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amazon:[DVD] アイアンマン 「アイアンマン」を観た。
 アイアンマンはアメリカンコミックの代表的なヒーローのひとり。そして本作は、主人公アンソニー・スタークがアイアンマンに目覚めるまでの物語だ。要するにヒーローの誕生が描かれている。
 本作で重要なのは、トニー・スタークがその人生における大いなる転機を迎える場面だ。それは暗い洞窟の中で訪れる。テロ組織の急襲を受けた後に監禁されたトニーが、新たな生命を宿した場所。インセンと出逢い、彼から新たな生き方を導かれた場所。強大な力に関するイメージを得て、それを実現した場所。これらすべての出来事が洞窟内で起こった。
 このことやこれまでの経緯、この後の展開を受けて連想するのは、「オトラント城奇譚」にはじまるゴシックロマンである。
 ゴシックロマンの定型を大雑把に纏めると以下の通り。
 主人公は既存の権威における正当な継承者だ。そして若き主人公には後見人がいるが、これが敵役だ。慇懃な態度ではあるが主人公をないがしろにして、あまつさえ彼を亡き者にせんとする。主人公さえいなくなれば、彼が有している地位や財産を悪漢は自分のものにできる。悪漢は簒奪のチャンスを窺っている。
 悪徳の敵役は野心を秘めたまま、主人公は悪漢の姦計に陥る。そこで主人公が追いやられるのが地下牢であったり遺跡であったりするのだが、つまりは"地下の世界"だ。降り積もる時間が堆積して地層を形成することからわかるとおり、地面を掘り起こすことは過去を見つめるということだ。ここで主人公は"過去"との出逢いを体験する。
 主人公は"導き手"と出逢うことによって、自らの系譜に関係する過去の因縁を知り、自らが討つべき敵の正体を知る。そして同時に大いなる叡智を授けられる。
 強大な力を得た主人公は地上に帰還し、その力によって敵を倒す。かくして主人公は英雄となり、世界に正しい秩序を齎す。
 本作「アイアンマン」をゴシックロマンとして乱暴に纏めると、こうなる。
 父ハワードから受け継いだスターク・インダストリーズを率いるトニー・スタークが襲撃を受けて監禁される。地下においてトニーは"導き手"インセンと出逢い、彼とともに小型のアーク・リアクターとそのエネルギーを推進力にしたパワードスーツを製作する。地上に戻ったトニーは、御家乗っ取りを企んでいた大番頭オバディアと対決し、これに勝利する。アイアンマンと呼ばれるヒーローの誕生と、その正体の暴露が為される。
 ホラ、ゴシックロマンの定型がそのまま当てはまるではないか! えっ、牽強付会?

 人類の叡智が偉大な発見や発明を生みだし、その科学技術が倫理の道を踏み外したとき、その科学技術がひとりの市民に強大な力を与える。ある科学者のチームは宇宙実験のさなかに宇宙線を浴びた。ある科学好きな高校生は遺伝子操作された蜘蛛に噛まれた。ある科学者は事故によって大量のガンマ線を浴びた。
 常人を凌駕する力を得て、それでも力に驕らず己を律し、理想を求めて戦うのがスーパーヒーローだ。奇跡の力をもってしても抗うのに困難な敵に立ち向かうからこそ、人々はその行動に英雄としての姿を認める。そして科学者のチームはファンタスティック・フォーとなり、高校生はスパイダーマンとなり、ガンマ線を浴びた科学者はハルクになった。いずれも自ら進むべき道を定めて、その選択と行動によって彼らは英雄となった。
 アイアンマンもまた英雄である。

 テン・リングスの拠点から脱出する為にトニー・スタークが開発したのは兵器ではない。飛行可能なパワードスーツだ。敵の攻撃をはねかえしこそすれ、その製作意図は攻撃を目的としたものではない。空を自由に飛ぶことである。プロトタイプは脱出時に継続飛行を失敗したものの、この失敗が謹慎中のトニーにスーツの改良を促した。
 自立歩行の自由度と飛行機能の融合。この夢への挑戦が、トニーがスーツ開発にのめり込んだそもそもの出発点だ。
 しかし人が空を飛ぶという理想も、そこに高い技術が存在して兵器としての有用性が見込めるならば、先ず軍事に転用されるのが世の常である。トニーの発明の持つ、兵器としての側面が俄然注目される。

 力は力であり、そこに善悪はない。もし力が悪用されるとすると、そこにあるのは人の業である。
 力を如何に用いるのか?
「スパイダーマン」3作品に登場するヴィランのうち、ヴェノムを除く者たちの全てが人類の科学技術から生まれていることは興味深い。ノーマン・オズボーンはパワー増強剤によってグリーンゴブリンに変貌した。オットー・オクタビアスはアダマンチウム合金製金属アームによって哀しみのドクター・オクトパスに堕ちた。分子分解の実験場に迷い込んだフリント・マルコはサンドマンと化した。スパイダーマンへの復讐心から亡父の遺産をゴブリンJr.に昇華させたハリー・オズボーン。そしてスパイダーマンことピーター・パーカー自身、伯父の死に際して自らに正義を課したにもかかわらず、力の甘美なる味に酔い痴れるときがあった。
 ノーマン・オズボーンとオットー・オクタビアスは世界的に知られた科学者だった。彼らは自分の研究対象に飲み込まれてしまう。同じ科学者のトニー・スタークはアフガニスタンにおける劇的な改心を経て、その後にパワードスーツの本格的な開発に取り掛かった。物事には順序があり、これが肝要。トニーが改心より先にパワードスーツを完成させていたなら、物語は全く別のものになっていたはず。トニー自身の思惑と関係なくオバディアによって大々的に売り出されていたに違いない。
 実際にはアイアンマン・スーツはトニーによって厳重に管理されることとなる。これには、「アイアンマン」という物語を追っているだけでは決してわからない理由がある。考えるべきは、本作がゴシックロマンの定型に沿っているという点だ。

 ゴシックロマンでは悪漢がヒロインに婚姻を迫る。悪漢がヒロインに執着するのは、そこに愛があるわけではない。ヒロインとの婚姻が彼の地位や財産を保証するからだ。ヒロインの婚姻の相手は、これはもちろんヒーローである。運命の二人なのだ。しかし、成り行きに任せていれば二人は結ばれるというわけではない。幸せを勝ち取るには相応の努力が必要だ。
 さて、本作におけるヒーローはアンソニー・スタークである。悪漢はオバディア。ではヒロインは誰だ?
 些かトウは立っているけれども、ペッパー・ポッツがヒロインなのだろうか? 確かに彼女は魅力的だ。トニーとキスをした。どうやら双方共に相手を憎からず想っているようだ。しかし、違う。ペッパーはトニーの運命の相手ではない。それでは、誰がトニーの運命の相手なのか?
 アイアンマン・スーツだ。アーク・リアクター無しには生きられないトニー。そして、アーク・リアクターを動力として起動するアイアンマン・スーツ。トニーとアイアンマン・スーツはアーク・リアクターを介してしっかりと結び付いている。アーク・リアクターの光は円。まるで左手の薬指に輝く結婚指輪であるかのようだ。
 ヒロインがアイアンマン・スーツならば悪漢オバディアが誓いの指輪たるアーク・リアクターを奪ったのも首肯できる。オバディアは自分の地位と財産の為にアイアンマン・スーツの秘密とアーク・リアクターを奪ったということには違いないのだけれども、その行動はゴシックロマンにおける悪漢の定石通りなのだ。
 オバディアは、トニーにとって叔父のような存在で、トニーの後見人で、強欲で。最後にはトニーに負けることを宿命づけられていて。
 アイアンマン・スーツについて、それに対するトニーとオバディアのそれぞれの意識に違いが表れている点が面白い。トニーはアイアンマン・スーツに機能美を持たせた。オバディアは過剰なまでの銃火器を装備した。オバディアのしたことは十分に美しいヒロインをゴテゴテと飾り立てるようなもので、まるで美意識のない行為だ。まさに野暮天そのもの。このことから、トニーは花嫁その人を愛し、オバディアは婚姻の事実に権威づけを施したと云えよう。
 ちょっと奇妙なロマンスではあるけれども、ヒロインの操は守られて横恋慕の悪漢はヒーローによって斃された。そしてヒーローとヒロインは結ばれてめでたしめでたし、である。

 トニーとアイアンマン・スーツとの結び付きの強さをいくら主張したところで、アイアンマンを取り巻く状況が無条件に良くなるわけではない。
 世界各国の軍事バランスを左右する軍需産業との訣別を宣言し、圧倒的な戦闘能力を有することを記者会見で明かしたトニーの愛すべき問題児ぶりはともかく、彼と彼の仲間が進む先にあるものを想う。
 アイアンマン・スーツの改良やメンテナンスに必要なコストの財源をどこに求めるつもりなのだろうか?
 兵器としてのアイアンマンを高く評価する企業や購入を求める組織も現れるだろう。トニーたちはこれらと戦って勝てるだろうか? この戦いは腕っぷしの強さで決するような種類のものじゃない。
 アイアンマンはアイアンマンの理想を守れるだろうか?
 稀代の遊び人トニー・スタークは同時に天才でもある。一旦、研究開発に取り掛かれば時間を忘れる。社会性に頓着しないところは、あるいは天才の所以なのかもしれない。
 しかし天才だって生きていれば面倒な目にも遭う。そこでペッパー・ポッツ。社会不適合者で夢のようなことばかり考えるトニーを、現実社会に繋ぎ留める役割の彼女がいれば、会社経営もどうにか立ち行くことだろう。
 ペッパーがいればトニーは安心して研究開発に勤しめる。その助手は人工知能のジャーヴィスだ。ジャーヴィスは人間の感知し得ないほどの状況認識能力を有する。ジャーヴィスの的確な状況認識と、それを踏まえてトニーが判断を下す。最高のコンビだ。韻を踏んでいるからだろうか、主人に忠実に従うジャーヴィスにセルバンテスを重ねてしまう。巨大軍需産業という風車に立ち向かうラ・マンチャの男と云うにはトニーは若く、天才であり、未来に目を向けている。そう、彼の視線の先には未来があるのだ。それは戦争や紛争のない平和な未来だ。
 ゴシックロマンのヒーローは地下に潜ることで過去と向き合い、大いなる叡智と強大な力を得る。そして、生来の勇気をもって悪に立ち向かう。すべては明日の為に! そう。ゴシックロマンの定型にあるように、未来には輝かしい希望がある。
 アイアンマンの強さは、アンソニー・スタークの勇気と信念に根差している。アイアンマンの理想はアンソニー・スタークの視線の先にある。アルコールで視界が濁らなければ大丈夫。アイアンマンに絶望はなく、敗北もない。

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アイアンマン from 象のロケット 2011-09-02 (金) 22:28
巨大軍事企業社長で天才発明家のトニー・スタークは、テロ組織に拉致され多くの自社製品がテロに利用されていたことを知る。 最強兵器の製造を強制されるが奇跡的に...

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