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忘れられた約束

amazon:[文庫] 怪談実話 無惨百物語 ゆるさない (MF文庫ダ・ヴィンチ)  黒木あるじ『怪談実話 無惨百物語 ゆるさない』を読んだ。
 前回、本書についてというよりも本書作者について、その語り口が読者の視覚に訴えかけることを述べた。これに加えて、怪談とはパフォーマンスであり、何を語るかより如何に語るかが問われる、とも。そのうえで独特な語り口を持つ作者の怪談本には魅力がある。買って読んで呪われてしまえ。というような内容の記事に仕上げた。最後のは我ながら酷いな。まあ、呪われた者同士で仲良くしましょう。
 怪談は如何に語るかが重要だとは云え、内容をおざなりにしてよいわけではない。というわけで、今回は内容に言及しようかな、なんて思ったリなんかしちゃったりして。
 ちなみに広川太一郎的なカンジでは書いてません。

 内容に言及とは云っても、本書は百物語だから全篇いちいち語っていたら、下手すると本書以上の文字数を必要とするかもしれない。それこそ百もの記事が必要になるだろう。無理です。こういうわけなのでこれから述べるのは、本書に収録されているものの幾つかに共通する、ある事柄についてである。なんだかんだで大したことは書けないので気楽に読んでいただきたい。

amazon:[単行本(ソフトカバー)] 怪談文芸ハンドブック (幽BOOKS)  本書収録の怪談話のいくつに共通するのは、「現代人が禁忌をおかして、それが原因と思われる怪異に見舞われる」というものだ。ここで重要なのは、禁忌の何たるかをろくに知りもせず、単なる迷信と捉えたり目先の利益に飛びついたりで、禁忌が禁忌として機能してない点だ。
 長い間、伝承として人々に受け継がれてきたことには意味がある。伝承の内容もさることながら、伝えられてきたこと自体に意味がある。しかし近代化の流れのなかで、それらは捨て去られてきた。理に合わない、科学的根拠に乏しい、と。そして伝承の断絶が起こった。これによって伝承はそれを読み取るための文脈を失った。伝承の語る禁忌の意味するところを読み取れない現代人は、だから怪異に遭わなければならなくなる。遠い過去からの約款はまだ生きているのに、それが忘れられたがために、あるいは約款が有効であるとは信じられないがために、守られなくなっている。

 怪談話をひと言で云い表すのは難しい。怪談話には創作もあれば実話を扱ったものもある。本書は作者が取材して集めたものであり、この記事は本書を取り上げているので、怪談実話について語るものとする。そして実話であっても怪談話は物語なのだということを云い添えておく。
 ここで「怪談話」と表現するのは、パフォーマンスのネタであり、娯楽の一形態である。また、鎮魂の意味合いを持つ。そして記録という側面もある。
 娯楽という点では、百物語がまさしくこれである。暑気払いだのと理由を付けてみても、本当のところは「こわいもの見たさ」が高じての催しだ。肝試しとかわらない。無惨絵や地獄絵図、歌舞伎で惨劇が描かれるのが流行ったのも同じ理由だ。
 鎮魂というのは、そこに死が扱われる場合、怪談として語られることでそのたびに死を悼み、冥福を祈る。怪談を語ることは死をオモチャにするのではなく、死に思いを馳せる行為なのだ。何度も何度も語られることで完成度を高めてゆく怪談話もまた、鎮魂の念を込められるのだ。
 記録としての側面というのは、怪談として語り継がれることで事件事故の様子を後世に残すことができることを示している。
 鎮魂と記録という点では、2011年3月11日の出来事がこれに該当する。
 東日本大震災だ。

 あの地震と津波によって多くの人が亡くなり、今も行方不明のままの方がたくさんおられる。
 東北とひとくくりにするのは躊躇われるが、かの地は昔から大小を問わず地震の多発する地域であり、津波の押し寄せる地域であった。村々に過去の被災を告げる石碑や伝承が残っていると聞く。それらを信じてすばやく高所に避難したから助かったという話も聞く。想像よりずっと高い地点まで水が迫ってきたけど、念のためにそれより高い所に避難しておいてよかった、と。自費を投じて避難場所を作っていた人。行政を動かして避難経路を作っていた人。これらが意味しているのは、すべては過去の記録を蔑ろにせずに用意を怠らなかったことの結果、ということだ。
 現在、復興の日々を送る被災地では怪談としか表現できないような逸話がたくさん生まれていると仄聞する。作者は東北を活動の拠点においている。それだけに他人事とは思えないのだろう。精力的に活動しているとのことだ。
 文筆業のほかに映像畑で活躍する作者は、震災後、カメラマンとして被災地を何度も訪れている。その映像は東雅夫氏の講演会で上映され、そこで私は観た。それまで空撮による俯瞰のアングルでしか見られなかった被災地が、人の目線の高さで見ることによってはじめて伝わってくるもののあることを。
 かつて文献のみならず口碑伝承で各地それぞれに有効だった約款は忘れられ、その弊害が東北の一部では被災というかたちで表れた。震災自体は避けられなかったかもしれない。しかし、記録を過去からの警鐘として受け止めていれば助かった命があったことも事実。今度こそはきちんと語り伝えてゆかなければならない。
 忘れはしない、忘れさせはしない。
 作者の思いは、本書に収録されている怪談話に表れている。本書で作者は東北を舞台にした怪談を語っている。そのなかには、忘れられた約款をめぐる怪異を語るものもある。忘れてはいけない、忘れさせてはいけない。だから、書く。視覚に訴えかける描写が持ち味の作者だけに、脳に刻み込むという点においては、まさにうってつけ。脳に視せられた視覚情報は、揺り動かした感情とともに長く記憶に刷り込まれる。
 忘れはしない、忘れさせはしない。このスローガンを体現するような作家なのだ、黒木あるじという作家は。ここ数年の活躍はもちろん作家本人の研鑽が実を結んだものではあるが、震災を経て思うのは、「こんなこともあろうかと」と時代がその登場を要請したのではないか、なんて埒もないこと。いやはや妄想だね、こりゃ。
 本書は復興の日々にこそ読まれるべき一冊だと思う。作者から金どころかウィンクひとつ貰ったことはないけれど、私は本書を読むことを薦める。そんな本なのだ。

 ついで、というわけではないが、東日本大震災後に頑張っている企画や出版社のサイト、ブログを挙げておく。どうぞ訪れてください。

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