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長い友との始まりに

amazon:[CD+DVD] オールタイムベストアルバム 天才か人災か (DVD付)  チャールズ・エグゼビアの精神感応能力を増幅する装置、「セレブロ」と接続される際に「髪は剃らないでいいな」とハンクに訊かれたチャールズが即座に「髪に触るな」と答えるのには笑った。あのぅ、なんとも云い難いんだけど、チャールズ、君の髪は......。

「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」を観たんだけど、一回では纏められなかったのでまた取り上げる。
 本作ではアメリカンコミック「X-MEN」の登場人物、チャールズ・エグゼビアとエリック・レーンシャーを物語の中心に据えている。ジェームズ・マカヴォイが若き日のチャールズ・エグゼビアを演じ、マイケル・ファスベンダーが若き日のエリック・レーンシャーを演じている。
 チャールズ・エグゼビアとエリック・レーンシャー、後にプロフェッサーXとマグニートーとして二つの対立する思想のもとにミュータントを導いてゆく二人だ。本作では彼らの出会いと友情を育んでゆく様が描かれ、そして二人の間のどうしても相容れない信念の対立と決裂が描かれている。云うなれば、青春を描いた作品なのだ。

amazon:[Blu-ray] X-MEN:ファースト・ジェネレーション ブルーレイ コレクターズ・エディション〔初回生産限定〕  エリックには敵がいた。彼はナチスによって故郷から連れ出され強制収容所に送り込まれた。そこで母親と離ればなれにされることの怒りから秘めたる特殊能力を発現させて、その現場を当時シュミットを名乗る男に目撃される。エリックの能力が磁力を操ることだと看破したクラウス・シュミットは、その力の強さと解放条件を確かめるために、エリックの母親を彼の眼前で射殺する。「お前がコインを動かさなかったから、母親は死んだのだ」これからは君と私でとても楽しいことをしよう。エリックの能力を開花させるためにシュミットが施した人体実験は苛烈を極め、それはエリックのトラウマとなった。
 エリックの敵は彼を虐げたクラウス・シュミットである。エリックと彼の同胞を虐げたナチスである。そして異端を見つけ出しては虐げる人間であり、差別や迫害を制止できない人間たちである。つまり、愚かで弱い人類そのものをエリックは敵視している。"普通"ではない自分たちは、いずれ迫害される。愚かで弱い存在である人類とその社会が、優れたる自分たちミュータントを暴力をもってして排除すると云うのなら、その前に自分たちが人類を支配してやる。ミュータントによる社会を構築するのだ。
 エリックの思想には憎むべきシュミットの思想、ナチスに悪用された優生学の影響が見られる。エリックがシュミットの呪縛から解き放たれる時は来るのだろうか?

 エリックとは違って裕福な家庭に育ったチャールズもまた母親の愛情については心が満たされなかったようだ。ミュータントとして感じる孤独を埋めたのは変身能力を持つレイブン。ある夜、自宅に盗みに入った彼女をチャールズは家族として迎え入れた。この経験がチャールズに与えた影響は大きい。人に打ち明けられない悩みを相談できて孤独を慰められるという点のみを挙げても、ミュータント同士が団結することは大いに意義がある。この重要性をチャールズは実感したのだろう。
 世界最高レベルのテレパスであるチャールズは、他者の心や記憶を覗き込んで、そこに善なる意思を見出すことができる。世の中は善人ばかりが生きているのではない。しかし、悪人とされる者の内面にも善なる意思があるのを、チャールズは知っている。このことが彼の行動指針となる。誰しもが分かり合える時が来るはずだ。

 出自も信念も異なるチャールズとエリックが出会ったのは、セバスチャン・ショウと名を変えたクラウス・シュミットを拘束する作戦でのこと。CIAに協力するチャールズが、強大な力を有するエリックの存在を感知した。ヘルファイア・クラブを組織するショウに対して単身挑むエリックはあまりに無謀。チャールズは仲間で問題に取り組むことの重要性を説く。同時にエリックの自由意思を尊重することも云い添える。
 幼い頃から自由意思を踏みにじられてきたエリックにとって、チャールズは母親に次いで自分というものを認めてくれた存在なのだろう。実験体でも殺人兵器でもなくひとりの人間として扱われたのは母親と死別してからというもの、ついぞなかったことだろう。
 チャールズとしてもエリックは特別だ。ショウをどこまでも追おうとするエリックを制止するために、チャールズはエリックの意識と記憶の奥深くまで潜った。妹同然に生きてきたレイブンとは約束を交わしていたので彼女にすらやったことのない、ミュータントに対するその行為をエリックに試みたのだ。そこでチャールズはエリックの半生を追体験したはずだ。エリックが送ってきた、辛く苦しい日々を。
 チャールズとエリックの間に同じミュータント同士というだけではない絆が生まれる。二人はミュータントへのスカウトをコンビで行うことで互いの信頼を深めることになるが、二人の関係を決定付ける出来事として挙げられるのは、巨大なパラボラアンテナの向きをかえる訓練をエリックが行った時のことだ。そのアンテナは巨大というだけでなく彼から遠い位置にあり、その向きをかえるとなると磁力の強さのみならず操作の正確さが求められた。アンテナを動かせずにいるエリックに「真の集中力は怒りと平静心の間にある」と説いて、チャールズはエリックの内面に残っている安らぎの思い出を彼の意識の上に再現する。こうすることでエリックに「君の人生は恐怖と苦痛にのみ満ちたものではない」と気付かせた。エリックの内面に善意を感じた、と。
 他にも、ソ連将校の別荘へエリックが命令無視して突入した件がある。チャールズは退却命令に背いてエリックをフォローした。その際もチャールズはエリックを操ろうとはしなかった。チャールズはエリックを信頼している。エリックもそれをわかっている。
 かつてショウは恐怖と苦痛によってエリックの感情を怒りへと導き、それによって彼の能力を引き出すように条件付けた。チャールズは意思によって力を制御することをエリックに教えた。それができるようになると、自分も敵わなくなる、と。
 理性による力の制御は、エリックにのみ適用されるのではない。チャールズは彼のチームにこれを徹底させた。後に彼が創立する学園の礎は、この時に築かれる。確固たる意思の先に栄光があるのだ。

amazon:[GAME] ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM(R) 3(アルティメットマーヴルバーサスカプコン3) 予約特典ニューエイジオブヒーローズ パック付き  分かち難い絆で結ばれたチャールズとエリックだったが、どうしても相容れない信念の違いがあった。チャールズは人類との共存を目指し、エリックは人類に対する支配を目論む。人類とミュータントとの間にあるのは"違い"であって、これは相互理解によって克服できると考えるチャールズ。それに対してエリックは、その"違い"が差別を生み迫害を引き起こすと信じている。個々の突然変異は人類という種の進む、大きな流れのなかの一歩であり、自分たちはその先触れなのだとするチャールズ。種としての進化では足踏み状態にある人類は、突然変異を理解するより先にその力を恐れ、ミュータントが少数であるうちに差別と迫害を行うに違いないと確信するエリック。
 ミュータントがミュータントである自分を隠さずに生きられる世界。自分が自分であることに誇りを持てる世界。そんな社会を目指すチャールズとエリックだが、その実現へのアプローチに大きな隔たりがある。現状を鑑みるに、どちらかと云うとエリックに分がある。チャールズは法の下の正義を信じている。何事も正しい手続きを踏んで為されなければならないと考えている。これ自体は正しい。しかし、それを実現するのはアメリカ合衆国である、と信じている。彼はエリックとの対話のなかで自分たちの敵をショウとソ連と云った。ここに若きチャールズの限界がある。大国のエゴが少数派を踏み潰してゆくことに考えが至ってない。否、理解していてもそれがどういうものなのか実感を伴った理解にまでは至ってない。それは彼自身が少数派に属していないからだ。エリックともレイブンとも他の仲間たちとも違う。奪われたことのないチャールズが真に少数派の仲間入りするには、もう少しだけ時間が必要だ。彼は車椅子を必要とする身体障害者になってはじめて少数派となる。不自由な生活のなかでようやくいわれなき差別や偏見に直面するのだろう。
 チャールズの傲慢とエリックの不寛容が事態を悪化させた。同年代が故の友誼ではあったが、二人の間に大きな年齢差があったなら、もっと違うかたちの結末を迎えていたかもしれない。

 マグニートーは赤を基調とした色の衣装に身を包む。赤の色は怒りの炎を表しているのだろう。ショウを、母親を殺して自分を人体実験にかけたクラウス・シュミットを、エリックはどうしても許せなかった。チャールズがショウの動きを止めている間、二人の感覚が同調していることを承知でエリックはショウを殺した。自分の操るコインがショウの脳髄を破壊する間、チャールズがショウと同じ苦痛を味わうことを知っていて、それでも復讐を止められなかった。
 今や世界の中で誰よりも自分を理解し偏見のない眼差しを向ける男を、ただひとりの友人を、エリックは殺したのだ。もちろん、チャールズは死んでない。エリックが手にかけたのはショウだ。かつてのクラウス・シュミットだ。しかし、エリックと共に生きてゆこうと手をさしのべるチャールズのその手を振り払い、人間に対して専守防衛を貫かなかったことで、エリックは無二の存在の心の奥深くを傷付けた。
 チャールズとエリックは袂を分かち、それぞれの道を行くことになった。ミュータント同士で一致団結して理想を実現してゆこうとするチャールズの思いは破れた。ひとりで行動していたエリックは仲間と共に理想を実現することを選んだ。エリックはチャールズに兄弟であることを求め、チャールズはエリックを友人と呼んだ。
 思いはすれ違うも、二人の心の奥底には互いへの信頼が残っている。エリックは自らの理想に対する最大の障壁となるであろうチャールズを再起不能にせず、チャールズは妹同然に暮らしてきたレイブンをエリックに託した。二人とも、いつか分かり合える日が来ることを望んでいる。また同じ目的に向かって二人で力を合わせる日が来ることを。

amazon:[Blu-ray] ウルヴァリン:X-MEN ZERO クアドリロジー ブルーレイBOX〔初回生産限定:デジタル・コピー付〕  さて、ここで時間を少し巻き戻す。
 セレブロを使った探知で次々とミュータントをスカウトしてゆくチャールズとエリック。彼らが出会ったなかに野性味あふれる男がひとり。バーのカウンターで酒を呷る男に二人は声を掛けるも、にべもなくあしらわれて二人は退散する。無理に誘う必要はないからだ。その男、ローガン。原子力時代の申し子ではなく、過去から連綿と続く異形の血族の末裔。彼もエリックと同じように人体実験にかけられ、そしてその後にウルヴァリンの名でX-MENの一員となる。波乱万丈に満ちた男の半生とその活躍は、また別の物語だ。
 次の物語はもう始まっている。次の世代が続いて生まれてきている。プロフェッサーXもマグニートーも立ち止まってはいられない。

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