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適者生存の法則

amazon:〔初回生産限定〕 X-MEN:ファースト・ジェネレーション 2枚組DVD&ブルーレイ&デジタルコピー(DVDケース) 「X-MEN」といえばアメリカンコミックの一方の雄であるMarvelコミックの人気作品だ。作中ではスーパーヒーローたちが超人的特殊能力を駆使して活躍する。たとえアメコミに精通していなくても、先に映画化されている三部作やX-MENの一員であるウルヴァリンを主人公に据えたスピンオフ作品「ウルヴァリン:X-MEN ZERO」、X-MENの登場キャラクターをモチーフにした対戦格闘ゲーム等で世界観やキャラクターを知っているという人は多いだろう。
「X-MEN」ではミュータントと人類の関係において二つの思想が対立する。共存と支配だ。ミュータント集団の一派であるX-MENは人類との共存を模索し、もう一方のミュータント集団のブラザーフッドはミュータントによる人類の支配を目指している。この二つのミュータント集団は思想の違いから敵対するのだけれど、それぞれの集団のトップはかつて友誼によって固く結ばれていた。
 X-MENを率いるプロフェッサーXとブラザーフッドを統べるマグニートーは互いに相容れない信念のもとにそれぞれ活動しているが、二人の間には何人も立ち入ることのできない相手への思いがある。
「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」を観た。
 ジェームズ・マカヴォイが、プロフェッサーXことチャールズ・エグゼビアの青年時代を演じる。そしてマイケル・ファスベンダーがマグニートーことエリック・レーンシャーを演じる。
 本作が描いているのはチャールズとエリック、二人の若きミュータントの出会いと友情を伴う交流、そして決裂である。痛みを伴う決別の後にチャールズはプロフェッサーXとしてX-MENを創設し、彼と袂を分かったエリックはマグニートーを名乗ってブラザーフッドを結成した。

amazon:[単行本] X-MEN:ファーストクラス 明日への架け橋  本作は暴力の物語である。暴力によって他者を自分に従わせて、社会を自分の思うままに動かそうとする男たちの物語である。
 なるほど、暴力による支配とはセバスチャン・ショウのことか? 違う。もちろんショウは暴力によってエリックの人生をねじ曲げた。冷戦状態にあるアメリカ合衆国とソビエト連邦の上級軍人を暴力で脅して、それぞれにミサイル配備を強要した。核ミサイルによる攻撃を実現させることで、人類のDNAの突然変異を誘発させるのがショウの目的だ。まずミュータントを増やし、次に優れたる彼らが人類を支配する。
 ナチスが国民を奮い立たせるために喧伝した優生学の悪しき引用を、かつてその禄を食んだショウが繰り返す。そしてこれを引き継いだのは、エリックだ。エリックにとって眼前で母親を殺して自分に生体実験を繰り返した男、今はセバスチャン・ショウを名乗る男は憎んでも憎み足りないほどに憎み、復讐を誓った相手だ。しかし、ショウが提唱する「ミュータントがその強大な力で人類を支配する」という理念に彼は賛同せざるを得ない。エリックは人の弱さと愚かさを熟知している。それらを体験として自分の身に刻んでいるのだ。弱くて愚かな人類が自分たちから国を奪い、親を奪い、平和な日々を奪った。それを実際に行った者は命令に従っただけで彼ら自身がそれを求めたわけではなかったとしても、銃口を向けられた者にとってそんなことは関係ない。命令を拒否する強さを持たないこと自体が罪である。
 愚かで弱いだけでも罪に値するというのに、自分たちとは違うというだけでミュータントに迫害を加えようとする。これは断じて赦されるものではない。ちゃんと躾ねば飼い犬だとて主の腕を噛む。人類とミュータント、どちらが上位に立っているか思い知らせてやらねばならぬ。
 ショウとエリックの懸念はあながち間違ってはいない。米ソ軍首脳はミュータントの脅威を排除する動きに出る。これもわからないではない。米ソ冷戦構造は自分たちが作り上げたものだが、そのバランスを崩したのはたった数人のミュータントだ。そして眼前に展開する、自分たちのそれとは次元の異なる戦い。少人数のミュータントでこの状況を引き起こすなら、奴らが大勢集まったら米ソ主導の世界のパワーバランスなど簡単に崩壊してしまう!

amazon:[Blu-ray] X-MEN トリロジー ブルーレイ・コンプリートBOX (ボーナスディスク付) 〔初回生産限定〕  世界は暴力に覆われている。ここに人類とミュータントという新たな問題が持ち上がる。異端を排除しようとする人類。そうはさせじと反対に人類支配を目論むミュータント。両者の間を繋ぐ架け橋たらんとするのがミュータントのひとり、チャールズ・エグゼビアだ。人類とミュータントとが共存し、争いのない未来を共に歩んでゆこう。彼の主張は素晴らしい。しかし、チャールズもまた暴力に訴えかけるひとりには違いない。
 チャールズはテレパスだ。精神感応能力では世界最高レベルにある。他人の心や記憶を読み、自由に操ることができ、感覚を同調させられる。これは暴力そのものだ。銃口を向けられて自分の過去や秘密を喋らされ、脅されるままにしたくもないことをやらされる。チャールズのすることの本質はこれとかわらない。知らない間に奪われ、気づかないうちに行動を操作される。そこに自由意思はない。彼がミュータント最強にして最凶たる所以がここにある。そして、彼の能力を悪用しようと企む者が陸続と列を成す。これについては別の物語。「X-MEN」三部作に描かれている。
 プロフェッサーXは自分の能力の本質に気付いているが、本作の時点のエリックはまだ無自覚のようだ。もしかしたら、このことを悩みすぎて彼の頭髪はあんなことになったのかもしれない。

 ショウが見下し、エリックが恐れ憎んだ人間。彼らの云い分はわかるが、個々の人間は悪い奴ばかりじゃないってことを、実際に付き合ってみるとわかるだろう。人類という枠組みで捉えても、進歩を続ける「種」としての逞しさを感じられるはずだ。厄介なのは人間社会というやつだ。そこには個人としての善良さも人類としての純粋な強さもない。ショウが侮蔑しエリックが絶望する、人間の愚かさと弱さとを煮詰めたような状態がそこにある。無意味と思われることで争い、差別や弾圧が行われて人が殺される。これらが法の名のもとに行われるのだ。どう考えてもおかしいじゃないか!
 ショウとエリックの言葉に一分の理を見出してしまうのは、人間社会の醜さを知っているからだろう。それでも希望の光を灯そうと懸命なチャールズは立派だと思う。たとえ彼自身も暴力の男だとしても、後に自らを省みて安易に力を行使しないのならば、その信念には敬意を表する。ただし、アメリカ合衆国にのみ忠誠を誓うような、現時点でのチャールズに対して全面的な賛同はできない。法の下に不正が行われ、それによって生命財産が損なわれたらどうするんだ? 現にミュータントは攻撃対象に認定されて攻撃を受けた。攻撃の前に交渉すら持たれずに。法が悪を野放しにして、むしろそれを助長するなら自分が悪を討つために立ち上がらなければならない。
 本作は法の下の正義と自警主義の物語でもあったのだ。
 アメコミヒーローの永遠のテーマと云える「正義」と「ヴィジランティズム」。強大な力を持つ者はそれに対して責任を伴う。この呪縛にがんじがらめになっているのがアメコミのヒーローたちだ。自らにそなわった超人的能力を自身の欲望を満たすために使ってはいけない。強盗や殺人に使ってはならないのはもちろん、誰かの復讐のために敵を殺してもいけない。なぜなら復讐は私的行為だから。公共の正義、法の下の正義が彼らヒーローには求められているのだ。いろいろ面倒臭い。こんなことならヴィラン(悪役)のほうがよっぽど気楽だバカヤロー! こう云いたくもなる。
 法律の後ろ盾を失おうとも、自分のスジを通すために銃を手にするハリー・キャラハン刑事は、正義の立場にありながらヴィジランティズムを貫く複雑なキャラクターだが、行動原理が明確なので心おきなく感情移入できる。自分の行為が正義かどうか悩むタイツ男たちなんか無視だ。44マグナムが火を噴くぜ!
 とは云え、法治と人治とを比較すると、これはどう考えても法治に軍配が上がる。法という明確な線引きがなければ、それこそ社会は腐敗する。同じ罪を犯して、一方が死刑でもう一方が罰金刑というのは明らかにおかしい。これが成り立つのが人治だ。法による平等を謳っている法治ではあり得ない事態も、人治であれば絶対にないとは云いきれない。
 それでは自警主義は絶対に許されないのかというと、銃の所持と自衛権を認められているアメリカにおいてはこれを断言できない。そして、これがアメコミなのだ。世界の警察を標榜するアメリカ合衆国の悩める姿をアメコミは投影している。「X-MEN」では、法に寄り添って人類との共存をはかるX-MENと、法とそれを執行する者たちを監視して時に強硬手段も辞さないブラザーフッド。彼らの姿こそが、アメリカそのものなのだ。
 本作の時代背景が市民運動が活発化してゆく1960年代であるこことに意味はある。実際にはもう少し時代は下るのだが、暴走する法とそれを監視する民衆の構図は、「X-MEN」を語るうえで重要だ。プロフェッサーXの苦悩はここにある。正義と信念とがせめぎ合う。しかし彼は諦めない。そこに彼の強さがある。マグニートーには幼少時からの人間に対する不信がある。それを拭えなかったことが、プロフェッサーXが理想へ邁進することの原動力になっているのだろう。瞋恚の牢獄に囚われた友人を自分の力で救えなかったことを悔いているのだ。

 長くなったので、「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」については次も取り上げる。チャールズとエリックの関係を中心にダラダラと語りたいなあ。ダラダラと語れるかなあ。

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