なのです。
 今の世の中、わざわざ買わずに済ませられるのでしょうけど、そうはいっても自分のものとして持っていたいこの気持ち。ああ、やるせない!
 コロンボの同人誌というと、「COLUMBO! COLUMBO!」でしょうか? 一冊持ってるんですけど、今、どこにあるのか。まったくもってトホホな状況なのです。

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