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過去と未来の綱引き

amazon:[DVD] アイアンマン2 「アイアンマン2」を観た。
 記者会見の場で、自分こそがアイアンマンだと明かしたアンソニー・スターク。その衝撃の発言は世界を駆け巡った。
 ロシアはモスクワにその男はいた。男の年老いた父親は、テレビが映すトニー・スタークの会見の模様を、ハワード・スタークの息子が脚光を浴びているのを、ただ見入っていた。本当ならばあそこに立っているのは、我が息子イワンの筈なのに! かつての天才科学者は妄念のなかに死んだ。男にはペットと復讐心が残った。
 戦争や紛争の抑止力たらんと奮闘するアイアンマンことトニー・スターク。アイアンマン・スーツの機密を欲しがる軍事企業や軍部、これらに鼻薬を嗅がされた上院議員。アイアンマンはアメリカ合衆国をはじめとする世界の平和の実現の為に粉骨砕身の日々を送っているというのに、国家が求めているのは平和実現の大義を掲げた軍備の強化。
 トニーの敵は外にばかり存在するわけではない。トニーの生命維持装置であるアーク・リアクターは夢のエネルギー装置ではあるけれども、これ自体を稼動させるのに必要なエネルギー源が問題だ。現状はパラジウムを使用しているけれども、弊害がないではない。パラジウムから有害物質が発生し、これが体内に蓄積されてしまうのだ。生きる為にはアーク・リアクターを稼動させなければならないが、その分だけトニーは毒に冒されてしまう。
 まさに内憂外患。そして絶体絶命。
 アイアンマン・スーツを守る為には唯一絶対の存在であることを誇示しなければならず、アイアンマンとして活躍すれば活躍するほど死に近付く。この抜き差しならない状況のなか、胸にアーク・リアクターの光を宿した男が現れる。
 イワン・ヴァンコ。男の復讐劇が幕を開けた。

 私は前作「アイアンマン」にゴシックロマンの構造を見出して、この観点から作品を語った。これについては当該記事を読んでいたたくとして、それでは本作はどういう物語なのだろうか?
 物語が開幕して早々に感じたのは、やはりゴシックロマン。ただし、物語全体がゴシックロマンの定型というつもりはない。そもそも開幕早々に物語の構造を看破できやしない。私が見てとったのは、洞窟にわだかまる闇だ。
 ゴシックロマンの嚆矢であるホレス・ウォルポール「オトラント城奇譚」がそうであるように、このジャンルには洞窟や地下の世界といったモチーフが登場する。ゴシックロマンのヒーローは、この暗い世界でひとつの出会いを果たす。それは隠者の姿をとったり亡霊であったりする。そして地下での出会いは、過去の因縁や叡智、強大な力といったものをヒーローに齎す。
 宿敵を倒す手段や力を得たヒーローは地上へ戻り、宿敵との最終決戦に勝利する。その後に運命の相手と結ばれる。ヒーローはそもそも高い身分の出自であり、たいていは領主の血筋をひいている。その身分を簒奪していた宿敵がしいていた悪政は、ヒーローの勝利とともに終わりを告げ、領地は新たな領主としてヒーローを迎え、これによって平和が訪れる。まさしく大団円だ。
 それでは、ヒーローに知恵を授けたりあるいは力を与えたりした地下の世界は、ヒーローが去った後はどうなるのだろうか?

 前作「アイアンマン」でテン・リングスに拉致誘拐されたトニーを救い、彼に新たな生き方を示唆したのはインセンだった。彼はトニーの逃亡を手助けする為に命を散らしたけれども自らの信念のもとに行動した。結果として死にはしたけれど、インセンの平和への思いはトニーが受け継いだ。このことは、脱出後のトニーの行動を見れば明らかだ。スターク・インダストリーズは軍事産業から手を引くとの公式発言もさることながら、インセンの故郷が攻撃されるに至ってトニーは実力行使に出る。飛行具にすぎなかったスーツは対兵器スーツとして生まれかわり、アンソニー・スタークはアイアンマンになった。
 トニーが洞窟内で出会ったインセンこそ隠者である。トニーはインセンから自分の生きる道筋を示された。そして、大いなる叡智のもとにそこで作り上げたのは小型化したアーク・リアクター、そして後にアイアンマン・スーツの基礎となる飛行装置だ。つまり、強大な力である。なかでもアーク・リアクターはこれ以降、トニーの生命維持装置となり、アイアンマン・スーツの動力ともなる。
 そして本作で明らかになったのは、大いなる叡智の結晶たるアーク・リアクターには開発者が二人いる事実だ。ひとりはトニーの父親であり、スターク・インダストリーズの創業者であるハワード・スターク。スターク・インダストリーズはハワードの業績を称え、それを受け継ぐためにアーク・リアクターの研究所を設けている。そして、もうひとりの開発者は、ロシア人科学者のアントン・ヴァンコ。
 ハワードは栄光と共に没し、その栄光は息子に受け継がれた。アントンは失意のなかで息絶えて、その復讐心のみが息子に遺された。
 トニーが去った洞窟には闇がわだかまり、そこを彷徨う亡霊が一体。この亡霊こそがアントンだ。この亡霊は迷い込んだ者に正しき道を示さず、ただただ悪しき妄念に凝り固まっている。これに取り憑かれたのがイワンである。
 インセンとの出会いによってトニーは理想に目覚めた。理想の実現に燃える彼の目は未来に向けられている。それに対して、自らが飲んできた泥水や味わった屈辱がイワンの行動の原動力となっている。復讐に燃える彼の目は過去を見つめている。

 梗概に書いたけれど、本作でトニーの敵になるのはイワンだけではない。軍事企業のトップで、自社のシェア拡大を狙うジャスティン・ハマーもトニーに敵対する。イワンはともかく、ジャスティンについては何らの脅威も感じない。トニーが死を覚悟するほど彼を追い詰めたのは、アーク・リアクターの内部にあった。
 ハワード・スタークが未来のエネルギーとして開発したアーク・リアクター。しかし、彼の代には実用化できなかった。これはコストの問題があったのだろう。ハワードが解決策を実現できなかったことで、今、トニーが苦しんでいる。
 トニーがアーク・リアクターのエネルギー源として採用したのはパラジウムである。現時点において試せるものはすべて試したトニーが到達した結論。発生する毒素を中和する為に、飲みたくもないクロロフィルを摂取する毎日。それでも確実に有毒物質は体に蓄積されてゆく。確実に死に近付いてゆく。
 進退窮まったトニーを救ったのは、今は亡き父親だ。ハワードが遺した言葉が迷えるトニーに道を示す。

 今回、洞窟の闇の中から亡霊の手が伸びてきた。窮地に立ったヒーローが足を踏み入れたのは、やはり地下だ。地下には過去がある。地面を掘れば、そこに時間の連なりである地層を見つけられる。過去の人間の骨や彼らの営為を示す遺跡がある。今は絶滅した生物の骨が化石となって埋まっている。過去を掘り起こすことでその時代から変わらずにあるものが明らかとなる。
 トニーはハワードの遺した言葉に未来への希望と科学者の理想を見出した。これは自分の夢みる未来の姿であり、自ら求める理想である。
 スターク家に伝わる、時代がいくら移り変わろうとも変わらずにあるもの。それをしっかりと受け継いでいることを実感したトニーは、もはや信念の揺らぐことはない。理想が曇ることもない。
 だから、どんなに窮地に立たされようとも、どんなにイワンが装備を強化しようとも多数の敵に囲まれようとも、アイアンマンは負けない。

 さて、トニーの運命の相手をアイアンマン・スーツとする捉え方からすれば、アーク・リアクターの安全なエネルギー源の確保に関する一連の展開は、新婚生活におけるちょっとした不和と仲直りとして受け取れる。なんだかうまくゆかないと父親に愚痴れば、仲直りの方法を示唆してもらった、というわけ。女性相手に仲直りしようと思えば、光輝く石をプレゼントするのが一番だろう。それにしても、新たに元素を作り出してしまうってのは、さすがにスケールがデカイ。

 アイアンマン・スーツがトニーの運命の相手、最愛の妻だとするならば、ローズ中佐に与えたってのはどういうことだ? まさかスワッピング?
 ローズが装着したスーツが塗装前だったことを考えれば、彼の相手が処女だったとも考えられる。また、ナタリー・ラッシュマンの言葉から考えると、スーツには使用者制限の設定が為されており、少なくともローズ以外はスーツを装着すらできないだろう。
 これは、恋人のいない男が友人に誰か紹介してくれよって頼んだら、その友人が自分の恋人の妹を紹介したってハナシじゃないか?
 こう考えると、最終決戦の図は些かエロ~く感じられるなあ。でもって、フィニッシュしようとも不発だったローズは、つまりは不能ということで。いやはや男性としてはこの上ないショック。慰めようがないよ。

 おいおい、これでこの記事終わりか? 約二時間の上映時間を持つ映画を観て、それでいて到達した結論が種無しローズということで本当にいいのか?
 いいんです!
 ハイ、おしまい。

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アイアンマン2 from 象のロケット 2011-09-03 (土) 01:14
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