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三位一体の神話

amazon:[DVD] ブロークン 「ブロークン」を観た。
 レントゲン技師のジーナ・マクヴェイは建築家のステファンと交際している。今夜のパーティは主賓には内緒なので、現場をかかえる恋人は仕事が忙しいだろうけれど時間厳守が絶対条件。
 アメリカ大使館に勤めるジョンは定年を間近に控えている。ひとりきりの誕生日を寂しく過ごそうとする彼は物音に体を強張らせた。得物を手にドアを開けると、そこには彼の見知った顔が並んでいる。「サプライズ!」の声で、ささやかな誕生パーティが始まった。そのパーティのさなか、突然に鏡が割れた。その後、ジーナたちを追いかけるように彼女の自宅の鏡が割れる。
 ジーナは職場からの帰りに、自分の車に乗る女を見掛ける。女は自分にそっくりだった。車が地下駐車場に入ったので追いかけると、そこは見知らぬアパート。女を追ってある部屋に入ったジーナは、部屋の様子に驚く。写真立てに飾られているのは自分と父親のツーショット写真だ。これはどういうこと?
 車を走らせるジーナの脳裏に浮かぶのは、その直前に見た光景。運転中だと云うのに注意力散漫になっていた彼女はハンドル操作を誤ってしまう。その結果、対向車とほぼ正面からの衝突事故を起こしてしまった。
 退院したジーナは恋人の異変に気付く。外見は変わらないが中身は以前と違う気がする。入院時に顔を合わせたカウンセラーはジーナの違和感を事故の後遺症と云うが、自分ではそんな実感はない。自分は医者の云うように、カプグラ症候群なのだろうか?
 ステファン宅のバスルーム、天井の一点から水漏れがするのだが、あの上はどうなっているのだろうか?

 謎があればそれを解く。謎を謎のままにしておけないのは野暮だと承知の上で、それでも解答に辿り着きたい。強迫観念のような謎解きの衝動。とかくミステリ好きは度し難い。
 本作においても謎はあり、その難易度は高くないものの、予め真相を明かされることを好まない向きがあるのも事実だろう。これもまた理解できる。それでも私はネタを割る。瓦10枚分のネタを割ってみせる。レトリック等で暈すことはしない。徹底的に真相を明かす。明言を避けようとする気持ちはほんのちょっとだけ、ある。それに期待しないでほしい。
 真相を知りたくなければここから避難するしか方法はない。さあ、「戻る」をクリックするのだ!

 本作は鏡怪談だ。鏡を通して怪異が現実世界に侵犯する。事態の把握をヒロインに託すも、探偵役の彼女と作中の事件との関係は「エンゼルハート」を想起させる。「エンゼルハート」で探偵が実は当の尋ね人だったように、本作においても主体と客体の関係に歪みが生じる。本作では探偵と被害者と犯人が同一人物なのだ。

 交通事故後、世界をあるがままに受け入れられないでいたジーナは、失われた記憶を取り戻すべく努力する。世界の変容はステファンの変化をもって、その姿を現した。
 ジーナが感じるのは、それまで確立して自己存在が揺らいでしまう危機感。世界も自分も確かなものとして感じられなくなる恐怖。これが本作で描かれている恐怖の正体だ。また、自分が自分以外の何者かに取って代わられるという恐怖もあろう。どちらにせよ目新しさは感じられない。しかし、それが悪いわけでもない。自分が自分であることの確かな実感がほしい。これは当たり前に持つ気持ちだ。自分が揺らげば世界も揺らぐのだから。
 ジーナが絶えず感じる世界の変容と違和感、そして恐怖について、これらの謎を解く鍵はあの場所にある。自分そっくりの女が入っていったアパートの一室。あそこで何が起こったのだろう?

 ジーナの抱く謎は、これを解くことは難しくない。証拠こそ提示されていないが、観客の多くは真相を思い描いたことだろう。真相は単純だ。鏡の中から現れたもうひとりのジーナが、現実世界に生きていたジーナを殺したのだ。そしてその後、鏡のジーナは現実のジーナになりかわった。事故に遭ったことでジーナは前後の記憶を一時的に失うのだが、このジーナは云うまでもなく鏡から抜け出したジーナである。
 現実世界に生きていた方をオリジナルと呼ぶならば、鏡の世界からやってきたのは云わば鏡人間だ。鏡人間というアクロバティックな存在を代入することで、監督は探偵・被害者・犯人の三位一体を完成させたのだ。

 監督のショーン・エリスは写真家なのだそうだ。前作「フローズン・タイム」では時間の流れが停止した世界を描き、本作ではポジとネガの関係を描いた。世界の切り取る視点がいかにも写真家らしい。
 人の目に触れ、作品として脚光を浴びるのはいつも写真だ。現像後のネガフィルムは焼き増しすることがなければ、一顧だにされない。ネガがなければ写真は存在しないのに。暗室に響き渡る苦悩の叫びをショーン・エリスが掬い取って本作を作り上げたのだろうか。いやいや、これは穿ち過ぎかな。

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