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洞窟観光協会

「サンクタム」公式サイト 「サンクタム」を観た。
 ジェームズ・キャメロンが製作総指揮を務めた3D映画。実は私、公開当時あれだけ話題になった「アバター」すら未だに観ていない。観たくなかったわけではないんだけど、なんとなく行きそびれているうちに上映館が少なくなり、「ま、観られないなら観られないでいいかな」なんて思うようになった。3D懐疑主義者ではないけれど、3D至上主義者でもないし。で、3D懐疑主義者とか3D至上主義者とかってナニ?
 このことからわかるように(わかるか?)、本作は特にどうしても観てみたいわけではなかったのだが、足を運んだ映画館で食指が動いたのは本作だけであった。ジェームズ・キャメロン印の3D映像というのがどんなものか、遅ればせながら実際に体験してみるとしようか。せっかくここまで来たのだからこのまま何も観ずに映画館を後にするのは業腹、と考えたのだ。
 本作を観る数日前に、3D上映の「プリースト」を観ていた。それで感じたのだが、「3D体験を提供する」ことについて、二作品はこの点で完成度に差があるようだ。どちらが優っているかは敢えて云わないけれど、さすがはジェームズ・キャメロン製作総指揮。3D表現についてはノウハウの蓄積があるんだろうな。
 話題になった「アバター」が実際にどれくらい3D体験を堪能できるのか知らないが、本作における「奥」と「手前」との配置は「プリースト」とは比較にならない。絵コンテの段階でメチャクチャ考えられているのが、素人目にもわかった。大したものだ。正しく見世物だよ。

amazon:[Blu-ray] サンクタム 3D&2D(デジタルコピー付3枚組)  本作の舞台は洞窟の中。熱帯雨林の奥地にポッカリと口を開いている、すべての洞窟の母と呼ばれている「エスペリト・エサーラ」の、果ての知れない内部を探検隊が生還をかけて奥へと進んでゆく。これを乱暴に纏めると、探検隊が洞窟の中で彷徨うってだけなんだけど、岩と水しかないロケーションを飽かず眺めさせることは、凄い。これは魔術だよ。
 嵐が襲来する前、なんの事故にも見舞われず、穏やかな心持ちで眺める洞窟の美しさ。それが数時間で一変する。嵐によって雨水が流れ込み、電気の供給が絶たれたために暗闇と化した洞窟の底知れなさ。同じ場所なのに目に映る光景が違う。視界がきかないだけで計り知れない圧迫感に襲われる。
 動揺を誘う劇伴と効果音が平静を保つのを邪魔する。パニックに陥ったら終わりだ。落ち着いて事態を把握することが重要だ。しかし、物語の展開が安全な場所にいるはずの観客の動揺を誘う。生きるか死ぬかの手に汗握る展開に、視界は自然と狭くなる。これを利用して観客の目を見せたい物に向けさせるのだから、巧いとしか云えない。熟練の腕を誇るマジシャンがそれを為すように、本作における視線誘導は見事に成功し、観客は文字通りのイリュージョンに酔い痴れる。
 本作は"視覚を遊ぶ"映画だ。

 物語に目新しいところはない。極限状況からの脱出劇。人間関係を含む状況の悪化を横糸に、主人公と父の関係を縦糸に、状況が悪くなれば悪くなるほど父子の間にあった確執は解消され、生還への希望が織り成されてゆく。
 設定にせよ展開にせよ、一から十まで定石通り。状況の推移も登場人物の行動も「こうなるんだろうな。あんなことしてしまうんだろうな」と観ながらに予想する通り。これを予定調和と呼ぶか、輝ける定石と呼ぶか。実際、苦笑を漏らす向きも少なくないだろう、「陳腐だ!」と。これに反対はしない。本作においては、筋立てに関して感じる驚きは、ただの一場面もないのだから。でも、それでよいのだ。
 本作において製作陣は、当たり前すぎてふだんは特に気にも留めない"見る"という行為に、驚きと悦びがあることを観客に提示している。観客に"視覚を遊ぶ"のを堪能させるために、物語を供していると云ってよい。脚本もカメラワークも劇伴も効果音も演出も編集も役者の演技も、すべてが驚きと悦びに満ちた"見る"のために捧げられている。
 だから、本作は大きなスクリーンで観なければならない。3D体験のできる環境で観なければならない。そうでなければ圧倒的なまでの迫力を持つ"見る"は、決して味わえない。
 さんざん予定調和だの陳腐だの不評を煽るようなことを述べた。"見る"を楽しむことを前提にしているとは云え、それでもドラマを盛り上げることを忘れないのはさすがだ。わかりきった展開だけど手に汗握る。興奮する。目がスクリーンに釘付けになる。またまた"見る"を操られてる。ここまでくると、ただただ脱帽だ。

 3D表現のノウハウ、特に海を舞台の撮影テクニックを本作で自家薬籠中のものにした。さあ、次こそは「殺人魚フライングキラー 3D」だぜジェームズ・キャメロン! この構想があったればこそ、「ピラニア3D」を徹底的にこきおろしたのだろう?

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