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翻訳コンニャクおみそ味?

 2011年8月23日、島田紳助が芸能界を引退した。暴力団員との交際云々が原因ということだが、それについてこのブログで語るつもりはない。このブログで取り上げたいのは、島田紳助の司会術だ。その一端を明石家さんまのそれと比較して考えてみたい。とは云うものの、そんな大層なものじゃない。いつもの戯言である。

 島田紳助と明石家さんま、そしてオール巨人が同期の間柄であることはよく知られている。この三人のなかで島田紳助と明石家さんまが司会者として、芸人生活のかなり長い時間を送ってきたことは興味深い。島田紳助は漫才師に、明石家さんまは落語家に弟子入りして、しかし両者ともにその道から外れてキャリアをのばした。初志貫徹して漫才師として成功をおさめているのはオール巨人である。三者三様の経歴だが、ここで彼らの芸人人生を振り返るには時間も気力もない。そもそも記事の趣旨にあわない。ここで重要なのは、島田紳助は芸の出発点としてコンビという形態を選んだことであり、明石家さんまは最初からピン芸人を目指したことである。
 相方にも喋らせる、"掛け合い"という形式を持つ漫才。自分ひとりでツカミ・フリ・オチをこなさなければならない漫談。この選択が後に島田紳助と明石家さんま、それぞれの仕切りの特性を生んだと云うと、些か牽強付会にすぎるだろうか。

 芸人が司会の番組、特にトーク番組における司会者の仕事というものは、番組ゲストの話すエピソードやコメントの面白さを視聴者に伝えることだ。このとき、話者が芸人ならば腕に覚えの話術で笑いをとることができるだろう。いや、芸人に限らず、人前で喋ることを厭わない性格と優れた話術を持つ者なら、司会者に頼らずともそれなりに笑いを生むことができるだろう。しかし、それができない者もいる。その数は決して少なくない。
 笑いを解さないわけではないが、真面目に話すつもりで出演したテレビ番組で笑いを求められても困る。たしかに専門用語を使うし日常生活には縁のない内容かもしれないけれど、番組サイドはそれを承知で自分に出演のオファーをしたんじゃないの?
 ゲストの戸惑いに関して芸人の司会者に悪意はない。司会者は芸人として番組を面白くしなければならない。お笑い番組として成立させるのが自らの使命と信じている。これはあながち間違いと云えない。芸人を司会者に据える番組の意図は、どのような話題であっても笑いに昇華することにある。
 番組制作の素人とは云ってもゲストにだって自分の出演する番組の趣旨に沿ってコメントすべきだということはわかっているだろう。わかってはいても、自分の主義主張を広く知らしめる絶好の機会に恵まれたのだ。このチャンスを逃さず、話したいことを話す。話してほしいと依頼されたことでも、そこに自分の解釈を織り交ぜて話す。願望が滲み出ることもあるだろう。当たり前だ。また司会者は司会者で、芸人として求められている笑いを生み出すことを念頭に置き、同時に司会者として求められている仕切りをこなす。ゲストと司会者、両者の目的に齟齬が生じている。
 そもそも番組ゲストと司会者の間において、どちらが上位に立ち、どちらが下位に甘んじるのか? たかだかトーク番組、どちらが上でどちらが下ってわけでもないが、本当ならばゲストが上位に位置するべきだろう。司会者がゲストを番組にお迎えして、心尽くしのおもてなしをして、お話を聞かせていただいて、気分よくお帰りいただく。この一連の流れのなかにはゲストへの敬意がある。
 腕のいい司会者ならばゲストの語るエピソードやコメントのなかにその人となりを浮かび上がらせ、そのゲストの巷に知られていない魅力を引き出して、しかもこれに笑いの味付けをする。勿論、番組が成立するだけの時間を収録しなければならず、その内容も公共の電波にのせられるものにしなければならない。これは司会として大前提だ。なんにせよ、まずはゲストに語らせなければならない。
 エピソードトークは個人的体験を話すことだ。また、専門家のコメントは門外漢にはチンプンカンプンな内容であることが多い。これらを話術に長けた者が話すならともかく、喋りの素人がしかもマイクやカメラを前にして思い通りに話せるか? 無理だろう。専門家として番組に呼ばれる者のなかには、当該分野においてたいした実績をあげてないのに、ただマイクやカメラの前で堂々とした態度を崩さずに話すことができる、というだけで斯界の大家のように扱われる者もいる。つまり、マイクやカメラの向こうにいる大勢の視聴者に怯まず、きちんと話をすることのできる人材というのは、マスコミにとって貴重な存在のだ。
 話者がどんなに口下手で引っ込み思案であっても、かたく噤まれた口から言葉を引き出し、話を盛り上げて、いかにもその話題が面白く興味深いものであるかのように視聴者へ届ける。これは司会者ひとりに課せられた使命ではないが、司会者の力量が大きく左右することは確かだ。

 話者の語る内容が面白いもの、興味深いものというふうに視聴者に伝わるのは、実は奇跡に近いことなのだ。エピソードは個人的体験、専門家のコメントは門外漢にはチンプンカンプンと前述した。個人的体験も専門家の見解も、どちらも一般的な内容ではない。たとえば夢の話だ。他人のみた夢を聞いてところでなにが面白い? 出鱈目な設定に荒唐無稽な展開、夢みた本人にすら意味のわからない内容がほとんど。そんなもの聞かされたって到底共感できない。また、夢というものを学術的な面から説明されても、耳慣れない専門用語があちこちに出てきて、これまた到底理解できない。個人的な体験にも専門家の見解にも、こちらが共有できる共通認識が見当たらないので、共感も理解もできない。ここで必要になるのが、司会者の"翻訳能力"だ。
 芸人が司会をする番組では、それがボケとツッコミの関係にあるコンビやトリオがその役割を担っているならば、実際に仕切りをこなしているのはツッコミ役の芸人だ。これは当然の帰結だ。ツッコミというのは、相方のボケに対して「今のボケはこういう点で世間とズレてるんですよ、変ですね」と、観客や視聴者であるところの世間に示すことだ。その方法として「なんでやねん!」などと云ったり、頭や体を叩いたりする。これは見た目にわかりやすい信号を観客や視聴者に送っているのだ。笑いに敏感な観客や視聴者はハイブロウなボケであってもその意味するところをつかんで笑うけれど、多くはボケのボケたることに気付かないでいる。そんなときツッコミの放った信号が、ボケの作った一瞬の虚に笑いの指向性を持たせる。私たちはようやくボケの持つ世間とのズレに気付いて、それを笑うのだ。
 このように、ツッコミはボケと世間の橋渡しをする。ボケの意味合いを適確に把握し、それをわかりやすく世間に伝えるという点で、ツッコミは両者の間で翻訳作業をしていると云える。ちょっと強引だけど、これで今回の記事のタイトル「翻訳こんにゃくお味噌味」に繋がった。うん、力技だね!
 突拍子もないボケを笑いに変えるためにそのズレ具合を世間に伝える。ゲストの個人的観点に立ったエピソードや、専門知識がなければ理解できないような難解なコメントを正しく世間に伝える。ツッコミも司会者も仕事の内容は同じだ。だから、芸人のなかで司会業を任されるのはツッコミ担当なのだ。

 司会者はゲストと世間とを繋ぐ翻訳家だ。ゲストの話す個人的、あるいは専門的な内容を、世間に伝わるように示さなければならない。わけのわからない話をわけのわからないまま公共の電波にのせるわけにはいかない。翻訳家たる司会者が話者の語った内容を噛み砕いて表現し、それによってゲストの個人的な体験も専門性の高い考察も世間から共感を得て、理解されるようになる。
 さて、"翻訳"すると云っても、「apple = 林檎」というように、ただ同じ意味を持つ単語を云いかえればよいというものではない。話者の云わんとするところを正しく把握して、これをわかりやすく加工して世間に伝える。その作業をこれまで"翻訳"と表現したが、その本質は情報の加工である。強調や省略、比喩を用いて情報の伝達を促す。これが司会者である。
 まわり道してきたが、ようやく島田紳助と明石家さんまだ。島田紳助も明石家さんまも、視聴者を称して「お茶の間」とか「お茶の間のみなさん」と呼ぶ。この云いまわしから、彼らが念頭に置いている視聴者の姿が浮かび上がる。老若男女。テレビを中心に形成される、家族の憩いのひととき。老いも若きも男も女も、すべての人に伝えなければならない。それをすることが島田紳助と明石家さんまの芸人としての矜持だ。
 そこに人がいるなら、なにをおいてもまず笑わせる。その人が悲しみに泣いているのなら、心をこめて笑わせる。怒っているなら、全力で笑わせる。死にたがっているなら、なにがなんでも笑わせる。なるほど、お笑い怪獣とは云い得て妙。これは明石家さんまだけではない。島田紳助も十分にイカレてる。
 その二人が番組ゲストから話を聞くとき、その"翻訳"に正反対の方法をとる。これが面白い。それでいて両者とも、番組ゲストから話を引き出す際に、ともすればゲストより喋ることがある。彼らのゲストより目立つ司会術に辟易する向きもあろう。しかし、これには彼らの"翻訳"、つまり情報の加工方法にその原因がある。簡単に云うと、適切に"翻訳"しようとするあまり、暴走してしまっているのが実情だ。

 ようやく語りたいところまで辿り着いた。しかし、長いッ!また無駄に長い記事を書いてしまった。
 正味のハナシ、もう面倒臭いんよ。かと云って、ここまで書いたのを「ウリャ!」って放り出すのも業腹。だから次回、この続きを書くことにした。
 それでは次回、「翻訳コンニャクおみそ味!」でお会いしましょう。

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