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1971年の赤毛連盟

amazon:[DVD] バンク・ジョブ デラックス版 「バンク・ジョブ」を観た。
 本作はイギリス映画。主演はジェイソン・ステイサム。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」で俳優デビューを果たした彼には、やはりロンドンの街並みが似合う。ガイ・リッチー作品での印象が強いだけなのかもしれないけど。強烈な刷り込み?

 1970年、カリブ海を望むリゾート地で奔放な性の冒険を愉しむひとりの女性。そして、彼女の寝室を密かに撮影する男。
 1971年。ひとりの男の存在がイギリス政府を悩ませていた。男の名はマイケル・アブドル・マリク。男は"マイケルX"と自称していた。このマイケルは黒人差別撤廃を謳ってはいるものの、実際にやっていることと云えば恐喝まがいであったり違法薬物の売買であったり。要するにゴロツキである。やりたい放題のマイケルだったが、起訴されてもまるで意に介していない。まるで自分は安全地帯にいると確信しているかのように。
 マイケルはイギリス政府を脅していたのだ。彼は王室の醜聞を握っていて、いざとなったらそれを公表する、と。
 イギリス政府としては一介のチンピラごときにいつまでも舐められているわけにはいかない。要はマイケルの切り札さえ奪い取ればよいのだ。
 イースト・ロンドンで中古車販売業を営むテリー・レザーは、借金の取り立てに苦しんでいた。そんなとき、古い馴染みに儲け話を持ちかけられた。それは銀行の貸金庫を襲うというものだ。
 話を持ちかけてきたマルティーヌ・ラヴによれば、その銀行は警備システムの変更に伴って一週間ほど無防備になる。その隙をついて地下の貸金庫に侵入するのだ。
 今までしてきたケチな仕事とは規模も内容も違う。それだけに成功した場合、手にする金額も桁外れに大きい。
 テリーは儲け話に乗ることにした。仲間を集めて計画を立案し実行する。目指すはベイカー・ストリート185番地、ロイズ銀行地下貸金庫。

amazon:[文庫] シャーロック・ホームズの冒険 (創元推理文庫)  ベイカー・ストリートと聞いて世界一有名な名探偵を思い出さないのは、ミステリ好きにとっては名折れである。そのうえ地下を銀行まで掘り進む内容とあらば、思い出すのはかの名探偵が活躍した事件だ。
 ある店主が最近雇った従業員から儲け話を仕入れる。店主は見事なほどの赤毛の持ち主だが、先般物故した資産家もまた赤毛で、その遺言には赤毛の者同士への扶助の念が綴られており、遺産の一部を赤毛の持ち主に相続させる旨が書かれていたそうである。幸運な赤毛の持ち主は厳選なる審査によって決められる。また、遺産を相続すると云っても、ただ遺産を受け取るのは該当者が却って恐縮するであろうから、簡単な作業に従事してもらって、その対価として支払われるという体裁を持つ。
 従業員から勧められた店主は審査に応募してこれに合格する。簡単な作業というのは百科事典を筆写することだが、家に持ち帰って作業するのは許されず、用意されたオフィスで書き写さなければならない。作業の間は店を空けなければならないが、優秀な従業員が留守を預かってくれる。なにしろ実入りがいいのだ。これを逃す手はない。こうして、オフィスに通い、事典を書き写し、金を手に入れる日が続いたが、ある日、突然にその日々に終止符が打たれる。
 ある朝、いつものようにオフィスに向かった店主だが、その扉は閉ざされたまま。何の連絡もなしにすべてが終わってしまった。なんらの被害があったわけでもないし、日々の作業分の支払いはあったので、むしろ儲けてはいる。でも不思議な気持ちのままなので、高名な探偵を訪ねてみた。
 これが、シャーロック・ホームズの冒険譚のなかでも有名な「赤毛連盟」である。この後、事態は思ってもみない展開を見せるのだが、ここでネタを割るのも未読の方に申し訳ない。ここまでの記述で既にネタを割っているようなものだが、実際に読むとこれがまた面白いのだ!「赤毛連盟」を収録している『シャーロック・ホームズの冒険』は必読の書である。読まないヤツはまだらの紐に噛まれて死ね!

 本作の前半、アマチュアに毛の生えた程度の小悪党であるテリーたちが、情報部の監視下にあってロイズ銀行の貸金庫から四百万ポンドを盗むまでは、古き良き探偵物語の犯人側からの再現ドラマとして笑って観られた。牧歌的とさえ云える犯罪喜劇であるから。
 小型であっても掘削機で穴を掘り続けるとなると周囲にどのような影響を与えるかなんて、本作を観るまでは全く考えが到らなかった。考えてみれば、あの事態も当然だ。目の前で工事を実施されるならばまだしも自分たちの真下が工事中。彼らにとっては想像の埒外だ。
 見張りを頼んだエディとの通信が市井の無線マニアに傍受されたのはテリーたちにとって不運と云えるが、通報されたことでひとりの刑事の介入があったことは結果的に幸運だった。この刑事が後に彼らの命綱となるのだから。

 後半はそれまでの喜劇的要素が払底したかの如く陰惨な場面が続く。
 ロイズ銀行の貸金庫には紙幣や株券、あるいは宝石貴金属等の換金性の高いものばかりが眠っていたのではない。盗まれても被害を公にできない代物が隠されていたのだ。
 テリーたちは知らないうちに多くの人間の命運を握っていた。弱みを握られた人間が起こす行動の選択肢は多くない。テリーたちは銀行襲撃という罪によって追われるのではなく、秘密漏洩を恐れる者たちに狙われることとなった。目的は口封じだ。
 犯罪者ならば警察に追われるだけだ。そして、警察の犯罪捜査は法律の範囲内で行われる。ところが、テリーたちを追うのは順法精神に満ちた者ばかりではない。死人に口なしとはよく云ったものだ。解決法はシンプルであるのが一番。

 テリー一味の銀行襲撃は実は監視付きであった。計画立案の時点では攻めの姿勢で臨むことができた。しかし、銀行襲撃後に見舞われた予想外の事態には守勢にまわるしかない。そこまでは想定していなかったからだ。
 それでも、自分たちの身を守る為に勝負に出なければならない。このまま手をこまねいていてもジリ貧だ。
 様々な要素が錯綜するこの状況を逆手にとって、捕えられた仲間を救い、敵を排除するのだ。テリーはシャーロック・ホームズもかくやの筋書きを立てる。そして、それまで守勢に立っていたテリーが攻勢に打って出る。攻撃は最大の防御なり、だ。

 エンドロールの直前に目にしたのは、この物語が実際に起こった出来事だと示す文字群。「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」のような犯罪喜劇は、当然のようにフィクションとばかり思っていたので、事実であることに驚いた。尤も、映画化にあたって歴史的事実に大いなる脚色が為されているのだろうけれども。
 それでも、事実は小説より奇なり、だ。

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バンク・ジョブ from 象のロケット 2011-10-25 (火) 01:47
1971年ロンドン、借金取りに追い立てられていたテリーは、昔の彼女マルティーヌから強盗計画をもちかけられる。 ロイズ銀行の警報装置が交換のため一週間解除さ...

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