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父の背中

amazon:[Blu-ray] ヘルボーイ 「ヘルボーイ」を観た。
 マイク・ミニョーラ描くところのヘルボーイが実写映画となり、タイトルロールを演じるのはロン・パールマンときた。ロン・パールマンと聞いて、その決して二枚目と云えない面相を思い浮かべる。ロン・パールマンがヘルボーイ。ウン、絶妙の配役だ! しかも監督はギレルモ・デル・トロ。この作家はそのキャリアのなかで、闇に生きる者どもへの偏愛を示してきた。ヘルボーイも闇に紛れて活動する。また、マイク・ミニョーラの絵の特徴はくっきりした陰影である。闇をどう見せるかは映画化に際しての最重要事項だ。映画自体が光と影の芸術である。ここまで「光と影」のキーワードが揃うのも珍しい。この映画化はなるべくしてなったと云ってもよいのではないかな?
 職人と素材の幸福な出逢い。これに期待するなと云うのが無理ってモンだ。

amazon:[単行本] ヘルボーイ:壱 破滅の種子/魔神覚醒  本作の内容は『ヘルボーイ:破滅の種子』を下敷きにしている。また、『縛られた棺』から「屍」の喋る死骸が流用されている。「屍」はそもそもW・B・イエイツの『ケルト妖精物語』に収録のエピソードを下敷きにしているらしいが、私は原典を読んでいないのでこれについては語るべき言葉がない。
 私は原作を読むより先に本作を観た。本作公開時には『破滅の種子』を持っていたにもかかわらず!『破滅の種子』の奥付を見ると、初版は1999年9月とある。実に10年もの間、自家熟成していたわけだ。我ながら呆れたものである。本作を好きだと云うならば、『ヘルボーイ:破滅の種子』は必読である。昨年2010年に二冊の愛蔵版が刊行されて膝からヘナヘナと力が抜けた。愛蔵版の第一巻に「破滅の種子」が収録されているので未読の向きはこれを手に取ってほしい。なかなかに値の張る本だけれど。
 本作には原作からの改変部分があり、それは主題に関わるモチーフとして強調されたり見せ場として用意されたりしている。これらは改悪と罵られるものではない。それでも、ヘルボーイが後にキャベンディッシュの事件と呼ぶエピソードは原作でのみ語られるのだが、これには映画化作品では味わえない面白さがある。そこにあるのはH・P・ラヴクラフト直系のコズミックホラーだ。マイク・ミニョーラの脳裏にはクトゥルー神話があったに違いない。

 本作「ヘルボーイ」と原作『破滅の種子』との最も大きな違いのひとつは、カール・ルプレクト・クロエネンだ。イルザもそうだがこの狂った科学者は原作では顔見せ程度しか登場しない。本作において主人公ヘルボーイの活躍が色褪せるほどの圧倒的な存在感を示すクロエネンは、その投入によって本作の娯楽作品としての魅力を増幅させた。あの動き、あの剣技、あの仕組み。加えて素顔のおぞましさ。カール・ルプレクト・クロエネンは映画の登場人物として完璧である!
 本作と原作の間の大きな違い。もうひとつは、ヘルボーイとトレバー・ブルッテンホルムの関係性の深さだ。原作では映画に見られるような父と子を思わせる強い絆は描かれていない。老優ジョン・ハート演じるところのブルームがヘルボーイに注ぐ愛情は、まさに我が子を慈しむ父親のそれである。ブルームの導きがあったからこそヘルボーイはヘルボーイたり得た。邪悪なる出自を反映するが如き異形の姿と特殊な能力を持つ一方で、人としての心を獲得するに至ったのは、これは間違いなくブルームの影響だ。
ヘルボーイは、その図体とは対照的に精神は未熟なままだ。9歳の少年と対等に話し、彼に励まされるほどに幼い心を持っている。その一方で生きてきた歳月から得た知識と経験がある。どうにもアンバランスな存在だ。ブルームはそんな息子と彼の行く末を心配する。ジョン・マイヤーズを超常現象調査防衛局の所属としたのは、彼を息子の友人として迎えるつもりだったのではないだろうか。余命定かではない自分の身を思えば、ここで保険を掛けておくに如くはなし。
 ブルームがヘルボーイの育ての親ならば、生みの親たるはグリゴリ・ラスプーチンだ。このロシアの怪僧はある野望のもとにアヌン・ウン・ラーマを地上に召喚した。それがブルームに名付けられ育てられたヘルボーイだ。本作では、魔物召喚実験の最中にアメリカ軍の攻撃を受けたラスプーチンは、実験によって生じた穴に吸い込まれてしまう。60年に亘る不在の後、ようやく怪僧は還ってきた。今度こそ本願を成就する為に。それにはあの魔物が必要だ。かつて自分が召喚し、今はヘルボーイと呼ばれている魔物が。
 ブルームとラスプーチン。つまり、本作は二人の父親の物語なのだ。未だ自分の生き方を決められない少年が男になる物語でもある。自らどう生きてゆくかを決める際に指標となるのは父親の言葉だ。それは父から子へ受け継がれる、「どう在るべきか? どう生きるべきか?」ということへの答えだ。
 映像作家ギレルモ・デル・トロにとって「ヘルボーイ」の映画化は念願だったらしい。その情熱が迸るような作品だ。H・P・ラヴクラフトの「恐怖山脈にて」の映画化も、ぜひとも実現してもらいたいものだ! 重要なので強調しておきました。

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ヘルボーイ from 象のロケット 2011-09-23 (金) 17:43
ナチスの陰謀により冥界から生まれた超人ヘルボーイは、ブルーム教授率いる連合軍に救出され、その後、教授が創設した超常現象防衛局で特殊任務にあたっていた。 だ...

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