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書を捨てよ町へ出よう

amazon:[Blu-ray] ハンナ 「ハンナ」を観た。
 本作の監督であるジョー・ライトと主演のシアーシャ・ローナンのタッグと云えば、年老いた女性作家の虚飾に彩られた回想を描いた「つぐない」である。この作品でシアーシャを見て、そのどこまでも透き通る存在感に魅了された。またシアーシャの魅力は勿論のこと、それをフィルムに焼き付けた監督に称賛を送るべきだ。この作品は、可憐で狡猾で愚かな少女を描いたことで成功は約束されたようなものである。
 その二人が再びタッグを組んだ。「つぐない」では物語の語り手であるブライオニー・タリスの少女時代を演じたシアーシャだが、本作「ハンナ」では完全なる主演。
 さあ、シアーシャ・ローナン祭りだ!

 この記事の更新は2011年8月27日。この日付けは「ハンナ」の公開初日である。初日の混雑を避けてまだ映画館に足を運んでない向きも多かろう。いずれ観に行くつもりだけど、どんな感触かなあ。こんな気持ちで映画ブログをハシゴすることもあるだろう。
 この場合、厄介なのがネタを割っている記事だ。まだ観てないのだからネタを割るのはなしの方向で願いたい。でも、そうはいかないのが世の常だ。人生はままならない。ホント、厭ンなるねえ。
 ここに宣言する。この記事では「ハンナ」のネタを割る。バッキバキだ。想像どころか妄想をも付け加える。
 まだ観てないならこの先へは進まないほうがいい。進むなら私を倒してからにしろ!

 本作は完全におとぎ話じゃないか。
 森のなか、猟師である父親と暮らす女の子が、おつかいを頼まれて町に出かける。おつかいの途中で悪い魔女が女の子の邪魔をするんだけど、女の子は様々な出逢いと体験のなかで知恵と勇気をふりしぼり、腕に覚えの格闘術を駆使して危機を乗り越える。果たして女の子は無事におつかいを成し遂げられるだろうか?
 本作を纏めるとこんなところかな? いってみれば、バイオレンス童話?
 いくら全編暴力に満ちて流血と死に染め上げられていても、これはおとぎ話だ。童話の世界なのだ。シリアスなスパイ映画の延長としてそれを求めて映画館に足を運ぶなら、その選択は失敗に終わる。本作はそのような作品ではない。このことはすぐに察せられる。ハンナはジェイソン・ボーンではない。
 CIAの謀略は絡んでいるし、そもそも女の子が元CIA工作員を父親としてずっと鍛えられてきたのだ。その手の作品を好きな向きにはたまらない設定ではあるのだが、いかんせん監督の目的はシアーシャ・ローナンを起用してのおとぎ話を描くことにある。

 フィンランドの山奥、雪深い森でずっと暮らしていたハンナは、父親以外の人間との関わりを持ってこなかった。物心ついたときから父親と二人きりだ。元CIA工作員であるエリックはハンナにサバイバル技術と格闘術を叩き込み、来たるべきその日にそなえさせた。成長したハンナは戦闘能力においてエリックを凌ぐようになり、ようやく外界へ出ることを許される。ハンナが外の世界に出るには、片付けなければならない問題がある。
 エリックの同僚だったマリッサはエリック生存の可能性を示唆されて動揺する。なぜ今更? エリックが生きているなら、あの子もおそらく......。今度こそ始末をつけなくてはならない。

 死んだように静かで、雪の白のほかには血の赤のみが目に眩しい世界から、音に満ちあふれ、様々なモノが次々に目に飛び込んでくる世界へと、ハンナを取り囲む環境は激変する。聴きたかった音楽に喜び、初めて目にした電化製品に驚く。高度に発達した科学は魔法と区別がつかないとは云うけれども、人里離れて自給自足の生活を送ってきたハンナにとっては、蛍光灯の光もテレビの映像もまさしく魔法の出来事だ。異化効果とまではいかないが、科学文明の恩恵を浴してこなかったハンナの姿を通して、これまで彼女が送ってきた生活の異様さが浮き彫りとなる。
 戸惑うハンナの姿を見て疑問が浮かぶ。なぜ彼女は外の世界に出てきたのか?
 おつかいの内容を繰り返し繰り返しさらって、ついには諳じるまでに至った。目的地もわかっている。敵の襲来も織り込み済みだ。でも、どうしてそこまでしてそこへ行かなければならないのか、その理由がまったく語られていない。
 マリッサを殺すことが目的のようにも思われたが、どうも違うようだ。その死を歓迎するが、必ずしも殺さなければならないわけでもなさそうだ。
 ハンナよ、いったいなにが目的なんだ?

 行く先々でいろいろな体験をした。いろいろなものを見て色を知って、いろいろな音を聞いて音楽を楽しんで、人と会話を交わして触れ合って。これまで本を読み聞かせてもらって身につけた様々な知識が、今は実感を伴って自分の血肉となる。
 生まれてはじめての友達ができた。その家族と交流を持って、家庭というものの姿を知った。年頃の男の子と知り合ってデートのようなことを体験した。キスまでは許さなかったけど。どれもこれもが初体験。
 世界は良い人ばかりじゃない。追ってくる奴、騙そうとする奴、自分だけじゃなくて自分が関わった人たちにまで危害を加えようする奴ら。そして悪い魔女、マリッサ・ウィーグラー。
 旅のさなかで浮かび上がった疑問。自分の身体検査のレポートに記されたDNAの異常ってどういうこと? 自分がエリックの実の娘じゃないって本当なの?

 悪い魔女の役回りであるマリッサだが、彼女のエリックとハンナに対する執念は凄まじい。上層部を説き伏せて作戦を実行したにもかかわらず、ロートル工作員の殺害に失敗し続けて、十代の少女さえも捕まえられず、CIAの腕利きたちをあたら死なせる状況を招く。それが理由で重い処分を下されるというのに、それでもエリックを殺したくて仕方がない。ハンナを自分のものにしたくて仕方がない。
 なぜ?
 エリックの母親宅で彼女と話すうちにハンナの容貌を尋ねられたマリッサは吐き捨てるように云う。「母親そっくり」と。ハンナとヨハンナはそんなに似てるように見えない。ハンナの鼻筋と輪郭はむしろ......。
 おとぎ話の定石では、悪いのは継母である。連れ子を贔屓して継子を苛める。でも、もし実母が悪かったら? 継母が猟師と二人で女の子を守ろうとしたなら?
 マリッサはエリックの母親の問いに答えて、子どもは要らない諦めたと語っている。これにいささかの韜晦を感じるのだが、マリッサは本当に子どもを欲しがらなかったのだろうか? 彼女には妊娠と出産に関するトラウマがあって、それが理由でそれらを避けてきたのではないか? 彼女の過去の出産こそあの女の子なのではないか?
 ここで改めて脳内を電気が走った。実母が魔女だとして、その魔女は本当に悪い魔女なのか? 魔女が女の子を執拗に狙う理由はほかにあるのではないか? 女の子は猟師に育てられたが、猟師の語る過去は本当に事実なのか? 優しいはずの継母の姿は本当に正しいのか? 継母は本当は継母なんかじゃなくて、猟師と結託して死んだ我が子のかわりに魔女の子を誘拐したのではないのか?
 ま、これは確固とした根拠があるハナシではない。原作小説があるのか知らないし、ノベライズがあるのかも知らない。何も読んでない。本作を観ただけ。ただの想像、否、妄想だ。
 エリックとヨハンナとマリッサとの間にどういう経緯があったのか知らない。わかっているのは、その結果が三発の銃弾ということだけ。
 どのような事情があるにせよ、悪い魔女として登場したマリッサは最期まで悪い魔女を通さなければならない。物語の作者がそれを彼女に求めている。今更「悪役やめます。これからは善い魔女になります!」は通用しない。だから、マリッサは悪い魔女のままだ。
 ただし、ハンナをモニター越しに見つめるまなざし、実際に対面したときの顔に、悪い魔女としての表情はどうしても見つけられなかった。これもまた実感を伴った事実。

 これまで一緒に暮らしていたエリックは、ハンナにとってたったひとりの家族だったが、それ以上に師匠であった。彼は生涯をかけて娘を教育してきた。ちゃんと生きてゆけるように、と。
 なぜハンナは外の世界に出たのか? この謎は解かれないままだ。ここでハンナから離れてみる。本作をハンナの視点で眺めるとおとぎの国の大冒険になるが、エリックの視点で注意深く眺めると、彼が愛娘のために世界に託した思いが知れる。エリックとハンナが落ち合う予定だったグリムの家。そこへ行くことが目的なら二人で一緒に行けばよい。なぜ別行動をとる必要があったのか?
 かわいい子には旅をさせよ。
 エリックがマリッサに云い残したことは、「子は成長する」だ。子の成長に必要なのは父親だろうか? 母親だろうか? 答えはどちらでもない。親はなくとも子は育つ、だ。たとえ両親が揃っていても、箱入りの限度がすぎれば真っ当には育たない。ハンナには出生に関する秘密があり、これは普通とはいえないものだけど、それだけにエリックは彼女の成長を慎重に見守ってきたはずだ。その結果がこの旅で明らかとなった。
 物語の結末はこうだ。

 女の子はその途中で失敗を犯すこともあったけど、それすら得難い経験にかえて、おつかいをちゃんと成功させましたとさ。おしまい。

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