洞窟観光協会 | HOME | そして行列は動き出す

北緯38度線

「プリースト」公式サイト  2011年9月13日、秋葉原は富士ソフトビル2Fのアキバシアターにて映画試写会が催され、「プリースト」を観た。
 当日は上映前にゲストを招いてのトークショーが行われて、トークゲストに椿鬼奴ならぬ「ヴァンパイ奴ハンター」が登場したが、これについては省略する。

 本作を普通の吸血鬼モノと思って観に行くと、その期待は裏切られるかもしれない。というのも、人類に敵対する存在として描かれているヴァンパイアは、一般的に人が吸血鬼と聞いて思い浮かべるイメージとはかけ離れているからだ。本作におけるヴァンパイアはそもそもが人類ではない。闇のなかで進化を遂げた結果、視覚は眼球から失い、その生態は蟻や蜂に近い。頂点に女王が君臨し、これが兵士を産んで殖えてゆく。粘ついた唾液を用いて巣を作るというのも、人類というよりむしろ昆虫寄りだ。
 ここまで挙げた点を見る限り、本作の"ヴァンパイア"は「別に吸血鬼ということにしなくても作品として成立するのでは?」といった、その設定であることの必然性が希薄だ。たしかに人間を凌駕する身体能力を有し、日光に弱い。ヴァンパイアに噛まれると"感染者"となって人間ではなくなるようだが、これによってどのような変化を遂げるのかは明示されない。見たところ、さして強くなったようには思われないのだが、これは対ヴァンパイア最強兵器として描かれているプリーストとの比較だ。人間より強いのかもしれないが、プリーストの前では街の不良学生ほどの脅威すら感じられない。そのうえ"人間ヴァンパイア"なるものが登場する。こうなると、もうなにがなんだか。吸血鬼モノという先入観は頭から追い出して観るべき作品だ。そうでないと、いろいろと納得できないまま物語は進む。

 本作は23日からの公開だ。まだ観てないという方のほうが多いハズ。ここから先は、ネタを割られることも辞さないという、苛烈なる覚悟で進んでもらいたい。ここまでの内容でも、設定や展開について少なからず明かしてしまっている。
 ネタを割られるのが大嫌いで「そういうんだったら次にしますぅ」というそこのキミ、今日はここまでにして「回れ右!」だ。アディオス。

amazon:[Blu-ray] プリースト IN 3D  生物的進化の果てに血を栄養源とするヴァンパイアが誕生したとする設定に文句はない。人類とヴァンパイアとの抗争が地球規模に発展して多くの都市が壊滅したという設定も、キリスト教会主導のもとでヴァンパイアに立ち向かうという経緯も悪くない。生き残った都市が城塞都市化するというのは大賛成だ。そこを舞台に西部劇を彷彿させる追跡劇が展開するのも好みだ。
 こういうふうに書くと、私が本作を高く評価していると思われるかもしれないが、そんなことはない。本作の設定や展開には、瑕疵と表現するには大きすぎる穴がある。そこに目を瞑れば面白い、と。
 プリーストたちのバイクは動力に太陽電池を使用しているのに、シティでは化石燃料を使っているのか、四六時中煤煙が降っている。これについては「決して夜明けのこない街」を作り上げて、そこがヴァンパイアに襲われる恐怖を演出したかったようだ。でも失敗してるけど。
 国家でも企業でもなく教会が最強の武装集団を組織すること。ヴァンパイアとの戦争が終結し、それに伴って解散したプリーストの装備を、組織を離脱した個人が管理していること。主人公がヴァンパイアの活動再開について教会に報告するも一顧だにされないこと。
 これらの設定やストーリー展開のあまりにもお粗末な点について、なんのフォローのないことを目の当たりにすると、些かなりと白けた気分になる。どうにも背骨が通ってないカンジ。かっこよさを追求するあまり、世界観を構成する一つひとつの要素に目配りができてないのではないか?

 本作には原作がある。作者の名はヒョン・ミンウ。韓国人作家だ。漫画ということだが(マンファとカテゴライズしなきゃいけないのか?)、例によって例の如く読んでない。読んでないのだが、原作が韓国人作家の手になると知って膝を叩いた。なるほど、さもありなん。
 かりそめの平和を為政者は声高に叫び、戦争は終結したと強調する。教会を裏切ることは神を裏切ることだと繰り返して、信徒を洗脳する。脅威は去った。自分たち教会を信じていればよい。これらの設定は、作者が韓国社会の実態を作品に反映させたものではないだろうか?
 朝鮮戦争が未だ終わっていないことはご存じの通り。1953年7月27日に締結されたのは、あれは休戦協定にすぎない。戦争をちょっとひと休みしましょう、というものでしかない。朝鮮戦争は終結していない。朝鮮民主主義人民共和国と大韓民国は今もって戦争中なのだ。韓国の映画スターが徴兵で二年間活動停止するという話題が伝えられるけれど、徴兵制度があるのは当然なのだ。
 こういった背景を念頭に置いて本作を眺めると、実に感慨深い。社会情勢だとか人類とヴァンパイアの今後のあり様だとか、そこに韓国人であることの複雑な思いを感じ取ってしまう。糾弾されるべきトップには交代するたびに糾弾され逮捕される大統領を連想し、ヴァンパイアの女王からは総書記の座を世襲することで支配し続ける一族を連想する。境界で区切られた領地には圧倒的な差異が認められ、これも経済格差の激しい両国間を象徴している。
 種族を超越した融和を果たそうと訴える友人と、彼に対する罪悪感を拭えないまでも提案に乗れない主人公。結局は友人の申し出を主人公は断るのだが、そこには「あんなヤツらとは交われない。同等でなんていられない!」という思いが見え隠れする。"人間ヴァンパイア"の持つ強さへの欲望が主人公を迷わせると、もっと盛り上がっただろうに。もうちょっとわかりやすく悩んでほしかったが、テンポが悪くなるのを嫌ったか。この懊悩があったれば、融和と対立の背反する選択肢に揺れる韓国というテーマを色濃く打ち出せたものを。こうして考えてみると、ヴァンパイアを人類として描かなかった、描けなかった作者の気持ちに切ないものを感じる。
 そうは云っても本作はC級映画作品だ。難しいことは放っておいて、惹句にある〈人類vsヴァンパイア MEETS 西部劇〉を素直に楽しめばいい。西部劇なのに主人公が銃を使わないのは不満だけど。
 韓国人作家の心情を慮って云々しても、本人はそんなこと欠片も考えていないかもしれないし。あんまり悩むと禿げるしな。禿げたからといって謝罪と賠償を求めるわけにもいくまい。この考察はここまで!

 最後にひとつ。本作は3D上映される。これは個人的なものかもしれないけど、作品にのめり込むと3D効果が気にならない。いや、気がつかない。全編通して一番飛び出して見えたのは、最後のスタッフロールだった。人の名前が飛び出して、もう大変!

洞窟観光協会 | HOME | そして行列は動き出す

Comments:0

Comment Form

Trackbacks:6

TrackBack URL for this entry
http://mescalinedrive.com/mt-tb.cgi/30
Listed below are links to weblogs that reference
北緯38度線 from MESCALINE DRIVE
プリースト 3D from 象のロケット 2011-09-17 (土) 21:09
ヴァンパイア(吸血鬼)との何世紀にも渡る壮絶な戦いを経て、人類は教会が統治する高い防壁で覆われた“シティ”で暮らしていた。 かつて人類を勝利へと導いた伝説...
プリースト from LOVE Cinemas 調布 2011-10-06 (木) 00:37
人類と天使の壮絶な戦いを描いた『レギオン』のスコット・スチュワート監督が今度はヴァンパイアと人類の壮絶な戦いを描いた。主演は『レギオン』から2度目のコンビ...
プリースト from いやいやえん 2012-01-29 (日) 08:48
ポール・ベタニーさん(好き)主演です。マギー・Qさん共演。 ジャケ画像が「アサシンクリード」っぽい(笑)。残念ながら「ここで終わるのかよ!」な作...
■映画『プリースト』 from Viva La Vida! <ライターCheese の映画やもろもろ> 2012-02-12 (日) 10:34
厨 二 病 思わず、そんな言葉を思い浮かべてしまった映画『プリースト』。 世紀末ムードたっぷりに、乾いたゴシック感と近未来っぽいデジタル感にこ...
プリースト : スタイリッシュ・ホラー from こんな映画観たよ!-あらすじと感想- 2012-07-19 (木) 17:04
 昨日の広島カープは、不可解な采配もあり中日に大敗してしまいました。でも、何故かの3位浮上。まさかの3位浮上なんて、6月までは考えられませんでした。本日紹...
【映画】プリースト…貧困な内容の映画でも最近はCGとかで何とかなるらしいという見本かも? from ピロEK脱オタ宣言!…ただし長期計画 2012-08-14 (火) 17:21
連休(お盆休み)も終盤に差し掛かるも、特に休みを満喫するような事は何もしていない私… 今日、2012年8月14日(火曜日)は、午後2時過ぎまでガッツリ寝て...

Home > 北緯38度線

Feeds
blogram投票ボタン フィードメーター - MESCALINE DRIVE 人気ブログランキングへ
Message
Visitor

Return to page top